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求職者にとっては「売り手(就職したい人)市場」と呼ばれ、現在は就職に有利な状況であるといった旨の報道を見かけます。一方で「人手不足」といったキーワードを目にする機会も多く、企業にとっては不利な状況もあるよう。そこで今回はこの人手不足について、現状を踏まえた上で、中小企業ができる対策を紹介していきます。

人手不足は本当に深刻なのか?

少子高齢化にともなう現役世代(20代〜60代)の比率の低下で、働き手が不足している現状を受け、人手不足と呼ばれることがあります。帝国データバンクの調査によれば、企業の52.5%が人材の不足を感じているというデータもあります。では本当に、人手不足は深刻なのでしょうか。


人手不足が深刻なのは中小企業

リクルートワークス研究所が行った調査によると、従業員規模が5000人以上の大企業の求人倍率は0.37倍。これは前年の0.39倍から0.02ポイント低下しています。つまり、1人の採用枠に対して3人の学生が応募しているということ。規模の大きい会社にとっては、むしろ求職者からの応募は増えており、人手不足とは言えないようです。


一方で、中小企業となると話は変わってきます。先ほどの調査によると、300人未満の中小企業の求人倍率は過去最高となる9.91倍と、前年の6.45倍から3.46ポイントも上昇。つまり1人の求職者を、10社が求めているということです。

 

求人倍率

(画像引用元:第35回 ワークス大卒求人倍率調査


先のリクルートワークスの調査では、全国の民間企業の求人総数は、前年の75.5万人から81.4万人へと増加。それに対して就職希望者数は、前年とほぼ同水準の43.2万人と、38.1万人分の求人が余る計算となります。つまり確かに全体でみると、企業は人手不足と捉えることができるわけですが、そこには主に大企業と中小企業で偏りがあるわけです。


人手不足の深刻度合いは業種別でも異なる

業種別となるとまた、様相が変わってきます。例えば人手不足が深刻と言われる流通業の求人倍率は12.57倍と、前年の11.32倍より1.25ポイント上昇。建設業の求人倍率も9.55倍と、前年の9.41倍よりも0.14ポイント上昇しています。その一方で金融業は0.21倍、情報・サービス業は0.45倍と、1倍を切る結果となっています。


つまり求職者は金融・情報などのいわゆるホワイトカラーの仕事を求め、流通業・建設業などのいわゆるブルーカラーの仕事は敬遠する傾向にあると、考えることができます。このように、人手不足である業種とそうでない業種で偏りがあることがわかります


人手不足企業の共通点は労働条件の過酷さ

日本人の勝算」の著者であるデービッド・アトキンソン氏(以下、アトキンソン氏)によれば、とくに人手不足が深刻といわれる業種では、非正規労働者が多く、賃金水準が非常に低いなど労働条件が過酷であるといった共通点があるようです。


ここで労働市場の未来推計 2030によると、2017年時点で企業の求人に対して121万人分の人手不足は、2030年には644万人まで増加すると推測されています。これは将来、現在の5倍以上も人手が不足するということ。


さらに産業別でみると、製造業の38万人をはじめ、飲食などのサービス業は400万人分もの人手不足に陥るといった予想が立てられているようです。

 

産業別人手不足の推測値

(画像引用元:労働市場の未来推計 2030


このように今後さらに人口が減少し、求職者にとって有利な状況がますます加速すれば、当然ですが過酷な労働条件でも働かざるをえないといった人は減っていくはずです。とくに中小企業にとっては、企業が選ぶ時代から求職者に選ばれる時代へと変わっています。


中小企業にとっては人手不足を、人口減少にともなう「仕方のないこと」と割り切るのではなく、求職者に働きたいと思ってもらえる環境づくりに目を向ける必要があるわけです。

人手不足解消の鍵はまず生産性の向上にあり

人材を確保する以前に、生産性を高める工夫についても考えていく必要があります。


仮にこれまで5人の人手が必要となる業務があったとして、人手不足の影響で3人しかその業務に手が回せない状態になったとします。ここで一般的に考えれば、不足した2人を補おうとするかもしれません。


しかし生産性を向上させることに目を向ければ、5人必要だと思っていた業務を3人で回せるようになるかもしれません。これは企業にとっては、従業員1人あたりの生産性向上、ひいては人件費の削減につながるはずです。


そして削減できた人件費分は、働く環境を改善するための費用や従業員の賃金を上げるための費用に充てることができます。その結果、社内外問わず働きたいと思う人が増えれば、結果的に人手不足の解消にもつながるはずです。


外国人雇用の拡大は生産性の低下をまねく

人手不足を解消するために、外国人人材を受け入れるという方法もあります。実際、2019年4月からは、外国人の受け入れをさらに拡大する「出入国管理法」の改正法案が施行され、今後はますます外国人雇用の拡大が期待されます。


一方でこういった安易な外国人人材の受け入れに対し、先に紹介したアトキンソン氏は、さらなる生産性の低下をまねくとして警笛を鳴らしています。


氏によれば、中小企業の多くはこれまで優秀な日本人人材を安い賃金で雇うことで、人件費を抑えながら企業を存続させてきたそう。企業そのものの生産性向上に目を向けなくても、こういった安く雇うことのできる優秀な人材のおかげで、本来であれば存続が難しい企業も生き延びてきました。その名残からか、現在でも人手不足にだけ目が向き、生産性の向上に真剣に取り組む経営者が少ないといいます。


このような状況下で外国人人材の受け入れを拡大しても、生産性の向上はますます隅に追いやられ、企業ならびに日本にとって本質的な解決にならないと見解を述べています。


若年層以外の人材育成に取り組む必要が出てくる

また生産性を向上させるためには、若年層以外の人材育成に取り組む必要があると、アトキンソン氏は著書のなかで述べています。


一般的に人材育成は、新卒など20代の若年層に向けて実施するものという見方があります。一方でこれから先は、少子高齢化によって若い人の人数はどんどん減っていきます。つまり若い従業員を確保することそのものが難しくなるわけです。


するとスマホやSNSなど新しい技術に適応できる人が入って来ず、そうなると企業はすでに在籍する古参の従業員とともに、生産性の向上に取り組んでいく必要があります。


事業環境が変化するなかで、とくに古参の従業員にとっては、人生の初期に受けた教育や学んだ知識だけで、生産性の向上に取り組むのは困難といえます。そこで今後は、若年層のみならず古参の従業員に対しても新しい知識を学んでもらうために、人材育成に取り組む必要があるといいます。


このように年齢に関係なく人材育成が受けられる環境の整備は、今後の少子高齢化のなかで生産性を高めていくためには、必要不可欠といえるでしょう。

人手不足解消のために中小企業ができる対策とは?

生産性の向上に目を向けることがまず、大事であると述べました。ではその上でさらなる人手不足解消のために、中小企業ができる対策にはどのようなものがあるか、考えていきたいと思います。


賃金の引き上げなど労働条件の改善

前述した通りアトキンソン氏は、人手不足がひどいといわれる企業の共通点として、賃金水準の低さなど労働条件の悪さを指摘しています。つまり人手不足は、人口減少に起因するばかりではなく、企業の労働条件も関係しているわけです。


そこで人手不足を解消するための手段として、労働条件の改善は必須といえるでしょう。賃金を上げるのみならず、長時間労働が蔓延するのであれば労働時間の短縮も図りたいところ。中小企業では2020年4月から、時間外労働の上限規制等、働き方改革関連法案が施行されるため、こういった制度に適応するためにも長時間労働の是正に取り組みましょう。


国ではこういった労働条件の改善に取り組む中小企業に対して、補助金等の支援も充実させています。例えば賃金制度を見直すことで賃金水準を向上させ、離職率を低下させる取り組みを行う企業に対して 「人材確保等支援助成金(人事評価改善等助成コース)」という助成金を準備。そのほか建設業において、現場の技術者の賃金や資格手当を増額した中小企業に支給される「建設事業主等に対する助成金(旧建設労働者確保育成助成金)」などもあります。


賃金と生産性の向上は密接に関係している

アトキンソン氏の著書によると、生産性を向上させる効果が最も高いとの見方から、現在欧州を中心に国を挙げた最低賃金の継続的な引き上げに取り組んでいるといいます。実際、最低賃金と生産性には密接な相関関係があり、最低賃金が上がるほど生産性も向上するであろうと考えられています。

 

生産性と最低賃金との関係性

(画像引用元:東洋経済オンライン


これは国単位での視点ですが、企業にも当てはまるはずです。つまり賃金の引き上げによって、企業の生産性向上も期待できるわけです。


働きやすい職場づくり

人材の定着率を高め、なおかつ社外から魅力ある企業として捉えてもらうためには、働きやすい職場づくりにも取り組みたいところ。例えば、育児や介護と仕事との両立、また通勤にともなうストレスを軽減するためにテレワークを導入するなど、出社せずとも仕事ができる環境の整備などが挙げられます。


国もこういった働きやすい職場づくりを支援するために、「時間外労働等助成金(テレワークコース)」など、テレワークを継続的に活用する中小企業に対して補助金を準備しています。このような制度も活用しながら、働きやすい環境づくりを進めていきましょう。


そのほか、働きやすい職場づくりのためには以下のような方法も存在します。


物理的に職場環境を改善する

空気清浄機の設置や冷暖房の温度を一定に保つ、また集中しやすい明るさに調整するなど、物理的な面でも職場環境の改善に取り組んでいきましょう。


従業員の意見を上層部が聞き入れる体制づくり

とくに中小企業などの企業規模の小さい会社では、ワンマン社長のもと、従業員は意見を聞き入れてもらえないといった問題もあるはずです。


職場環境や業務等に不満や改善の余地があったとしても、それを聞き入れてもらえない環境では、従業員はますます不満が募ります。そこで社長を含む上層部対して意見を言いやすくなるよう、提案制度の設置も検討してみましょう。


といってもこれまでの延長から、強制感の漂う状態で「会社に対して意見してくれ」ではハードルが高く、また強要されることで逆に従業員の不満につながってしまう恐れがあります。


そこで業績に貢献するような提案をした者には一定の報酬を用意したり、はじめは簡単なアンケートから始めてみたりなど、提案制度を浸透させるための工夫もあわせて考えましょう。


働く女性やシニアを増やす

人手不足を解消するためには、子育てなどで離職してしまう女性、また定年退職するシニアにいかに働き続けてもらうかを考える必要もあります。


女性の場合、働き続けることを妨げる要因として育児との両立の難しさが考えられます。そこでテレワークの導入によって子供を見守りながら在宅でも勤務できる仕組みや、幼稚園の送り迎えにあわせた時短労働の導入なども検討しましょう。


国では「両立支援等助成金(女性活躍加速化コース)」など、女性の活躍を推進する企業に対して補助金を準備しており、こういった制度の活用も鍵も握ります。


またシニアにおいては、70歳になっても働きたいと思う人が80%もいるというデータがあります。

 

働きたいシニアの割合

(画像引用元:労働市場の未来推計 2030


つまり定年がなければ、60歳を超えても働きたいと考えるシニアが一定層いるわけです。こういった働く意欲のあるシニア人材が、働きたいと思える環境を整備することも、人手不足解消の鍵を握ることでしょう。


また国でも、65歳以上へと定年を引き上げる企業に対して、「65歳超雇用推進助成金」などの補助金も準備しています。

人手不足の解消に取り組む企業事例3選

では最後に、人手不足の解消に取り組む企業について、経済産業省が発表する「中小企業・小規模事業者の 人手不足対応事例集」のなかから3社をピックアップして紹介していきます。


株式会社LiB:兼業を認めることで転職市場に出ない優秀人材を確保

人材紹介業を行う「株式会社LiB」では、創業期に優秀な人材を確保するために、企業経営者や他社在籍者、フリーランサーなど他の仕事をしながらでも正社員として働ける「メンバーシップオプション」制度を導入。子育て中の女性や地方在住の人材の活躍場も、提供しているといいます。


具体的には勤務日数を週4日とし、勤務時間中に他社の業務を並行して行うことを認めたそう。 導入にあたってはオンラインツールを活用することで、出社する時間が短くとも活発にコミュニケーションできるような環境へと整備。時間ではなく成果で評価する、独自の人事考課も実施しています。


その結果、従来の雇用条件では確保できない優秀な人材の確保に成功。「複業」を行う従業員が相互にいい影響を及ぼし、社員の定着にも成功したそうです。  正規雇用者60名のうち14名が時短、リモートワークを組み合わせた社員であり、とくに営業メンバーは約半数が時短社員にも関わらず、高い生産性を維持しているといいます。  


株式会社レキサス:明確なビジョンの伝達で優秀人材を確保

沖縄で情報通信業を営む「株式会社レキサス」は、当初新しいビジネスモデルの構築などを行うためにポテンシャルのある学生や、自社のビジョンにマッチした経験者など、優秀な人材の確保が必要でした。しかし成長意欲が高い県内の学生ほど県外の企業を志望するなど、採用に苦労していた背景があったといいます。


そこで県内学生に対しては、過去県外の第一線で活躍してきたメンバーが社内に多数在籍し、沖縄にいながらでも彼らと一緒に第一線の仕事を経験できる旨を説明。経験者の採用に関しては、数回にわたる面談を通して繰り返しビジョンの擦り合わせを行いました。


また1ヶ月32時間まで利用できる「テレワーク勤務制度」や「プチフレックス制度(例えば7時〜16時までの勤務が可能など)」を導入し、個人のライフスタイルを尊重する環境へと整備したといいます。


その結果、県内の優秀な学生の確保につながり、社員の定着率も向上。女性社員の産休・育休取得率も、100%という結果につながりました。


兵庫ベンダ工業株式会社:子育て支援への注力で企業PRに成功

製造業を営む「兵庫ベンダ工業株式会社」はもともと、会社が地方にあるために優秀な人材を採用することが困難であったり、採用しても3年程度で約半分はやめてしまったりといった課題がありました。


そこで雇用条件の改善などにより社員の定着率を高めたいと考え、子育てを支援し、介護離 職を防ぐ等の目的でテレワークを導入。従来の家族手当に加え、「育児教育手当制度」を導入し、子供の課外活動のための手当も支給しました。 また家族手当のうち、子供の手当も増額したといいます。


その結果、従業員満足度が向上し、採用においては東京在住の優秀な人材を確保できるまでに。子育て支援企業として、社外へのPRにもつながったといいます。

人手不足を嘆く前に生産性の向上と労働条件の改善を

アトキンソン氏は著書のなかで、”日本の「人手不足」はあくまでも、「人を安く使うという今までの経済システムを維持したい」という前提のもとで、日本人の数が減るから人が足りなくなると言っているだけです”と、人手不足を嘆き、生産性の向上や労働条件の改善に目を向けない日本人の考えを指摘しています。


ここまで紹介した通り、人手不足解消の鍵はまず自社の生産性向上に経営者が取り組むことであり、また中小企業においては求職者に選ばれる企業となるためにも、労働条件を改善する必要があります。


人手不足を嘆く前に、自社に目を向けてほかにできることはないか、いま一度考えてみてはいかがでしょうか。