参考にしてほしいDX事例7選!デジタルトランスフォーメーションを成功させる秘訣とは
DXとは「Digital Transformation」の略語で、デジタルの変容、変革という意味です。ただツールやシステムを新たに導入し、業務のデジタル化を進めるのではなく、デジタル技術を使用して、社会や顧客のニーズに合わせて製品やサービス、業務そのものを変革することを指します。
日本では、新たなデジタル技術を導入せず、既存のITシステムを使い続ける企業が数多くあることが現状です。いつまでもこの状態で放置しておくと、今後既存システムを保守し続けられる人材の確保が難しくなることや、維持コストが高騰し、技術的な負債が増大することなどが予測されています。これは、「2025年の崖」として経済産業省が警鐘を鳴らしています。
新たなIT技術を導入すると導入コストや運用コストがかかり、企業にとって負担が重いでしょう。しかし、そのまま放置しておけば、逆に運用コストが増大するリスクがあるうえ、国内外の競合他社に勝てなくなる、といった問題に発展すると考えられています。
自社がいまだ既存システムに依存している場合、顧客や社会のニーズに応えられるように新しいIT技術を導入し、現在の社内システムの革新をする、つまりDXの導入を検討しなければならないでしょう。
しかし、DXの導入はただ単にIT技術を導入すればよいものではなく、企業にとって課題が多いと感じることもあります。そこで、DXを導入した企業の成功事例を7つ紹介します。他社がどのようにしてDX導入を成功させたのか具体的事例を知ることにより、自社のDX推進の参考にしてください。
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味覚を数値化した効率的な商品開発(伊藤忠商事)
伊藤忠商事株式会社では、うまみなどの味覚を数値化し、客観的に判断ができるデジタル技術を活用した商品開発を行いました。数値化された味覚と最大800万件にもなるPOSデータを組み合わせることにより、どの味覚(数値)が売れるのかデータから分析しています。
「おいしさ」はどうしても主観的な判断になりがちですが、これにより客観的な判断ができるようになりました。競合他社の商品の味も数値化することにより、他社と味で違いを出すことにも成功しています。
味は人の主観によるものが大きいうえ、視覚化することが難しく、食料品の開発はどうしても人の経験や勘に頼らざるを得ない状況でした。しかし、これにより熟練の人材に頼ることなく、客観的で効率的な商品開発が可能となっています。
そのほか伊藤忠商事では、2022年10月にディジタルコンサルティングを行う英AKQAと合弁会社を設立するなど、積極的にデジタル技術を社内に取り込むことを進めています。
参考:日本経済新聞「伊藤忠、「売れる味」伝授 味覚の数値化で食品開発変革」
IoTやAIを活用した水道インフラ維持(福岡市)
福岡市の高宮浄水場では、通常、利用開始から30年で交換しなければならない送水ポンプを32年経過したあとも、安全に使用できています。これは、IoTセンサーをつけることにより異常の前兆をすぐに検知できるようにしたためです。
センサーにより軽微な振動も検知できるようになり、異常な振動が起こるとすぐに修理や整備を実施できています。そのため、異常が起こるまえに余裕を持って交換するのではなく、なるべく長く送水ポンプを使うことに成功しました。
送水ポンプの交換には1億円かかるところ、センサー取り付けは800万円です。費用対効果はかなり大きいでしょう。高宮浄水場は10年後に移設の予定があったのですが、その10年のためだけに送水ポンプを取り替えずに済んでいます。
また、水道局では事業所向けの需要が減少していることから、料金収入の増大は難しい状況です。そのような中、水道インフラを維持する技術を持つ職員は高齢化、定年退職をむかえます。しかし水道インフラは安全性の高さを求められるため、施設や整備にかける費用は削減できません。そういった事情から水道局では人材確保や、若手職員への技術継承などに課題を抱えている状況です。
そこで、人の耳で判断していた漏水検査などをIoTやAIで代用するなど、少ない人材で確実に異常を検知できるようなIT技術の導入が予定されています。福岡市水道局では、漏水点検に2021年度は2億300万円をかけていましたが、センサーで代用することにより費用削減を目指しています。
※参考:日本経済新聞「水道インフラもDX 福岡市、IoTやAI駆使し保守効率化」
ビックデータ・AIを用いた企業経営(株式会社クボタ)
株式会社クボタは、もともと農業機械、自動車運転農機、水環境分野などとICTを融合させたサービス提供などを行ってきました。しかし、さらに新しい価値を生み出すために、事業本部によって分けられていたIT部門を統括しています。マイクロソフトと戦略的パートナーシップも結び、さらなるDXの推進を行っています。
その一環として、マイクロソフトが提供するクラウドサービス「Microsoft Azure」に全面移行し、先端技術の活用を進めています。さらに、基幹システムはクラウドに統合し、より業務の合理化や生産性向上を目指すそうです。クラウドにデータを統合することにより、従業員による手作業が必要なくなり、商品開発などのソリューション創出に人材を集中できるようにしています。
このように、社内で総合的にDX化を進めている株式会社クボタでも、「DXはDXは一足飛びで実現できることではない」と話しています。DX推進のカギは、顧客の希望に添いつつ、課題を解決しながら少しずつ進めていくことと言えます。
参考:KUBOTA PRESS「マイクロソフトとの戦略的提携でクボタのDXが本格的に加速する!」
AIアプリ事故リスクを自動で推定(ソニー損害保険)
ソニー損保保険株式会社は顧客からの要望のみならず社会貢献にもなるアプリを開発しました。
自動車保険は事故を起こさないドライバーであるほど、保険金が発生することも少なくなります。よって保険会社としては、事故を起こす可能性が低いドライバーには保険料を安く、事故リスクが高いドライバーには保険料を高くできたほうが合理的です。
そこでソニー損保保険株式会社では、アプリにより自動で事故リスクを算出し、事故リスクが低いドライバーにはキャッシュバックを行うサービスを開始しました
アプリを活用して自動でドライバーの「走行時間」「アクセル」「ブレーキ」「ハンドル」「走行中のスマートフォン操作の状況」を測定し、そこから事故リスクを数値化します。これにより、それぞれのドライバーの運転におけるリスクを客観的に判断します。
従来は年齢や等級によって保険料を算出していましたが、「運転スコア」によってより現実的な基準により保険料を決められるようになりました。ドライバーとしてもキャッシュバック率を上げ、自動車保険料を安くするために、より安全運転を心がけるようになり、社会貢献にもなっています。
また、このアプリには、安全運転となるためのアドバイスや、運転スコアに影響する操作があった地点の確認も可能です。これによりドライバーは自分の運転を客観的に顧みられるようになるため、より安全運転につながるでしょう。
※参考:Biz/Zine「ソニー損害保険、AIを活用した運転特性連動型自動車保険「GOOD DRIVE」販売開始」
エクセルを用いたデータの仮説検証(ワークマン)
株式会社ワークマンの在庫管理は原始的なもので、棚卸しのときに社員が店舗に直接出向き在庫を1つ1つ数えるような方法でした。また、会計処理も年に1回売上分を差引き、仕入れを足すという方法で、処理には多くの時間と人材を必要とします。
そこで、社員の35%がエクセルで分析ツールを作成できる状況にしました。これにより、発注の失敗による機会ロス製品を発見するツールや、顧客層がかぶることにより商品ロスを起こしている製品を検索するツール、といったものが開発されています。
社員が日々感じる課題を分析ツールで解決していき、優れたツールは全社で共有することにより、徐々に社内の生産性向上につなげています。
参考:バックオフィス進化論「現場の自由な発想を引き出すDXとは ワークマンを躍進させた「草の根データ分析」」
マニュアルを電子化し引き継ぎ業務を簡単に(石狩市)
石狩市ではマニュアルの作成や更新に労力がかかっており、内容が古いまま放置されている状態でした。この状況では、本来であればマニュアルを渡して読んでもらえばいいような業務であっても、担当者変更の引き継ぎ業務に多くの時間が必要です。
そこで、マニュアルを電子化し、インターネットを通じてアクセスできるようにしました。さらに、検索するだけで目的のマニュアルを閲覧できるようにしたため、久しぶりに行う業務に関するマニュアルでも迷わずアクセスできるようにしました。
また、紙のマニュアルの内容を変更するときには、該当部分を変更し、新たに印刷や配布をしなければなりません。しかし、電子化されたマニュアルでは該当部分を変更するだけで情報を更新可能です。日常的な業務の中で更新していけるため、情報が古いまま放置される可能性も低くなっています。
これにより、分かりやすくアクセスしやすいマニュアル作りに成功し、引き継ぎにかかるコストを大幅に削減しました。
※参考:事業構想「異動による業務の引き継ぎをDXで容易に 石狩市役所の業務マニュアル改革」
技術伝承システムによる熟練スキルの標準化(株式会社ブリヂストン)
株式会社ブリヂストンでは、タイヤの成形技術の伝承に新しいIT技術を導入し、生産性向上と品質の安定化に成功しました。
成形に高度な技術を必要とする種類のタイヤがあり、品質が高いものを作成するには熟練の技術が必要でした。通常この技術を伝えるためには、かなりの時間がかかります。そこで、IT技術により熟練者と訓練者の動作を分析し、それを比較することにより効率のよい訓練を目指しました。
熟練した作業員の動作をモーションカメラで動きで記録し、慣性センサー、圧力センサーで作業の様子を数値化します。同じように訓練者の動きも記録、数値化して熟練者のものと比較することにより、どの部分に修正が必要なのかひと目で分かるようになりました。
感覚的にスキルを伝えるのではなく、足りない部分がどこで、どのように修正するのか客観的にすることで、より効率的に技能を習得できます。従来は経験によりコツをつかむことが必要だった熟練スキルも、DXにより標準化され、生産性向上と品質の安定化につながっています。
※参考:株式会社ブリヂストン「デジタルトランスフォーメーションを推進する企業として「DX銘柄2022」に3年連続で選定」
まとめ
競合他社との優位性確立、自社のコスト削減、生産性向上のために、DX推進は必須とされています。新しいIT技術の導入となると、導入にコストがかかると心配な企業もあるでしょうが、企業によって導入の規模は異なります。マニュアルの電子化やエクセルを使用した分析など、そこまで初期投資をかけずにできる新システム導入も可能です。
DX化を検討する際は、上記のような成功事例を参照してみてください。