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はじめまして、今井智章と申します。私はソフトウェアエンジニアとして、サンフランシスコに本社があるChanoma Inc.というスタートアップに在籍しており、『Chomp』という食事に特化したコミュニケーションアプリを開発しています。

 

タイトルのように「旅をしながら仕事をしたい」なんて突然言い出す社員はレアケースかもしれません。そのレアケースである私は、2018年末から2019年初めの1カ月ほど、ヨーロッパで旅をしながらリモートで仕事をしていました。私の所属する会社としても初めての試みです。

 

その少々エクストリームな経験を踏まえて、本稿ではリモートワークが個人やチームに与える効果、またチームがどのようにリモートワークを導入していくべきかを提案したいと思います。

旅をしながらリモートワークをする

作家の村上春樹氏が『ノルウェイの森』をギリシャで書き上げた話はご存じでしょうか。村上氏の著書である旅行記『遠い太鼓』によると、執筆のかたわらヨーロッパのさまざまな地域を訪問していたそうです。私もそのような働き方に強い憧れがあったのですが、そんな話を人にすると、たいていの場合「それができるのは村上春樹だから」と笑われていました。

 

ところが現在勤めている会社のCEOに話すと、「ヨーロッパでリモート採用するときの参考にもなるので、やってみたらどうですか」とあっさり承認をもらうことに成功。それでは、ということでチャレンジしてみることにしました。

 

その時の顛末はこちらのブログにも書いておりますので、よかったらご覧ください。

 

旅をしながらリモートワークをする

スウェーデンのキルナで仕事の合間に鑑賞したオーロラ

リモートワークを振り返る

なかば自分の願望を押し切る形で敢行したリモートワークでしたが、普段とは全く異なる体験ができました。まずはこの経験を振り返り良かった点を紹介します。

 

自由な場所で働けた

自分の職種がソフトウェアエンジニアということもありますが、電源とインターネットにつながる環境であれば、どこでもワークスペースになりました。通りかかったカフェや、はたまた洗濯のために立ち寄ったコインランドリーなど、いつもと違う環境で仕事をするのは、気持ちのリフレッシュになりました。また、私の開発しているアプリは食事関連のサービスなので、さまざまな国のレストランで人々が「食」を楽しむ様子を観察できるのも参考になりました。

 

自由な場所で働けた

パリではランドリーで洗濯を待ちながら仕事

 

通勤時間がない

どこでもワークスペースになり得るということは、通勤時間が存在しないということです。これまでは「通勤する」ことが当たり前の生活で、その時間をどう有効に使うかを日々考えていました。しかし実際問題、移動中にできることは限られます。通勤そのものがなくなることでより自由になるというのは新鮮な発見でした。

 

通勤時間がないドイツでは居心地の良いカフェを仕事場に

 

一方で大変だったこともあります。

 

勤務時間は自由ではない

主にチーム内で連絡を取り合う時間帯をあわせる必要があるため、おのずと勤務時間に制約が出てきます。筆者の場合ヨーロッパに滞在していたため、日本とは-8時間、サンフランシスコとは+9 時間の時差があり、必然的に両方のタイムゾーンが合う午前中(場合によっては朝5時半から)と夜中(20時〜24時)に仕事することになりました。

 

場合によっては休日の時間帯で働くこともあり勤務時間も不均一なので、自己管理能力も問われます。特に定期的に話し合う必要がある職種の場合は、コアタイムやオープンドア(自由に話しかけて良い時間)を設定するなどの仕組みづくりが重要だと感じました。

 

コミュニケーション

リモートワークのコミュニケーションコストはそれなりに高いです。隣同士で座っていれば口頭で解決できるようなことも、チャットツールやテレビ電話などで確認する必要があります。そのため、何かを伝える作業には常にワンステップ追加されることになります。一方で「伝えたい内容を言語化する」ということを意識して実践できたというメリットもありました。

 

実際やってみるとリモートは雑談がなく孤独です。チャットツールを利用した分報(現在取組中の作業を自分専用のチャンネルに投稿し続けること)やチーム内に見える形でアウトプットを提示するなど、率先して意識的に発信するなどのコミュニケーションが重要だと気付きました。

リモートワークがチームにもたらす効果

さて、ここまで私が仕事をする上で、個人の観点からリモートワークの感想を述べてきました。ではチームに与えるメリットは何があるでしょうか。私は以下の3つのことが挙げられると考えています。

 

人材獲得

リモートワークがチームにもたらす大きなメリットとして、採用範囲が広がることが挙げられます。例えば、リモートワークを受け入れると、働く意思や能力はあるけれど家庭の事情で家を離れることができないといった人たちを積極的に採用できるようになります。

 

また、グローバルレベルで見るとリモートワークは非常に普及しています。例えば「WeWorkRemotely」などリモートワーク専用の採用サイトに募集を掲載すると、あらゆる国から何百件という応募があります。私の会社でもヨーロッパ、アジア、アメリカなどグローバルにリモートワーク勤務のエンジニアの積極的な採用を進めるようになりました。

 

コミュニケーションの課題を浮き彫りにして改善できる

リモートワークを導入すると、全メンバーが対面で会話できる環境では表出しえなかった、潜在的なコミュニケーションの問題が浮き出てくることがあります。

 

例えば、私のチームではスクラム(アジャイルソフトウェア開発における代表的な開発手法で、主にチーム内のコミュニケーションを重視したもの)を導入し、スタンドアップミーティング(会議の生産性と効率を上げるため、起立して行う会議)も実施するなど、コミュニケーションの機会を多く設けていました。

 

しかし、リモートメンバーが具体的に何を開発しているのかを当事者間でしか把握できていないことが分かり、そもそもチームのメンバーが自分の関わる分野だけの把握だけに留まっていた、という問題が露呈したのです。

 

そこで現在では毎週金曜日に「Winner Session」という場を設け、その週に取り組んだことについてテレビ会議で共有しています。これにより自分が関わっていない分野でも気軽にフィードバックを返したり、ときにはディスカッションする雰囲気がチーム全員に醸成されるようになりました。

コミュニケーションの課題を浮き彫りにして改善できる

毎朝の各拠点でのスタンドアップは同じ場所にいてもビデオ電話に接続 

 

変化に強いチームになる

近年広まってきたソフトウェア開発手法にカオスエンジニアリングというものがあります。制御された障害をあえて開発したシステムに投入し、そこから改善点を見出し、より変化に強いシステムを作り上げる方法です(カオスエンジニアリングの詳細な説明はこちらがおすすめです)。

 

カオスエンジニアリングにおける「意図的に障害を起こし、そこから知見を得て改善していく」 という考え方は、組織づくりにも役立つと私は考えています。多様性を持ちながらも変化に強い組織を作るためには、まずは意図的に変化を加え、どのような影響があるのかを計測し、その結果に基づいて変えていく必要があるのではないでしょうか。

 

リモートワークを導入すると、体制、採用、ミーティングなど組織に関わることが全て変わります。この変化を乗り超えることで、より大きな変化にも対応できるようになるのではないでしょうか。

リモートワーク導入ことはじめ

リモートワークのメリットはなんとなく分かったけど、導入するにはどうすればよいだろうと読者の皆さまは考えたかもしれません。ここでは導入のために考慮すべきことについて述べていきます。

 

リモートワークを受け入れるマインドセット作り

まずは、何と言っても会社がリモートというワークスタイルを受け入れられるようにしていかなくてはなりません。「顔を突き合わせて議論をする方が効率的だ」という意見を持つメンバーもいるでしょう。リモートワークは社員全体の協力がないと成立しないので、「どういった会社/チームにしていきたいのか」という方針を会社側が明示して全員に浸透させることが大事です。

 

コミュニケーションをオープンにする仕組みづくり

リモートワークでよく耳にする不満は「オフィス側でいつ、どのような決断がなされたのか分からない」というものです。私の会社の規模でも、オフィス内で口頭でかわされた開発の仕様がリモートメンバーに周知されず、混乱を生んだことがありました。このような情報の不平等を避けるためにも、なるべくコミュニケーションをオープンにする仕組みを作るべきです。

 

私のチームではミーティングの議事録をドキュメントとして残すだけでなく、チャットツールのチャンネルにも投稿し、誰でも読むことができます。また、個人情報のやり取り以外のダイレクトメッセージはなくし、あらゆる議論をオープンかつ公平に行うようにしています。これによって私自身がリモートで仕事しているときも、疎外感を感じることはなくなりました。

 

リーンに進める文化作り

リモートワークでありがちなミスとして、認識の相違があります。原因としては「連絡を取るのが面倒だったので」「こうだと思っていた」などありますが、これらを解決することは一筋縄ではいかず、ケース・バイ・ケースで対応するしかありません。

 

私は完璧な認識合わせをする仕組みづくりよりも、リーン(無駄を省くこと)に仕事を進める社内の文化づくりが大事だと考えています。そのためのポイントとしては

 

  • ・責任範囲を明確にし、かつメンバーの権限を拡大する(各メンバーが自己判断で作業を進められるようにする)

  • ・適宜情報共有するタイミングを設け、進め方の方向性を都度修正しやすくする

  • ・失敗を許容する(=失敗がマイナス評価にならない、失敗を評価する)

 

をチーム内で合意をとることが重要だと考えます。リモートで100%互いの認識を合わせるのは無理と考え、失敗から得た経験を次に生かせれば、リモートメンバーは次第に自走できるようになると思います。

 

さて、ここまで読んでいただき「リモートワーク導入は大変かも」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。

 

リモートワークに関わるいろいろな課題は、実際に起こってみないと分からないことが沢山あります。本稿では触れていませんが、ビデオ会議の設定方法や、セキュリティの担保、勤務時間の管理など、業務的、技術的な課題がいくつもあります。そこでまずは1カ月程度の短期間で、少人数で気軽に始めてみて、課題を洗い出してから徐々に拡大してみることをおすすめしたいです。

 

リモートメンバーが働きやすい環境を整え、情報や議論をオープンにしていくと、どんどんチームの風通しが良くなることが実感できます。今回の記事が、リモートワーク導入のヒントになれば幸いです。

 

著者:今井 智章(いまい・ともあき)

東京大学大学院修士課程卒業後、外資系SIerを経て株式会社メルカリに入社。2016年からUSに移り住み、US版メルカリのAndroid、React Nativeを中心としたプロダクト開発を担当。2018年から食事に特化したソーシャルアプリChompを提供するChanoma inc.にジョインし、モバイルアプリ開発をリードしている。共著に『Android アプリ設計パターン入門』がある。

 

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編集:はてな編集部


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本部長は郡上八幡にいます