変革をリードするDX人材戦略:企業の未来を握るのは採用と育成!

現代のビジネスにおいてDX(デジタルトランスフォーメーション)は、もはや避けては通れない道といえます。しかし、最先端技術を導入したり、システムを更新したりするだけで、DXが成功するわけではありません。

真の革新を実現するためには「DX人材」という、デジタル技術を駆使してビジネスモデルを変革する人々が不可欠です。

この記事では、DX人材の重要性と需要が高まる背景、採用・育成に関する施策を解説します。日本が直面するビジネス上の課題とともに内容を掘り下げていくので、DX人材の確保や育成に悩む方は、ぜひ参考にしてください。

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DX人材とは

DX人材とは、企業全体で取り組むべきDXの推進力となるキーパーソンです。その特徴は、デジタル技術の専門性のみにとどまらない点にあります。

例えば、デジタル技術をビジネスとして成立させる事業開発能力や、企業変革を起こすチェンジマネジメントスキル、コミュニケーション能力なども、DX人材に求められる素養です。また、進化の著しいデジタル分野の知識を継続的に学習する姿勢も必要でしょう。

デジタル技術によってビジネスモデルの変革や、新たな価値の創造を目指すDXの影響力は、企業内部だけでなく、顧客にも及びます。

経済産業省は2023年8月に公表した「デジタルスキル標準 ver.1.1」において、DX人材の確保・育成を国家戦略の一環として位置づけており、DX人材は日本全体で求められている現状です。

需要が高まるDX人材

株式会社リクルートが実施した「人的資本経営と人材マネジメントに関する人事担当者調査(2021)」によると、2020年度と2021年度ではDX人材の需要に大きな変化があったことがわかりました。

具体的には、2020年度のDX人材への需要では不必要と回答する企業の方が多かったのに対し(必要:26.2%・不必要:45.2%)、2021年度は逆転した形です(必要:41.6%・不必要31.7%)。

また、総務省の「令和5年版 情報通信白書」では、DXへの課題を「人材不足」と答えた企業が米国20.7%、独国33.0%、中国30.7%であった一方、日本は41.7%とトップを独走していることも明らかになりました。

同調査では、人材不足以外にも「デジタル技術の知識・リテラシー不足」「DXの役割分担や範囲が不明確」を課題に挙げる企業も目立ちます。

これらの情報から、日本はDX人材への需要が高まっているにもかかわらず、人材確保や育成に難航していることが分かります。

DX人材の必要性が高まっている背景

あらゆるサービスがデジタル化へ向かう現代において、DX人材の必要性は今後も増すばかりです。ここでは、その背景にある時代の変化について解説します。

デジタル技術の進化

インターネットの普及に伴い、デジタル技術は急速な進化を続けています。クラウドコンピューティング、人工知能(AI)、ビッグデータ、IoT(Internet of Things)、ブロックチェーンなども、進化の過程で生まれた技術です。

こうしたデジタル技術は、企業戦略や市場構造を根本的に変えるほど、インパクトがあります。

例えば、サブスクリプションサービスやオンデマンドサービスの台頭は、「所有する」から「アクセスする」へ消費の形を変えました。CDやDVD、書籍がその代表といえるでしょう。また、近年では自動車業界でもカーシェアリングが勢いを増しています。

今後の新しいビジネスモデルの創出や既存ビジネスの効率化にも、デジタル技術を深く理解し、組織に定着させるスキルを持つDX人材が求められていくでしょう。

市場と顧客ニーズの変化

総務省の「令和5年版 情報通信白書」によると、スマートフォンやパソコン、タブレットなどのモバイル端末を保有する世帯は2022年の時点で97.5%、そのうちスマートフォンは90.1%と最も多い結果となりました。

スマートフォンは、より自分の趣味・趣向に合った情報に、より速くアクセスできる環境を消費者に提供します。現代は、テレビや新聞による従来型のマス広告のみで市場を動かすことは難しいです。

そこで注目されたのがデジタルマーケティングです。スマートフォンなどを基に収集したデータで市場を調査・分析するデジタルマーケティングは、SNSやインターネット広告を通じ、より購買意欲の高い顧客へのアプローチを可能としました。

同時に、消費者は自分にあった情報を常に得られやすくなるため、顧客ニーズのパーソナライズ化や、消費行動の多様化は、ますます進んでいくと考えられます。

DX人材への需要が高まる背景には、企業がこうした顧客データの分析や、顧客体験のデジタル化の実現に対応せざるを得ない状況があるのです。

競争優位の確保と持続可能な成長

デジタル技術は情報へのアクセスを容易にし、企業の運用コストを大幅に削減します。これは資金力で大手に劣るスタートアップ企業でも、革新的なソリューションを市場に投入する機会を持つということです。

また、業務プロセスや生産性を向上させるデジタルツール、自動化技術の導入は、消費者への迅速なサービス提供を可能とします。企業は、こうした環境の中で競争優位性を確保しなければなりません。

一方で、企業にはCSR(企業の社会的責任)やSDGs(持続可能な開発目標)を念頭に、環境への配慮なども実現した上で成長する姿勢が求められます。

DX人材は競争優位性の確保だけでなく、企業の持続可能な成長という観点でも不可欠です。例えば、限られた資源を効率的に利用する方法をデータ分析する際、DX人材はその力を発揮するでしょう。

労働市場の変化

グローバル化は、労働力が国境を超えることを容易にしたといわれます。また、テレワークの普及により、特に専門知識や技術を持つ人材が場所を問わずに自由な働き方を実現できるようになりました。

株式会社野村総合研究所が英オックスフォード大学と行った研究では、日本の労働人口の49%に当たる仕事が将来的に人工知能(AI)やロボットに代替されると推計しています。

こうした労働市場の変化は、デジタル技術の進化によるものです。DX人材の確保・育成は労働市場への変化に対応する上でも重要となるでしょう。

今後は企業と従業員の双方が、デジタル技術の進化に対応する能力と、従来の労働市場で求められていた能力との間にあるギャップ(スキルギャップ)を埋める必要に迫られるといえそうです。

DX人材の分類

DX人材に求められるスキルはデジタル技術だけでなく、事業開発能力やマネジメントスキルも求められます。ただ、全てのスキル・経験を満たす人材の確保は決して容易ではないでしょう。

そこで重要となるのが、異なる専門知識を持つ複数のDX人材をチームとして機能させ、企業全体のDXを推進する視点です。ここでは、経済産業省の定義を基に、DX人材の5分類を紹介します。

DX人材の分類

主な役割

ビジネスアーキテクト

DX推進のリーダー的存在で、ビジネスモデルや業務プロセスを明確にし、全体計画を立てる人材。リソース管理や関係者間の調整、プロジェクトの進捗管理まで担う。

データサイエンティスト

データに基づいて新たなビジネスチャンスや業務改善を提案する人材。統計モデルや機械学習アルゴリズムを用いて、顧客のインサイトを引き出し新サービスの開発や既存サービスの改善に貢献する。

サイバーセキュリティ

企業のデジタル資産と情報システムをサイバー攻撃から守る人材。リスク管理計画の策定やセキュリティ監査、侵害発生時の対応を担う。

ソフトウェアエンジニア

DXを実現するためのソフトウェアの設計から運用までを担当する人材。ソフトウェア開発のプロセス全体に関与し、システム改善やメンテナンスも行う。

デザイナー

デザインを用いて企業のビジネス戦略と顧客の橋渡しをする人材。DXによる製品・サービスが使いやすいものとなるよう、ユーザーインターフェース(UI)やユーザーエクスペリエンス(UX)を設計し、最終的な製品・サービスを開発する。

DX人材を採用・育成するには

DX人材には複数のスキルが求められる上に、国内のDX人材は決して潤沢とはいえません。適切なDX人材を確保するには、採用や育成に力を入れる姿勢が重要です。ここでは、DX人材の採用と育成に関する施策を解説します。

教育・研修プログラムの導入

経済産業省はデジタルスキルについて、DX人材に必要なスキルを「DX推進スキル標準」、全てのビジネスパーソンに必要な意識や知識に関する指針を「DXリテラシー標準」として定義しています。つまり、全ての従業員にDX知識を「標準装備」させる取り組みを指します。

具体的には、個々のスキルレベルに応じた学習ができるeラーニングの導入を行い、個別教育やDXスキルの可視化に取り組みます。また、部署やプロジェクト単位でケーススタディを通じた学習の場を設けると、実践的スキルの向上に役立ちます。

社内のキャリアパスの明確化

DX人材が目指すべき明確なキャリアパスの設定は、従業員のモチベーション向上や離職率の低下、採用強化につながります。キャリアの各段階で必要なスキルや達成すべき目標がはっきりしていると、自己成長のビジョンを描きやすくなるからです。

経済産業省の「デジタルスキル標準 ver.1.1」では、DX人材の共通スキルリストとして「ビジネス変革」「データ活用」「テクノロジー」「セキュリティ」「パーソナルスキル」を挙げています。細分化されたスキル項目も掲載されているので、キャリアパスの設計時に参考になるでしょう。

採用戦略の強化

DX人材の採用では、ブランディング戦略や選考プロセスの最適化がポイントです。

例えば、DXに積極的な企業であることや、革新的なプロジェクト事例をアピールすることで、優秀な人材を引き付ける可能性があります。選考ではデジタル技術だけでなく、問題解決能力や協調性なども考慮するとよいでしょう。

さらに、近年はタレントプール(将来的に採用可能性のある人材のデータベース)の活用により、人材確保をする動きもあります。過去に内定辞退した人や、時期的に採用できなかった人、自社のイベント参加者などはタレントプールの対象者です。

選考応募者以外にも、広く間口を広げて検討してみてください。

パートナーシップの活用

DX人材の採用・育成へのリソースが限られる場合は、外部とのパートナーシップを活用してみましょう。

例えば、外部の研修機関と連携し、従業員に最新スキルを習得してもらう方法があります。また、DXコンサルタントに依頼して、DX推進の戦略立案から実現まで支援してもらうのもやり方のひとつです。

効率的な採用を目指すなら、DXエージェントから専門性の高い人材を紹介してもらってもよいでしょう。ただし、いずれの場合も、DXをうまく推進するには「自社の課題」を事前に明確にしておく必要があります。

働きがいのある環境の提供

働きがいのある環境は、売上拡大や新規ビジネス創出など、企業にとってプラスの影響をもたらします。

事実、コンサルティング大手の米Boston Consulting Groupの発表によると、従業員にリモートワークなどの柔軟な働き方を認めた米国企業は、そうでない企業に比べて売上げが4倍伸びたことがわかりました。加えて、柔軟な働き方は特にテック業界で認められやすい傾向にあるそうです。

その他にも、DXには革新的なアイデアが必要となるため、自由な発想や試行錯誤を奨励したり、失敗を許容して成長へとつなげたりする企業文化の構築が、働きがいの向上の鍵となるでしょう。

社内外のコミュニティへの参加

日々進化するデジタル技術を用いるDXは、継続的な学習が不可欠です。社内外にコミュニティを形成し、参加を促すことは人材の強化につながるでしょう。

例えば、社内で勉強会や技術交流会を定期的に開催し、知識の共有と技術の向上を目指す方法が考えられます。また、外部のセミナーへ参加したり、DXに詳しい人のSNSをフォローしたりすることで、最新情報に触れる機会を増やすことも可能です。

さらに、従業員のメンタルヘルスサポートの充実や、メンター制度の整備も、コミュニケーションを促進させる観点から重要な役割を果たすといえます。

まとめ

DXは単なる技術革新にとどまらず、ビジネスと社会のあり方を根本的に変える動きです。この変革をリードするDX人材は、企業が競争優位性を確保した上で持続的に成長するのに不可欠といえるでしょう。今後ますます企業に求められるのは、DX人材を採用・育成する力といえそうです。

今回紹介したような施策は、社内にいる潜在的なDX人材を発掘・育成する上でも役立ちます。まずは、自社のDX推進を考えた際にどのようなDX人材が必要となるか、戦略を策定してみてはいかがでしょうか。

山本脩太郎
著者情報山本脩太郎

ブイキューブのはたらく研究部 編集長?部長? 2018年株式会社ベーシックに新卒入社。 インサイドセールスを経て、マーケティングメディアferretの編集部でインタビュー記事を中心とした企画・執筆などを担当。 同時期に数社のコンテンツマーケティング支援・インタビュー取材を経験。 2020年3月に株式会社ブイキューブに入社。

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