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ここ数年、ワークライフバランスに関する企業の取り組みがメディアで取り上げられる機会が増えています。少子高齢化に伴う労働力人口の減少、働き方改革関連法の施行と行った企業を取り巻く外部環境の変化も追い風となり、大企業だけでなく中小企業も巻き込んだワークライフバランスの見直しが進んでいるようです。


ただし、ワークライフバランスの見直しは必ずしも企業にとってプラスになるとは限りません。ワークライフバランスの本質を捉えず、小手先の改革だけに終始すればかえって業績悪化という事態を招きかねないのです。

 

そこで、今回はワークライフバランスの見直しに起因するさまざまな問題とその改善策について詳しく解説いたします。

 ワークライフバランスの現状

 ワークライフバランスとはその言葉通り仕事と生活を両立させ、ワーク(仕事)とライフ(生活)のどちらも犠牲にすることなく相乗効果によって充実した人生を送るという考え方です。

 

このような概念が取りざたされているということは、すなわち現在の働き方はワークとライフどちらかを犠牲にしなければ成り立たないという現状があるからなのです。

 

内閣府 男女共同参画局 仕事と生活の調和推進室が毎年行っている「企業等における仕事と生活の調和に関する調査研究報告書」の平成30年版を見てみましょう。

 

この調査は全国に住む20代~60代の男女を対象としたアンケート調査であり、サンプル数は6000です。まず、ワークライフバランスにおいて何を優先したいとかという設問に対しては、以下のような回答となっています。

 

WLB優先1

 

(画像引用元:企業等における仕事と生活の調和に関する調査研究報告書

 

 男女共に「家庭生活を優先したい」と考えている割合が高く、「仕事を優先したい」という回答者は各属性共に1割前後にとどまっています。

 

次に、実際の職場環境についての問いに対する回答は以下の通りです。

 WLB優先2

 

(画像引用元:企業等における仕事と生活の調和に関する調査研究報告書

 

 正社員男性で実に5割以上、正社員女性でも4割以上が「仕事が優先」されていると回答しています。このことから、優先したい項目と実際の優先順位とでは大きく乖離していることがうかがえます。

 

つまり、現在の労働環境や生活環境は理想と現実とのギャップがかなり大きいということに他なりません。多くの労働者が「ワークライフバランスなんて夢のまた夢」と考えていることがこの調査から導き出される現状です。

ワークライフバランス導入の問題点

 一方の企業側の視点でワークライフバランスを考えてみましょう。そもそもワークライフバランスの見直しには企業側にも大きなメリットがあります。

 

社員が仕事に集中できることにより、業務の生産性が向上したり残業コストを含めた人件費の削減が図れたりします。あるいは企業イメージの向上によるダイバーシティの推進や優秀な人材の確保といったプラス面も大いに期待できます。

 

とはいうものの、企業側におけるワークライフバランス促進策がうまく機能しているとは限りません。むしろ多くの企業で壁にぶち当たっているようです。その理由をいくつか挙げてみましょう。

問題点1:導入手法が不明瞭

高度経済成長期以降、日本の企業は社員がプライベートを犠牲にすることにより成り立ってきたという側面があります。長時間労働やサービス残業が当たり前のように存在し、過労死や過労による自殺が年間190名近くまで増加している状況です。

 

このように、ワークライフバランスからほど遠い状況にある日本の企業が、いきなり制度や仕組みを変えようとしても何から手を付けてよいのかわからないというのが実情です。

 

企業規模や社風、業種、社員の年齢層、地域など、ワークライフバランスの見直しを図るにはさまざまなことを考慮しなければなりません。「他社がやっているからうちも」といった手法では、かえって弊害を招く結果になりかねないのです。

問題点2:生産性低下のリスク

 前述のように日本の企業は長時間労働やサービス残業をベースに適正人員を算出する傾向があります。したがって、ワークライフバランスの見直しにより社員の総労働時間が減少することで、全社的な人員不足に陥り生産性が低下してしまいます。

 

また、業務遂行における属人性の高さも拍車をかけています。「この人じゃないとわからない」仕事が多く、「この人がいないと仕事が止まってしまう」という状態がいとも簡単に発生するのです。

 

ERPやSFAの導入により業務の属人性を排除し生産性の効率を図る動きも活性化していますが、ワークライフバランス導入=労働時間の減少となってしまう現状ではなかなか有効な解決策が見いだせない状況であるといえるでしょう。

問題点3:変わらない企業文化

 ワークライフバランスの導入において、ツールや制度を改定しても全くと言っていいほど改革が進まない大きな原因はこの「変わらない企業文化」ではないでしょうか。

 

「残業を頑張るやつが偉い」「会社のために私生活を犠牲にするのが美徳」「労働時間が多い方が人事評価も高い」「定時で帰るのは周囲の社員に対し気が引ける」といった企業文化がいまだに根強く残っているからです。

 

残業評価

 

(画像引用元:ワークライフバランスに関する意識調査

 

 実際、内閣府が行った「ワークライフバランスに関する意識調査」の結果によると、上司は残業している人をポジティブに評価すると回答した割合の方が多く、1日の労働時間が長ければ長いほどその傾向は顕著になります。

 

このような企業文化が根付いたままだと、ワークライフバランスを実現し定時退社する社員が周囲から白い目で見られるようになり、出世も昇給も道が閉ざされるという悲惨な結果になってしまうのです。

ワークライフバランスの問題点に対する改善策

 ワークライフバランスを実現するためには、企業側にも社員側にもいくつもの大きなハードルがあることは周知のとおりです。しかし、これらのハードルを見事に乗り越えワークライフバランスを実現した企業が存在するのも、また一方で事実として知られています。

 

具体的にそれらの企業がどのようにしてワークライフバランスを実現したのか、その方法を見ていきましょう。

改善策1:制度を明確にする

 成功している企業に共通しているのは、ワークライフバランスを実現するための制度や目的を明確に定め共有することです。

つまり、社会の流れだから、法律が変わったから、といった理由で義務的に導入に至るのではなく、業務の生産性を上げて残業時間を削減し、同時に待遇の改善を図るといった具合に会社を活性化させる方向で動機付けを行う必要があるということです。

 

 目的を明確にしたワークライフバランスへの取り組みに対しては、政府も積極的に助成金などの制度で支援しています。

 

例えば子育てや介護と仕事の両立を支援する企業にはくるみん税制両立支援助成金を、働く人の労働条件や健康を守りながら多様な働き方を支援する企業にはテレワーク相談センターを組織化・制度化しています。これらの制度を活用し、目的を明確にした上でワークライフバランス導入に取り組むことが重要です。

改善策2:ツール導入で効率化させる

 ワークライフバランスの導入により生産性が低下する企業が多いというのは前述の通りです。生産性の低下を防ぐために最も効果的なのは、ERPやWeb会議システムなどの生産性を向上させるための各種ツールを導入すること。長時間労働の抑制や時短勤務の導入、テレワーク勤務社員の採用、業務の標準化のように、ワークライフバランスを実現するための対策はツール導入により実現できるものが多いのです。

 

中でもテレワークはワークライフバランスを語る上で欠かせない対策のひとつ。特に首都圏においては、1日の通勤時間が往復で80分を超えるケースが多く、しかも混雑率100%を超える路線が大多数を占めるため、ワークライフバランスをネガティブな方向へ動かす要素はかなり大きいといえます。つまり、通勤を無くすことによるストレス軽減とプライベート時間の拡大はワークライフバランス実現に対する効果はかなり大きいといえるのです。

 

高品質なクラウド型Web会議サービスを活用すれば、在宅勤務やコワーキングスペースを活用したテレワークをスムーズに行うことが可能。他のクラウド型業務アプリを連携させることで、まるで出社しているかのようなワークスタイルを実現できます。

改善策3:経営陣から取り組み始める

 制度の改定やツールの導入を行ったところで、企業文化が変わらなければ絵に描いた餅になってしまいます。企業文化を変えていくには、経営陣による積極的なメッセージ発信が何よりも欠かせないということです。

 

内閣府の仕事と生活の調和推進室がまとめた「社内におけるワークライフバランス浸透・定着に向けたポイント・好事例集」では、ワークライフバランス実現に向けた10個のポイントを解説しています。その中で1番目のポイントとして経営トップが本気を示すことが重要だと記されています。

 

業務プロセスの見直しや制度改定は経営トップの決断が無ければ進みません。また、ツールや制度を有効に活用するには経営陣がしつこいくらいに社員へメッセージを発信することが必要なのです。

 

繰り返し何度でも全社員にワークライフバランス実現に向けたメッセージを送り、社内にはびこる古い価値観を打ち破ることが求められます。

ワークライフバランスの問題点を改善した事例

 このようにワークライフバランスの問題点を改善するにはいくつかのポイントを絞って目的を明確にして取り組む必要があります。具体的な事例として、社員の意識改革や生産性を向上させるためのツール導入によりワークライフバランスの問題点を改善した企業をいくつかピックアップしてご紹介いたします。

 

事例1:株式会社ワーク・ライフバランス

株式会社ワークライフバランス 

(画像引用元:株式会社ワーク・ライフバランス

 

 「株式会社ワーク・ライフバランス」は、その名の通り働き方に関する改革コンサルティング事業や講演・研修事業を手掛けている会社です。メディアでワークライフバランスに関する情報発信を行っている小室淑恵氏が代表を務める会社としても有名です。

 

同社は経営戦略としてのワーク・ライフバランス実現を掲げ、コンサルティング対象企業の理想的なワークライフバランス実現の支援を行うとともに、自社の社員のワークライフバランスも理想的な形で実現しています。

 

有休取得率は全社員が100%であるとともに、男性でも1ヵ月の育休を取得する先進的な取り組みを数多く行っていますが、社員間のコミュニケーション促進手段としてWeb会議システムを導入し活用しています。

 

在宅勤務を行う社員や外出の多い社員とのミーティングはもちろんのこと、遠隔地で行うコンサルタント養成講座といった自社サービスにも応用し社員の移動時間を削減。自らがワークライフバランスを実践する企業として多くの顧客を獲得し続けています。

事例2:株式会社FIS(フレックス少額短期保険)

株式会社FIS 

(画像引用元:株式会社FIS

 

 賃貸住宅入居者向けの家財保険やテナント事業者向けの設備・什器等保険など、少額短期保険(保険業法上の保険業のうち一定事業規模の範囲内において少額かつ短期で契約できる保険)の企画販売を行うのが「株式会社FIS」。

 

ワークライフバランスへの取り組みが評価され、平成29年度東京ライフ・ワーク・バランス認定企業に認定されました。東京ライフ・ワーク・バランス認定企業とは、生活と仕事の調和の実現に向け優れた取組を実施している中小企業に対して東京都産業労働局が認定するものであり、働き方の見直しについて社会的醸成を図る目的で実施されています。

 

同社は以前毎週水曜日をノー残業デーとしていましたが、サービス残業が横行して掛け声倒れに終わった過去を持ちます。そこで社長や役員を中心に業務の見直しを図り、仕事の段取りを指導。ノー残業デーが定時で帰ることを徹底し、見事定着へと至りました。

 

業務見直しのプロセスでは、朝礼時に全員で仕事の優先度を共有したり、業務のマニュアル化推進により属人性を排除したりとさまざまな取り組みを実施。どうやったら定時までに仕事が終わるかを全社員が一丸となって考えるようになったそうです。トップダウンによるワークライフバランス意識改革の典型的な事例といえます。

まとめ

 ワークライフバランスへの取り組みは、今や企業にとって業績だけでなく採用や社会的イメージにもかかわる非常に重要な経営課題であるといえます。しかし、制度を形式上導入しただけでは、社員のワークライフバランスを実現することはできません。そればかりか、生産性の低下や働き方のブラック化を招く原因にもなってしまいます。

 

日本の企業文化の歴史を鑑みると、ワークライフバランスとは程遠い環境で成長してきたことは否めません。目的が不明確なワークライフバランス導入は問題点ばかりがクローズアップされ、有名無実化することは必至。ワークライフバランス導入における問題点をしっかりと把握し、企業文化を180度変えるくらいの勢いで取り組むべき課題であるのです。

 

効率化につながるツール導入やトップダウンでの啓蒙活動など、さまざまな手法を駆使して理想的なワークライフバランス実現に向けた動きを加速させましょう。