取締役 解任の手続きの流れは?株主総会での決議要件・注意ポイントを解説

会社の経営方針との不一致、事業縮小に伴う役員のスリム化、取締役の不祥事などさまざまな理由で取締役の解任について検討がなされます。取締役を解任する場合には、所定の手続きを踏む必要があり、正当な理由なく解任すると取締役から損害賠償請求を受けるリスクもありますので注意が必要です。
今回は、取締役解任の手続きの流れや注意点などについて、わかりやすく解説します。

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取締役の選任とは

取締役の解任とは、どのような手続きなのでしょうか。

取締役の解任に関する基本事項

取締役の解任とは、会社が任期満了前に取締役を辞めさせることをいいます。

取締役の任期は、通常は選任日から2年ですが、会社の定款で任期を短くしたり、延ばすことも可能です(会社法332条)。会社と取締役との関係は、委任関係にありますので、会社は、いつでも・どのような理由でも取締役を解任できます(会社法339条1項)。ただし、後述する正当な理由なく取締役を解任した場合には、解任された取締役から損害賠償請求をされるリスクがありますので注意が必要です。

取締役の退任・辞任との違い

取締役の解任と似た制度として、取締役の「退任」および「辞任」があります。
取締役の退任とは、任期満了をもって取締役を辞めることをいいます。解任は、任期途中で取締役を辞めさせるものですが、退任は、任期満了で終了するという違いがあります。
取締役の辞任とは、任期満了前に取締役が自らの意思で辞めることをいいます。解任は、会社側の意思によって取締役を辞めさせるのに対して、辞任は、取締役自身の意思で辞めるという違いがあります。
取締役の解任、退任、辞任の違いをまとめると以下の表のようになります。

取締役会 解任 退任 辞任 違い取締役の解任の正当な理由は?

正当な理由がなくても取締役の解任は可能です。しかし、正当な理由なく解任をした場合には、取締役から損害賠償請求をされるリスクがありますので、以下のような正当な理由に基づいて解任をするのがよいでしょう。

取締役解任 理由 正当

① 法令違反や職務上の不正行為

取締役が法令違反や職務上の不正行為をしていた場合には、解任をする正当な理由になります。たとえば、会社の資産を横領していた、産地偽装への関与、不正会計による報酬の水増しなどの行為がこれにあたります。

② 経営判断の誤りによって会社に損害を与えた

取締役は、経営のスペシャリストとして広い裁量がありますので、経営判断を誤ったとしても、それだけでは損害賠償責任を負いません。しかし、経営判断の誤りによって、会社に損害を与えたようなケースでは、取締役を解任すべき正当な理由になります。
たとえば、会社の売上が着実に伸びている状況で、リスクの高い株式取引に手を出して会社に多額の損害を与えたような場合がこれにあたります。

③ 会社への敵対行為

取締役が会社に対して敵対行為を繰り返していた場合には、解任をする正当な理由になります。たとえば、会社の内部的な問題を週刊誌の記者にリークして、スキャンダル化したような場合がこれにあたります。

④ 経営能力の欠如

新規事業を開拓する目的で、その分野に詳しいとされる人を取締役に選任したにもかかわらず、実際には事業遂行に必要な知識や経験を有していなかったなど、経営能力の欠如が明らかであった場合には、取締役を解任する正当な理由になります。

⑤ 健康上の理由で職責を果たせない

心身の故障など健康上の理由で取締役としての職責を果たせない場合には、取締役を解任する正当な理由になります。このような場合には、通常は、取締役から自発的に辞任がなされますが、意識不明など自らの意思を表明できない状態だと解任という方法がとられます。

取締役の解任の手続きの流れ

取締役を解任する方法には、「株主総会で解任する方法」と「解任の訴えによる方法」の2つがあります。以下では、それぞれの手続きについて説明します。

(1)株主総会で解任する場合

取締役を解任する方法としては、株主総会で解任するのが一般的な方法です。株主総会で取締役を解任するには、以下のような手続きおよび流れで進めていきます。

株主総会 解任 流れ

①取締役会の招集

取締役を解任するためには、株主総会を開催しなければなりません。取締役会設置会社では、株主総会の招集に関する事項は、取締役会で決定しますので(会社法298条4項)、まずは、取締役会を招集します。

取締役会を招集するには、取締役会開催日の1週間前までに各取締役に招集通知を発送する必要があります(会社法368条1項)。招集通知は、解任の対象となる取締役にも送付しなければなりません。

②取締役会で臨時株主総会の招集決議

取締役会では、議決権に加わることができる取締役の過半数が出席し、その過半数の賛成によって決議を行います(会社法369条1項)。

取締役会は、テレビ会議やインターネット会議での参加も認められていますので、スケジュールの都合で参加できない取締役がいる場合には、このような方法も検討するとよいでしょう。なお、取締役会で臨時株主総会の招集決議をした後は、その内容を取締役会議事録に残す必要があります(会社法369条3項、4項)。

③臨時株主総会の招集

取締役会で臨時株主総会の招集の決議が成立したら、取締役解任のための臨時株主総会の招集を行います。
臨時株主総会の招集は、取締役が株主全員に対して、臨時株主総会の招集通知を発送します。招集通知には、以下の事項を記載します。

  • 株主総会の開催日時
  • 株主総会の開催場所
  • 株主総会の目的である事項


株主総会の目的である事項としては、「取締役○○の解任」と記載すれば足りるでしょう。
なお、株主総会の招集通知は、公開会社では株主総会開催日の2週間前まで、非公開会社では1週間前までに発送する必要があります(会社法299条)。

④臨時株主総会で取締役解任の決議

臨時株主総会を開催し、取締役解任の決議を行います。株主総会決議の要件などの詳しい内容は、後述します。

臨時株主総会の決議が成立した場合には、株主総会議事録を作成する必要があります(会社法318条1項)。

(2)裁判所に提起する場合

取締役の解任は、既に説明したように株主総会決議によって行うのが一般的です。しかし、株主総会決議を成立させるには、株主の議決権の過半数の賛成が必要になります。株主の中の多数派が取締役の解任に反対している場合には、取締役に問題があったとしても解任できずに会社に残ってしまいます。

このような場合には、裁判所に「取締役解任の訴え」を提起することによって、取締役を解任できます。取締役解任の訴えを提起できる株主は、以下のいずれかの要件を満たす株主に限られます(会社法854条)。

  • 総株主の議決権の100分の3以上の議決権を6か月前から引き続き有する株主
  • 発行済み株式の100分の3以上の数の株式を6か月前から引き続き有する株主

この要件に該当する株主は、取締役および会社を被告として、取締役解任の議案が株主総会で否決された日から30日以内に訴えを提起しなければなりません。

会社としては、株主から提起された訴えについて、被告としての対応が求められますので、原告の請求および主張を精査したうえで、適切な対応が求められます。

株主総会での取締役会の決議要件・議事録の書き方

以下では、株主総会で取締役の解任をする場合の決議要件および議事録の書き方について説明します。

取締役解任の決議要件

取締役解任の決議は、株主総会の普通決議によって行います(会社法339条1項309条1項)。株主総会の普通決議は、定款に特別な定めがない限りは、議決権の過半数を有する株主が出席して、出席した株主の議決権の過半数の賛成によって行います。

なお、株主総会決議では、決議内容に特別の利害関係を有する株主(特別利害関係人)も決議に参加して、議決権の行使が認められています。そのため、解任の対象となる取締役が同時に株主でもあるという場合であっても、当該取締役を株主総会決議から除外はできません。

取締役解任の議事録の書き方

正当な理由なく取締役を解任した場合には、会社は、解任された取締役から損害賠償請求を受ける可能性があります。そのため、後日、解任の正当性が争われる場合に備えて、株主総会議事録を作成する場合には、どのような理由で取締役を解任したかを明記するのが大切です。

また、取締役の解任をした場合には、登記をする必要がありますので、添付書類として株主総会議事録が必要になります。

なお、取締役の解任をした場合における株主総会議事録の記載としては、以下のようになります。

(記載例)

株式会社○○ 臨時株主総会議事録

 

1 開催日時 令和○年○月○日 午前○時○分~午前○時○分

2 開催場所 当社本店大会議室

3 出席取締役および監査役

(1)取締役5名中、出席取締役5名(全員)

  出席者:○○、○○、○○、○○、○○

(2)監査役1名中、出席監査役1名(全員)

  出席者:○○

4 議長 代表取締役○○

5 議事の経過の要領およびその結果

  定刻○時、代表取締役○○は、議長席につき、令和○年○月○日臨時株主総会の開会を宣言するとともに、出席株主数および議決権数を以下のとおり報告し、定足数が満たされていることを告げた

議決権を有する株主の総数:○名

総議決権数:○個

本日の出席株主数:○名

その有する議決権数:○個

【第○号議案 取締役1名解任の件】

議長は、取締役Xが令和○年○月○日以降出社せず、取締役としての職責を果たしていないため、取締役Xを解任したい旨説明をした。

議長が本議案を諮ったところ、出席した株主の議決権の過半数の賛成により、原案どおり可決された。

 

以上をもって、本総会の全議案の審議が終了したため、午前○時○分、議長は、閉会を宣言した。

上記議事の経過の要領および結果を証するため、本議事録を作成した。


第○号議案 取締役1名解任の件

議長は、取締役Xが令和○年○月○日以降出社せず、取締役としての職責を果たしていないため、取締役Xを解任したい旨説明をした。

議長が本議案を諮ったところ、出席した株主の議決権の過半数の賛成により、原案どおり可決された。

バーチャル株主総会でも取締役の解任はできる?

バーチャル株主総会でも取締役の解任決議を行えるのでしょうか。

バーチャル株主総会とは

バーチャル株主総会とは、取締役や株主がインターネットを利用して、遠隔地から株主総会に参加または出席を許容する株主総会のことをいいます。

バーチャル株主総会には、以下のようなメリットがあるため、近年注目されている株主総会の開催方法です。


  • 遠隔地の株主も株主総会への参加が可能
  • 取締役のスケジュール調整が容易になる
  • 株主総会の運営コストを削減できる
  • 感染症リスクを軽減できる

バーチャル株主総会については、以下の記事で詳しく説明しています。

注目されるバーチャル株主総会とは?背景や注意点を解説

バーチャル株主総会については「注目されるバーチャル株主総会とは?背景や注意点を解説」で詳しく解説しています。

バーチャル株主総会で取締役の解任はできる?

バーチャル株主総会には、以下の3つの種類があります。

  • ハイブリッド参加型バーチャル株主総会
  • ハイブリッド出席型バーチャル株主総会
  • バーチャルオンリー株主総会

いずれの方法でも株主総会を有効に成立させることができますので、バーチャル株主総会での取締役の解任も可能です。ただし、ハイブリッド参加型バーチャル株主総会では、当日の株主総会に「出席」扱いにはなりませんので、株主は、書面または電磁的方法により事前に議決権行使を行う必要があります。

まとめ

取締役の解任は、株主総会決議によって行うのが一般的です。株主総会決議を行うには、取締役会決議の招集、取締役会での臨時株主総会の招集決議、臨時株主総会の招集、臨時株主総会での取締役解任決議といった手続きが必要になります。それぞれの手続きに瑕疵があった場合には、取締役の解任が無効または取り消されてしまうおそれがありますので、そうならないためにも各手続きを慎重に進める必要があります。

池下菜都美
著者情報池下菜都美

株式会社ブイキューブに新卒入社。 ビジュアルコミュニケーションに関する複数製品のインサイドセールスを経験。現在は、マーケティングコミュニケーショングループにてイベントDX領域における広告運用およびオウンドメディアの編集、ナーチャリングを担当。趣味は映画とダンス。

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