デジタル技術を活用して新たな業務プロセスを構築するDX。経済産業省は企業によるDXへの取り組みを推進しており、2018年にITシステムの構築・実行プロセスなどをまとめた「DX推進ガイドライン」を公表しました。
2020年には経営者に求められる対応をまとめた「デジタルガバナンス・コード」を公表。2022年9月に「DX推進ガイドライン」と統合し、「デジタルガバナンス・コード2.0」として新たにまとめられています。
この記事では、総務におけるDXの必要性を解説し、主な取り組み例と推進の手順について説明しています。
DXとは、「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」を略した用語で、直訳すると「デジタル変革」という意味です。企業にとっては、デジタル技術(AI・IoT・クラウド・ビッグデータなど)を活用して業務プロセスを革新し、競争優位性を確立することを意味します。
IT技術の進展により、企業は効率化とコスト削減だけでなく、新しいビジネスモデルの創出も求められています。また、レガシーシステム(古いシステムの老朽化や複雑化)の問題も不安視されていることから、DX化は社会全体で取り組む課題といえるでしょう。
総務でもDX化は進めるべきでしょうか。総務におけるDXの必要性について解説します。
総務は、組織全体を円滑に運営するために幅広い業務を担当しています。備品管理・企画運営・電話や来客対応・庶務など業務量は膨大です。しかし、業務量・煩雑な作業が多いにもかかわらず、近年の労働人口減少による人材不足で必要な人員が配置されないケースも珍しくありません。
質の高い業務をスムーズに進めていくために効率化は不可欠です。業務をデジタル化することで効率化につながり、人材不足の解決にもなります。
総務のDX化はコスト削減にも有効です。ペーパーレス化や申請・承認手続きのオンライン化などが実現すると、紙や印刷のコストが削減されます。また、文書の保管スペースも節約できるうえに、データ化された情報は検索性に優れ、情報共有もスムーズです。テレワーク時でも手続きや閲覧が可能になるため従業員の利便性も高まります。
DXは、データ管理の強化やセキュリティ向上にも役立ちます。これまで一般的だった紙面では紛失や劣化のリスクがありました。重要書類を紛失してしまうと情報漏洩の危険がありますし、保管状態によっては著しく劣化してしまう可能性もあります。
その点、データであればクラウド上にあるため紛失や劣化を防げます。アクセス履歴や変更履歴なども残るため悪用や改ざん対策としても有効です。
コロナ禍を経てテレワークが一般的になり、オフィスワークとテレワークを組み合わせた「ハイブリッドワーク」を導入する企業も増えてきました。また、働き方改革の推進によってライフワークバランスを実現するための取り組みや、多様な働き方への対応も求められています。
さらに、BCP(緊急時における事業継続計画)対策の面からもテレワークは有効です。総務においてもテレワーク・ハイブリッドワークを実現するために、業務のデジタル化・IT化は必要な取り組みといえるでしょう。
ここからは、総務部のDX化を進めるにあたって取り組み例を紹介します。
オンラインコミュニケーションツールの導入・見直しにより、オフィスに出社しなくても円滑なコミュニケーションや業務が可能になります。
オンラインコミュニケーションツールとは、インターネット上でリアルタイムにやり取りができるアプリケーションです。情報の伝達・共有が場所を選ばずにできるうえに、さまざまな機能も搭載されています。
例えばクラウドPBXは、クラウド環境に設置したPBX(電話交換機)を使って、インターネット経由で外線・内線を利用できる仕組みです。固定電話だけでなく、スマートフォンやPC、タブレットなどからも利用できるためテレワーク時でも電話の取り次ぎや転送がオフィスと同じようにできます。
【無料お役立ち資料】オフィス電話見直しガイド
DXの推進やテレワークへの対応、コスト削減など、オフィス電話を最適化するためのヒントをまとめた資料を配布しています。
クラウドPBXについては「クラウドPBX導入の基礎知識。失敗しないためのポイントと手順」の記事で詳しく解説しています。
IoTデバイスを活用してオフィスの照明や空調を自動制御し、快適な作業環境を作り出すこともDXの1つです。人感センサーによって従業員の存在を確認し室温を自動的に調節したり、光センサーで照明の明るさなどを調節してくれたりと適切なオフィス環境を保ちます。
また、入退室管理システムの導入でセキュリティの強化も可能です。入り口で個人を特定し、入室を許可または制限するシステムで、不正入室の防止や漏洩リスクの低減、さらには勤怠管理にも役立ちます。
ワークフロー管理システムとは、組織内の業務手続きを電子化・自動化するシステムです。これまでは、紙面で行ってきた申請書の提出から承認までのプロセスをシステム上で完結できます。
書類の受け渡しや押印が不要になり、テレワークや外出時でも申請・承認ができるため決裁スピードの向上が可能です。また、社内で書式を統一することにより、文書管理や問い合わせ対応の負担も軽減できます。
文書管理においてはデジタル化がおすすめです。例えば、事務作業を自動化するRPA(Robotics Process Automation)を導入すれば、データ入力・集計、ファイル作成、メールの送受信など繰り返し行われる作業を自動化できます。コスト削減やヒューマンエラーの軽減などが可能で、何より業務効率化を実現できる点がメリットです。
また、電子署名を導入することで契約書・承認書の真正性と完全性を証明しながら、処理効率化も図れます。電子署名とは、電子文書に対してデジタル形式で行われる署名のこと。電子文書作成者のなりすましや内容の改ざんを防ぐために活用されており、電子認証局という第三者機関が「電子証明書」を発行します。
DXによって蓄積された社内データの分析を通して、業務プロセスの可視化・改善点の特定ができます。ウイングアーク1st株式会社の調査によると、データ活用・分析によるメリットとして「効率的な経営判断ができている」「改善PDCAが回せるようになった」という回答が上位に見られました。
データ活用のポイントは課題の明確化です。業務の効率性や課題を明確にすることで、継続的な改善につなげられるでしょう。
DXに取り組む際は、以下のステップで段階的に進めるのがよいでしょう。
それぞれの内容について解説します。
まずは、小規模なアナログ業務からデジタル化を進めましょう。例えば、紙面で配布していた就業規則をPDFなどの電子文書や社内向け掲示板などに掲載しておけば、ペーパーレス化を実現できます。従業員も閲覧しやすく、改定する際もスムーズです。
説明会やマニュアルの整備も必要ないためスピード感を持って進められますし、負担や抵抗感も少なくて済むでしょう。
小規模なDX化が浸透してきたら、徐々に規模を大きくしていきましょう。例えば、備品管理システムの導入が挙げられます。消耗品の在庫切れや定期的な棚卸しなど、備品管理は総務にとって業務負担が大きく、課題とされてきました。
備品管理システムは、ICタグやバーコードにより在庫数や所在を分かりやすくするためのツールです。資産や物品を一元管理でき、棚卸し機能など便利な機能を備えているため備品管理の効率化が実現できます。
本格的なツールを導入して社内全体へ展開していくフェーズです。例えば、ワークフロー管理システムを導入して社内の書式を統一しつつ、電子化・自動化を行います。
前述の通り、ワークフロー管理システムでは書類の受け渡しや押印が不要になり、決裁スピードも速くなるため従業員の利便性も向上されるでしょう。
全社でデータを連携できる環境が整ったら、統合してデータ活用を進めます。全社統一のシステムやデータ連携しやすいクラウドサービスなどに切り替えることで、各種データを経営に活用しやすくなるでしょう。
業務量が多く人材不足も課題となっている総務では、業務効率化が必須の取り組みといえます。DXによりデジタル化可能な部分はデジタル化することで、生産性が向上するだけでなく、コスト削減やセキュリティ向上にもつながるでしょう。
また、テレワークやハイブリッドワークなど柔軟な働き方への対応にも役立ちます。まずは小規模な箇所から導入し、負担や抵抗感を最小限に抑えながら組織のDX化をすすめてみてはいかがでしょうか。