取締役会をリモート開催するには?一般的な開催方法との違いやリモート開催のメリット、注意点を紹介

新型コロナウイルスの影響により、株主総会や取締役会をリモート開催に切り替える企業が増えてきています。取締役会をリモートで開催したいけど、一般的な開催方法との違いや、どのように開催すべきかがわからず踏み切れない企業も多いのではないでしょうか。

取締役会をリモート開催に切り替えると、事務担当者の業務負担や全体のコスト削減につなげることができます。

本記事では、取締役会の通常開催とリモート開催との違い、リモート開催をした場合の全体の流れ、招集通知や議事録の作成方法、注意すべきポイントなどをわかりやすく解説します。

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取締役会の基本をおさらい

まずは、取締役会の基本をおさらいをしていきます。

取締役会とは?

株式会社の業務執行最高意思決定機関である取締役会

取締役会では、取締役の3名以上の出席が必須となります。(会社法331条5項)また、議決に加わることができる取締役の過半数が出席していなければ取締役会を開催できず、決議はその過半数をもって行います。(会社法369条)取締役は業務執行の委任ができないため、当日出席できない取締役は欠席扱いとなります。(会社法362条4項

また取締役会は、開催数が3カ月に一度であることや、(会社法363条2項)議事録の保管期間など細かく法令で定められています。(会社法371条

一般的な取締役会の運用の流れ

一般的な取締役会運用の流れを図とともに解説します。

 

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ースケジュール調整

取締役会の日程調整や出席取締役のスケジュールを調整します。多くの企業は、前年度中に翌年度の年間計画を立てており、取締役会の日程も全て決められています。取締役は、年間計画を基にその他業務のスケジュールを組んでいることが多いです。

ー招集通知・資料配布

議題が確定し、当日の資料を作成します。

招集通知は、定款での定めがない限り、取締役会開催日より1週間前に発送します。(会社法368条)そのとき作成した資料を添付すると、取締役は事前に資料を確認ができ、当日の会議をスムーズに行うことができます。

ー当日準備・議事録作成・登記申請

当日は、会場内のレイアウトやプロジェクターなど、取締役がすぐに会議を始められるよう準備をします。

会議終了後は、議事録を作成。(会社法施行規則101条)議事録の作成期限は法令で定められていません。しかし、登記事項にかかる決議を行った場合は2週間以内に申請が必要となるため、余裕をもって1週間程度で作成しておきます。(会社法915条

取締役会とは?法務初心者が押さえるべき3つの運営ポイントを簡単に説明 

取締役会については「取締役会とは?法務初心者が押さえるべき3つの運営ポイントを簡単に説明 」で詳しく解説しています。

取締役会のリモート開催とその要件について

ここでは、取締役会のリモート開催や、みなし決議との違い、リモート開催する際の要件について解説します。

取締役会のリモート開催とは

一般的な取締役会は、出席取締役が1カ所に集まり会議を開催しますが、リモート開催は出席者が別の場所にいても会議の開催が可能です。会社法でも、「当該場所に存じない取締役」という文言があることから、取締役会は物理的に集まらなくても開催できるようになっています。(会社法施行規則101条3項1号

ただし、取締役会のリモート開催は、議事録の記載事項や登記申請など一般的な開催方法との違いがいくつかあります。また、通信環境が整った状態でなければいけないなど、注意も必要です。

取締役会リモート開催とみなし決議との違い

取締役会は、全員が書面または電磁的記録により同意の意思表示をした場合は、決議があったものとみなすことができます。会社法370条)このように書面で決議できることをみなし決議や書面決議といいます。

リモート開催では、事前に通信環境を整えておく必要はあるものの、設備が整っていれば一般的な開催方法のように進められますが、みなし決議をする場合はいくつか要件を満たす必要があります。

その要件とは次の通りです。

  • 書面決議に関する定款の定めがある
  • 出席者全員が書面または電磁的記録により同意の意思表示
  • 監査役または監査等委員が異議を述べていない

取締役会をリモート開催する際の要件

取締役会をリモート開催するためには、2つの要件を満たす必要があります。

1つ目は「即時性」で、発言が即座に他の出席者に伝わること。

2つ目は「双方向性」で、出席者同士で協議や意見交換が十分にできること。

これらは電話会議においても同様です。

取締役会リモート開催のメリットは?

取締役会のリモート開催のメリットを3点解説します。

感染対策になる

新型コロナウイルスの影響で、取締役会のみならず、あらゆる場面で感染対策をする企業が増えてきました。十分に距離を取れれば良いですが、オフィスよりも手狭な会議室に複数人集まることを懸念する人もいます。パーテーションなどで感染対策もできますが、リモートではそもそも同じ空間にいる必要がないため、確実に感染を防ぐことができます。

仮に、取締役会の日に無症状でのコロナ陽性や濃厚接触者となってしまった場合でも、自宅にリモート会議ができる環境が整っていれば、人にうつしてしまう心配もないため会議への参加も可能です。

取締役会の準備やスケジュール調整が容易になる

一般的な開催方法の場合、取締役会は毎回全員が同じ場所に集まる必要があります。しかし、リモート開催となった場合、通信環境が整っていればどこでも参加が可能となるため、スケジュール調整がしやすくなります。

また、今まで貸会議室で開催していた場合は、貸会議室の予約や準備の手間が省けます。資料作成や配布なども紙ではなくデータにすることで、事務担当の業務効率化も見込めます。

コスト削減につながる

取締役会を貸会議室などで開催している場合、会場費がかかるため、リモートに切り替えることで会場費を削減できます。更に、取締役会当日の資料を紙で印刷している場合は、紙や印刷代の削減もできます。それらをまとめる事務担当や取締役の移動時間など、時間コストの削減も可能となります。

取締役会のリモート開催と一般的な開催方法の違いは?

本章では、取締役会のリモート開催と通常開催の違いについて解説します。

取締役会リモート開催全体の流れの違い

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取締役会リモート開催の流れの違いとしては、「システムの準備」「web会議のURL・ID・パスの発行」などです。その他にも、「議事録の記載内容」「署名方法」「登記手続き」に違いがあるため注意しましょう。次に詳しく解説していきます。

取締役会議事録の記載内容

取締役会の議事録は、リモート開催であっても作成が必要です。会社法369条)書面または電磁的記録をもって作成します。(会社法施行規則101条)議事録が電磁的記録をもって作成された場合、出席取締役は電子署名を利用することになります。(会社法369条4項)(会社法施行規則225条

議事録の記載事項は法令において定められており、次の通り記載します。(会社法施行規則101条

  • 取締役会が開催された日時、場所
  • 特別取締役による取締役会である場合はその旨
  • 会社法の特別の規定により招集された場合はその旨
  • 取締役会議事の経過の要領及びその結果
  • 決議事項について特別の利害関係を有する取締役があるときはその氏名
  • 会社法の規定により取締役会において述べられた意見又は発言があるときは、その意見又は発言の概要
  • 取締役会に出席した執行役、会計参与、会計監査人又は株主の氏名又は名称
  • 取締役会の議長が存するときは議長の氏名

リモート開催した場合はこれらに加え、次の内容も記載します。

  • 即時性と双方向性を事前に確認した旨の文言
  • 当該場所にいない出席者の出席方法

全員がリモートで出席した場合は、議長の所在地を開催場所とし議事録に記載することが一般的です。

議事録の署名方法について

一般的な議事録の署名については、法令により取締役会に出席した取締役及び監査役は、記名押印が必須となります。会社法369条3項)その際の押印は認印で問題ありませんが、法令上認印ではいけないケースもあります。それは、代表取締役を選出する場合などです。この場合、出席者全員の実印と印鑑証明書の添付が必須となります。しかし、会社の登記届出印による押印がされる場合は、他の出席者は認印で良いとされています。

電子署名を利用する場合は、次の要件を満たしている必要があります。(会社法施行規則225条2項

  • 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すものであること
  • 当該情報について改変がおこなわれていないかどうかを確認することができるものであること

これでは、当事者型(契約者本人のみ署名できる実印タイプ)でなければ運用できないものとされていました。

しかし2020年5月に法務省は、新しい見解を経団連などに文書で送り、立会人型(当事者でない者が当事者の指示により署名ができる契約印タイプ)の電子署名も認められるようになりました。

法務省の新見解

会社法上、取締役会に出席した取締役及び監査役は、当該取締役会の議事録に署名又は記名押印をしなければならないこととされています(会社法第369条第3項)。また、当該議事録が電磁的記録をもって作成されている場合には、署名又は記名押印に代わる措置として、電子署名をすることとされています(同条第4項、会社法施行規則第225条第1項第6号、第2項)。当該措置は、取締役会に出席した取締役又は監査役が、取締役会の議事録の内容を確認し、その内容が正確であり、異議がないと判断したことを示すものであれば足りると考えられます。したがって、いわゆるリモート署名(注)やサービス提供事業者が利用者の指示を受けて電子署名を行うサービスであっても、取締役会に出席した取締役又は監査役がそのように判断したことを示すものとして、当該取締役会の議事録について、その意思に基づいて当該措置がとられていれば、署名又は記名押印に代わる措置としての電子署名として有効なものであると考えられています。

(注)サービス提供事業者のサーバに利用者の署名鍵を設置・保管し、利用者がサーバにリモートでログインした上で自らの署名鍵で当該事業者のサーバ上で電子署名を行うもの

出典:新経済連盟「取締役議事録に施す電子署名についての法務省見解」

登記手続きについて

登記事項にかかる決議を行った場合、取締役会終了後から2週間以内に申請が必要になります。会社法915条)登記内容としてよくあるのは、役員の新任や解任、重任などです。

一般的な登記申請に必要な書類は内容により異なりますが、基本的には次の通りです。

  • 登記申請書
  • 株主総会議事録
  • 取締役会議事録
  • 株主リスト
  • 印鑑証明書

そしてオンラインで申請する場合には、事前に「商業登記認証局による電子証明書」を取得する必要があります。

取得方法

  1. 専用ソフトのダウンロード・必要なファイルの作成
  2. 登記所へ発行申請
  3. 電子証明書のダウンロード

登記手続きについて

出典:法務省「商業登記電子証明書はじめてガイド」

登記ねっとでは登記申請の体験コーナーを設けているので、電子証明書発行後に試してみるのも良いでしょう。

登記申請の期限を過ぎてしまった場合、100万円以下の過料に罰せられる可能性があります。必ず期限内に申請できるよう、必ず事前準備をしておきましょう。

取締役会をリモート開催する際の注意すべきポイント

取締役会をリモート開催する場合の注意すべきポイントを解説します。

通信障害の対策

リモート開催をする際、最も多い障害が通信障害です。マイクやスピーカー、通信状態などの不具合により音が途切れるなどした場合、会議を一時中断しなくてはなりません。

通信障害が起きた取締役は、障害が起きている間は不参加扱いとなります。通信が回復したのち、該当取締役にやり取りを伝えたり、意見を求めるなど、通信障害が起きたときの対策を考えておきましょう。

また、そもそも通信障害が起きないように事前にトライアルとして、部内の会議を開催するのもひとつのやり方です。取締役会の前にできるだけ不具合を取り除けると良いです。

取締役会招集通知への記載

取締役会の招集通知は、開催日の1週間前に出席者へ出します。それを下回る期間を定款で定めた場合は定款に従います。(会社法368条)ただし、出席者全員の同意が得られている場合は、招集通知を省いて開催することが可能です。

招集通知の記載事項は、法令上指定はありません。一般的には、「開催日時」「開催場所」「目的事項」を記載しますが、リモート開催する場合はこれらに加えて、「どのシステムを使うか」「参加するためのURL・ID・パス」を記載します。

取締役が事前に内容を把握し当日スムーズに会議を進められるよう、招集通知の配布時に取締役会の当日資料も一緒に配布すると良いでしょう。

まとめ

今回は、取締役会リモート開催における注意点や、一般的な開催との違いを解説しました。

スケジュール調整が容易になるなどの業務効率化や、コスト削減など、開催方法をリモートに切り替えることによりメリットが出てきます。

新型コロナウイルスの影響や法改正により、株主総会や決算説明会の運営もオンライン化が進んでいます。取締役会だけではなく、別の運営機関の効率化も見直してみましょう。

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池下菜都美
著者情報池下菜都美

株式会社ブイキューブに新卒入社。 ビジュアルコミュニケーションに関する複数製品のインサイドセールスを経験。現在は、マーケティングコミュニケーショングループにてイベントDX領域における広告運用およびオウンドメディアの編集、ナーチャリングを担当。趣味は映画とダンス。

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