株主総会の定足数の成立要件は?議決権などの基本や当日の確認の仕方までを紹介
株主総会の開催に必要な定足数を満たさないと、議案が成立しても無効になりかねません。実際に、株主総会の出席株主が定足数を満たしていなかったため、再度「継続会」を開かねばならない事態に陥った事例がありました。
この記事では、株主総会の定足数・議決権数について、基本となる考え方や成立要件、株主総会当日における議決権数の数え方などを解説します。定足数や議決権数を理解し、株主総会当日にミスを出すことのないようご活用ください。
株主総会の定足数のきほん
まず、株主総会における定足数について、基本となる考え方を確認しましょう。
株主総会の定足数とは
株主総会における「定足数(ていそくすう)」とは、株主総会を成立させるために必要な最小限度の株式・株主の割合です。
会社法の条文には、定足数に加えて、議決の賛否を決める株式の割合である「表決数」についても記述があります。
たとえば、株主総会の普通決議(通常の決議)に関する会社法309条においては、前半の「議決権を行使することができる株主の議決権の過半数」が定足数、後半の「出席した当該株主の議決権の過半数」が表決数を指しています。
つまり、株主総会が成立するためには、総株主の議決権のうち過半数(定足数)が必要です。さらに、普通決議の成立には、出席した株主の議決権のうち過半数(表決数)の賛成が求められます。
株主総会の定足数を満たさない時はどうなる?
株主総会の定足数を満たさないと、株主総会自体が開催できない危険性があります。
実際の事例で、2015年にJASDAQの上場企業が定時株主総会を開催したところ、決議に一定の定足数が必要な議案において、出席株主数がその定足数を満たさなかったため、議案が成立しなかったケースがありました。
後述するように、定款を変更すれば定足数は軽減・排除が可能です。しかし、事例のような取締役選任や定款変更などの議案については、一定の定足数の確保が会社法で求められています。
この事例では、後日「継続会」を開催し、議決権行使書の提出を株主に促すなどして議決権を集めて定足数を満たし、議案を成立させています。継続会とは、株主総会の審議が終わらなかった際に、後日に再開して審議を行う会です。
このような事態を防ぐためには、定足数の考え方や成立要件などを理解し、株主総会時に定足数の確認を心がけることが大切です。
株主総会の定足数の計算方法・成立要件は?
株主総会の開催に必要な定足数を計算する上で知っておきたい「普通決議」などの概念や、定足数の成立要件、定款による定足数の変更について解説します。
定足数の基本は過半数
株主総会における議案の決議方法には、次の3種類があります。
- 普通決議
- 特別決議
- 特殊決議
通常の議案は、会社法で特に要件が定められていなければ、普通決議によって決議されます(会社法309条1項)。普通決議に必要な定足数は、総株主の議決権のうち過半数の出席であるため、定足数は基本的には過半数と覚えておけばよいでしょう(議決権については別の章で説明します)。
特別決議・特殊決議の定足数は異なるので注意
特定の重要な議案を決議する際には、普通決議よりも厳しい定足数の要件が求められます。
定款変更や監査役の解任、事業譲渡などに必要な「特別決議」における定足数の要件は、総株主の議決権のうち過半数です。定足数は普通決議と同じですが、表決数は出席した株主の議決権のうち3分の2以上の割合と厳しくなります(会社法309条2項)。
また、公開会社から非公開会社へと定款変更、株式に譲渡制限を設定する定款変更などに必要な「特殊決議」には、定足数の要件は存在しません。ただし、表決数は総株主の頭数で半数以上かつ、当該株主の議決権のうち3分の2以上の割合が必要とされ最も厳しい要件です(会社法309条3項)。
定款変更で定足数の要件は軽くできる
定款を変更すれば、定足数の増減やゼロにすること(排除)も可能です。しかし、一定の条件があります。
定足数の排除が可能
普通決議で済む議案については、定款を変更すれば定足数の軽減や排除が可能です。
定足数を3分の1までなら変更可能
ただし、普通決議の中でも役員の選任や解任(会社法341条)と、全ての特別決議については、定款を変更しても定足数を3分の1より少なくはできません。
株主総会の議決権数のきほんと要件
株主総会における議決権数の基本的な考え方と要件、議決権を行使することができない株主や株式、議決権の個数の数え方を解説します。
株主総会の議決権数とは
議決権とは、株主総会での決議に参加し賛否を投票できる権利です。基本的には、議決権数は株式1株に対して1個と数えます(会社法308条1項・一株一議決権の原則)。例外については後述します。
たとえば、次のようにAが100株の株式を持っているなら、Aの議決権は100個です。
株主・株式数 |
議決権の個数 |
総株主数 |
議決権を持つ株主数 |
A:100株 B:200株 C:300株 |
計600個 |
3人 |
3人 |
また、定款で単元株式を設定している場合は、1単元の株式数に対して1個の議決権と数えるため、1単元が100株なら100株で議決権1個となります。
議決権を行使することができない株主・株式
会社の株式を持っていても、要件を満たしていないなら株主が議決権を行使できない可能性があります。
さらに、1株につき1議決権が原則ですが、下記の株式は例外となり議決権がありません。ここからは、議決権を行使することができない株主・株式や、その際の議決権の個数の数え方を解説します。
- 基準日から3か月が過ぎている(会社法124条2項)
- 単元未満株式(会社法188条1項)
- 自己株式(会社法308条2項)
- 自己株式の取得時における特定株主(会社法140条3項)
- 議決権制限株式(会社法108条2項)
- 相互保有株式(会社法308条1項・会社法施行規則67条)
1.基準日から3か月が過ぎている
定款で基準日を定めている場合、基準日株主(基準日付で株主名簿に記録されている株主)は、基準日の有効期間である3か月以内は権利を行使できます(会社法124条2項)。
具体的には、基準日が3月31日なら、基準日株主が議決権を行使するには、6月末日までの株主総会開催が求められます。
しかし、これでは株主総会までに、株式譲渡など株主に大きな変動が生じた際に、新株主は株主総会での決議ができない問題点がありました。そのため新会社法では、基準日後に株主になった人に対しても、会社の判断で議決権を行使できると定めることが可能になっています(会社法124条4項)。
2.単元未満株式
定款で単元株式を設定している場合、単元未満の株式には議決権がありません(会社法188条1項)。
たとえば、1単元が100株の会社では、100株で1議決権となります。Aが持つ111株のうち、11株は単元未満のため議決権が生じないので、Aの議決権は1個です。
株主・株式数 |
議決権の個数 |
総株主数 |
議決権を持つ株主数 |
A:111株 B:222株 C:333株 |
計6個 |
3人 |
3人 |
3.自己株式
株式会社自らが保有する自己株式には議決権がありません(会社法308条2項)。たとえば、自己株式を持つ会社では、議決権の個数は次のように数えます。
株主・株式数 |
議決権の個数 |
総株主数 |
議決権を持つ株主数 |
A:100株 B:200株 自己株式:300株 |
計300個 |
3人 |
2人 |
4.自己株式の取得時における特定株主
会社が特定の株主に金銭を払って自己株式を取得する場合、その株主はこの議案が決議される株主総会では議決権を行使できません(会社法140条3項)。
たとえば、Aから自己株式を有償で取得する議案が決議される株主総会では、Aは議決権を行使できないため、議決権の個数は次のように数えます。
株主・株式数 |
議決権の個数 |
総株主数 |
議決権を持つ株主数 |
A:100株 B:200株 C:300株 |
計500個 |
3人 |
2人 |
5.議決権制限株式
会社は種類株式の1つとして、議決権の一部または全部がない議決権制限株式の発行が可能です(会社法108条1項)。たとえば、Aが無議決権株式(議決権なしの株式)を持っているなら、議決権の個数は次のように数えます。
株主・株式数 |
議決権の個数 |
総株主数 |
議決権を持つ株主数 |
A:100株 B:200株 C:300株 |
計500個 |
3人 |
2人 |
6.相互保有株式
会社間で互いに25%以上保有し合っている株式(相互保有株式)には議決権がありません(会社法308条1項・会社法施行規則67条)。たとえば、D株式会社が25%以上の株式を持っているなら、議決権の個数は次のように数えます。
株主・株式数 |
議決権の個数 |
総株主数 |
議決権を持つ株主数 |
A:100株 B:200株 D株式会社:300株 |
計300個 |
3人 |
2人 |
このように、議決権の個数を数える時には各株式について、まず基準日から3か月が過ぎていないか、1株1議決権の例外になる株式ではないかの確認が重要です。
株主総会の当日の議決権数の数え方株主総会の当日、定足数の確認のため、実際どのようにして議決権数を数えればよいのでしょうか。
株主が議決権を行使する代表的な方法は、株主総会への参加です。それ以外に会社法では、株主総会に参加できない株主に対しても、次の議決権行使方法を認めています。
- 書面投票(郵送・会社法298条1項3号)
- 電子投票(インターネット・会社法298条1項4号)
- 代理行使(代理人による出席・会社法310条)
上記を含めた議決権数の数え方を解説します。
事前に議決権行使書を集計
株主総会でのスムーズな議案成立のためには、株主に議決権の事前行使を依頼するため、事前に案内書を郵送しておくのが効率的です。
一般的に、案内書で株主に依頼する議決権行使の方法には次の3つがあります。
- 書面
- インターネット
- 株主総会への参加
書面による議決権行使は、案内書に同封された議決権行使書に、株主が議案への賛否を記入して返送する方法です。インターネットによる議決権行使は、案内書に記載したURLやQRコードから、株主が専用サイトにアクセスして議案への賛否を入力します。
理想的なのは、議決権の事前行使を集計した段階で、議案を確実に成立できる議決権数が確保された状態です。そうすれば、株主総会当日は議決権数にそこまで神経を使わずに済みます。
会場での開催
会場で株主総会を開催する場合には、案内書に同封した議決権行使書を受付などに持参してもらうか、当日にマークシートや挙手などで賛否を投票してもらう方法があります。
大人数の株主出席が見込まれるなら、マークシートを利用して、その場で議決権数の高速集計を行っている会社もあります。株主の人数が少なければ、出席した株主に議長が、賛成なら挙手か起立を促してその場で数えることも可能です。
バーチャル株主総会
バーチャル株主総会とは、参加者が実際に会場に行かなくても、インターネット上で参加できる株主総会です。
次の図のように、従来の株主総会と併用する形式(ハイブリッド型バーチャル株主総会)や、オンラインのみの形式(バーチャルオンリー型株主総会)があります。
出典:経済産業省「ハイブリット型バーチャル株主総会の実施ガイド」
バーチャル株主総会では、ブロックチェーン技術の活用によりプライバシーと安全性 を守りつつ、オンラインで議決権行使が可能です。もちろん簡単に集計できます。
また、事前に出席申込や質問受付、議決権行使も行えるポータルサイトやプラットフォームなど、株主とのコミュニケーションを図りやすい仕組みも充実しています。
注目されるバーチャル株主総会とは?背景や注意点を解説
バーチャル株主総会については「注目されるバーチャル株主総会とは?背景や注意点を解説」で詳しく解説しています。
まとめ
株主総会の定足数・議決権数について、基本的な考え方や要件、議決権数の数え方や確認方法を解説してきました。株主総会当日に、定足数や議決権数に関するミスが発覚してバタバタしないためにも、事前に可能な限り株主から議決権行使を受けておいた方がスムーズです。
バーチャル株主総会なら、事前に開設可能なポータルサイトなどを通して、株主とのコミュニケーションを図れるため、議決権の行使を促進できます。株主総会当日の議決権数集計に悩んでいる方は、ぜひバーチャル株主総会の導入を検討してみてはいかがでしょうか。