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取締役を選任するには?株主総会など手続きの流れを紹介

作成者: 池下菜都美|2023.05.24

取締役は、会社の業務執行における意思決定を行う重要な役職です。会社の舵取り役を担うと同時に会社の顔にもなるため、ビジネスの専門知識だけでなく人格的にも的確性が求められます。

従業員と異なり、取締役個人として賠償責任を負うこともあり大きな責任も伴います。

そして、重要な役職だからこそ、選任のためには株主総会での普通決議をはじめ各種手続きを踏まなければなりません。

今回は、株主総会の運営をする法務担当者向けに、株主総会や登記など、取締役を選任するための手続きの流れをご紹介します。

取締役の選任とは

取締役を選任するためには株主総会での選任決議が必要です。まずは、取締役が選任される主なパターンをご紹介します。

取締役の選任に関する会社法

取締役は、株主総会の決議により選任されます会社法第329条1項)。従業員を雇用する場合は雇用契約の締結のみで採用となりますが、取締役は経営を担う重要な役職ですので、株主総会の決議を経てはじめて取締役として選任されます。

誰でも取締役になれるわけではなく、法人や禁固以上の刑に処せられ、その執行を終わるまでまたは執行を受けることがなくなるまでの者などは取締役になれません(会社法第331条1項各号)。重要な役職であるため、一定の資格制限が課されています。

このように、取締役の選任には会社法でルールが定められていますから、あらかじめ会社法の条文を確認しておきましょう。

補足ですが、取締役会設置会社においては、取締役は3人以上でなければなりません会社法第331条5項)。そのため、取締役に欠員が生じた場合は直ちに新しい取締役を選任する必要があります。

欠員が生じた場合、任期満了または辞任した取締役は、後任として新しい取締役が選任されるまで取締役としての権利義務を有します(会社法第346条第1項)。

また、裁判所が必要と判断した場合には、一時的に取締役として職務を行う者(「一時取締役」や「仮取締役」と呼ばれます。)を裁判所が選任することもできます(会社法第346条第2項)。

このように欠員が生じた場合に備えるため、株主総会ではあらかじめ補欠の取締役を選任しておくことも可能です(会社法第329条第3項会社法施行規則第96条)。

取締役選任の理由①任期満了

取締役の任期は、選任後2年以内に終了する事業年度の最終のものに関する定時株主総会終結のときまでです(会社法第332条1項本文)。定款または株主総会決議により任期を短くすることは可能ですが(同項ただし書)、任期を伸ばすことはできません。

取締役の任期が満了したら欠員が生じますから、株主総会を開催し新しい取締役を選任するケースが多いです。

なお、非公開会社では、取締役の任期を10年まで伸長できます(会社法第332条2項)。任期満了後に新取締役を選任したり、同じ人を取締役に再任する場合に株主総会が必要となる点は同じです。

取締役選任の理由②解任

会社側(株主側)は、いつでも、株主総会の普通決議により取締役を解任できます会社法第339条第1項341条)。

解任の理由は様々ですが、

  • 病気で職務を執行できなくなる
  • 法令違反や職務怠慢など取締役としての適格不足

を理由に解任されるケースが多いです。

解任された場合も欠員が生じますから、必要に応じ、新しい取締役を株主総会の決議を経て選任することとなります。

なお、大企業は、取締役の経歴や能力を厳しく吟味したうえで選任するため、

  • 能力不足の者が取締役に選任されるケースが少ない
  • 能力不足の者が選任されたとしても2年後に再任しなければよい

ことから、解任決議がされるケースは稀です。

しかし、家族経営の中小企業では、経営権争いの中で役員が解任されるケースは多く見られます。

取締役選任の理由③ 終任

任期満了以外にも、取締役の死亡による委任契約の終了(会社法第330条、民法第653条第1号)、破産手続開始や後見開始による取締役としての資格喪失(会社法第331条第1項)により、取締役が終任となることもあります。

この場合にも取締役に欠員が生じることとなりますから、新しい取締役が選任されるのが一般的です。

取締役選任の理由④ 再任(重任)

最もよく見られる取締役選任の理由は、ある取締役が任期満了を迎えた後にもう一度取締役に選任する、いわゆる再任(「重任」とも呼ばれます。)のケースです。

とくに公開会社では、取締役の任期が最長2年ということもあり、ある取締役に長期間にわたり会社を経営してもらおうとすると、少なくとも2年に一度は株主総会で再任の決議を行わなければなりません。

同じ人を取締役に再び選任する場合でも、改めて株主総会の決議が必要です。

例えば、株式会社ローソンの第47回定時株主総会では5名の取締役の選任決議が議題に掲げられていますが、うち4名が再任です。

取締役選任の理由⑤ 社外取締役の選任

社外取締役とは、当該会社やその親子会社の役員や使用人であったことがない取締役を指します(会社法第2条第15号)。

社外取締役は、会社の経営陣から独立した外部からの視点で経営陣を監督することが期待できるため、会社法により一定の会社には設置が義務付けられています。

最近でいえば、令和元年の会社法改正により、公開であり、かつ、大会社である監査役会設置会社においては、社外取締役の設置が義務付けられました(会社法第327条の2)。

特に海外の機関投資家株主は社外取締役の選任を強く求める傾向があり、日本国内の企業でも社外取締役を選任する企業が増えてきています。

日本取引所グループのマーケットニュースによれば、2021年の時点で、東京証券取引所に上場している企業のうち7割を超える企業が、3分の1以上の社外取締役を選任しています。

出典:日本取引所グループ「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び指名委員会・報酬委員会の設置状況

取締役選任に必要な手続きの流れ

続いて、取締役選任に必要な手続きの流れを紹介します。

 

 

取締役候補の選定

取締役は会社の経営を担う舵取役ですから、経営者としての能力のある人を探し、取締役候補者としてピックアップしていきます(能力の有無を問わず、名前だけ借りる目的で名目上の取締役を選任することも可能ですが、後々トラブルに発展するリスクがあるため推奨しません)。

どのような専任基準により取締役を探すか、どのような人を取締役候補者として挙げるかは、会社によりそれぞれ異なります。

例えば、三井住友海上火災保険株式会社では、適格性や専門性から構成される基準を設定しています。また、テクノプロ・ホールディングス株式会社では、グループの存在意義を理解していること等を基準にしています。

全ての取締役に求められる「前提要件」
1.当社グループの存在意義(パーパス)を理解し、当社グループの経営戦略・事業特性等を踏まえ、当社グループの中長期的に持続可能な企業価値向上に資する資質及び能力を有すること

※引用:テクノプロ・ホールディングス株式会社

会社の現況や今後の経営方針に沿って、ベストな人材をピックアップしましょう。株主総会決議が必要となりますから、株主が納得できるような人選が求められます。

最近では、取締役の能力や実績を株主に分かりやすく伝えるために、各役員の特徴をまとめたスキル・マトリックスを作成する会社が多いです。

例えば、三菱重工業株式会社では、各役員の知識・経験・専門性を視覚的に分かりやすいスキル・マトリックスを作成しています。スキル・マトリックスの作成は会社法上義務付けられているものではありませんが、株主へ情報を提供しスムーズに決議するためにも、作成しておくとよいでしょう。

株主総会で選任

取締役を選任するための株主総会決議は、普通決議です。

定足数は議決権を行使することができる株主の議決権の過半数の出席、決議要件は出席した当該株主の議決権の過半数の賛成となります(会社法第341条)。

定款により定足数を緩和できますが、通常の普通決議(会社法第309条1項)と異なり、

定足数は3分の1以上までしか緩和できません(会社法第341条かっこ書)。

取締役選任は普通決議とはいえ重要な議題です。

より多くの株主に決議に参加する機会を確保しようとする会社法の趣旨により、定款によっても3分の1を下回る定足数を定められません。

決議要件は過半数を上回る要件に厳格化できます(会社法第341条かっこ書)。もっとも、決議要件を厳格化するメリットは会社側には存在しませんので、定款にそのような規定を設けている会社は多くありません。

原則的な選任方法は、取締役候補者一人ごとに選任議案とし、出席株主の過半数の賛成を得た候補者は選任され、賛成を得られなかった候補者は落選する仕組みとなります。

これに対し、株主の請求により、累積投票という選任方法も存在します(会社法第342条)。累積投票制度は、少数派株主の意向を反映すべく認められた制度です。累積投票においては、原則的な多数決ではなく、各株主の有する議決権は「保有議決権数×選任される取締役の人数」と算定されます。

累積投票による取締役の選任は、その制度名のとおり「決議」というよりは「投票」というイメージになります。

累積投票は、少数派株主の意向が反映されるという点で株主にはメリットがありますが、株主間の対立が取締役会に持ち込まれてしまい会社経営が混乱するおそれがありますから、会社側にはそれほどメリットがありません。取締役会を構成する取締役の人数や意見の違いによっては、最悪の場合、取締役会決議ができず(デットロック)会社が営業活動を行えなくなる事態に陥ってしまいます。

そこで、ほとんどの会社では、定款で累積投票を行わない旨規定し累積投票制度自体を排除しています会社法第342条1項)。

就任の承諾

取締役をはじめとする役員と会社との関係は、委任契約となります(会社法第330条、民法第643条以下)。契約である以上、両当事者の意思の合致がなければなりません。聞いたこともない会社から知らないうちに取締役に選任されても困りますよね。

そのため、株主総会で選任が決議だけでなく、候補者の承諾が必要です。取締役報酬や業務内容を決めるため自然と何らかの形で契約を結ぶ流れになるかと思いますが、きちんと委任契約書として書面に残しておきましょう。

決議の前に内諾を得ておき、選任決議を経た後にスムーズに業務を執行できるよう準備を整えておくケースが一般的です。

登記申請

取締役をはじめ会社の役員に変更が生じた場合には、変更の事実から2週間以内に法務局で登記を行わなければなりません会社法第911条2項13号等)。

登記を申請するためには、選任決議を行った株主総会の株主総会議事録(商業登記規則第46条第2項)、株主リスト(商業登記規則第61条3項)、就任承諾書(※株主総会の会場で選任を席上承認していない場合)や新任の場合はさらに就任承諾書に記載された氏名・住所と同一の氏名・住所が記載されている市町村長等が作成した証明書(商業登記規則第61条7項)が必要です。

登記申請の際の必要書類のひな形は法務局のホームページにあるひな形を参考にするとよいでしょう。

 出典:法務局

就任登記

登記申請が通ると、法務局が取締役の就任登記を行い、会社の登記簿に取締役就任の事実が反映されます。

ひととおり取締役選任の手続きが完了したら、会社の履歴事項全部証明書を取得して就任登記がされているか確認してみましょう。

まとめ

今回は、取締役を選任するために必要な株主総会の種類や手続きの流れをご紹介しました。

取締役は会社の経営を担う重要な役職です。重要な役職だからこそ、選定するためには株主総会の決議や登記といった手続きが必要になります。

手続きが滞ってしまっては、せっかく優秀な人材が取締役就任を承諾してくれても力を発揮できません。株主総会や登記の準備不足とならないよう、運営サポートを検討してみても良いでしょう。