【株主総会 担当者向け】使える想定問答集の作り方!注意すべきポイントも紹介
株主総会で必ず行われるのが質疑応答。株主が役員に直接質問できる数少ない機会であるため、株主にとっては重要な時間です。
しかし、会社側からすると「どんな質問が来るのか」「質問に対しスムーズに答えられるだろうか」と心配になる方もいると思います。そういった株主からの質問は、事前に予測しておくことが必要です。
本記事では、株主からの質問を予測した想定問答集の作り方を解説します。時事的なものやバーチャル株主総会に関連したよくある質疑応答についても紹介していきます。
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想定問答集が必要な理由
本章では、想定問答集について、株主からの質問数や質問時間などについて解説します。
想定問答集とは
株主総会では、議長の説明の後に必ず株主からの質問時間を設けます。その際、何も準備をしていないと株主が理解し、満足できるような回答ができなくなる恐れがあります。
会社側は株主からの質問にスムーズに回答できるよう、想定問答集を作成する必要があります。
書籍では、商事法務から株主総会想定問答集や、三菱東京UFJ信託銀行の想定問答などが出版されおり、ネット上でも、BUSINESSLAWYERSなどのサイト内で、いくつか想定問答が掲載されています。
出典:三菱東京UFJ信託銀行「2023 株主総会の準備実務・想定問答」
これから想定問答集を作成する企業は、これらを参考にして作るのも良いでしょう。
そもそも回答義務はある?
株主から特定の事項について説明を求められた場合、原則として取締役は説明しなければならないとされています。(会社法314条)
株主総会の目的事項について、株主が理解・判断できるように説明するよう義務付けられていますが、次のような場合、会社側は回答を拒否できるものとされています。
- 株主総会の目的事項に関係ない事項
- 株主の共同利益を害する場合
- その他正当な理由がある場合
しかし、法令上では回答義務はないとしている質問に対しても、会社側は可能な限り回答している傾向にあります。
質問時間や質問数の目安
次に、質問時間や質問数について解説します。
ー質疑打ち切りのタイミング
全国株懇連合会の調査報告書によると、平均的な質疑応答時間は15分以内が一番多いとされています。
質問時間は事前に決めておき、株主総会開始前に説明しておいても良いでしょう。
ー回答すべき質問数
一般的に、一番多い質問数は1〜41~4件程度。そして50%以上の企業は、事前に質問数を決めているようです。
質問時間と質問数、どちらか事前に決めておくことで、株主総会をスムーズに進行できます。
想定問答集を作るメリット
株主総会では、必ず質疑応答の時間を設けます。その際、株主がどんな質問をしてくるのかが分からないため、参考資料として想定問答集を準備します。
想定問答集を作成していないと、役員は株主の質問に対し、スムーズな回答が難しくなり、株主に対してのイメージが悪くなる恐れがあります。
信用問題に繋がる可能性があることから、想定問答集は必ず準備しておく必要があります。
想定問答集の作り方
次に、想定問答集の作り方について解説します。
項目分けをする
項目分けをした後、その項目ごとに質問を記載していきます。
ー主な項目に分ける
企業によって項目は異なりますが、一般的な項目は次のようなものがあります。
「事業報告」「株価」「配当金」「経営戦略」「資本政策」「IR・PR」「会計・税務」「人事」「リスク管理」
例えば、実業団チームを持っている企業は「スポーツ」を追加するなど、それぞれ企業に合わせて項目を決めていきましょう。
ーIR文書から項目ごとに記載
株主から、当事業年度中と直近にリリースされたIR文書について質問されることも多いでしょう。過去の文書をさかのぼり、質問されそうなものを項目ごとに記載していきます。
具体的な質問・回答を埋める
ある程度、項目分けができたら、次に具体的な質問とその回答を埋めていきます。
ー各部署に相談する
自部署だけでは、質問・回答を埋められないこともあります。その際、各関係部署へ相談・依頼するのが良いでしょう。株主総会前に限らず、普段から各部署との関係を良好にしておくと、とてもスムーズに進めることができます。
ー証券代行・サポート会社に相談する
全ての質問・回答を埋めることができたら、証券代行やサポート会社などプロの視点から確認してもらいましょう。必要な質問はないか、その他抜け漏れがないかなど、チェックしてもらえると安心です。
作成必須!よくある想定質問の例
次に、株主総会でよくある質問をピックアップしていきます。株主が注目する内容としては、「事業報告」「株主還元」「今後の事業計画」などが中心となり、時事的なものだと「働き方改革」「ダイバーシティ」「デジタル・オンライン化」などが挙げられます。
配当金について
ー質問
配当金を増額する計画はあるのか。
ー回答例
企業価値の最大化を念頭に、中長期的成長に向けた投資や財務基盤を確保しながら、安定的、継続的に配当を行うことを基本方針としております。
ー補足
こちらは2022年3月に開催された楽天グループ株式会社の株主総会の質疑応答です。
株主は、配当金や株主優待などの株主還元について常に注目しているため、株主が納得できる回答を準備しておきましょう。
ダイバーシティについて
ー質問
取締役選任とダイバーシティについて、どのような考えを持っているか。
ー回答例
業界、ジェンダー、国籍などの多様性を踏まえ、 総合的な観点から当社の経営にとって適切な方に就任頂いています。
ー補足
こちらも、楽天株主総会の実際の質疑応答です。
昨今、ジェンダーレスやダイバーシティなどが注目される時代となっています。
上場企業の女性役員数は過去10年間で5.8倍に増加しているものの、役員に占める女性の割合は9.1%。他国と比較しても低いことがわかります。また、女性役員がいる企業の方がパフォーマンスが高いことも結果として出ており、株主が注目している項目の1つでもあります。
バーチャル株主総会の開催について
ー質問
バーチャル株主総会を開催しないのか。
ー回答例
バーチャル株主総会には「バーチャルオンリー型」「ハイブリッド参加型・出席型」の3種類がございます。当社と株主様にとってどの開催方法が最善であるかなど、今後の導入に関して前向きに検討してまいります。
ー補足
2020年2月に経済産業省から「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」が公表されています。
出典:経済産業省「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」
それぞれ、メリット・デメリットがあるため、各企業にあった開催方法を検討し説明できるようにしておきましょう。
5分で分かる「バーチャル株主総会」とは?
もしもこの記事をご覧いただいている方の中で、バーチャル株主総会について更に詳しく知りたい方がいらっしゃいましたら、まずはじめに「注目されるバーチャル株主総会とは?背景や注意点を解説」の記事をご覧ください。
使える想定問答集にするために注意すべきポイント
最後に、想定問答集の注意すべきポイントについて解説します。
質問が見つけやすいフォーマットにする
想定問答集を作成しても、使いづらいものであれば意味がありません。しかし、想定問答集を他社に依頼するとなると、どうしても費用がかかります。完全に自社で作成する場合は、Excelでの作成が良いでしょう。
目次を作成し、項目ごとにリンクを設定すれば検索しやすくなります。Wordでも問題はありませんが、項目ごとに分けて作成するには不向きです。
質疑応答の流れを決めておく
質疑応答のスムーズな流れとしては次の通りです。
- 各役員のデスクにモニターを設置
- 当日、株主からの質問
- 役員が復唱している間に、想定問答の内容を検索し、役員のモニターへ表示
- 役員が回答
ただし、想定問答集は想定して作成されているものであり、必ずその質問が来るとは限りません。その場合、役員が自分の言葉で回答することになりますが、そうであっても準備はできる限りしておきましょう。
また、通信状況が悪くなり、モニターが映らなくなってしまった場合のために、想定問答集は紙での印刷もしておきましょう。
オンラインで株主総会を実施する場合
ハイブリッド出席型やバーチャルオンリー型で株主総会を開催する場合、リアル会場やオンライン上での質疑応答が行われます。
その場合は、次の内容について事前に確認しておきましょう。
- 質疑応答の前に、株主番号・氏名が生配信されることの了承を得る
- 株主からの質問を、テキスト形式にし、質問数や文字数の制限をする
これらは実際にオンライン開催をした企業が行ったことです。
オンライン株主総会を開催することにより、株主の中には質問をどれだけ取り上げてもらえるか不安に思う方もいるでしょう。Zホールディングス株式会社では、株主総会当日に取り上げられなかった質問について、総会後に全て回答し公開したとしています。
また、想定問答集は、通信状況の不具合などを想定し予備として紙に印刷しておきましょう。
まとめ
今回は、株主総会で必要な想定問答集について、作り方の注意点や回答例などを紹介しました。
想定問答集を一から作るととても大変なため、書籍や証券代行の意見を参考に作成していきましょう。「業績」「株価」「株主還元」など、特に株主が気になる項目は必須です。
株主からの質問については、回答義務のある事項が限られているものの、会社側は全ての質問に回答している傾向にあります。どんな質問に対しても回答できるよう、準備しておきましょう。
最後に、想定問答集を作成する担当部署は決まっていますが、必ず他部署の協力が必要になります。普段から他部署とのコミュニケーションを取り、会社全体で「使える想定問答集」を作り上げていきましょう。