中小企業で深刻な人手不足!今すぐ取り組める施策3選と企業成功事例
人口減少は、日本における深刻な社会問題の一つです。
総務省の「情報通信白書(平成30年度版)」では、日本の総人口が2008年をピークに減少の一途を辿っていることが報告されています。このままでは、少子高齢化社会がエスカレートしていくのは否めないでしょう。
こうした社会変化の中で決して無視できない課題が、人口減少が労働市場に与えるインパクトです。
労働人口が減ることで、求職者にとっては「売り手市場」に突入し、就職氷河期とうたわれた1990年代と比較すれば、就職に有利な状況であるといった旨の報道も見かけます。
しかし企業にとっての人口減少は、喜ばしいものではありません。業務の激化、負担の一点集中による社員のストレスケア、相次ぐ離職といった組織課題に対応しながら、加速化していく人材確保競争に勝たねばならないのです。
こうした未来予測から、すでに事業存続の危機を懸念している企業担当者の方も少なくないのではないでしょうか。
そんな人手不足への対策の一つとして今回ご紹介したいのが、テレワークの導入です。
減少していく人口を増やすことは非現実的ですが、今までリーチアウトできていなかった人材を活用するといった点で、非常に有効な策と言えます。
そこで本記事では、人手不足の現状やその問題点を正しく理解した上で、中小企業が人手不足を解消し、優秀な人材を確保できるようになるための方法をご紹介します。
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中小企業が深刻って本当?数字で見る日本における人手不足の実態
少子高齢化にともなう労働人口(20〜60代)の減少は、日々、さまざまなニュースで取り上げられています。
労働市場における人手不足は社会課題として多くの企業が問題視してはいますが、実際にはどれだけ深刻なのでしょうか?
例えば帝国データバンクの「人手不足に対する企業の動向調査(2018年10月)」によれば、正社員の人材不足を感じているのは企業の52.5%となっています。捉え方によっては、半数近くの企業が人手不足を感じていないとも言えるでしょう。
そこで、より正確に人材不足の実態を測るために、「有効求人倍率」を見てみましょう。
有効求人倍率とは、人材不足を測るための指標の一つです。
「1」を中間値とし、これより大きくなるほど「求人数が多く、働き手が不足している」状態、反対に小さくなるほど「求職者が多く、企業にとってはよりどりみどり」な状況を表します。
日本における有効求人倍率は、2010年から8年連続して増加の傾向にあり、2017年は「1.50倍」、翌年2018年には「1.60倍」となっていました。
これは中間値を大幅に上回っており、つまり「求人数が求職者より多い」、究極の人手不足状態が読み取れます。
そこでもう一つ、リクルートワークス研究所が行った調査「ワークス大卒求人倍率調査(2019年卒)」を参考に、従業員別の求人倍率を確認してみましょう。
(画像引用元:第35回 ワークス大卒求人倍率調査)
同調査によると、従業員規模が5,000人以上の大企業の求人倍率は、0.37倍でした。これは、1人の採用枠に対して3人の学生が応募していることを指します。
つまり大企業においては、人手不足どころか、求職者からの応募は増えている喜ばしい状態であることがわかります。
一方、中小企業の場合はどうでしょうか。300人未満の中小企業の求人倍率は、大企業のそれとは対象的に、過去最高となる9.91倍を記録していました。
前年の6.45倍からは3.46ポイントも上昇しています。
つまり10社が、1人の求職者を同時に求めているということです。
これらのことから、日本の労働市場における人手不足は、中小企業において非常に深刻である実態が考察できるでしょう。
なお、下の図のように、日本の企業は99.7%が従業員300人以下の中小企業となっています。
(参考:経済産業省|2017年版中小企業白書)
※グラフの中で「者」と表記されているものは、正しくは「社」です。
しかし企業の事業維持・拡大のためには、どの企業もこうした逆境の中で、優秀な人材を確保し続けなければいけません。
つまり今までと同じ採用戦略に固執しているままでは、今後の人材確保競争に勝てる保証はどこにもないのです。
この機会に改めて、自社の採用アプローチを見直すべきです。
人手不足の深刻度合いは業種別でも異なる
人手不足の深刻化が中小企業において顕著であると説明しましたが、従業員規模の他にも、業種別に検証する切り口もあります。
パーソル総合研究所と中央大学が共同発表した「労働市場の未来推計2030」は、2030年時点での労働人口不足人数が、644万人まで増加すると推測しています。これは将来、現在の5倍以上も人手が不足する計算です。
また産業別でみると、製造業、飲食などのサービス業において人手不足に陥るといった予想が立てられているようです。
(画像引用元:労働市場の未来推計 2030)
その他、人手不足が深刻と言われる流通業の求人倍率は12.57倍と、前年の11.32倍より1.25ポイント上昇。建設業の求人倍率も9.55倍と、前年の9.41倍よりも0.14ポイント上昇しています。その一方で金融業は0.21倍、情報・サービス業は0.45倍と、1倍を切る結果となっています。
つまり求職者は金融・情報などのいわゆるホワイトカラーの仕事を求め、流通業・建設業などのいわゆるブルーカラーの仕事は敬遠する傾向にあると、一応は考えることができます。このように、人手不足の程度は業種によって偏りがあることがわかります。
ただし、今後さらに人手不足が加速すれば、現状問題を抱えていない中小企業も、優秀な社員確保に頭を抱えることとなるでしょう。そうした時代が到来する前に、今のうちから求職者に働きたいと思ってもらえる環境づくりに目を向ける必要があるわけです。
中小企業でも取り入れられる!人手不足を解消するための施策3選
それでは、中小企業でも今すぐ導入を検討できる、人手不足解消のための手立てを3つご紹介します。
- 業務のIT化 → 労働生産性を高める
- 労働条件の改善 → 求職者への訴求力を高める
- テレワークの導入 → 潜在的労働者を活用する
以下、それぞれ詳しく説明します。
1. 業務のIT化 → 労働生産性を高める
「猫の手も借りたい」とはよく言われますが、外部の人材確保よりも取り掛かりやすい施策が、既存社員の生産性向上です。
具体的には、ITツールによって業務を自動化・効率化することです。
今まで手動で行っていた作業を自動化させることで、余った時間を本来注力すべき事業に割くことができ、結果的に業務全体の効率性アップが臨めます。
削減できた人件費分は、働く環境を改善するための費用や従業員の賃金を上げるための費用に充てることもできます。
結果、外部の人材への追加アプローチも叶い、人手不足の解消につながるはずです。
▼中小企業でも導入しやすいITツール例
Web会議システム、クラウド型データ管理システム、ビジネスチャット、電子契約サービスなど
機能や特徴はさまざまですので、闇雲には導入せず、自社またはチームの課題解決に適したツールを選びましょう。
※「ITツールを導入したい」と考えていらっしゃる方は、ぜひ様々なコミュニケーションツールを紹介した「ワークスタイル変革時代のコミュニケーションツール読本」をご覧ください。本資料では、ITツールの基本や選び方が分かりやすく記載してあります。資料は、どなたでも無料でダウンロードができます。
ここで、前述した「中小企業でも導入しやすいITツール例」で挙げたWeb会議システム・ビジネスチャットツールの中から、手軽に取り入れられるツールをピックアップして紹介します。上記の資料「ワークスタイル変革時代のコミュニケーションツール読本」とあわせて参考にしてみてください。
Zoomミーティング
製品名:Zoom ミーティング
提供元:V-CUBE
価格帯:4タイプで異なる。
- パーソナルミーティング:無料
- プロ(小規模チームに最適):2,200 円/月(年契約:26,400円)
- ビジネス(中小企業向け):要問い合わせ
- 企業(大企業向け):要問い合わせ
自社の規模に合わせてプランを選択できるのが、「Zoom ミーティング」の特徴です。
プランによっては最大1000人まで1つのWeb会議に参加することが可能な上に、最大49人分の映像を同時に画面に表示できるという、大規模な会議にも向く仕様。社内外で大規模な会議を行うことがあるという企業におすすめです。
音質や画質の高さはもちろんですが、「Gmail」や「Googleカレンダー」といった外部のツールとも連携して活用することで、会議参加者のスケジュール日程の調整もスムーズに行えるようになっています。
また、全ての会議が暗号化される仕組みになっているため、セキュリティ面も安心。会議の際には、オプションであるアンケート機能や質疑応答機能といった便利な機能も活用することで、臨場感のある会議を実現できることでしょう。
Zoomの有料版を使うべきメリットとは?
Web会議ツールZoomの有料版を使うべきメリットについては、「Zoomの有料版を使うべきメリットとは?無料プランとの違いや決済方法を解説」のページでも詳しく紹介しています。ぜひあわせてお読みください。
③ハングアウトMeet
商品名:ハングアウトMEET
提供元:Google.com
価格帯:2週間の無料使用と有料プランあり
- Basic: 680円/月
- Business:1,360円/月
- Enterprize:3,000円/月
▼機能
カレンダー共有機能/画面共有機能/メール・ファイル共有機能/リアルタイム共同編集機能/二段階認証
▼導入事例
freee株式会社、株式会社アシックスなど多数。
▼参加人数目安
「Enterprize」プランでは最大30人が、その他のプランは25人までが参加可能。
▼特徴・利用シーン
中規模の会議を開くことが多い企業に向いているソフトウェアです。会議を設定してリンクを共有するだけで会議を開くことができるため、誰でも容易に参加することができます。
ビジネスチャットツールー①Chatwork
サービス名:Chatwork (チャットワーク)
対象企業:中小企業~大企業まで
価格:
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フリー(無料お試し)
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パーソナル(個人):400円/1ユーザー/月
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ビジネス(組織用):500円/1ユーザー/月 ※年間契約なら417円/月
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エンタープライズ(管理機能強化):800円/1ユーザー/月
特長:
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デスクトップ、スマートフォンやタブレットなどマルチデバイス対応
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Gmail、Twitter、SmartHRほか各種サービスの通知情報の集約可能
-
国際セキュリティ規格 ISO27001(ISMS)認証・ISO27017認証・ISO27018認証を取得
実績:導入企業225000社以上
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1カ月あたり25000時間以上の業務効率化(株式会社サイバーエージェント)
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メールの量が1/3に激減し社員のモチベーションアップ(常磐興産株式会社)
提供元:Chatwork株式会社
②Slack
サービス名:Slack
対象企業:中小企業~大規模企業まで
価格:
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スタンダード(中小企業向け):850円/1ユーザー/月(年額払いの場合)
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プラス(大規模企業向け):1600円/1ユーザー/月(年額払いの場合)
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Enterprise Grid(規制の厳しい業界や大規模で複雑な組織向け):オープン価格
特長:
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チーム別、プロジェクト別、顧客別にチャンネル作成可能
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PDF、画像、動画などのファイルをドラッグ&ドロップ可能
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連携できるアプリは1500点以上
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ISO 27001 を始めとする多様なセキュリティ基準に準拠
実績:TIME、BuzzFeed、ebay、ORACLE、DeNA、cookpadなど150カ国85000社以上に導入提供元:Slack Technologies Inc.
2. 労働条件の改善 → 求職者への訴求力を高める
人手不足を解消するための次なる手段が、労働条件の改善です。
例えば、下記のような例が挙げられます。
・賃金を上げる
・労働時間の短縮
・福利厚生の充実
・評価制度の見直し
労働条件の悪い企業には、当然、優秀な人材も集まりません。人手不足を企業ベースまで落とし込めば、そこには単なる人口減少だけではなく、労働関係が起因している可能性も否定できないわけです。
国ではこういった労働条件の改善に取り組む中小企業に対して、補助金等の支援も充実させています。例えば賃金制度を見直すことで賃金水準を向上させ、離職率を低下させる取り組みを行う企業に対して 「人材確保等支援助成金(人事評価改善等助成コース)」という助成金を準備。そのほか建設業において、現場の技術者の賃金や資格手当を増額した中小企業に支給される「建設事業主等に対する助成金(旧建設労働者確保育成助成金)」などもあります。
※中小企業では2020年4月から、時間外労働の上限規制等、働き方改革関連法案が施行されます。こういった制度に適応するためにも長時間労働の是正に取り組みましょう。
3.テレワークの導入 → 潜在的労働者を活用する
人材の定着率を高め、なおかつ社外から魅力ある企業として捉えてもらうためには、働きやすい職場づくりにも取り組みましょう。
例えば、下記のような改善案が考えらえます。
・育児や介護と仕事との両立
・通勤にともなうストレスを軽減
・フレックス制度
これらの体制を整えるための施策が、テレワークです。
テレワークとは、英語の「Tele(離れて)」と「Work(働く)」が組み合わさった造語で、時間や場所にとらわれない柔軟かつ自律的な働き方のことです。
これからの日本社会では、少子高齢化によって労働人口が減少する一方です。
若い従業員を確保することそのものが、難しくなるのです。
そこで多くの企業が行っている対策が、かつて労働市場に参画していた人材プールへの再アプローチです。具体的には、子育てや介護で離職してしまった女性や、定年退職したシニア、そして出身地である地方への「Uターン」「Jターン」就職をした潜在的労働者などが当てはまります。
彼らのネックの多くは、企業に在籍し続けることによって、守るべき生活リズムが崩れてしまうことにあるでしょう。
そこでテレワークを導入し、子どもを見守りながら在宅で勤務できる仕組みや、幼稚園の送り迎えにあわせた時短制度を検討しましょう。
労働場所や時間を従業員の希望により沿わせることができれば、下記のように、極めて有効なリターンを期待できるようになります。
▶️通勤(移動)時間の消滅・・・生産性の向上、コスト削減
▶️オンライン面接の実施・・・遠方にいる優秀な人材の確保
▶️在宅ワークなど柔軟な働き方の実現・・・離職率の減少
▶️災害時の自宅稼働・・・事業継続性の確保
またテレワークが制度化されていれば、外国人雇用や、在外邦人(日本国外に長期滞在している日本人)へのリーチアウトも可能です。
ワーキングホリデーやフリーランスビザで海外滞在している人材や、配偶者の駐在に同伴している専業主婦・主夫の方へのオファーもできるでしょう。
※日本政府も働きやすい職場づくりの支援のため、テレワークを継続的に活用する中小企業に対して「時間外労働等助成金(テレワークコース)」をはじめとした補助金を準備しています。このような制度も活用しながら、働きやすい環境づくりを進めていきましょう。
人手不足の解消に取り組む企業事例3選
では最後に、人手不足の解消に取り組む企業について、経済産業省が発表する「中小企業・小規模事業者の 人手不足対応事例集」のなかから3社をピックアップして紹介していきます。
株式会社LiB:兼業を認めることで転職市場に出ない優秀人材を確保
人材紹介業を行う「株式会社LiB」では、創業期に優秀な人材を確保するために、企業経営者や他社在籍者、フリーランサーなど他の仕事をしながらでも正社員として働ける「メンバーシップオプション」制度を導入。子育て中の女性や地方在住の人材の活躍場も、提供しているといいます。
具体的には勤務日数を週4日とし、勤務時間中に他社の業務を並行して行うことを認めたそう。 導入にあたってはオンラインツールを活用することで、出社する時間が短くとも活発にコミュニケーションできるような環境へと整備。時間ではなく成果で評価する、独自の人事考課も実施しています。
その結果、従来の雇用条件では確保できない優秀な人材の確保に成功。「複業」を行う従業員が相互にいい影響を及ぼし、社員の定着にも成功したそうです。 正規雇用者60名のうち14名が時短、リモートワークを組み合わせた社員であり、とくに営業メンバーは約半数が時短社員にも関わらず、高い生産性を維持しているといいます。
株式会社レキサス:明確なビジョンの伝達で優秀人材を確保
沖縄で情報通信業を営む「株式会社レキサス」は、当初新しいビジネスモデルの構築などを行うためにポテンシャルのある学生や、自社のビジョンにマッチした経験者など、優秀な人材の確保が必要でした。しかし成長意欲が高い県内の学生ほど県外の企業を志望するなど、採用に苦労していた背景があったといいます。
そこで県内学生に対しては、過去県外の第一線で活躍してきたメンバーが社内に多数在籍し、沖縄にいながらでも彼らと一緒に第一線の仕事を経験できる旨を説明。経験者の採用に関しては、数回にわたる面談を通して繰り返しビジョンの擦り合わせを行いました。
また1ヶ月32時間まで利用できる「テレワーク勤務制度」や「プチフレックス制度(例えば7時〜16時までの勤務が可能など)」を導入し、個人のライフスタイルを尊重する環境へと整備したといいます。
その結果、県内の優秀な学生の確保につながり、社員の定着率も向上。女性社員の産休・育休取得率も、100%という結果につながりました。
兵庫ベンダ工業株式会社:子育て支援への注力で企業PRに成功
製造業を営む「兵庫ベンダ工業株式会社」はもともと、会社が地方にあるために優秀な人材を採用することが困難であったり、採用しても3年程度で約半分はやめてしまったりといった課題がありました。
そこで雇用条件の改善などにより社員の定着率を高めたいと考え、子育てを支援し、介護離 職を防ぐ等の目的でテレワークを導入。従来の家族手当に加え、「育児教育手当制度」を導入し、子供の課外活動のための手当も支給しました。 また家族手当のうち、子供の手当も増額したといいます。
その結果、従業員満足度が向上し、採用においては東京在住の優秀な人材を確保できるまでに。子育て支援企業として、社外へのPRにもつながったといいます。
人手不足の改善にはテレワークが必須!生産性向上と労働条件の改善を図ろう
ここまで紹介した通り、人手不足解消の鍵は、まず自社の生産性向上に経営者が取り組むことです。
中小企業においては求職者に選ばれる企業となるためにも、労働条件を改善する必要があります。
少しでも人手不足のインパクトを軽減するために、ぜひ今から、自社の労働環境改革を検討してみてください。