【拝啓、総務の皆さまへ】遠距離リモートワーカーだった私が会社に知ってもらいたいこと

多様化する働き方を国も企業も積極的に推進している昨今、選択肢としてリモートワークを選ぶ企業も増加しています。ここ数年で、リモートワークを実施するため環境や制度といったハード面の整備は進んでいる一方、リモートワーカーへのコミュニケーション方法や働き方のケアなどソフト面では、まだまだ企業内で改善する余地があります。

INSIGHTS SHAREでは、リモートワークを経験された書き手の方に、「こんなふうに働けたら」という希望や想い、現在抱える問題点などを、雇用主である企業の担当者に向けて提言していただく連載「拝啓、総務の皆さまへ」をスタートします。この連載を通して、リモートワークの導入や見直し、改善する際の一助となればと考えています。

今回提言をいただくのは、東京近郊にある企業の会社員として島根県でリモートワークをされていた、さくらいみかさん。リモートで感じた「孤独感」や「関わり方の変化」について「これをやってもらえたら!」という提言を書いていただきました。

私は以前「島根に住みながら職場は首都圏」という、遠距離のリモートワークをしてたことがあります。期間は2012年から3年間。実家のまあまあ近くに借りた、寝る部屋・リビング・仕事部屋があるファミリー用物件に住んでました。ちなみに家賃は都内のワンルーム価格です。

世間じゃ、リモートワークをしている方も珍しく、そんな働き方をあまり聞かない頃だったので、周りにサンプルもありません。

そんな頃に、どんなやり方で、どういう仕事をやっていたのか振り返ってみます。

目次[ 非表示 ][ 表示 ]

そもそものきっかけ

この働き方を始める2~3年前、「いずれ地元に戻って生活するとなった時に、今の職場から仕事をもらって離れた場所でできないものだろうか」という考えが浮かびました。職場に相談したところ、「地元に戻っても、会社自体を辞める必要はない」と言ってもらい、「もうちょっと経験を積んでから、ゆくゆくそんな流れになれば」という話にまとまりました。

2009年ごろ、そんな働き方が可能だなんて想像もしていなかったので、まさかリモートワークの提案をしてもらえるとは……という思いで、やってみたくなりました。最終的にはいろいろあって再度上京することになるのですが、丸3年間は地方の静かな住宅街での会社員生活を実現しました。

地方の静かな住宅街での会社員生活を実現

どんな仕事を、何人ぐらいの規模でやっていたのか

「仕事内容はこんな感じで、何人ぐらいでどういうことをしているんだな」とざっくり把握していただいた方がイメージが湧きやすいと思うので、そもそも私が、普段どういう仕事をしてたのか、まずは簡単に紹介します。  

会社自体はUI/UX(プロダクト、機器のパネルの操作性の発案やプロトタイプづくり、WEBページやWEBシステム)のデザインが専門です。私はシステム設計やプログラミングなど、システム構築全般を担当しています。

システム構築といっても、一般的なシステム屋とはちょっと違い、会社がデザイン専門なので、

・デザイナーが考えた操作を画面上で確かめたいときに、検証用の操作画面を作る
・データを分かりやすく画面上でデザインするにはどうしたらいいか、考えた上で実装もする

という、デザイン寄りのシステム業務です。プロジェクトはどれも3〜4名で進めてて、自分と同じプログラミング担当は1〜2名です。

なので、自分ひとりで進めるか、誰か(主に後輩)とやりとりしつつ、協力して進めることになります。

リモートワーク黎明期に、分からないなりにルールを決めた

まず実際に開始する半年前に、1週間のリモート実験をしました。実験の結果、なんとかできそうな感覚をつかめたので、そこから話し合いをし、いくつかの基本的なルールを取り決めました。

● 勤務に関する基本ルール

  • 勤務時間は会社のルールと同じ。チャットアプリにログインしたときが「出勤」

  • 毎週月曜の朝にある、社内のスケジュール調整には毎週ビデオ通話で参加

● 勤務する場所のルール

  • 生活空間と勤務の場所は分ける。住居と仕事スペースが同じになってしまう場合は、外にワンルームの部屋を借りる。自宅内でスペースを分けることができる場合は、仕事部屋を作る

● やり取りのルール

  • チャットで聞かれたことは、すぐに対応できるようにする

  • 外部からかかってきた電話は自宅に転送される(かけてきた側にとっては内線をまわされたときと同じなので、外部に居るとは気づかない)

これらのルールに沿って、何か不都合が生じたらその都度対応していこう、ということでスタートしました。フリーでの在宅ワークをする場合、自己管理をかなりしっかりする必要がありますが、私の場合は決まった時刻にログインし、頻繁に連絡がくるおかげで会社側にかなり管理してもらえている感覚がありました。

予想に反して、社会からの孤立感

この生活を始めてしばらくした頃、心理的にも物理的にも違和感が生まれ、「この土地に自分が社会的に関わってる人はいない」という孤立感を感じ始めました。まったく予期してなかった感情の変化でした。

ビデオ通話越しに見える場所だけが自分が属してる社会。用事が終わればプツッと切れて、ただの人通りが少ない地方の住宅地の静けさが戻る……というのを日々繰り返してると、なんだか会社に属してる感覚が薄くなっていきます。

また、ビデオ通話だと「社内の込み入った話し合いに参加しにくくなる」という問題が起きました。モニタの向こう側で細かい資料を見つつ話がヒートアップされると、

  • どの問題のどこを話してるのかを追うのに一苦労

  • 今、誰が喋ってるのかを追うのが長時間だと疲れる

  • 音飛び等で聞き取れなくても聞き返しづらい

  • 「あれ」「それ」の代名詞がどれか分からない

こんな理由で、プロジェクトにガッツリ関わるよりも、「頼まれたことをこなす」というスタンスにだんだんとなっていきました。

元々そのスタンスで仕事をしていたのならこれでも問題ないかもしれませんが、社内のプロジェクトに深く関わっていたため、「社内との関わりが減った」という感覚になります。

職場にいる頃は指示を出す側だったのが、完全に主導権を向こうに任せるように。そうしなければ、仕事のまわりも悪くなってしまいます。打ち合わせに出る機会も当然激減……というかゼロに。外部作業要員のような立ち位置にならざるを得ず、仕事が単調に感じるようになっていました。

出張はスムーズに仕事を進めるために必要

上京して職場へ行くのは出張扱いです。自宅から職場までどれほど時間を要したかというと、乗り換え等がスムーズにいけばドアtoドアで3時間。自宅→空港、空港→職場がそれぞれそんなに遠くないこともあり、800km離れているにしてはかなり行きやすい方だと思います。

出張して久々に職場に行ったときに「どうすれば仕事の進め方が円滑になるか」について、日々蓄積された細かい問題を解消しようと話し合いの場を持ちます。

具体的には、

  • 上に挙げたビデオ通話で起きた問題の解決

  • 自分のプロジェクトへの関わり合いについての相談

  • 複数名でひとつのものを作りあげる際に、やりにくかった点を相談

どれも「リモートワークを実際やってみないと分からなかった」という問題ばかりでした。この出張は年に1〜2回でしたがこの頻度だと、毎回かなり言いたいことが溜まってます。もうちょっと出張の頻度が多ければいいのに、とは思っていました。やはり直接会って会話をしたときが一番スムーズに話が進み、問題も解決しやすかったです。

リモートワークを実際やってみないと分からなかった

会社側がリモートワークの制度を作るとなると……?

さて、ここまでが自分の経験です。これを基にリモートワークの観点で「これこそやってもらいたい!」と思うものを挙げていきます。

1.勤怠管理

まずはしっかりとした勤怠管理です。在宅ワーク経験者には分かってもらえるかと思いますが、自宅だとどうしてもサボりがちになるもの。ログイン状況が分かるものをリモート側のPCに用意し、「朝出勤した」「この時間に仕事を終えた」ことが一応記録される環境をつくれば、「管理されてる……! 」という意識が生まれます。この意識があるのとないのでは、机へ向かう態度も意外と違ってきます。

私の場合は、チャットで頻繁に話しかけてもらっていたのがかなりありがたかったです。 

チャットで頻繁に話しかけてもらっていたのがかなりありがたかった

2.家賃補助

「出勤」という一連の動作がないと、気分の切り替わりはどうしても悪くなるものです。なので、「仕事専用の1Rを借りる家賃補助」があるのもいいと思います。自宅作業ではなくシェアオフィスに出勤しているようなフリーランスの方とたぶん似たような感覚だと思います。

弊社の場合は元々会社からの家賃補助があるので、それを利用して「実家に住んで、別に仕事用の1Rを借りる」という選択もアリでした。

上記の勤怠管理と家賃補助については、「規則正しい会社員の生活」に近い生活を送るために必要な制度だと思います。一般的に会社員は、自己管理をかなり会社側に委ねてますが、それがなくなると意外と苦労すると思います。

3.出張制度

やっぱり実際に「会って話す」頻度が少なくなると、問題が起きたときに話がスムーズに進みにくくなります。単純に仕事を進めるのであればリモートだけでも大丈夫ですが、会社の一員である感覚も薄れます。半年に1度程度でも少ないと感じていたので、せめて3カ月に1度ぐらいはあった方がいいと思います。

職場によって起こる問題はまったく違うものだと思うので、なにが起こるかはやってみないと分かりません。けど、「やってみて初めて気づく何かしらの問題」は起こるべくして起きてるはずです。会社側に「きっと何か問題が起きてるはず」と意識してもらうと、離れてる側としても安心感があります。私の場合は、仕事で直接関わってる人たちに問題を聞いてもらっていましたが、もっと社内全体に知ってもらっていてもよかったかなと、今になって思います。

10年でこんなに変わったなら、10年後は……?

「仕事との関わり方が思ってた通りにならなかった」というような問題点もありますが、リモートワークの良い面ももちろんあります。

  • ・会社へのアクセスの良さなどを気にせずに済む

  • ・出勤に取られる時間がない分、効率的な時間の使い方ができるようになった

  • ・ちょっとした時間(昼休憩時など)に家の雑用ができる

首都圏だと、すし詰めの電車に長時間かけて通勤という人はザラにいます。その時間をうまく利用してる人ももちろん多いとは思いますが、私は「その時間を他のことに使いたい……!」と、どうしても思ってしまいます。それ以外の細々とした時間を使って用事を済ますこともできるのはとても効率的です。

最初に職場から提案をもらったときにリモートワークについての知見も少なく、「なんだそれ!」と驚いたのに、たった10年でここまで働き方の多様化が推奨されるようになるとは思いもよりませんでした。

もっとリモート経験者の体験談のサンプルが増えていけば、「こういう問題が起こり得るものらしいぞ」と構えて準備したり、問題の共有もきっとしやすくなって、ルール化もしやすくなるんじゃないでしょうか。

そうしたら、10年後なんて更に自由な働き方が普及して通勤電車の混雑が激減するんじゃないか? とかちょっと考えたりもしますが、意外とそこまでは変わることはないのかも?? 要するに全然読めないですが……。この個人的な体験が、いつか誰かの働き方の参考にちょっとでもなればと思います。

編集:はてな編集部

さくらいみか
著者情報さくらいみか

普段はWeb系のエンジニアっぽい仕事をしつつ、たまに「デイリーポータルZ」等で執筆。地元ネタ、工作ネタ、食べ物ネタが多め。手編みの覆面、編みぐるみ、グッズ製作などもしています。好きな果物はスイカ。将来は忍者屋敷に住みたい。
■Web  それにつけてもおやつはきのこ
■Twitter  @skrimk0218

関連記事