株主総会の議案は何にすればよい?決め方や記載例を紹介
株主総会においては、会社の運営にあたって重要な事項について株主に承認を求めますが、その際には、あらかじめ株主総会の議題・議案を決めて、株主に通知しなければなりません。また、議案の内容によっては、株主総会決議の方法も変わってきますので、株主総会決議に瑕疵が生じないようにするためにも、担当者としては正確に理解しておくことが大切です。
今回は、株主総会の議案の決め方や記載例などについて解説します。
1、株主総会の議案の基本をおさらい
株主総会の議案とはどのようなものなのでしょうか。まずは、株主総会の議案についての基本事項をおさらいしましょう。
(1)そもそも株主総会の議案とは?「議題」との違い
株主総会は、株式会社における最高の意思決定機関であり、会社の基本的な方針や重要事項に関する意思決定を行います。株主総会では、さまざまな事項を決定しますが、決議すべき事項を具体化したものが株主総会の議案です。たとえば、「取締役○○選任の件」といったものが株主総会の議案になります。
このような議案は、株主総会の招集通知に記載をし、決められた期限までに株主に送付しなければなりません(会社法299条4項、298条1項2号)。
議案と区別されるものに議題があります。議題とは会議の目的を指し、議案は議題に関する具体的な提案をいいます。たとえば、「取締役選任の件」というものが議題にあたります。
(2)議案の記載は必須?
株主総会の招集通知には、基本的には「議題」の記載が要求されていますので、議題の中身である議案まで記載する必要はありません。しかし、一定の重要な事項については、議題のほかに議案の要領の記載が求められています(会社法施行規則63条7項)。議案の要領の記載が必要となる主なものとしては、以下のものが挙げられます。
- 役員等の選任
- 役員等の報酬
- 募集株式を引き受ける者の募集
- 募集新株予約権を引き受ける者の募集
- 事業譲渡等
- 定款の変更
- 合併
- 吸収分割
- 新設分割
- 株式交換
- 株式移転
また、電子投票や書面投票を採用する会社では、株主総会参考書類を交付しなければなりませんので、株主総会参考書類に議案の記載が必要になります(会社法298条1項5号、会社法施行規則63条3項イ)。
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2、株主総会|議案の種類
株主総会の議案としてはどのような種類があるのでしょうか。以下では議案の種類と注意すべきポイントについて説明します。
(1)議案の一覧を紹介
株主総会の決議方法には、普通決議、特別決議、特殊決議の3つの方法があります。以下では、株主総会の決議方法ごとに主な議案を紹介します。
決議の種類 | 主な議案 |
普通決議 |
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特別決議 |
|
特殊決議 |
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①普通決議の主な議案
普通決議とは、議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数をもって可決する決議方法です(会社法309条1項)。株主総会における基本的な決議方法がこの普通決議です。
株主総会の普通決議で決める議案としては、以下のものが挙げられます。
- 取締役等の選任
- 取締役等の解任
- 役員報酬額等の改定
- 剰余金の配当
- 剰余金の額の減少
- 剰余金についての処分
- 自己株式取得(株主との合意による取得は特別決議)
- 資本金額の増加
- 資本金額の減少(ただし、分配可能額より少なくなる場合)
- 準備金額の増加・減少
- 競業・利益相反取引などの承認
②特別決議の主な議案
特別決議とは、議決権の過半数を有する株主が出席して、出席した株主の議決権の3分の2以上をもって可決する決議方法です(会社法309条2項)。一定の重要な議案を決議する場合には、普通決議よりも厳格な要件である特別決議によって決議を行います。
株主総会の特別決議で決める議案としては、以下のものが挙げられます。
- 譲渡制限株式の買取
- 特定株主からの自己株式取得
- 譲渡制限株式の株式売渡請求
- 株式の併合
- 募集株式の募集事項の決定等
- 監査役および累積投票で選任された取締役の解任
- 役員の損害賠償責任の一部免除
- 資本金の額の減少
- 定款の変更
- 現物配当
- 解散
- 事業譲渡の承認
- 組織の変更、合併、会社分割の組織再編等
③特殊決議の主な議案
特殊決議とは、議決権を行使できる株主の半数以上かつ当該株主の議決権の3分の2以上をもって可決する決議方法です(会社法309条3項)。特殊決議は、もっとも厳格な決議方法であり、一部の重要な議案についてのみ特殊決議が行われます。
株主総会の特殊決議で定める議案としては、以下のものが挙げられます。
- 発行株式の譲渡制限の規定の定款変更
- 一定の吸収合併契約等の承認等
(2)注意すべきポイント
上記のように議案に応じて、株主総会の決議方法が異なってきます。決議方法を誤ってしまった場合には、株主総会決議に瑕疵が生じ、株主総会決議の取消事由となります。
株主総会決議事項のすべてを覚えるのは難しいですが、株主総会決議をやり直すことになれば時間も費用もかかりますので、株主総会の運営を担当する法務・総務の担当者は、より重要度の高い、特別決議および特殊決議が必要な事項のうちの基本的なものについては押さえておかなければなりません。そのためには、日頃から会社法についての理解を深めるための自主学習や社内研修の実施、顧問弁護士への確認などが大切です。
3、株主総会|議案の決め方
株主総会の議案は誰が決めるのでしょうか。以下では、株主総会の議案の決定方法・流れとその注意点などについて説明します。
(1)議案は誰が決める?
株主総会を開催するには、取締役(取締役会設置会社では取締役会決議)において、以下の事項を定める必要があります(会社法298条1項)。
- 株主総会の日時および場所
- 株主総会の目的である事項
- 書面投票制度を採用する場合にはその旨
- 電子投票制度を採用する場合にはその旨
- その他法務省令で定める事項
「株主総会の目的である事項」には議題、議案が含まれますので、基本的には、議案は取締役または取締役会決議によって決めます。
ただし、株主には、株主総会の目的である事項について、議案の提出が認められています。これを「株主による議案提案権」といいます(会社法304条)。この議案提案権は、株主総会の場で修正動議として提出されるのが一般的で、一定の要件を満たす株主が行使できます。そのため、株主にも一定の範囲で議案を決める権利があるといえるでしょう。
(2)議案決定までの流れ
取締役会設置会社において、株主総会の議案を決定する場合には、以下のような流れで行います。
①取締役会の招集決定
取締役会の招集は、各取締役が行えますが、定款や取締役会決議によって特定の取締役を招集権者と定めた場合には、その取締役のみが招集できます(会社法366条1項)。
②取締役会の招集通知
取締役会の招集権者は、取締役会の開催日の1週間前までに各取締役に招集の通知を行います。ただし、取締役全員の同意があれば招集通知を省略できます。
③取締役会の開催
取締役会決議は、原則として議決に参加できる取締役の過半数が出席し、その過半数の賛成をもって行います。
(3)注意すべきポイント
取締役会決議に利害関係のある取締役がいる場合には、その取締役を除外して決議をしなければなりません。
たとえば、取締役の責任の一部免除を株主総会の議案にする場合には、当該議案に関係する取締役は特別の利害関係を有する取締役になります。このような特別の利害関係を有する取締役は、議決に加わることができず、当該決議事項について定足数からも除外されます(会社法369条2項)。
そのため、取締役3人で構成される取締役会でそのうち1人が特別利害関係にある場合には、残りの2人が出席し、2人とも決議事項に賛成しなければ議案は否決されてしまいます。
4、株主総会|議案の書き方
株主総会の議案は、株主総会の招集通知に記載して株主に知らせますが、どのような内容を記載すればよいのでしょうか。以下では、株主総会の議案の書き方について説明します。
(1)「報告事項」「決議事項」で分ける
株主総会の目的事項は、「報告事項」と「決議事項」に分けて記載をします。
報告事項とは、会社が1年を通じてどのような成果を上げたのかを株主に説明する事項であり、事業報告、計算書類、連結計算書類、連結監査結果の内容の報告がメインとなります。
決議事項とは、会社の運営にあたって重要な事項について株主に承認を求める事項であり、役員等の選任・解任、役員報酬、剰余金の配当などが決議事項に含まれます。
(2)記載の順番
法律上の決まりがあるわけではありませんが、報告事項を先に記載し、決議事項を後に記載するのが一般的です。また、決議事項については、株主や会社にとって重要な事項(剰余金の配当、資本金減少、定款変更、役員選任・解任など)を先に記載し、役員報酬関係は後に記載するのが一般的です。
(3)記載例
株主総会の招集通知に記載する目的事項(報告事項および決議事項)の記載例としては、以下のようになります。
【雛型】
報告事項
1.第○期(○年○月○日から○年○月○日まで)事業報告の内容、連結計算書類の内容ならびに会計監査人および監査役会の連結計算書類監査結果報告の件
2.第○期(○年○月○日から○年○月○日まで)計算書類の内容報告の件
決議事項
第1号議案 定款一部変更の件
第2号議案 取締役○名選任の件
第3号議案 監査役○名選任の件
第4号議案 退任取締役および退任監査役に対し退職慰労金贈呈の件
第5号議案 役員賞与の支給の件
第6号議案 取締役および監査役の報酬額改定の件
なお、株式会社大林組や株式会社ベネッセホールディングスにおいても上記のような順序で目的事項に記載がなされています。
5、まとめ
株主総会の議案は、内容によって招集通知への記載が必要なものと不要なものがあり、決議方法も異なってきます。株主総会の運営を担当する総務・法務の担当者は、株主総会決議に瑕疵が生じないようにするためにも、これらの違いを正確に理解しておくことが大切です。
また、株主総会によって議案の決議をした場合には、その内容を議事録として残しておかなければなりません。議事録に記載すべき事項は議案以外にもさまざまなものがありますので、こちらもしっかりと押さえておきましょう。