撮影から生成へ!テレキューブのモデル画像をAIで作ってみた

近年、ChatGPTをはじめとする生成AIの進化により、ビジネスの現場での活用が急速に広がっています。特にクリエイティブ分野におけるAIの利用は注目を集めており、経済産業省が「生成AI利活用ガイドブック」を発行するなど、コンテンツ制作での可能性に期待が高まっています。
ブイキューブでは、これまで動画生成などでAIを活用してきましたが、新たなチャレンジとしてAIでのモデル画像生成に取り組みました。本記事では、この革新的な試みについて詳しく紹介します。
なぜAIでモデルを作ろうとしたのか
ブイキューブでは、自社プロダクトの個室ブース「テレキューブ」の利用シーンをWebサイトや各種販促物、広報向け資料などで伝えるために、モデルの方を起用してきました。信頼性のあるイメージを提供できる一方で、契約期間が有限であることと、プロダクト自体のアップデートに伴って都度再撮影が必要であるという課題がありました。この課題を長期的に捉え、一連のサイクルの効率化を考えたことが、AIで生成した人物と、別撮りしたプロダクト画像の組み合わせによるイメージ画像制作に取り組むきっかけとなりました。
ちょうどその頃、画像生成AI技術が進化し、例えば「Flux.1」や「Stable Diffusion 3.5」といった最新技術を活用することで、参考画像のスタイルや雰囲気を反映した画像生成や、一度作成したキャラクターの再利用が可能になっていました。これにより、モデル画像をAIで生成する選択肢が現実的なものとなったのです。
テレキューブの筐体や背景は実写を使い、筐体内の人物をAIで生成した
AIでモデル画像を生成する流れ
AIでのモデル画像生成は、新規の「AIで人物画像を生成するワークフロー」と、従来の「写真をレタッチして綺麗に修正するワークフロー」を組み合わせて実施しました。
1.ベースモデルの作成・選定
まずは基盤となる人物モデルを作成しました。今回は実写の「テレキューブ」と一緒に写るシーンを想定したため、できる限り実写に近い雰囲気での人物の生成が可能なモデルを選定しました。
その際、使用するモデル画像については、出力された画像に対して自ら責任を負うこと、またあらゆる目的での利用が可能であることを事前に確認しています。
2.生成ワークフローの構築
次に、AI生成のワークフロー構築に取り掛かりました。使用したのは「ComfyUI」というツールで、テキスト指示に基づいて自動的に画像を生成する仕組みを導入しました。
実際にComfyUIで組んだワークフローのイメージ
各ノードは特定の機能を持ち、入力ポート(左側)と出力ポート(右側)を通じて
他のノードと接続。この接続により、データが流れ、最終的な画像生成が行われます
3.生成の柔軟性を向上させる技術の導入
さらに、画像生成の柔軟性を向上させるため「ControlNet」という技術を活用しましたControlNetはテキストでは指定しきれないポーズや構図を実現する技術です。これにより、「テレキューブ内で座っている人物」など細かい条件にも対応できる画像生成が可能になりました。
4.画像生成の実行
実際の生成作業では、テレキューブ内に座っているシーンを再現するため、ControlNetで具体的なポーズを参照しました。こうして生成された画像は、あたかもその人物がテレキューブ内にいるように見える仕上がりとなりました。
左図のポーズ情報を元に、右図のような画像を生成した
5. 生成画像の選定と編集
出来上がった画像はWebディレクターに送付され、サイトのデザインに合うものが選定されました。選ばれた画像はさらに細かい調整が施され、破綻がある部分を修正した上で、テレキューブ写真と合成されました。この作業はデザイナーが担当し、最終的なレタッチが行われました。
左図がレタッチ前。右図がレタッチ後
6. 著作権と肖像権の確認
生成された画像や加工後の画像については、著作権や肖像権の問題が発生しないよう、Web検索や専用ツールを使用して確認を行いました。似た顔の人物が存在しないかどうか、また生成画像が他の素材と一致しないかを慎重にチェックしました。この確認作業には主観が伴う部分もあるため、社内で判断基準を設け、業界の最新動向を踏まえながら進めています。
画像を照らし合わせて「似ている度合い」を数値化する独自のプログラム
AIでのモデル画像生成のメリット
AIを活用してモデル画像を生成することには、従来の方法では得られなかった数多くのメリットがあります。
撮影コストと契約更新の削減
従来の広告モデルの起用では、撮影のためのスタジオや機材の手配、カメラマンやスタッフの人件費が必要でした。また、モデルとの契約期間が終了するたびに新たなモデルを選定し、契約を結び直す手間もかかります。しかし、AIで生成したモデル画像を使用すれば、こうしたコストや更新手続きが不要となり、大幅な効率化が実現します。
コンテンツ制作ワークフローの変革
AIを活用することで、コンテンツ制作のフローそのものが大きく変わります。これまでは撮影から編集、公開まで多くの工程を経る必要がありましたが、AIを使えばプロンプトの入力と画像生成、簡単な編集だけでコンテンツを作成することが可能になります。この結果、制作のスピードが飛躍的に向上しました。
コンテンツ更新頻度の向上
AIによって、短期間で新しい広告画像やコンテンツを生成できるため、更新頻度を高めることができます。これにより、常に最新の広告素材を使ってユーザーに新鮮な印象を与えることができ、ブランドの鮮度を保つ効果も期待できます。
広告イメージの柔軟なテスト
AIで生成したモデル画像であれば、さまざまなパターンの人物や雰囲気の広告を容易に作成することができるため、モデルの年齢や性別、表情などを変えてテストを簡単に行えます。より手軽かつスピーディーに検証を重ねられることで、ターゲット層に最適な広告を見つけやすくなります。
AIでのモデル画像を生成しての気づき
AIを活用してモデル画像を生成する取り組みを通じて、いくつかの重要な気づきがありました。
クオリティへの甘えを排除する重要性
AI活用のワークフローを進める中で、「これくらいで十分だろう」「AIで作ったことが多少分かっても問題ない」といった気持ちが生まれがちでした。特に「新しい技術を使っているから」と自己評価を甘くしがちな傾向も見られました。しかし、マーケティング担当やディレクターと何度も擦り合わせを重ねることで、最終的なアウトプットとしてのクオリティを担保することができました。このプロセスは、AIの導入において妥協しない姿勢の重要性を再認識させてくれました。
人間による創作の中心性を再認識
AIを使うことで、コンテンツ制作が効率化し、これまでにない表現が可能になる一方で、制作の中心にはやはり人間の創意工夫があると改めて感じました。AIはあくまでツールであり、クリエイティブな方向性や価値を見極めるのは人間の役割です。この点を見失わないことが、高品質なコンテンツ制作の鍵だと実感しました。
技術の可能性と留意点の両立
AIはクリエイティブへの新たな可能性を提供しますが、同時にさまざまな懸念や留意点も伴います。たとえば、著作権や肖像権の問題、AI生成物への信頼性などです。これらを軽視せず、技術を取り巻く状況を正確に把握し、適切に活用することが求められます。未来の可能性を広げるためにも、リスクを十分に理解しながら慎重に進めていきたいと考えています。
今後の展望
今回のAIモデル画像生成プロジェクトを通じて得た経験をもとに、ブイキューブではさらなる活用を目指しています。
広告バリエーションの展開
今回のように、自社プロダクトである「テレキューブ」の広告素材にAIでのモデル画像を活用した事例を拡大し、バリエーション豊かな広告展開を進めていきます。これにより、商品やサービスの魅力をより多角的に訴求できるようにしていきます。
イベント事業への応用
AIでのモデル生成技術を、リップシンクやText2Speech(テキストから音声生成)の技術と組み合わせることで、イベント事業における司会やナビゲーターとして活用する可能性を模索しています。これにより、従来のイベント演出を一新し、ユニークで効率的なサービスを提供することが目標です。
汎用性の高いワークフローへの進化
今回構築したワークフローを、他のプロジェクトや商材にも応用できるように改良していきます。今回のプロセスでは、テレキューブの広告という特性上、テレキューブ内の画像をそのまま使う必要があり、実際のポーズを参照しながら生成した画像を既存の写真と合成するという、特定の条件に縛られたフローでした。今後は、背景や人物、パース(遠近感)などをそれぞれ生成して合成できる柔軟なフローを構築し、他事業の商材においても広く使える汎用的な広告素材生成を実現していきます。
ブイキューブの生成AI室について
ブイキューブでは「生成AIを活用して社内外に新たな価値を創出する」をミッションにとした新たな商品研究・開発部門が設立されました。
具体的には、最先端の生成AI関連情報を社内外へ提供し、その知見を基にしたプロトタイプの開発と発信を行います。また、生成AIを活用した他社のプロダクトを弊社のサービスに統合することで、さらなる価値の提供を目指しています。
このブログを通じて、活動の進捗や成果を定期的にお伝えしていきますので、ぜひご期待ください。
【過去の記事はこちら】
原稿データだけで自分のアバターがプレゼン?ブイキューブが活用を進める「バーチャルヒューマン」とは