法改正からまだ間もなく、国内では馴染みの少ないバーチャルオンリー株主総会。
今後検討していきたいと思ってはいるものの、事例が少ないので、開催するにはまだ不安な企業も多いのではないでしょうか。
本記事では、バーチャルオンリー株主総会のメリットや問題点、また開催にあたって守るべき要点などをまとめていきます。
アメリカでは2000年からバーチャルオンリー株主総会の開催が可能となっており、すでに年間300社以上の企業が開催していますが、日本での開催はまだ数社。
実際にバーチャルオンリー株主総会を開催した企業の事例なども併せて解説していきます。
本章では、バーチャルオンリー株主総会についてやそのメリット、またバーチャルオンリー株主総会を開催する企業が増えたきっかけなど解説していきます。
バーチャルオンリー株主総会とは「場所の定めのない株主総会」とも呼ばれ、物理的な場所は使用せずに、株主はインターネット等を通してバーチャルで総会に出席できる開催方法です。
現在の株主総会の開催方法は、リアル株主総会・ハイブリッド参加型・ハイブリッド出席型・そしてバーチャルオンリー株主総会ですが、全てをオンライン上で行うのはバーチャルオンリー株主総会のみとなっています。
ハイブリッド参加型・ハイブリッド出席型・バーチャルオンリー株主総会のメリット・デメリットについては「注目されるバーチャル株主総会とは?背景や注意点を解説」で詳しく解説しています。
バーチャルオンリー株主総会のメリットとして、次の4点が挙げられます。
従来型の株主総会では、会場の手配や当日の会場設営、そしてその費用などがかかりますが、バーチャルオンリー株主総会では全て不要です。
全ての株主が、バーチャルにおいて出席できることも大きなメリットのひとつです。
感染症が不安な株主も安心して出席できます。
2021年6月、「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律」の法改正に伴い、上場企業を対象に「場所の定めのない株主総会」バーチャルオンリー株主総会の開催が可能となりました。
国内初のバーチャルオンリー株主総会を開催した企業は、バイオベンチャーである株式会社ユーグレナ、続いてグリー株式会社などが続いて開催しています。(実施事例はこちら)
バーチャルオンリー株主総会開催企業は、2021年には3社でしたが、2022年(8月時点)には19社と確実に増えてきています。
開催が増えたきっかけとしては、法改正だけでなく、新型コロナウイルスの影響により対面を好まない人が増えたのも要因のひとつとしてあります。
経済産業省のアンケート調査によると、バーチャルオンリー株主総会を開催したい企業は21%にも上り、今後も増えることが予想されます。
本章では、バーチャルオンリー以外の方法で株主総会を開催したときの、それぞれのメリットデメリットを解説します。
まずは、株主総会に出席する株主や企業の役員など全員が会場に集まる、従来型の株主総会についてのメリット・デメリットです。
株主目線、企業目線それぞれ見ていきます。
ーメリット(株主)
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株主は、会社の役員や従業員と会う機会がないため、実際に会場へ行き会場の温度感やその企業の役員、従業員の雰囲気を知ることができます。
また、現在は廃止する企業も増えてきましたが、会場へ行くと企業の商品に関連したお土産が配布されます。
ーメリット(企業)
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「自社で株主総会の開催は難しい」「自社で開催できるが会社の立地が良くない」企業は、貸会場を利用します。
貸会場は、立地の良い場所にあるため、株主に来場してもらいやすくなるメリットがあります。
また、貸会場では通信機器や音響などのレンタル、事前に伝えれば配置までしてもらえるので準備の手間をかなり省けます。
ーデメリット(株主)
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株主側のデメリットとして、海外や遠方に住んでいる場合、株主総会の参加がとても難しいです。
会場へ行かなければ説明や質疑応答など傍聴ができないだけでなく、自身も意見や質問ができません。
ーデメリット(企業)
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企業側のデメリットは、人件費や工数がかかりますが、一番大きいのは会場費がかかることです。
経済産業省による統計では、株主総会の会場準備や運営費用でかかる費用は、200〜500万円と答えた企業が多くありました。
5000万円以上かけている企業が5%、その中でも1〜2億円未満が9社、2億円以上の企業が6社あります。
次に、ハイブリッド参加型での開催について、メリット・デメリットを解説します。
ーメリット(株主)
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海外や遠方に住んでいて、株主総会に参加できなかった株主が、参加・傍聴できるようになったことが大きなメリットのひとつと言えます。
また、バーチャルでの、複数の株主総会への参加が可能となりました。
リアル株主総会のように会場出席も可能なため、通信機器の操作が苦手だったり、インターネット環境が整っていない株主も安心です。
ーメリット(企業)
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今までは、近隣の株主にしか株主総会に出席してもらえなかったのが、ハイブリッド型を導入し、全ての株主に参加・傍聴してもらえるようになりました。
参加方法の多様化による株主重視の姿勢をアピールができ、企業のイメージアップにもつながります。
ーデメリット(株主)
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通信機器の操作が苦手でインターネット環境も整っておらず、遠方に住んでいる株主は、株主総会の参加・傍聴ができなくなる恐れがあります。
また、ハイブリッド参加型は、議決権の行使や発言ができないため、発言をしたい株主に対しては対策が必要です。
ーデメリット(企業)
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最後に、ハイブリット出席型のメリット・デメリットについて解説します。
ハイブリッド出席型は、ハイブリッド参加型のメリットに加え、バーチャルによる出席で質疑等を踏まえた議決権行使が可能です。
参加型では不可能な「議決権行使」や「発言」ができるため、出席方法の多様化による株主重視の姿勢をアピールできるでしょう。
デメリットは、ハイブリッド参加型と異なり発言はできるものの、運営側としては設備に二重のコストと労力が増える分、負担が大きいです。
ここでは、バーチャルオンリー株主総会の守るべき要件と、運営の流れやポイントについて解説します。
バーチャルオンリー株主総会を開催するといっても、だれでもすぐに開催できるわけではありません。
次の要件を満たした企業のみが、バーチャルオンリー株主総会を開催できます。
3つ目の要件である定款変更は、2022年に入ってから定款変更する企業が増えており、バーチャルオンリー株主総会の開催準備をしている企業が増えてきています。
4つ目の省令要件については、以下を満たしている必要があります。
これらの要件は必須となるため、必ず事前に確認しましょう。
実際に、バーチャルオンリー株主総会を開催するとなった場合、経済産業大臣・法務大臣の承認を受けなければならないため、次の手続きが必要になります。
経済産業省の担当者へ事前相談を行ったあと、指定の書類準備と提出をします。
その後審査を受け、確認書が交付される流れとなっています。
申請書は、押印が不要でメールでの提出も可能ですが、事前相談から確認書の交付までおよそ3カ月かかります。
手続きに不慣れだと、3カ月以上かかる可能性もゼロではありません。
確実かつスムーズに申請を行うため、専門業者に依頼する方法も検討しましょう。
一般的な株主総会の開催の流れについては「定時株主総会の開催時期はいつ?日程の決め方やその理由を解説」で詳しく解説しています。
本章では、バーチャルオンリー株主総会の問題点や、実際にバーチャルオンリー株主総会を実施した企業の対策事例をご紹介します。
業種:情報・通信業 従業員数:281人(単体) |
ー問題点
株主からの発言・質問の人数制限や時間配分などどうするのか
ー対策
質問をテキスト化し、概観をつかみやすく、株主の関心度の高い質問から回答した
また、より多くの質問に回答できるため、対話の質や量を向上できた
ー問題点
以前はハイブリット形式で開催し、費用面や運用リソース含め二重にコストがかかっていた
ー対策
会場準備にかけていた時間をライブ配信準備に充てることができたため、配信時に起こるトラブルに対する手だてやシミュレーションを繰り返し実施した
業種:情報・通信業 従業員数:365人(単体) |
ー問題点
システムトラブルによる配信が中断される恐れがある
ー対策
配信機材やシステム構成を冗長化しておくことで配信を継続できるようにした
ー問題点
全員がオンラインのためネットワークに負荷がかかかる
ー対策
株主専用のポータルサイトを事前に開設
事前質問の受け付けや、質問の文字数、投稿数を制限した
事前質問やそれに対する回答はサイト上に掲載
ー問題点
前例がないバーチャルオンリー株主総会で、システムの機能など使いこなすのが大変
ー対策
バーチャルオンリー株主総会の運営に詳しい専門業者に協力を依頼
経産省・法務省への申請手続きから株主総会運営までのサポートをお願いした
業種:食品 従業員数:212人(単体) |
ー問題点
システムトラブルによる配信が中断される恐れがある
ー対策
メイン回線が切れたときのサブ回線があったが、サブ回線が切れたときのためのサブ回線も準備した
ー問題点
インターネットを使用できない株主がいる
ー対策
招集通知で書面による事前の議決権行使を促した
当日の音声を聴けるよう電話システムを導入
自社オフィスの会議室に自社のPCを使用できる体制を整えた
ー問題点
アメリカのバーチャルオンリー株主総会で、企業側にとって不都合な意見や質問を恣意的に排除することに株主から懸念の声があった
ー対策
個人のプライバシー侵害になるような、公開に支障が出る内容のもの以外の質問とその回答を全て自社のHPに掲載した
その旨を招集通知にも記載した
出展:株式会社ユーグレナ「日本初となる「バーチャルオンリー株主総会」を開催せよ。」
本記事では、バーチャル株主総会を実施したときの流れや注意点、実際にバーチャルで開催した企業の事例をご紹介しました。
法改正によりバーチャル株主総会の開催が認められ、それと同時に問題点も浮き彫りになりました。
開催企業が増えつつあるバーチャル株主総会ですが、国内ではまだまだ事例が少ないのも事実です。
そのため、バーチャルにおいて株主総会を開催した企業はほとんどがサポートやコンサルを入れています。
自社のみで開催も可能ですが、システム設備を整えたり、リサーチをしたりなどかなりの費用と労力が必要です。
バーチャルオンリー株主総会の開催を検討している、またバーチャルオンリー株主総会をスムーズに開催したい場合は、専門業者に依頼してみましょう。