株主総会の書面決議とは?実施可能な要件や開催の流れ、メリット・デメリットを解説

株主総会 書面決議 要件 流れ

株主総会の書面決議とは、株主総会の開催を合法的に省略できる方法です。新型コロナ感染症対策やコスト削減等で、オンライン形式など株主総会の新しい形式を模索する会社が増加しています。東洋経済新報社によると、2022年にバーチャル株主総会を部分的に採用した会社は前年比2割増の374社、完全バーチャル株主総会を開催した会社は8社に上りました。

この記事では、株主総会を開催せずに済ますには具体的にどうしたらよいのか、株主総会の書面決議に必要な要件や流れ、メリット・デメリット等を解説し、書面決議のデメリットを補える運営方法も紹介します。自社に適した株主総会の運営方法を検討する際にお役立てください。

目次[ 非表示 ][ 表示 ]

株主総会の書面決議とは?みなし決議との違い

株主総会の開催を省略できる書面決議とは、具体的にどのようなものでしょうか。その概要と、一般的な株主総会やみなし決議との違いを説明します。

株主総会の書面決議とは?

株主総会の「書面決議」とは、取締役や株主が提案した議題に対して、株主全員が書面やPDF等で同意すれば、株主総会で決議を得たものとみなす制度です(会社法319条1項)。必要な要件は後ほど詳しく説明します。

実際に株主総会を開催しなくても、郵便やメール等のやり取りで済むため、感染症対策やコスト削減に有用です。決議する議題の内容や範囲に制限はなく、要件が厳しい特別決議や特殊決議など全ての決議に利用できます

(株主総会の決議の省略)
第三百十九条 取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき株主(当該事項について議決権を行使ができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなす。

引用:会社法 | e-Gov法令検索

一般的な株主総会との違い

株主総会の書面決議は、書面等での同意を株主総会での決議とみなす制度ですが、一般的な株主総会とはどのような点に違いがあるのでしょうか。通常、株主総会では下記の手続きが必要です。

  1. 取締役または取締役会が株主総会の招集を決定(会社法298条)
  2. 公開会社は2週間前(非公開会社は1週間前)までに、株主に招集通知を発する(会社法299条)
  3. 株主総会の開催・決議(会社法309条)

一般的な株主総会では、招集決定→招集→開催→決議の流れを踏みます。これに対して、株主総会の書面決議では、株主の招集(上記2)と株主総会の開催(上記3)を省略できるのが大きな違いです。

書面決議では2週間前までの招集通知が不要

さらに公開会社では、一般的な株主総会を開催する場合、2週間前までに株主への招集通知の発送が必要です。一方、書面決議を利用すれば招集自体が不要となるため、2週間前という期限を考慮する必要もありません。

株主総会の書面決議とみなし決議との違い

株主総会の書面決議は、株主総会の「みなし決議」とも呼ばれます。2つの間に意味の違いはなく、呼び方が異なるだけです。

「みなす」とは法律用語で、本来は性質が異なるAとBを法律上は同一のものとして扱う意味があります。つまり、みなし決議(書面決議)の意味は、本来は性質が異なる書面上の決議と株主総会での決議を、法律上は同一のものとして扱うことです。

みなし株主総会とみなし取締役会との違い

株主総会の書面決議(みなし決議)を「みなし株主総会」、さらに、取締役会の書面決議(みなし決議)を「みなし取締役会」と呼ぶこともあります。

みなし取締役会とは、取締役会設置会社において、取締役が取締役会の議題を提案し、全ての取締役が書面または電磁的記録によって同意すれば、取締役会で決議を得たとみなす制度です(会社法370条)。つまり、取締役が提案した議題に全ての取締役が書面やPDF等で同意すれば、取締役会で決議を得たとみなされるため、取締役会の開催を合法的に省略できるのです。

みなし取締役会の実施には定款の定めが必要ですが(会社法370条)、株主総会の書面決議には定款の定めは必要ありません。みなし株主総会とみなし取締役会との違い

株主総会の書面決議(みなし決議)が行える要件

実際に株主総会の書面決議(みなし決議)を行うには、どのような要件が必要なのでしょうか。具体的には、次の2つの要件を満たす必要があります。

要件1:取締役または株主が議題を提案する

会社法319条1項によると、書面決議には『取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合』、つまり1つ目の要件として、取締役または株主からの議題の提案が必要です。

要件2:株主全員の同意が取れる

また、会社法319条1項には『当該提案につき株主(当該事項について議決権を行使することができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたとき』ともあります。

つまり、2つ目の要件として、議決権を持つ株主全員が、書面または電磁的記録により、要件1で提案された議題に同意する必要があります。「電磁的記録」とは、分かりやすく言えば電子データ、たとえばPDF方式で記録されたデータ等です。

まとめると、書面決議の成立には、取締役または株主が議題を提案し(要件1)、議決権を持つ株主全員がその議題に同意したと示す書面やデータ等(要件2)が必要です。

株主総会の書面決議(みなし決議)における流れ

要件を満たした後、実際に株主総会の書面決議(みなし決議)を行うには、どのような流れを踏めばよいのでしょうか。最初に、取締役または株主が議題を提案する必要がありますが(会社法319条1項)、どちらが提案するかで書面決議の流れは変わってきます。

blog_general-meetings-of-shareholders-what_is_written-resolution_1

A.取締役が議題を提案する場合

まず、取締役が議題を提案した場合の流れを説明します。

1.取締役が議題を提案

取締役が議題を提案した場合、取締役会設置会社と非設置会社とでは必要な手続きが異なります。

取締役会設置会社では取締役会が議題を提案

取締役会設置会社では、議題を提案するのは取締役会でなければなりません。理由として、取締役会設置会社では、株主への議題提案を含む「重要な業務執行の決定」は取締役会にて行わなければならないためです(会社法362条4項)。一方、取締役会を設置していない会社では、取締役が議題を提案すれば済みます。

2.代表取締役から株主へ書面や電磁的記録による提案書を送付

取締役会または取締役から議題が提案されたら、代表取締役から全ての株主に「提案書」を郵送やメール等で送ります。

3.全株主から同意書の返送・保管

その後、全ての株主から「同意書」を返送してもらいます。返送期限には法的な制約はありません。全ての同意書が返送された時点で、株主総会で決議を得たものとみなされます。

実際によく見られるのは、会社があらかじめ株主から書面決議への同意を得た上で提案書と同意書を郵送し、株主が署名捺印した同意書を返送する方法です。または、会社が提案書と同意書のPDFをメールで送信、株主がプリントアウト・署名捺印したPDFをスキャンして、メールに添付し会社に返信します。

同意書は、決議を得たものとみなされた日から10年間、本店での保管が必要です(会社法319条2項)。

4.議事録の作成と保管

株主総会には議事録の作成と、株主総会の日(書面決議では決議を得たものとみなされた日)から10年間、本店での議事録保管が必要であり(会社法318条1・2項)、書面決議においてもこの工程は省略できません。

書面決議を行った場合、議事録には下記の内容の記載が必要です(会社法施行規則72条4項1号)。

  • 株主総会の決議があったとみなされた議題の内容
  • 議題を提案した者の氏名ないし名称
  • 株主総会の決議があったとみなされた日
  • 議事録を作成した取締役の氏名

B.株主が議題を提案・同意する場合

次に、株主が議題を提案した場合の流れを説明します。

1.株主が議題を提案・同意

株主が議題を提案する例として、完全親会社が子会社の書面決議を実施するケースが挙げられます。具体的には「提案書兼同意書」を作成し、自らが唯一の株主として議題を提案すると同時に同意します。

2.議事録の作成と保管

上記の例で、唯一の株主が「提案書兼同意書」を作成した場合、代表取締役からの同意書の送付と株主からの返送は発生しません。しかし、この場合においても、議事録の作成と本店にて10年間の議事録保管は必要です(会社法318条1・2項)。

株主総会の書面決議(みなし決議)のメリット・デメリットは?

株主総会の書面決議(みなし決議)に必要な要件と実際の流れを理解した上で、実施を検討するにはメリット・デメリットを押さえておくのが望ましいです。株主総会の書面決議には、次のメリット・デメリットがあります。

メリット1:開催における時間・費用のコスト削減

書面決議の大きなメリットは、株主総会の招集や開催にかかる時間や費用の削減が可能な点です。時間面では、株主側は移動や参加の時間を省け、特に海外等の遠隔地に住む株主にメリットがあります。運営側も招集や開催の手続きに費やす時間を削減でき、M&Aなど速やかな意思決定が必要な場合にも有効です。

費用面では、一般的な株主総会の開催には、会場費・弁当代(お茶代含む)・手土産代等がかかります。会場費の負担が最も大きいですが、収容人数に左右されます。一例として、東京都内で500名収容のホールを借りる場合、基本会場費に加えて、音響・照明・映像の機材・スタッフ費、設営・撤去費等が生じ、合計120〜140万円程度が必要です。これに弁当代と手土産代が加わり、イベント企画会社への運営依頼や総会後の懇親会を考えているなら、その費用もかかります。

書面決議により株主総会を開催せずに済めば、このような費用がすべて削減できるのは大きなメリットです。

メリット2:新型コロナ対策に有用

また、書面決議のメリットとして、物理的な会場での参加者の集結を省けるため、新型コロナウイルス等の感染症対策に有用な点が挙げられます。

経済産業省「株主総会運営に係るQ&A」によると、新型コロナ対策として、株主総会への来場を控える呼びかけや人数制限、時間短縮等が可能であり、その他にも開催延期等の対策が考えられます。これに対して、書面決議では株主総会自体を開催しない対策が可能になるため、感染症対策としては最も効果的です。

デメリット1:株主数が多いと同意が取りづらい

一方、書面決議の大きなデメリットは、提案された議題に対して議決権を持つ株主全員の同意が必要な点です。多くの株主を抱える会社では、その全てから同意を受けるのはそれほど簡単ではありません。

このため、書面決議は株主が1名またはごく少数の株式会社に適した方法と言えます。ある程度の規模の株式会社が、株主総会にかかるコストを軽減したい場合には、より適した方法の模索が必要です。

デメリット2:株主とのコミュニケーションの場がなくなる

また、書面決議のデメリットとして、株主総会という株主とのコミュニケーションの場が失われる点が挙げられます。年に1度の株主総会は、招集や開催の手間はかかりますが、経営者と株主が質疑応答等を通して直接コミュニケーションを取れる貴重な場であるとも言えます。書面決議を実施する際には、株主総会に代わる株主とコミュニケーションを取る方法を用意する等の対策が必要です。

書面決議のデメリットをバーチャル株主総会で補うには

書面決議は株主総会を開催せずに済む便利な制度ですが、全株主による議題への同意が必要なため、株主が10人以上の会社での活用は現実的ではありません。また、株主総会という場がなくなることで、株主とのコミュニケーションが不足するデメリットも生じます。

このような書面決議のデメリットを補いつつ、コスト削減等のメリットを活かせる何か良い方法はないのでしょうか。打開案として、新型コロナ対策に加え、デジタル技術による業務フロー改善の面からも現在注目されている「バーチャル株主総会」を紹介します。

バーチャル株主総会とは?

バーチャル株主総会とは、インターネット等を活用して、株主がオンラインで参加・出席できる株主総会です。

経済産業省による企業価値向上の取り組みの一環として、株主総会当日における経営者と株主との対話を重要視し、対話型株主総会を志向する動きがあります。そのひとつとして近年、バーチャル株主総会を巡る環境整備が行われてきました。

参考:さらなる対話型株主総会プロセスに向けた中長期課題に関する勉強会|経済産業省

2020年2月に経済産業省が策定した「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」によると、株主総会は次の3種類に分類されます。

  • リアル株主総会:従来の、物理的な場所で開催される株主総会
  • ハイブリッド型バーチャル株主総会:リアル株主総会と、バーチャル株主総会(一部の株主がインターネット等の手段によって参加または出席)を併用した株主総会
  • バーチャルオンリー型株主総会:全ての株主がインターネット等の手段によって出席する株主総会バーチャル株主総会とは?

出典:経済産業省「ハイブリット型バーチャル株主総会の実施ガイド」

過去には、法律面でバーチャルオンリー株主総会の開催が法的に認められなかった時代がありましたが、2021年に「場所の定めのない株主総会」に関する制度が創設され、現在では問題なく開催が可能です。

注目されるバーチャル株主総会とは?背景や注意点を解説

バーチャル株主総会については「注目されるバーチャル株主総会とは?背景や注意点を解説」で詳しく解説しています。

バーチャル株主総会のメリットは?

バーチャル株主総会には、次のような多くのメリットがあります。

  • 新型コロナ対策に有用
  • 開催における時間・費用のコスト軽減
  • 遠方や海外在住、家を離れられない主婦等、従来より多くの株主が出席できる
  • 株式総会の透明性向上や、株主重視の姿勢を打ち出せる

特にバーチャルオンリー型株主総会では、株主を物理的な場所に集める手間が省略でき、総会開催にかかる時間や費用が軽減できるのが大きなメリットです。従来の株主総会では大人数を収容するホール等の貸切が必要でしたが、バーチャルオンリー型株主総会では会社の会議室で代用でき、何十万もする会場費を削減できます。

さらに、バーチャル株主総会により、新型コロナ対策やコスト削減といった書面決議のメリットを保持しつつ、デメリットの解消が可能となります。書面決議に必要な、議案に対する株主全員の同意は必要ありません。さらに、書面決議では実現が難しい、株主とのコミュニケーションの活性化にも一役買います。

具体的には、バーチャル株主総会ではオンライン環境があれば、どんな場所からも株主の参加・出席が可能です。遠隔地や海外、育児や介護で家を離れられない等、従来のリアル株主総会には来られなかった株主も含まれます。株主の参加・出席数の増加は株主総会当日の充実化につながり、株主総会での議論の深まりや、個人株主の議決権行使の活性化等も大いに期待できます。

バーチャル株主総会の開催を検討する企業が増加傾向

では、実際にバーチャル株主総会の活用で、株主とのコミュニケーションの活性化に成功した企業事例を紹介しましょう。

グリー株式会社は、2017年の360°オンデマンド動画配信を皮切りに、2019年には「参加型」、2020年には「出席型」のハイブリッドバーチャル株主総会を開催しました。特に、参加型から出席型へと進化した際には、アクセス数は約1.5倍、質問数は約7倍に増加しています。そして、2021年の法整備を受け、満を持してバーチャルオンリー型株主総会を開催しました。

バーチャルオンリー株主総会では、「グリー株主総会Portal」を事前に開設し、株主が出席申込や情報閲覧、質問・アンケート等を予め行えるようにしたことで、総会前における株主とのコミュニケーションを充実化できました。特に、株主側は質問を見直す時間ができたため質問の趣旨をより明確化でき、運営側は回答への準備時間が増えたため丁寧に回答できるようになったのは大きな進歩です。

グリーの事例のように、新型コロナ対策やコスト削減、株主とのコミュニケーションの深化が図れるバーチャル株主総会の開催を検討する企業は増加する一方です。

関連記事:バーチャル株主総会の導入事例

バーチャル株主総会の開催事例が気になる方はこちらをチェック:導入事例 | オンラインイベント・ウェビナー・Web会議ブイキューブ

まとめ

株主総会の書面決議とは、次の2つの要件を満たせば、株主総会の開催を合法的に省略できる制度です。

  • 取締役や株主が議題を提案する
  • その議題を、株主全員が書面やPDF等で同意する

コスト削減・新型コロナ対策に有用な点はメリットですが、株主数が多いと議題への同意が取りづらく、株主とのコミュニケーションの場がなくなるデメリットもあります。

自社の開催規模にあった株主総会の開催方法を検討しよう

株主総会の書面決議は、株主全員の同意を必要とするため、株主がごく少数の株式会社に適した方法です。書面決議が持つメリットは魅力的ですが、ある程度の規模の株式会社では書面決議の採用は現実的ではなく、自社の規模にもっと適した方法を検討した方がよいでしょう。

ご紹介した「バーチャル株主総会」は、会社や株主総会の開催規模を選ばず、どんな規模の会社でも問題なく開催できます。書面決議のメリットを保持しつつデメリットを解消でき、株主とのコミュニケーションも深化できるバーチャル株主総会の採用をぜひご検討ください。

池下菜都美
著者情報池下菜都美

株式会社ブイキューブに新卒入社。 ビジュアルコミュニケーションに関する複数製品のインサイドセールスを経験。現在は、マーケティングコミュニケーショングループにてイベントDX領域における広告運用およびオウンドメディアの編集、ナーチャリングを担当。趣味は映画とダンス。

関連記事