セールステックとは?押さえておきたい7つのカテゴリーとその活用方法
ERPに代表されるパッケージ導入やSaaSの発展、ソーシャルメディアの活用など企業経営におけるさまざまな局面でIT化の流れが加速しています。営業活動についても例外ではなく、セールステックと呼ばれる新しいサービスやツールが続々とリリースされ、多くの企業で活用されているのはご存じでしょう。
少子高齢化時代に突入し、企業の人的資源が今後大きく拡充される見込みはありません。これからの企業経営は、いかに生産性を高め、今よりも少人数でより大きな成果を出していくことが問われるようになってきます。つまり、セールステックはこれからの企業経営を大きく後押しする必要不可欠なツールになってくるのです。
そこで今回は、セールステックの現在や今後の展望、あわせてこれからの時代に向けて営業として必要な心構えなどについて詳しく解説いたします。
目次[ 非表示 ][ 表示 ]
セールステックとは
セールステックとは、ITを活用して営業活動の生産性を高め効率化を図る手法及びツールのことを指します。営業(=Sales)と技術(=Technology)をかけあわせた造語であり、フィンテック(Financial+Technology)やアグリテック(Agriculture+Technology)と同じように新たなイノベーションを生み出す概念です。
これまでは欧米を中心にセールステック市場は大きな盛り上がりを見せていましたが、近年では日本国内でも徐々に市場が膨らんでいます。
国内では特にCRM市場の伸びが顕著です。調査会社のIDC Japan株式会社が2018年に発表した「国内CRMアプリケーション市場予測」によると、2017年の国内CRM市場規模は1,056億4,900万円となっています。
CRMとは、「Customer Relationship Management(カスタマーリレーションシップマネジメント)」のそれぞれの頭文字を取った略語で、その意味は「顧客と良好な関係を構築することを目的とした、一つのマネジメントの方法・あるいはツール」のことです。(本章での解説では、「ツール」を意図としています。)
これは前年と比べると約10%の増加です。今後はやや伸びが鈍るもののほぼ同様のペースで成長を続け、2022年には1,430億3,600万円の規模になると予測されています。
(画像引用元:国内CRMアプリケーション市場予測)
セールステックが注目される背景
セールステック分野にはさまざまなツールがありますが、その代表的なものが営業活動の見える化及び生産性向上を行うために利用されることの多いSFA(Sales Force Automation:営業支援ツール)や、顧客との良好な関係構築を築くために用いられるCRM(Customer Relationship Management:顧客管理システム)です。
株式会社矢野経済研究所が2018年に日本国内の528社を対象として行ったアンケート調査によると、CRMやSFAといったセールステック活用企業数は年々増加しているという結果が出ています。
(画像引用元:矢野経済研究所「ERP及びCRM・SFAのクラウド利用率を調査」)
※「SaaS」とは、「Software as a Service(サービスとしてのソフトウェア)の略で、クラウドにあるソフトウェアをインターネット環境があればどこからでもアクセスし、利用することができるサービスのことです。また、編集機能があるため複数人で編集・管理を行うこともできます。
2012年には22.5%であったCRM・SFA導入率ですが、2014年には29.0%、2016年には29.8%と増加、2018年には33.8%と、約3社に1社の割合でCRM・SFAを利用しています。
CRMとSFAの違いとは?
CRMとSFAの意味は紹介しましたが、いまいちピンと来ていない方も多いと思います。そこで、簡単にCRMとSFAはどう違うのか、について解説します。
既に述べたように、CRMは「顧客管理システム」を指し、SFAは「営業支援システム」を指します。これらのツールはどちらも営業・販売力の向上のために非常に有用なものですが、CRMは主にマーケティング寄り、SFAは営業寄りといった特徴があります。
CRMは膨大な顧客情報を管理し、必要に応じて「その顧客は過去に一体どんな製品・サービスを購入したか」などユーザーの過去の傾向(情報)を分析し最適な提案を実現します。
それに対しSFAは、営業マンが予算を管理し、案件ごとの商談進捗状況を記録・営業チーム内で管理することができます。営業を「個人」任せではなく「チーム」として取り組ませることにより、さらなる売上に貢献することができるように設計されたツールです。
CRMとSFAの詳細を含め、さらに詳しく業務のIT化について知りたい方は、別記事「IT経営で解決できる経営課題と成功した3つの事例」もあわせてお読みください。
セールステックが注目される背景
このように多くの企業で今注目を集めているセールステックですが、その背景にあるのは企業の生産性向上及び労働力人口の減少という、働き方改革に関する2つの課題が挙げられます。
このように、多くの企業で今注目を集めているセールステックですが、その背景にあるのは企業の生産性向上及び労働力人口の減少という、働き方改革に関する2つの課題が挙げられます。
ITの発達による効率化
ITの発達により営業の進め方も大きく変化を遂げています。旧来型の営業は文字通り足で稼ぐスタイルが中心であり、営業スキルやノウハウも属人化していたため少数のスーパー営業マンが組織を支えるという図式になっていました。
近年ではITの発達により営業情報がデータ化され、それが蓄積されることでビッグデータとして扱われるようになっています。
ビッグデータとは
単に量が多いだけでなく、様々な種類・形式が含まれる非構造化データ・非定型的データであり、さらに、日々膨大に生成・記録される時系列性・リアルタイム性のあるようなものを指すことが多い。
今までは管理しきれないため見過ごされてきたそのようなデータ群を記録・保管して即座に解析することで、ビジネスや社会に有用な知見を得たり、これまでにないような新たな仕組みやシステムを産み出す可能性が高まるとされている。
(引用:IT用語辞典)
と定義されています。すなわち、日々の営業活動や顧客からの問い合わせなどはすべてビッグデータとして企業内に蓄積されていくのです。
また、AI(人工知能)を用いた営業支援活動も本格化しています。蓄積された営業情報を基にAIが見込み客をピックアップする機能や、インターネットをクロールし自社の顧客となりそうな企業を抽出する機能などが運用され、売上げ拡大に貢献しています。
IT化によりこれまで人的リソースに頼っていた業務は徐々にITの力によって遂行できるようになりました。今後はさらに多くの分野でビッグデータやAIの活用が進むため、セールステックを導入する企業としない企業との差はますます広がっていくことが予測されます。
労働力人口の減少
国内の労働力人口は、少子高齢化の影響を受け年々減少の一途をたどっています。
総務省が平成26年に発表した我が国の労働力人口における課題によると、2013年に7,883万人であった労働力人口は、2060年には4,418万人まで大幅に減少すると予想されているようです。
(画像引用元:総務省「我が国の労働力人口における課題」)
今後、出生率の大幅な改善が行われたとしてもこの数字が大きく変わることはありません。従って、企業が今後も業績を維持拡大していくためには、非労働力(ニートや主婦層、高齢者)を労働力として取り込む他、より少ない労働力でより高い生産性を生み出す仕組みを採用する以外、有効な方策は無いのです。
「より少ない労働力でより高い生産性を生み出す」ために業務のデジタル化は必須
企業が積極的にセールステックを活用して経営のIT化を図り、生産性の向上に取り組んでいくべきであることは分かりました。それでは、セールステックを導入する以外に生産性の向上をはかれる施策はあるのでしょうか。
その方法の一つに、業務のデジタル化があります。
生産性向上のためには業務効率化は必要不可欠です。現在はさまざまなITツールも登場しているため、これらを自社の課題や目的に合わせて活用し、少しでもコストの削減や不要な作業を無くすことに取り組みましょう。以下にその例を示します。
(例)
・印鑑→電子サインによる契約業務の電子化
・会議→Web会議システムを活用し移動交通費・会場費削減
・クラウドシステムでデータ管理(Web給与明細、稟議書、経費精算等)
・RPA(事業プロセスを自動化するツール)の導入で事務業務を効率化(経理業務、採用業務等)
・営業マンの新規開拓→訪問に加え、それ以外にもオンライン商談システムを活用する
さらに詳しく生産性改善について知りたい方は、別記事「生産性の向上とは?企業が今すぐに取り組むべき5つのこと」もお読みください。
7つのカテゴリー
前述の例に出したCRMやSFAはセールステックを実現するために必要なツールの一つです。セールステックにはこれら以外のもさまざまなカテゴリーのツールがあり、それぞれに特徴を持ち営業活動を支援しています。
CB Insights社がまとめた資料によると、セールステックには全7つのカテゴリーがあり欧米を中心に多くの企業がこの分野に参入しています。
(画像引用元:Cold Call: 65+ Companies Transforming The Sales Tech Landscape)
これらのカテゴリーを分かりやすく日本語に訳すと、営業加速ツール/カスタマーサポート/インテリジェンス・解析/顧客関係管理/顧客体験/コンタクト・コミュニケーション/人材開発・コーチング、となります。
それぞれのカテゴリーの特徴や活用事例をピックアップしてみましょう。
営業加速ツール
営業活動を効率化し生産性を上げるためのツールです。前述したSFAはこのカテゴリーに属します。
この分野のツールは対応範囲が広く、営業活動の記録や日報のストック、商談進捗状況の把握、営業数字の予測、案件管理、クレーム管理、およびこれらの情報の部門間共有など様々な機能が付加されているのが特徴です。
営業案件をカード化して色分けし進捗確認を支援するSensesや、スケジュール管理や名刺管理など多くの機能を実装しているe-セールスマネージャー、フィールドセールスの移動コストに着目し効率的な訪問を支援するUPWARDなどが代表的なツールです。
セールステック分野で最も多くの注目を集めているカテゴリーであり、ツール導入後1年で売上げ実績を5倍以上に伸ばした企業もあります。
カスタマーサポート
カスタマーサポートのカテゴリーには、インバウンドセールスの効率化を図るためのインサイドセールスシステムなどが含まれます。主に通販業界やサービス業のお客様問い合わせ窓口で活用されているツールです。
顧客とのやり取りを音声だけでなくテキスト化して保存する機能や、最適なタイミングで顧客にメルマガを送付する機能など多彩な営業活動を自動で行うことができます。
顧客への迅速な対応を目的としてツールを導入した企業では、導入前は24時間以内の問い合わせ対応が65%であったのに対し、導入後は98%に増加したそうです。
インテリジェンス・解析
営業活動によって得られたデータを最大限に活用するためのツールです。
高度なデータマイニングによりネクストアクションを支援したり、ビッグデータと結び付けて顧客の課題を抽出したりという高度な戦略性を持たせたツールが多く存在します。
AIを搭載し過去の商談を分析、現在進行中の商談のアドバイスを行うといった機能もあり、専門知識がなくとも比較的簡単にデータ分析を行うことがITの活用により実現するというのが大きな利点です。
顧客関係管理
顧客情報管理カテゴリーには、顧客データベースの構築と管理、プロモーション履歴の蓄積など企業と顧客との関係性を見える化するツールが該当します。CRMがこのカテゴリーの代表です。カスタマーセンターやプロモーション部門などとデータを共有し、ネット通販と連携させるなどさまざまな場面で活用可能です。クラウドとの親和性も高く、特にBtoC企業において多く活用されています。
仲介や売買を行っている不動産業では、CRMの活用により顧客を持たない新人営業でも即座に営業活動を開始できたという事例があります。
顧客体験
顧客の購買プロセスの途中で、感動体験や疑似体験という付加価値を付け、売上げの増加を図るツールがこのカテゴリーになります。顧客ロイヤルティの向上やリピーターの養成といった目的で使われることが多く、Webサイト訪問者に対してポップアップで欲しい情報を表示させたり、ニュースリリースをプッシュ配信したりといった機能が実装されているのが特徴です。
ツール導入によりCPAを20%も改善させた企業もあり、新たなセールスリード獲得につながっています。
コンタクト・コミュニケーション
顧客接点に立ち、インバウンド対応の最適化を図るためのツールです。顧客満足度を高めるという目的はカスタマーサポートと同じですが、顧客と直接接点を持ち密なコミュニケーションを促進するという場面での活用に特化しています。
単なる入電対応だけでなく、Webを使った対面コミュニケーションやドキュメントの共有など、より顧客視点を重視したツールとなります。BtoCだけでなく、Web会議システムを利用したビジネスミーティングといったBtoBでの活用も可能です。
(画像引用元:株式会社ビズリーチ)
ツールを導入しWebによるオンライン営業スタイルに移行した株式会社ビズリーチでは、訪問が困難な遠隔地との商談もWebで行うことができるようになり、結果的に全47都道府県の顧客と契約を締結することに成功しました。
なお、オンラインでの商談に関しては、過去記事「訪問営業は時代遅れ!「訪問しない営業」の導入方法と3つの企業事例」もあわせてご参照ください。
人材開発・コーチング
営業活動を担当する人材の教育と育成を行うためのツールです。これらの目的を達成するために利用するオンライン教育システムやアプリケーションなどがこのカテゴリーに該当します。
PCとモバイルどちらのデバイスでも学習ができ、トレーナーとの双方向コミュニケーションが行えるツールなどがリリースされています。中には人材育成アプリを使って社員教育を行うことでブランドの価値を高め質の高いサービスの提供に成功した企業もあります。
(画像引用元:キリンビバレッジ株式会社)
全国に拠点のあるキリンビバレッジ株式会社は、離れた拠点に在籍する社員の教育のために研修内容を動画コンテンツ化。集合研修からオンライン研修に移行することで業務時間の削減に成功しています。
これからの営業に求められる能力
このようにさまざまなセールステックが多くの企業に導入され、効果を発揮しているのが現状です。この流れはさらに加速し、営業活動のIT化は業種業態を問わず進展していくことでしょう。
これからの営業には、コミュニケーションスキルやプレゼンテーションスキルなどの営業職としての基本スキル以外に、セールステックを使いこなし効率よく活動するという戦略的なスキルが求められるようになります。
数字で判断する力
セールステックが導入される前から、できる営業は数字に強いと言われてきました。稼いだ売上げや利益、目標に対する達成率など、数字にこだわって活動する営業は優秀です。今後はこの傾向がさらに顕著になり、自らの営業活動によって生みだした価値、つまり労働生産性などの指標も含めて判断できる営業が生き残っていくことでしょう。
極端な話をすると、1億円の商談をクローズするために1000万の経費を使うのと100万しか経費を使わないのとでは企業に対する貢献度が大きく違います。
セールステックによって営業活動に関するさまざまな情報が数値化され、営業も数値で評価されるようになります。これはつまり、セールステックによってもたらされる数字が何を意味し、何をしなければならないかを判断する能力が試されるということです。
新しいツールや方法に対する柔軟な姿勢
セールステックはこれまでの営業活動にはなかった新しい概念を次々と生み出し、営業活動そのものを大きく変えようとしています。とはいえ、ツールを導入しただけでは宝の持ち腐れとなり、業績アップにつながりません。
セールステックのひとつであるSFAを導入した企業に対するアンケート調査では、入力の煩雑さや知識不足により有効に活用されていないとする回答が多くを占め、SFAを営業活動に活用しきれていないという現状が浮き彫りになっています。
(画像引用元:【入門編】SFA導入前に知っておきたい営業成果を最大化するためのポイントとは)
ツールを動かすのは人であり、営業に携わる社員は導入されたツールを正しく理解して運用するスキルが求められます。営業は足で稼ぐものという固定概念を捨て、IT化の流れをしっかりとキャッチアップし対応していく必要があるのです。
※これからの時代、営業部門だけではなく企業の全ての部門において、生産性の向上などを目的としITツールの導入がますます重要視されていくでしょう。そんな中、IT化の流れに積極的ではない企業は徐々に人材確保や業務効率化の面からも時代に取り残されてしまいます。もし、この記事を読んでいる方の中でITツールを自社に導入することを検討している方がいれば、「ビジュアルコミュニケーションの基礎知識」をお読みください。資料のダウンロードは無料で行えます。
まとめ
セールステック市場は年々拡大を続けており、導入企業の数も増加しています。少子高齢化により人的リースの確保が困難になってくる今後の企業経営において、働き方改革の推進にもつながるセールステックの導入は避けて通れない課題となっているのです。
今後より多くの企業でセールステック導入が進むと、持てる企業と持たざる企業との格差がさらに広がることが予想されます。5年先10年先を見据えた企業経営のためにも、セールステックの活用本格化を検討すべき時期に来ているのではないでしょうか。