株主総会の事前質問を受け取ったら?制度の概要や回答義務、対応フローを紹介

株主総会で必ず行われるのが質疑応答。株主からの質問は株主総会当日だけではなく、株主総会前からの受付が可能です。

近年、事前質問をオンライン化したことにより、多くの株主から質問が送られてくるケースが増えました。事前質問が送られてきたときの対応や、いただいた質問に対し、どこまで回答すべきか考えてしまう方もいるのではないでしょうか。

今回は、事前質問についての概要や回答義務、実際に株主から事前質問を受け取った場合の対応について解説します。事前質問が届いてから慌てることのないよう、事前質問制度の遵守すべきポイントを押さえておきましょう。

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株主総会の事前質問制度とは?基本をおさらい

本章では、事前質問制度について基本や概要を解説します。

株主総会の事前質問とは

株主総会当日の質疑応答で、株主は会社に対して株主総会の目的事項に関する内容を質問することができます。そして、株主総会開催日よりもある一定期間前から株主が質問できる制度を、事前質問制度といいます。

株主は、株主総会当日に質問すれば良いわけですが、なぜ事前に質問する必要があるのでしょうか。

例えば、株主総会で質問された内容に対し調査が必要であれば、会社はその場ですぐに回答ができません。しかし、事前に質問を受けていれば調査ができるため、株主総会当日に回答が可能です。

ただし、株主にとって1点注意すべき点は、事前質問は正式な質問ではないということ。「総会当日にこの質問をしますよ」といったいわゆる事前告知のようなものなので、会社から個人宛に返事が届くこともありませんし、実際に株主総会で質問されなければ会社に回答義務はありません。

事前質問制度に関する押さえるべき会社法

事前質問制度における押さえるべき会社法は次の2つです。

株主から説明を求められた場合、会社は当該事項について説明義務があります。(会社法314条)ただし、条件によっては回答しなくて良いとなっており、その条件も定められています。(会社法施行規則71条

回答しなくて良い条件については、この章で詳しく解説します。

事前質問制度と株主提案の違い

次に、株主提案と事前質問制度の違いをみていきます。

株主提案とは、株主が株主総会の目的事項を提案する権利のことをいいます。

株主提案権を行使できる株主の条件は次の通りです。

  • 6カ月前(定款で短縮可)から継続して株を保有している
  • 1%以上(定款で引き下げ可)、または300個以上(定款で引き下げ可)の議決権を持っている
  • 提案時期は、株主総会の8週間前(定款で短縮可)まで(会社法303条2項
    会社法305条
  • 複数株主の議決権を合算して、上記の要件が満たされている場合は、複数株主による共同提案が可能

ただし、提案した議案が法令や定款に違反する場合や、株主の10分の1以上の賛同を得られなかった日から3年経過するまで、該当株主は提案ができません。(会社法304条

次に、事前質問制度についての要件です。

  • 株主であれば誰でも質問できる
  • 株主からの質問に対し、会社は説明義務がある(会社法314条
  • 条件によっては、回答しなくても良い(会社法施行規則71条
  • 時期などの定めはない

株主提案は、会社に提案できる株主の条件や提案時期が会社法により定められているのに対し、事前質問制度の詳細については特に定められていません。

5分で分かる「株主提案」とは?

もしもこの記事をご覧いただいている方の中で、株主提案について更に詳しく知りたい方がいらっしゃいましたら、まずはじめに「【担当者必見】株主提案が行使されたら?対応の流れをわかりやすく解説」の記事をご覧ください。

株主総会の事前質問に回答義務は?会社法とともに説明

次に、事前質問に対して、会社側に回答義務があるのかどうかを会社法とともに解説します。株主総会の事前質問に回答義務は?会社法とともに説明

事前質問に対し、回答義務がない条件

会社は株主の質問に対し、回答しなくて良いケースがあります。会社法施行規則71条

回答義務がない条件は次の通りです。

  1. 事前質問をした株主が株主総会で質問しない場合
  2. 株主からの質問が、調査が必要である場合
  3. 株主からの質問に回答することにより、株主の共同利益を著しく害する場合
  4. 株主が実質的に同一の事項について繰り返し説明を求める場合
  5. 説明すべきでない正当な理由がある場合

それぞれ詳しく解説します。

ー事前質問をした株主が株主総会で質問しない場合

法令上、「株主総会において、株主から特定の事項について説明を求められた場合」に回答義務が発生します。(会社法314条)よって、事前質問していても該当株主が「株主総会に出席していない」「出席はしていたが時間がなく質問できなかった」などという場合も、会社は回答しなくて良いとされています。

ー説明をするために調査が必要な場合

株主からの事前質問を受け、その質問内容に調査が必要であった場合、本来であれば会社は調査を行い、株主総会当日までに回答できるよう準備をしておくべきです。しかし、事前質問受付期間の最終日など、株主総会までの期間が十分でない場合、調査が必要であることを理由に、回答しなくて良いケースがあります。

ー説明をすることにより、株主の共同利益を著しく害する場合

株主からの質問内容が、企業秘密に関する事項などである場合、回答義務はありません。

ー株主が同一事項について繰り返し説明を求める場合

一度説明した内容に対して、また同じような質問を繰り返された場合も、回答義務がありません。

ー説明すべきでない正当な理由がある場合

最後に、説明すべきでない正当な理由がある場合です。質問内容が株主総会の目的事項に全く関係ない場合は、これに当たります。

例えば、「社長の趣味はなんですか?」「絵画は興味ありますか?」など、目的事項とまったく関係ない質問に対しては、回答する必要がありません。しかし、実際に直接質問された場合、株主総会と全く関係なくても回答する企業が多いようです。

回答しても問題はありませんが、回答しなくて良いことは覚えておきましょう。

事前質問に対する一括回答も可能

株主からの質問に対する回答方法については法令上の定めはなく、一括回答も可能です。

事前質問した株主が株主総会に出席しているか、株主総会当日に質疑応答で指名した株主が事前質問状を送付しているかなど、会社で全て把握できるとは限りません。そのため、なるべく多くの質問に回答できるよう、一括回答という形を取ります。アスクル株式会社株式会社ニッスイなど多くの会社が一括回答し、質疑応答の一覧をウェブ上に掲載しています。

事前質問の提出方法は大きく2つ

事前質問の提出方法には、大きく分けて事前質問状オンラインシステムの2つがあります。事前質問 提出方法 事前質問状の場合

事前質問状として株主から提出される場合

まずは、事前質問状が送られてくる場合です。そもそも、事前質問制度を知らない株主がいたり、株主総会当日に質問すれば良いだろうと考える株主が多いことから、事前質問状が送られてくることはそこまで多くありません。

事前質問状のメリットとしては、文字数や質問数の制限がないこと。オンラインシステムの場合、これらは制限されていることがほとんどのため、制限を気にせず質問したい株主にとっては向いています。

しかし、株主、会社それぞれにデメリットもあります。株主は、質問の記入から発送までの手間や郵送代がかかること、そして会社側は届いた事前質問状を紙ベースで保管します。すぐにデータ保管としても良いですが、ひと手間かかります。

会社のオンラインシステムから提出される場合

次に、オンラインシステムにより提出される場合です。

株主総会のオンライン化が普及したことにより、事前質問制度もオンラインで受け付ける企業が増えてきました。

株主にとっては、オンライン上で会社に対し質問ができ、無駄な手間がかかりません。会社も、質問データを一括管理できるため、漏れなく質問をまとめることができるなど、双方にとってメリットがあります。デメリットとしては、オンラインに慣れていない株主には操作が難しいと感じる可能性があり、会社側は、事前質問のフォーム作成など作業工数が若干増えますが、事前質問状よりもオンラインシステムでの質問数の方が増える傾向にあります。質問が多いほど株主を知ることができるため、会社にとっても良い傾向と言えます。

事前質問の対応フロー〜事前質問状の場合〜

事前質問状が届いた場合の対応フローについて解説します。

事前質問 対応の流れ オンライン

事前質問状が届く

事前質問状が株主から届きます。フォーマットなどの指定は特にありません。事前質問状が届いても、該当株主に回答する必要はありませんが、内容によっては調査対象であるため、調査はすぐに取り掛かることをおすすめします。

質問一覧表・回答案を作成する

株主からいただいた事前質問の回答案を作成します。質問内容が他部署管轄のものであれば、すぐに他部署へ依頼をするなど、株主総会当日までに回答できるよう準備します。

株主からの質問を予想する想定問答集も別で準備していると思いますが、“想定”ではないため、想定問答とは別に回答案を作成しておくのが良いでしょう。

事前質問の対応フロー〜受付オンラインシステムの場合〜

オンラインシステムで質問を受け付ける場合の対応フローです。

事前質問の対応フロー〜受付オンラインシステムの場合〜

受付期間や質問の制限数など受付の条件を決める

まずは、受け付ける期間や文字数の条件を決めていきます。

決めるべき条件は次の通りです。

  • 受付期間 ※締切日を記載
  • 文字数
  • 質問数

これらは法令で定められているわけではないため、各企業により異なります。しかし、一般的には招集通知の発送に合わせ、株主総会開催日の約2週間程前から受け付け、文字数も200~300文字と設定している企業が多いです。

また、1名あたり何問まで質問できるかも決めておきましょう。

事前質問フォームを設定し、公開・通知する

次に、質問フォームの作成に必要な事項を決めていきます。

ー株主に記載していただく内容

  • 名前
  • 株主番号(保有株式数)
  • 質問内容

ーその他記載に関する注意事項など

  • 個人情報の取り扱いについて記載
  • 使用できない文字や記号など

株式会社JVCケンウッドでは、必要事項のみのフォームとなっていますが、協和キリン株式会社は、氏名・フリガナ・株主番号・質問1~3・注意事項の同意について記載があります。

必要最低限の項目を入れておけば、その他の項目は各会社により自由に決めて良いですが、あまりにも多すぎるとわかりづらくなるため、フォームは見やすく簡潔にしておきましょう。

フォームが確定したら自社のHPなどに公開し、招集通知に記載して株主に通知します。

質問を受け付ける

通知まで完了したら、あとは株主からの質問を待ちます。質問内容には、調査が必要な可能性があるため、質問が届き次第なるべく早く対応していきます。

ただし、すぐに該当株主に回答しなければいけないということではありません。株主総会当日に質問された際、その場で回答できるように準備しておきます。

回答案を作成する

事前質問の受付期間が終了したら、回答案を作成します。こちらも事前質問状の場合と同様で、質問内容によっては管轄部署へ依頼します。

オンラインで受け付けた場合、質問がたくさん来る可能性があります。全ての質問に対し、回答案を作成する必要はありません。株主にとって興味深いものや関心の高いものをピックアップしてまとめることも可能です。実際、トヨタ自動車株式会社の2022年株主総会では、そのように対応しています。

まとめ

今回は、株主総会の事前説明制度について基本や概要、株主から質問が届いた際の対応について解説しました。株主総会のオンライン開催が増えている中、事前説明制度やその他株主総会に関わることも全て、オンラインに切り替えていく企業が増えています。そのため、以前と比べると株主にとっても事前質問制度は活用しやすくなってきました。

オンライン化することで、株主からの質問が増える可能性がありますが、株主総会当日以外にも株主と関わる機会が増え、関係を更に良いものにできるのではないでしょうか。

事前質問制度は全ての質問への回答義務はありませんが、回答する際は株主が納得できるよう準備をしていきましょう。

池下菜都美
著者情報池下菜都美

株式会社ブイキューブに新卒入社。 ビジュアルコミュニケーションに関する複数製品のインサイドセールスを経験。現在は、マーケティングコミュニケーショングループにてイベントDX領域における広告運用およびオウンドメディアの編集、ナーチャリングを担当。趣味は映画とダンス。

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