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官民挙げての大改革である「働き方改革」ですが、その一翼を担うのが「テレワーク」の推進です。

テレワークとはICTを活用して、勤務する場所や時間にとらわれない働き方のことです。

 

テレワークというと真っ先にWeb会議ツールやチャットツールなどを用いた在宅勤務を思い浮かべる方が多いと思います。また、出張などの際にタブレット端末やスマートフォンを利用して勤務先とやり取りしながら仕事を進めるモバイルワークや、地方に置かれたサテライトオフィスでの勤務もテレワークの形です。

 

「働き方改革」は「長時間労働の是正」、「労働人口減少の是正」、そして「労働生産性の向上」を目指すことを、その主な目的としています。これは国の経済的競争力を高め、GDPの向上を目指そうという動きと連動するものです。

 

それは、名目GDP=(労働生産性)×(労働人口)という式からも明らかでしょう。

テレワークを通じ、従業員1人1人の生産性を高め、これまで介護、子育てなどで就業できなかった潜在的労働力を掘り起こすことは、この動きにマッチした施策ということになります。

 

テレワークについては、当初企業内での取り組みという側面が大きかったため、企業風土に依存する取り組み方とならざるを得ない部分が大でした。しかし、それではテレワークの推進が中々進まないという問題点にぶつかることになります。

 

平成29年通信利用動向調査報告書』(P48)によると、企業がテレワークを導入しない理由の72.4%が「テレワークに適した仕事がないから」というものでした。

 

一方で、『みずほインサイト テレワークの経済効果』(P5)によれば、2017年の米国企業でのテレワーク普及率が70%を超え、日本の普及率13.9%を大幅に上回っていることがわかります。この差は、欧米企業と日本企業の雇用形態の違いから生まれるという意見もありますが、本当にそうなのでしょうか。


テレワークの推進を行い、成功した企業は日本国内にも存在します。みなさんがテレワークを導入するには、「よい導入事例」に触れることで、自分たちの会社の何を変えればよいのかを認識することが重要ではないでしょうか。

 

以下にご紹介する「ふるさとテレワーク導入事例」が、よい事例と感じて頂ければ幸いです。

まちごとテレワークとは?

まちごとテレワークとは、「ふるさとテレワーク」のように大都市部の企業が地方にサテライトオフィスを置いて、社員が一定期間そこで働くだけではなく、地方に住む人々がテレワークを用いて仕事ができる環境を整備しようという施策です。

 

いわば、ふるさとテレワークの進化版である「まちごとテレワーク」が推進されている背景にはどのようなものがあるのでしょうか。

 

まちごとテレワークの推奨の背景

先行して進められていたふるさとテレワークでは、大都市部の労働人口の一部を地方に移すことには、ある程度成功しました。しかし、テレワークの導入比率が大都市部で高く、地方で低いという現状(『テレワークの最新動向と今後の政策展開』P6)です。

 

テレワークの利用動向 

(参照情報:こちら

 

また、テレワークに関心が高い20代人口の少ない地域では、テレワークが認知されにくいという理由から、中々改善されないという問題点がありました。結果的に、地方自治体においてのテレワーク推進は進まず、ふるさとテレワークで企業と地方という点と点を結ぶことができていませんでした。

 

テレワークを導入している企業の割合は現在13.9%ですが、そのほとんどが大企業であり、企業の99%を占める中小企業の導入は今一つ進んでいないという指摘もあります(『平成29年通信利用動向調査』)。

 

IT専門調査会社 IDC Japan 株式会社の調査によると、2017年のテレワーク導入率は、中堅中小企業では4.7%、大企業では23.6%、全体で4.7%と推計され、従業員規模や資本力によって導入率に差があるのが現状です。

 

しかしながら、生産性を高め国全体の労働力を高めるに、出産を退職し里帰り、育児のため復職できない女性や、介護のため就業することができない方に、まちを上げてテレワークで仕事を行える環境を提供することは、企業規模を問わず「労働力不足」を解消する上でも有効な手段であると言えるのではないでしょうか。

 

そのような背景もあり、地方自治体と地元中小企業などが連携して地域全体、つまり「街まるごと」でテレワーク化の推進を図る施策が必要だということが叫ばれるようになりました。

 

ふるさとテレワークとの違いとは?

先ほど、「まちごとテレワーク」は「ふるさとテレワーク」の進化版とお伝えしました。よって、ふるさとテレワークの点と点を結ぶ施策は、まちごとテレワークにも含まれるわけです。

 

まちごとテレワークでは、「ふるさとテレワーク」の取り組みに加えてその自治体で暮らす人々、特に介護や障害、そして子育てのために働きたくても働けない人々に、ICTを利用したテレワークに参加してもらおうという取り組みも含まれています。

 

まちぐるみでのテレワーク推進が、まちごとテレワークだと言っても差し支えないでしょう。

魅力的なふるさとテレワークを成功させた自治体4つ

「まちごとテレワーク」は2018年12月7日に『まちごとテレワーク調査事業』の調査対象の選定結果が総務省によって発表され、プロジェクトが動き始めたばかりです。したがって、成果の数にはまだ限りがあるため、先行して行われていた「ふるさとテレワーク」における成功事例をメインにご紹介していきます。

「ふるさとテレワーク」でありながら、地域のニーズを掘り起こした結果、「まちごとテレワーク」につながる活動に発展した自治体もありますので、その部分もご参考頂ければと思います。

 

長野県塩尻市

長野県塩尻市のHP

(1)ふるさとテレワーク推進のための実証事業への取り組み

王滝村には昔の旅籠を改修したギークハウス、富士見町には学校の遊休施設を利用したサテライトオフィス、そして塩尻市には雇用支援施設を利用したテレワークセンター及び、これら3つのコワークスペースを一元管理するテレワーククラウドが置かれています。

 

このクラウドによって管理されたバーチャルオフィスにより、都市部の仕事を地方にいたままで続けられるということを実証することで、県内の他市町村のふるさとテレワーク導入の促進。

 

あわせて、shinshu-telework.jpのドメインを取得し、「信州ふるさとテレワーク」推進の基盤を構築する取り組みも行われています。「信州ふるさとテレワーク」では、

 

・ふるさとテレワークを身近に感じる事例インタビュー

・信州ふるさとテレワーク全体情報発信

・市町村魅力発信

 

などを通じて地方でのテレワークの魅力を発信しています。

 

(2)実証事業の成果

地方への移動人数は目標25名でしたが、2015年の時点でその2倍以上の56名という成果が得られました。また、テレビ会議実施回数は91回と、目標の50回を大きく上回っています。

 

ふるさとテレワーク実証事業の実施が地域(長野県内)に与える経済波及効果は、年間目標1億円を大幅に上回る4億5000万円となりました。

 

さらに、この実証事業では事業開始前と後に参加したテレワーカーにアンケートを実施しました。

その結果、「仕事の生産性」について事業前は「やや高い・高い」が17%であったのに対し、事業後は78%と明らかな改善が見られました。

 

また、「ワークライフバランスの満足度」について事業前は「やや高い・高い」が41%だったのに対し、事業後には94%と参加者のほぼ全員が満足度の向上を実感しています。

 

(3)ふるさとテレワーク推進事業への参加

前述の2015年度「ふるさとテレワーク推進のための地域実証事業」で成果を上げた塩尻市は、2016年にはふるさとテレワーク推進事業へ参加し、松本市とコラボしての参加となりました。

 

松本市とコラボした経緯については、実証事業の成功によって県外企業のみならず地元企業からの受注が急増したため、塩尻市の約4倍の人口を擁する松本市と共同で事業を進めた方が効率的と判断したとのことです。松本市との共同参加を機に「長野県中信地域ふるさとテレワーク推進コンソーシアム」を立ち上げ、連携してテレワーク推進。

 

テレワーク推進コンソーシアムが対象としているのは個人事業主や起業家といった方なのですが、その中核にあるのが「テレワークセンターしおじり」です。テレワークセンターしおじりにはサテライトオフィスが併設され、企業から派遣されたテレワーカーや地元採用のワーカーが業務にあたっています。専門性が高い業務については松本市にあるコワークキングスペース「Knower(s)」に割り振られるなどして業務が進められます。

 

一般財団法人長野経済研究所の中村雅展氏は、「この取り組みによって順調に仕事量が増えている。」と語っています。塩尻市の取り組みは、まちごとテレワークにもつながるものも多く、それは特に「ふるさとテレワーク推進事業」において顕著です。

 

群馬県高崎市

高崎市のHP

 

高崎市の『ふるさとテレワーク推進のための地域実証事業』は東京から高崎市への労働力の移転を図るという目的に特化しているという点で、ふるさとテレワークの定義に忠実なプロジェクトだと言えるでしょう。

 

具体的な取り組みとしては、東京のワーカーが直面するライフイベント(出産・子育て、介護など)を高崎市がテレワークを通じて支援するという目的のため、テレワーカーにとって利便性の高いサテライトオフィスやテレワークセンターを整備したという点が挙げられます。

 

「ふるさとテレワーク推進のための地域実証事業」においては、常時接続のタブレットを導入することによるテレワーカーの孤立軽減策や、都市部中小企業へのテレワークを利用したサテライトオフィス設立支援などを実施し、Stand for mothersの自社サテライトオフィス設立をはじめとして、2015年の時点で労働力移転33名という結果でした。

 

また、県外から移住してきた女性が、子育てしながら働けるテレワークの仕組みを構築するべくテレワークセンター「タカサキチ」を設立し、2015年の時点で自営型テレワーカー3名を輩出するなどの成果も得られました。

 

実証終了後も様々な取り組みがなされ、現在では株式会社CRANEが空き家を活用したサテライトオフィスを開設するなど着々と活動が進められています。

 

和歌山県白浜町

和歌山県白浜市のHP

 

白浜町には2004年より「白浜町ITビジネスオフィス」という貸オフィスを稼働させていたという経緯がありました。当初は、空きの状態が続いていましたが、2014年にメディスト株式会社が進出するや、続いてNPO法人IT教育機構も入居するなど新たな動きがみられるようになったと言います。

 

その後、ICT関連企業である株式会社セールスフォース・ドットコムの進出を機にふるさとテレワーク参加が浮上したというわけです。白浜町の『ふるさとテレワーク推進のための地域実証事業』においては、サテライトオフィスの活用による従業員の移住もしくは長期派遣の推進とテレワークの有効性の検証が行われました。

 

実証事業によって、株式会社セールスフォース・ドットコムに続き、株式会社ブイキューブrakumo株式会社ブレインハーツ株式会社の進出が決定しました。

 

成果としては、2015年の時点で人の移住・長期派遣などが27名に達したという点が挙げられます。

生産性についても、セールスフォース・ドットコムがまとめたデータ(『白浜町におけるパブリッククラウドサービスを利活用した先進的テレワーク推進及び検証事業』P5 )によると、活動件数が6%増、商談件数が11%増、そして契約金額においては何と63%増という成果を上げています。

 

さらに、白浜町に滞在するテレワーカーの生活をダイレクトに支援する「生活直結サービス」提供のため「白浜リンク」というアプリを開発。ツールの面だけでなく、家族で白浜に移住する方に対してはお子様の小学校の手続きや、暮らしに関わる様々なことを町がサポートするという取り組みも行われています。

 

和歌山県からも手厚いサポートがあるという点も白浜町の人気を後押ししています。進出企業が、地元雇用3名以上などの一定条件を満たせば、飛行機代の半額補助や地元雇用1名につき年間30万円の補助が受けられるなどのサポートがあるのは魅力的です。

 

様々な取り組みの結果、白浜町ITビジネスオフィスは現在満室で、2つ目のオフィスを構える予定とのこと。2015年度には、年間で200件を超える視察があるなど、白浜町にIT企業が集積し始めている様子が見て取れます。

 

福岡県糸島市

福岡県糸島市のHP

 

総務省の2014年度の『ふるさとテレワーク推進のための地域実証事業』に参加した糸島市は、以前から移住先として注目されてきました。福岡市の博多や天神から車で30分程度という好立地ながら、観光資源に恵まれていることから観光業も盛んな地域です。この糸島市では2015年には利用目的の異なる2つのテレワークセンターを開設。

 

その1つは前原テレワークセンターで、糸島の女性が子育てしながら働けるコワーキングスペースとしての機能を有しています。もう1つの芥屋(けや)テレワークセンターは都市部からの社員、フリーランサーなどが利用するサテライトオフィスとして利用されています。

 

芥屋テレワークセンターでは東京の社員13人が派遣され、テレワークにより業務を実施することができたと言います。ちなみに事業実施期間中の芥屋テレワークセンターの利用者数は延べにして451人、1日あたりの利用者は7.1人でした。

 

さらに、前原テレワークセンターで行われたクラウドソーシングのセミナーには67人の女性が参加し、そのうち17人がクラウドワーカーとして登録しました。そのうち、実際に仕事を受注したのは9人という成果を上げています。

 

2017年には前原テレワークセンターで「ママライター育成講座」が開講され、定員8名のところ23名の応募があるなど反応は上々で、そのうち10名が受講。

講座を受講したメンバーが核となってママライターのチームが発足しつつあるとのことです。

まとめ

かつて「町おこし」とか、「村おこし」という地域振興策が模索されていた時代がありました。祭りのようなイベントで集客する取り組みや、温泉事業など、観光資源の掘り起こしなどが行われ、短期的には効果を上げた取り組みも多かったと記憶しています。

 

しかしながら継続した地域経済の活性化を図ることを考える場合、工場や企業の誘致まで行わないと中々実現が困難だったのですが、この施策の成功は地域の経済規模や立地に依存する部分も多くハードルの高いものでした。しかし、昨今のICTの急速な発展はこの状況を見事に変えて見せました。遠隔地でも東京のオフィスと同様の業務がこなせるとすれば、働き手は場所に縛られず働くことができます。

 

となれば、地元にいながら東京の企業に勤めたり、生活環境を第一に考えて移住したとしても今の会社を辞めることなく生活したりということが可能になるのです。「ふるさとテレワーク」では複数の地方自治体が、それが十分可能であることを証明しました。

 

そして、その取り組みのなかで行われた、テレワークを利用した地元人材の活用という方法が、総務省が後押しした施策である「まちごとテレワーク」につながっているというわけです。まだ始まったばかりの「まちごとテレワーク」調査事業ですが、「ふるさとテレワーク」同様、様々な好事例が生まれることが期待できそうです。