バーチャルオンリー型株主総会が可能に!法改正のポイントを解説
新型コロナウイルス感染症の拡大防止、また国が推進する「働き方改革」の観点から、企業の株主総会をオンラインで開催する動きが広がっています。
ただ、従来の会社法の規定には、取締役や株主ら全員がオンライン上で出席する「バーチャルオンリー」型の株主総会は想定されておらず、実施は難しいとされてきました。
こうしたなか2021年6月に関連法の一部が改正され、上場企業においてバーチャルオンリー株式総会の開催が可能になりました。
ここでは、実施例が増えているバーチャル株主総会の種類や、実施に関する制度のポイントについて解説します。
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バーチャル株主総会の種類
バーチャル株主総会とは、Web会議システムなどを用いて、議長や取締役、監査役、株主が遠隔地から参加・出席する株主総会のことです。
新型コロナウイルスの感染拡大防止などを目的にニーズが高まっており、経済産業省は2020年2月、「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」を発表しました。
このガイドでは、バーチャル株主総会の形として、以下の2つの形式が提示されています。
- ハイブリッド型バーチャル株主総会(参加型・出席型)
- バーチャルオンリー株主総会
「ハイブリッド型」とは、リアル株主総会と同様に物理的な会場を設ける一方で、追加的に取締役や株主等が、インターネット等の手段を用いて株主総会に「参加」もしくは「出席」するもの。
それに対し、「バーチャルオンリー型」は、物理的な会場を一切設けずに 、取締役や株主等が、インターネット等の手段を用いて株主総会に出席するものです。
ハイブリッド型は、バーチャルで参加した株主が会社法上の質問や動議を行うことができる「出席者」であるか、確認・傍聴のみが許された「参加者」であるかによって、さらに2種類に分けられます。
2020年6月に開催された上場各社の株主総会では、新型コロナウイルス感染症拡大防止策の一環としても関心を集め、ハイブリッド「出席型」は9社、ハイブリッド「参加型」は113社の実施が確認されています
出典:2021年2月3日 経済産業省「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド(別冊)実施事例集」
このように急速に広がっているバーチャル株主総会について、形式の種類ごとにさらに詳しく見てみます。
ハイブリッド参加型
ハイブリッド参加型バーチャル株主総会とは、従来通り実地会場で開催されるリアル株主総会に、株主がオンライン上から審議を確認・傍聴できる株主総会です。
インターネットを介して参加する株主は、会社から通知された固有のIDやパスワードによる株主確認を経て、Webサイト等で配信される中継動画を視聴します。
ただし、この場合の株主は「出席」とはみなされず、会社法上の質問や動議を行うことはできません。議長の裁量において、参加者から受け付けたコメント等を取り上げることは可能とされています。
ハイブリッド出席型
ハイブリッド出席型バーチャル株主総会とは、リアル株主総会が開催されていることに加え、インターネットを介して参加した株主がオンライン上から会社法上の「出席」をする株主総会のことです。
この形式では、オンライン上で参加する株主も議決権を行使したり、質問・動議を行ったりすることができます。
ただし、先述の実施ガイドでは、このハイブリッド出席型を行う前提として、「開催場所と株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保されていること」という条件が示されています。
議決権行使と質問・動議の扱いにおける注意点
株主は、株主総会に株主自身が出席して、質問または意見を述べるなどの行為によって決議に加わることができます。この行為を、議決権の行使といいます。
ハイブリット出席型の場合、株主はリモートで議決権の行使、質問・動議が可能になりますが、オンラインであるために以下のような注意点も生じます。
- 審議に参加するための本人確認として、ログインのプロセスを依頼・実施する。
- 質問について、質問回数や文字数、送信期限を設定してあらかじめ通知する
- 質問内容を書き込んでもらうオンラインフォームを用意する
- バーチャル出席者の動議については、取り上げることが困難な場合がある旨を伝えておく
- 招集通知に記載のない動議について採決が必要になった場合、バーチャルでの出席者は採決に参加できない可能性を伝えておく
一番の懸念は、リアル会場で出席している出席者とオンラインで参加する出席者の平等性が損なわれることです。そのため、情報伝達の双方向性と即時性の確保を担保でき、かつアカウント管理システムや質問フォームなどと連携できる、安定したWeb会議システムなどの導入が必須となるといってよいでしょう。
参考:経済産業省「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」
バーチャルオンリー型
バーチャルオンリー型株主総会とは、物理的な会場を一切設けず、取締役や株主ら全員がオンライン上で出席する株主総会のことです。
この形式は、従来の会社法の解釈では実施することが難しいと考えられており、これを可能とする法整備が求められていました。
こうしたことを背景に、2021年6月に会社法の一部が改正され、後述するように一定の条件のもとで、このバーチャルオンリー型株主総会が日本でも可能になりました。
当然ですがこの形式でも、情報伝達の双方向性と即時性などが確保できる安定したWeb会議システムの導入が実施の前提となります。
それでも、バーチャルオンリー型は感染症拡大防止策としてだけでなく、株主総会の活性化や効率化、円滑化につなげる可能性を含め大きなメリットを秘めていると言えるでしょう。
注目されるバーチャル株主総会とは?背景や注意点を解説
バーチャル株主総会の種類やメリット・デメリットについては「注目されるバーチャル株主総会とは?背景や注意点を解説」で詳しく解説しています。
「場所の定めのない株主総会」に関する制度
現行の会社法においては「株主総会を招集する場合には、次に掲げる事項を定めなければならない」として、「場所」を定めることが明確に規定されています(会社法298条1項1号)。
この「場所」とは「株主が質問し説明を聴く機会を確保するため、物理的に入場できる場所でなければならない」と解釈されており、このためにバーチャルオンリーでの株主総会は実施が難しいとされてきました。
しかし、
- 新型コロナウイルス等により物理的な株主総会の開催・出席が困難な場合でも、株主総会を実施することができる。
- 会場の確保やキャパシティ、使用時間に関する制約がなくなるため、株主総会の開催に関する柔軟性が高まる。
- 物理的な会場において必要となる利用料、設備費、人件費等を削減することができる。
といったメリットとともに、感染症拡大防止という喫緊の社会的ニーズの高まりを受け、2021年6月の参議院本会議で「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律案」が可決・成立。改正された同法の一部規定が同月公布・施行されました。
これにより、「場所の定めのない株主総会」に関する制度が創設され、一定の要件を満たした場合に、株主総会を完全オンラインで開催できるようになりました。
制度のポイント
「場所の定めのない株主総会」の開催にあたっては、大きく3つの要件を満たすことが必要です。
- 上場会社であること
- 経済産業省令・法務省令で定める要件に該当することについて経済産業大臣及び法務大臣の確認を受けること
- 株主総会をバーチャルオンリー型株主総会とすることができる旨を定款で定めておくこと
つまり、上場企業は経済産業大臣・法務大臣の確認を受けた場合に限り、株主総会を「場所の定めのない株主総会」とすることができる旨を「定款に定めることができる」ようになりました。
ただし、バーチャルオンリー型株主総会が株主の利益の確保に配慮しつつ、産業競争力を強化することに資する場合とされており、次の4点のいずれにも該当することと定められています。
- 情報の送受信に用いる通信の方法に関する事務の責任者を置いていること
- 情報の送受信に用いる通信の方法に係る障害に関する対策についての方針を定めていること
- 情報の送受信に用いる通信の方法として、インターネットを使用することに支障のある株主の利益の確保に配慮することについての方針を定めていること
- 株主名簿に記載・記録されている株主の数が100人以上であること
なお、定款への記載に関しては、新型コロナウイルスの影響を踏まえ、2021年6月16日の施行後2年間に限り、上記の確認を受けた上場会社は定款の変更なしにバーチャルオンリー型株主総会の開催が可能とされています。
ただし、改正産業競争力強化法の施行日から2年経過後にバーチャルオンリー型株主総会を開催するためには、定款変更のためのリアル株主総会を開催しなければならない点に注意が必要です。
参考:経済産業省「産業競争力強化法に基づく場所の定めのない株主総会 制度説明資料」
まとめ | バーチャル株主総会は今後も広がる見通し
このように、新型コロナウイルス感染拡大の影響もあって現在急速に広がっているバーチャル株主総会は、開催に一定の条件や要件があります。
それでも、実施した企業からは「株主の出席機会を拡大するとともに、株主との対話の機会の拡大に資する」といった声もあり(2021年2月 経済産業省「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」別冊実施事例集より)、感染拡大防止だけにとどまらない大きなメリットが指摘されています。
今後、バーチャル株主総会はさらに浸透・定着していくことが予想されます。バーチャル株主総会に向けた法務的・技術的準備に加えて、株主に対しては制度への理解を促していくことで、より柔軟かつ最適な株主との対話・コミュニケーションの形を実現していくことができるでしょう。