自社のDX推進に悩む方へ!いま企業が向き合うべきDXとは?

デジタル技術によって企業のビジネスモデルや組織、企業文化に変革を起こすDX(デジタルトランスフォーメーション)

新型コロナウイルス感染症のパンデミックをきっかけにテレワークの導入を余儀なくされ、新たなオフィス環境の整備が求められました。その結果、新たなシステム導入などのDX推進を迫られている情報システム担当の方もいるのではないでしょうか。

例えば、離れた場所同士のコミュニケーションを円滑にする、業務の進捗や出勤状況の管理手法を変更するなど、働き方の変化に付随する課題への対応です。

しかし、そもそもDXとは何か、何をどうすればうまくいくのかなど、今更人には聞きにくい素朴な疑問に悩むケースもあるかもしれません。

そこで今回は、DXの定義や、電子化・デジタル化との違い、国内の状況や取組事例について、わかりやすく解説します。DXを推進すべき立場にありながら、その方向性に困っている方は、ぜひ参考にしてください。

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DX(デジタルトランスフォーメーション)とは

DX(デジタルトランスフォーメーション)の定義は、株式会社デジタルトランスフォーメーション研究所のエグゼクティブアドバイザー、Erik Stolterman(以下ストルターマン)氏が2004年に提唱した以下の仮説がその始まりです。

人々の生活のあらゆる側面に、デジタル技術が引き起こしたり、影響を与える変化のこと

ストルターマン氏は当時、社会におけるDXとして論文を公表していましたが、2022年には日本の実態に即した形でDXの定義を改訂し、現在は「社会のDX」「公共のDX」「民間のDX」の3種類が策定されています。少し細かい内容にはなりますが、企業にとってのDXとしては「民間のDX」が参考になるでしょう。

また、日本国内では経済産業省が「DXリテラシー標準」でDXを次のように定義しています。

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること

これらの情報を分かりやすくまとめると、DXとはデジタル技術を活用して企業のビジネスモデルや組織、企業文化に変革を起こすことであり、その最終的な目的はビジネスにおける競争に勝つことだといえます。

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは電子化・デジタル化とDXの違い

DXは人によって言葉の定義が異なっているケースもあるため、「電子化」や「デジタル化」と混同されて使われることも珍しくありません。しかし、電子化、デジタル化、DXは以下のようにそれぞれ違った意味を持ちます。


電子化 紙の資料をPDF化したり、請求書の郵送をメールで行ったりすること

デジタル化

オンラインで打ち合わせをしたり、経理業務をシステム上で管理したりすること
DX 問い合わせ対応をAIで24時間可能にしたり、オンラインを活用して事業を拡大したりすること

電子化は単純にアナログなものをデジタル上のデータに変換することを指し、デジタル化は電子化したデータを活用して業務を効率化することを意味します。一方のDXはデジタル化のさらに先にあるものとして位置づけられ、ビジネスのあり方そのものを変えるイメージです。

上の例でいえば、営業時間内の電話やメールによる対応だった問い合わせ業務を、チャットボットなどの導入で自動化し、それまでの窓口対応の形を変えてしまうのがDXです。つまりDXは「電子化」→「デジタル化」→「DX」という段階を経て実現できるものといえます。

DXが注目される理由

DXが注目されるのは、国内に以下のような状況があるからです。

  • 新型コロナウイルス感染症パンデミック以後のデジタル化の加速
  • 公共レベルでのデジタル化推進(デジタル庁の発足など)
  • 労働人口の減少

また、世界的にも日本と似たような問題に対応するため、DX推進への動きが活発化しています。実際、世界的なプロジェクトマネジメント協会として知られる、米Project Management Institute(PMI)は「グローバル・メガトレンド2022」で、世界に影響を与えるトレンドとして次の6つを発表しました。


1.デジタル・ディスラプション DXに強い企業の市場参入によって、既存企業が淘汰されていっている
2.気候危機

温室効果ガスの削減を目的に再生可能エネルギーへの投資・導入が求められている
3.人口動態の変化

先進国を中心に、出生率の低下や高齢化、引退年齢の上昇が見られる
4.経済の変化

限定的なベンダーやサプライヤーとの取引のみでは、新型コロナウイルス感染症のパンデミックには対応できないことが露呈し、よりグローバルな協働が必要とされている
5.労働力不足 新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる一時解雇や自宅待機などで企業へのエンゲージメントが低下した結果、大量の離職者が出る現象が起きている
6.市民運動と平等運動

新型コロナウイルス感染症のパンデミックを原因とする経済的な不安や格差の拡大から社会的な抗議活動が活発化している

DXは、デジタル・ディスラプションだけでなく、人口動態の変化や経済の変化といったグローバルな課題も解決する手段となり得るため、世界的な動きに後れを取らないためにもDXの推進は重要です。

日本企業におけるDXの現状

DX推進への動きは世界的に起きていますが、日本企業におけるDXの現状は順調とは言い難い状況です。

経済産業省が2020年に公表した「DXレポート2(中間取りまとめ)」によると、DXを部門横断的に推進していたり、持続的に実施したりしている先行企業は全体のわずか5%程度で、未着手や一部部門での実施にとどまっている企業が大半を占めました。

2022年の「DXレポート2.2」でも先行企業の割合は18%まで増加したものの、依然として約8割の企業が積極的にDXへ取り組めていないことが実情です。

さらに、スイスの国際経営開発研究所(IMD)による下記「世界デジタル競争力ランキング2022」では、日本は63カ国中29位とされ、G7(先進7カ国)の中でも6位と出遅れています。


1位 デンマーク
2位 米国
3位 スウェーデン
4位

シンガポール

5位 スイス
6位 オランダ
7位 フィンランド
8位 韓国
9位 香港特別行政区
10位 カナダ
29位 日本

こうした状況から経済産業省は、いわゆる「2025年の崖」問題に警鐘を鳴らしています。

2025年の崖とは、既存システムを刷新せずに今後も部分的な改修で対応しようとした場合、2025年以降は毎年最大で12兆円の経済損失が生じるという試算のことです。

もともと国内の既存システムは、事業部門ごとに異なる上に、細かなカスタマイズもされている点が特徴です。しかし、こうしたシステムで改修を繰り返すと中身が複雑化し続けるため、システムの運用・保守にかかるコストも増大していきます。

また、今後は従来のシステムを管理できる人材が高齢化によって不足することが予想されているため、運用・保守コストの高騰と不十分な管理によるセキュリティリスクも懸念されています。

日本企業におけるDXの現状DX推進の課題

日本のDX推進が思うように運ばない背景には、いくつかの課題が考えられます。例えば、以下のような問題を抱えている企業は珍しくないのではないでしょうか。


DX推進の課題 主な状況
経営層の危機意識とコミットの欠如
  • DXのための経営戦略がない
  • 既存システムの刷新に前向きでない
既存システムのレガシー化
  • 自社システムの全体像が把握できていない
  • システムの刷新に対する事業部門の抵抗が大きい
IT人材の不足
  • 自社システムに詳しい人材が定年を迎えつつある
  • システム開発をベンダー企業に丸投げしている
事業部門と情報システム部門の連携不足
  • 部門間のコミュニケーションが不足している
  • 開発したシステムが事業の成果につながっていない


先述の通り日本は現在、DXによって既存システムから脱却し、IoTやAI、クラウドなどの新たなデジタル技術を積極的に活用すべき時期にきています。こうした状況に対応するには、事業部門ごとにバラバラに保有するデータを全社的に整理した上で、新しいシステムを構築しなければなりません。

しかし、経営層にそうした意識がなかったり、あったとしても現場サイドは刷新に消極的だったりするといった課題が見られます。また、改修を繰り返した既存システムの中身が複雑すぎて、データを整理しようにも手に負えないという企業もあるでしょう。

結果として、DXがなかなか進まない状況につながっています。

参考:「平成 30 年9月7日デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会 デジタルトランスフォーメーションレポート ~IT システム「2025 年の崖」の克服と DX の本格的な展開~」

DXを進めるポイント

国内のDX推進には課題があるとはいえ、このまま既存システムの改修を続けるリスクを考えると、企業としての競争優位性を維持・獲得するにはDXが欠かせません。そこでここでは、DXを推し進めるのに必要な以下のポイントについて解説します。

  • 経営トップのコミットメント
  • 経営戦略・ビジョンの明確化
  • 体制の整備

経営トップのコミットメント

DXを進める際は、社内に散在するデータを整理したり、新システムの開発で一元管理を目指したりする過程で、部門間の垣根を超えた協力が必要とされる場面が少なくありません。

このとき、経営トップのコミットメントがあれば目指す方向性が定まるため、DXに向けた全社的な動きが起こりやすくなります。

事実、経済産業省による2018年の「DXレポート」でも、新たなデジタル技術を活用するために既存のシステムを刷新した企業には、経営トップの強力なコミットメントがあると考察されました。

また、システムの刷新には5年以上の時間や数百億円の投資が必要となることもあります。こうした経営判断を現場レベルで行うことは難しいでしょう。

経営戦略・ビジョンの明確化

DXは、老朽化したシステムを刷新すれば自動的に実現するというものではありません。あくまでも、新しいデジタル技術を使ってビジネスを変革することが目的です。そのため、具体的な経営戦略やビジョンを示すことも重要となります。

例えば、運送業で「○年以内に荷物の仕分けとトラックへの積載を全拠点で無人化する」という目標を掲げ、実現に向けた計画を作成するといった具合です。

逆にいえば、経営戦略やビジョンがあいまいな状態で「DX推進をするように」といった指示だけをしても、担当者は「いつまでに」「何を」「どうするのか」がわからないため、全社的な動きを生み出すのは難しいといえます。

また、経営計画を確実に実行できるようにするため、自社の戦略について進捗を把握したり、状況に応じた変更を加えたりできるような環境を整えることも大切でしょう。途中で大きな課題が見つかった場合でも、スケジュールの延期を繰り返すような時間とコストの浪費を防ぎやすくなるからです。

参考:「経済産業省 デジタルガバナンス・コード2.0」

体制の整備

経営トップのコミットメントや、経営戦略・ビジョンの明確化はDXの推進に欠かすことのできない要素ですが、実際に変革を起こせるかどうかは体制の整備の有無も影響します。

例えば、DX推進を円滑に進めるための組織を作る、各担当者の責任や権限を明確にする、デジタルスキルに詳しい人材を確保するなど、実現に向けた仕組みの確立が求められるでしょう。

また、「DXは担当者だけがするもの」という意識が社内にまん延すると、企業全体で取り組むべき課題が改善されなかったり、業務内容の変更に対応できない従業員が出たりすることもあります。

そのため、DXが部分的な取り組みで終わってしまうことのないよう、従業員それぞれがDXを自分事として捉えられるような工夫も必要です。

参考:「経済産業省 デジタルガバナンス・コード2.0」

DXを進めるポイントDXの取組事例

DX推進に悩む企業の担当者の方にとって、先行企業がどのような取り組みをしているのかは気になるところではないでしょうか。そこで、参考としてDXの取組事例を3つ紹介します。

経営トップの強烈スローガンでDXを推進|日清食品ホールディングス株式会社

カップヌードルに代表される即席麵などの製造・販売で知られる日清食品ホールディングス株式会社は、経済産業省が選出する「DX銘柄2020」、「DX注目企業2021」に選ばれた、DXの先駆的存在です。

日清食品のDXは、2019年に「DIGITIZE YOUR ARMS(デジタルを武装せよ)」というスローガンをポスターにして社内に掲示し、経営トップの意思をはっきり伝えることから始まりました。

このポスターには、いつまでに何をするのかという数年後の目標も一緒に掲載されているため、変革をイメージしやすいものとなっています。

日清食品は現在、全ての製造工程をロボットが担う次世代型スマートファクトリーを導入したり、営業担当者などが出先で製品情報を確認できる社内アプリの開発を行ったりしています。

※参考:デジタル化へ突き進む日清食品の挑戦!

既成概念を覆すビジョンでDXに挑戦|BMW Group

自動車・オートバイメーカーの独BMW Groupは2022年、DXを活用することで3年以内に車両の4分の1をオンラインで販売するというビジョンを打ち立て、米Adobeとの提携を発表しました。BMWにおけるDXの特徴は、ビジネスにどのような変革を起こすかという目標を明確にしている点です。

具体的には従来のディーラー機能は維持する一方で、車のカスタマイズから購入、納車までをオンラインでも完結させられる仕組みの構築を行っています。

さらに、Adobeの提供する「Adobe Experience Cloud」に顧客データを取り込むことで、パーソナライズされた情報や提案を購入者に届けることも可能となる予定だそうです。データはディーラーでも確認できるため、オンラインで購入した顧客がディーラーに足を運んだ際も、スムーズな対応ができると考えられています。

※参考:BMW Groupとアドビ、シームレスなカスタマージャーニーを実現するためにパートナーシップを拡大

DX人材の社内育成で体制を強化|ダイキン工業株式会社

空調機や化学製品を製造するダイキン工業株式会社は、社内に「ダイキン情報技術大学」を開講し、DX推進のために必要な人材を育成しています。

ダイキンはIT人材の不足をDXの課題として認識していたものの、モノづくり企業としての認知度からデジタルに強い人材の採用に苦戦していました。そこで、株式会社電通国際情報サービス(ISID)の協力も得ながら、AIを活用できる人材の育成へと踏み切ったそうです。

規模としては、2021年度末には1000人のデジタル人材育成を達成、2023年度末には1500人の育成を目標としています。この取り組みにより、受講生の発案で新卒採用時の学生からの質問へ24時間対応するチャットボット開発が実現しました。現在は製品に関するDXを目指し、多数の研究テーマが進行中です。

※参考:イノベーションを起こすAI活用人材を一から育成 ダイキンとISIDが取り組む「企業内大学」の裏側

まとめ

世界的にデジタル技術が進化し続けている状況において、DXによるビジネスの変革は企業の将来を左右する重要な施策といえます。

一方で、企業内にはDXをはばむ複数の課題が存在することも珍しくありません。このような場合、まずは経営トップがDXにコミットし、明確な戦略を打ち出すことが打開策として有効です。その上で必要な体制を整えていけば、全社的にDX推進の方向へと進みやすくなるでしょう。

社内でDXの推進に悩む担当者の方は他社の事例も参考にしながら、自社のビジネス変革に必要な要素を検討してみてはいかがでしょうか。

山本脩太郎
著者情報山本脩太郎

ブイキューブのはたらく研究部 編集長?部長? 2018年株式会社ベーシックに新卒入社。 インサイドセールスを経て、マーケティングメディアferretの編集部でインタビュー記事を中心とした企画・執筆などを担当。 同時期に数社のコンテンツマーケティング支援・インタビュー取材を経験。 2020年3月に株式会社ブイキューブに入社。

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