「ふるさとテレワーク」がよく分かる!基本概要から成功事例まで徹底解説
テレワークとは、ICT(情報通信技術)を活用した、場所や時間にとらわれない新しい働き方を指します。
中でも「ふるさとテレワーク」は、地方創生を実現させるために総務省が推進しているワークスタイルです。
新型コロナウイルスの影響でテレワークが定着しつつあるものの、従業員がオフィスから離れた地方都市で働くことに不安があり、現実的に検討できていない企業は多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、ふるさとテレワークのメリットや、成功事例を紹介します。
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ふるさとテレワークとは
ふるさとテレワークとは、地方のサテライトオフィス等において、テレワークで都市部の仕事を行う働き方のことです。
総務省をはじめ国が推奨しており、都市部から地方への人や仕事の流れを作ることで、柔軟な働き方の活性化や、働き方改革の推進への貢献を目的としています。
ふるさとテレワーク推進の背景
テレワークは、政府が働き方改革を推進していることもあり、徐々に企業の導入率が増加しています。
特に2020年には新型コロナウイルス対策の影響により、テレワークの実施率が大幅に上がりました。
東京商工会が2020年6月に東京商工会議所会員企業1,111社を対象に行った「テレワークの実施状況に関する緊急アンケート」によると、全体で約7割の企業がテレワークを実施しているとわかっています。
一方で、テレワークを導入している企業の割合は、都市部では高く、地方では低いという現状があります。
また令和元年同調査では、資本金が5億円以上の大企業では35.5%以上がテレワーク導入しているのにに対して、資本金が1000万円未満の中小企業ではたったの6.2%しか導入が進んでいないことが示されています。
このようにテレワークは大企業ほど導入が進み、地方に拠点を置く企業や中小企業ではまだまだ導入がされていない現状があります。
地方から都市部への、若い世代の流出が問題視されているなか、柔軟な働き方ができない地方都市にはますます将来を支える働き手が定着しません。
こうした中、地方自治体と地元中小企業などが連携したテレワークの推進が叫ばれるようになってできたのが、「ふるさとテレワーク」の制度です。
地方自治体が都市部の企業を誘致し、都市部から地方への人や仕事の流れを作り、地方にいながらテレワークで働くことで、地方創生と働き方改革の双方を実現できる仕組みです。
少子高齢化により労働人口の減少が課題となっている日本においては、ふるさとテレワークは必要不可欠な取り組みと言えるでしょう。
テレワークを0からおさらい
テレワーク制度そのものに関して、関連記事「5分でわかる『テレワーク』とは?導入検討する方に事例を元に解説」では0から分かりやすく説明しています。
ふるさとテレワークのメリット
ふるさとテレワークを推進することが、地方創生や少子高齢化といった日本が抱える問題を解決するために効果的であることはご理解いただけたと思います。
それでは、ふるさとテレワークを導入した場合、企業にはどのような効果があるのでしょうか。
この章では、ふるさとテレワークが企業に与えるメリットについて、解説していきます。
ふるさとテレワークにより企業が得られるメリットは、大きく分けて以下の3つです。
- 人材の確保
- 生産性の向上
- 災害時のリスク分散
それぞれ詳しくみていきましょう。
人材の確保
育児や介護を理由に都心部での仕事を辞めざるを得なかった従業員の離職を防ぐことができます。
特に介護を行う世代は40〜50代が多く、企業ではちょうど管理職に就いている割合も多い世代です。ふるさとテレワークで柔軟な働き方を認めることにより、そうした重要な人材を手放す必要はなくなります。
生産性の向上
中長期的に地方で働けることで、従業員のワークライフバランスの向上が見込めます。
たとえば都心部に比べて不動産価格が低いため、マイホームを購入できたり、家族の協力により子育てが楽になるなど、都心部でのテレワークとは異なるメリットを享受できます。
それにより従業員のモチベーションも上がり、生産性の向上が期待できます。
また、これまでになかった、地方に住む人たちとのコミュニケーションが活性化することで、新規ビジネスの創出にもつながります。
災害時のリスク分散
予期せぬ災害で事業が続けられなくなることは、企業にとって大きな損害です。
こうした事態を防ぐため近年注目されているのが、災害などのトラブルが起こった際、早期の復旧を目指す事業計画、BCP(Business Continuity Plan)です。
たとえば、都心部で停電が起こるなどして業務が続けられない事態になっても、被害のない地方に住む従業員は業務を続けることが可能です。
また、バックアップしたデータを1箇所に保管するのではなく、都心部のオフィスとふるさとテレワークを活用した地方の拠点に分散して保管することで、災害時にすべてのデータを失うリスクを免れることができます。
地方で「ふるさとテレワーク」推進を成功させた自治体の事例4選
「ふるさとテレワーク」でありながら、地域のニーズを掘り起こした結果、「まちごとテレワーク」につながる活動に発展した自治体もあります。
ここでは、そんな「ふるさとテレワーク」の成功事例をご紹介します。
長野県塩尻市|ふるさとテレワークで4億5000万円の経済効果を実現
長野県塩尻市にある王滝村には、昔の旅籠を改修したギークハウス、富士見町には学校の遊休施設を利用したサテライトオフィス、そして塩尻市には雇用支援施設を利用したテレワークセンター及び、これら3つのコワーキングスペースを一元で管理するテレワーククラウドが置かれています。
このクラウドによって管理されたバーチャルオフィスにより、都市部の仕事を地方にいたままで続けられるということを実証することで、県内における他市町村のふるさとテレワーク導入を促進。あわせて、shinshu-telework.jpのドメインを取得し、「信州ふるさとテレワーク」推進の基盤を構築する取り組みも行われています。
信州ふるさとテレワークでは、「ふるさとテレワークを身近に感じる事例インタビュー」「信州ふるさとテレワーク全体情報発信」「市町村魅力発信」などを通じて地方でのテレワークの魅力を発信しています。
(2)実証事業の成果
塩尻市への移動人数の目標は25名でしたが、2015年の時点でその2倍以上の56名という成果が得られました。また、テレビ会議実施回数は91回と、目標の50回を大きく上回っています。
ふるさとテレワーク実証事業の実施が地域(長野県内)に与える経済波及効果は、年間目標1億円を大幅に上回る4億5000万円となりました。
さらに、この実証事業では事業開始前と後に参加したテレワーカーにアンケートを実施しました。
その結果、「仕事の生産性」について事業前は「やや高い・高い」が17%であったのに対し、事業後は78%と明らかな改善が見られました。また、「ワークライフバランスの満足度」について事業前は「やや高い・高い」が41%だったのに対し、事業後には94%と参加者のほぼ全員が満足度の向上を実感しています。
(3)ふるさとテレワーク推進事業への参加
前述の2015年度「ふるさとテレワーク推進のための地域実証事業」で成果を上げた塩尻市は、2016年にはふるさとテレワーク推進事業へ参加し、松本市とコラボしての参加となりました。
松本市とコラボした経緯については、実証事業の成功によって県外企業のみならず地元企業からの受注が急増したため、塩尻市の約4倍の人口を擁する松本市と共同で事業を進めた方が効率的と判断した、とのことです。
松本市との共同参加を機に「長野県中信地域ふるさとテレワーク推進コンソーシアム」を立ち上げ、連携してテレワークの推進を開始しました。
テレワーク推進コンソーシアムが対象としているのは個人事業主や起業家といった方なのですが、その中核にあるのが「テレワークセンターしおじり」です。
テレワークセンターしおじりにはサテライトオフィスが併設され、企業から派遣されたテレワーカーや地元採用のワーカーが業務にあたっています。専門性が高い業務については松本市にあるコワークキングスペース「Knower(s)」に割り振られるなどして業務が進められます。
一般財団法人長野経済研究所の中村雅展氏は、「この取り組みによって順調に仕事量が増えている。」と語っています。塩尻市の取り組みは、まちごとテレワークにもつながるものも多く、それは特に「ふるさとテレワーク推進事業」において顕著です。
群馬県高崎市|東京から高崎市への労働力の移転を実現
高崎市の『ふるさとテレワーク推進のための地域実証事業』は東京から高崎市への労働力の移転を図るという目的に特化しているという点で、ふるさとテレワークの定義に忠実なプロジェクトだと言えるでしょう。
具体的な取り組みとしては、東京のワーカーが直面するライフイベント(出産・子育て、介護など)を高崎市がテレワークを通じて支援するという目的のため、テレワーカーにとって利便性の高いサテライトオフィスやテレワークセンターを整備したという点が挙げられます。
「ふるさとテレワーク推進のための地域実証事業」においては、常時接続のタブレットを導入することによるテレワーカーの孤立軽減策や、都市部中小企業へのテレワークを利用したサテライトオフィス設立支援などを実施し、Stand for mothersの自社サテライトオフィス設立をはじめとして、2015年の時点で労働力移転33名という結果でした。
また、県外から移住してきた女性が、子育てしながら働けるテレワークの仕組みを構築するべくテレワークセンター「タカサキチ」を設立し、2015年の時点で自営型テレワーカー3名を輩出するなどの成果も得られました。
実証終了後も様々な取り組みがなされ、現在では株式会社CRANEが空き家を活用したサテライトオフィスを開設するなど着々と活動が進められています。
和歌山県白浜町|サテライトオフィスの活用で多くのIT企業が集積
白浜町には2004年より「白浜町ITビジネスオフィス」という貸オフィスを稼働させていたという経緯がありました。当初は、空きの状態が続いていましたが、2014年にメディスト株式会社が進出するや、続いてNPO法人IT教育機構も入居するなど新たな動きがみられるようになったと言います。
その後、ICT関連企業である株式会社セールスフォース・ドットコムの進出を機にふるさとテレワーク参加が浮上したというわけです。白浜町の『ふるさとテレワーク推進のための地域実証事業』においては、サテライトオフィスの活用による従業員の移住もしくは長期派遣の推進とテレワークの有効性の検証が行われました。
実証事業によって、株式会社セールスフォース・ドットコムに続き、株式会社ブイキューブ、rakumo株式会社、ブレインハーツ株式会社の進出が決定しました。
成果としては、2015年の時点で人の移住・長期派遣などが27名に達したという点が挙げられます。
生産性についても、セールスフォース・ドットコムがまとめたデータ(『白浜町におけるパブリッククラウドサービスを利活用した先進的テレワーク推進及び検証事業』P5 )によると、活動件数が6%増、商談件数が11%増、そして契約金額においては何と63%増という成果を上げています。
さらに、白浜町に滞在するテレワーカーの生活をダイレクトに支援する「生活直結サービス」提供のため「白浜リンク」というアプリを開発。ツールの面だけでなく、家族で白浜に移住する方に対してはお子様の小学校の手続きや、暮らしに関わる様々なことを町がサポートするという取り組みも行われています。
和歌山県からも手厚いサポートがあるという点も白浜町の人気を後押ししています。進出企業が、地元雇用3名以上などの一定条件を満たせば、飛行機代の半額補助や地元雇用1名につき年間30万円の補助が受けられるなどのサポートがあるのは魅力的です。
様々な取り組みの結果、白浜町ITビジネスオフィスは現在満室で、2つ目のオフィスを構える予定とのこと。2015年度には、年間で200件を超える視察があるなど、白浜町にIT企業が集積し始めている様子が見て取れます。
福岡県糸島市|子連れOKのコワーキングスペースで女性の活躍を支援
総務省の2014年度の『ふるさとテレワーク推進のための地域実証事業』に参加した糸島市は、以前から移住先として注目されてきました。福岡市の博多や天神から車で30分程度という好立地ながら、観光資源に恵まれていることから観光業も盛んな地域です。この糸島市では2015年には利用目的の異なる2つのテレワークセンターを開設。
その1つは前原テレワークセンターで、糸島の女性が子育てしながら働けるコワーキングスペースとしての機能を有しています。もう1つの芥屋(けや)テレワークセンターは都市部からの従業員、フリーランサーなどが利用するサテライトオフィスとして利用されています。
芥屋テレワークセンターでは東京の従業員13人が派遣され、テレワークにより業務を実施することができたと言います。ちなみに事業実施期間中の芥屋テレワークセンターの利用者数は延べにして451人、1日あたりの利用者は7.1人でした。
さらに、前原テレワークセンターで行われたクラウドソーシングのセミナーには67人の女性が参加し、そのうち17人がクラウドワーカーとして登録しました。そのうち、実際に仕事を受注したのは9人という成果を上げています。
2017年には前原テレワークセンターで「ママライター育成講座」が開講され、定員8名のところ23名の応募があるなど反応は上々で、そのうち10名が受講。
講座を受講したメンバーが核となってママライターのチームが発足しつつあるとのことです。
ふるさとテレワークを成功させるための注意点
地域、働き手、企業のそれぞれにとってメリットの多いふるさとテレワークですが、うまく運用するためには、いくつか注意すべき点があります。
この章では、物理的な距離をカバーし、ふるさとテレワークの効果を最大限に得るための、以下2つの注意点について、解説していきます。
- サテライトオフィスで通信回線とセキュリティを確保する
- ICTツールによる勤怠管理
これらに留意した環境や仕組みを整え運用することで、ふるさとテレワークによるメリットを最大に引き出し、好循環を生むことができます。
それぞれ詳しくみていきましょう。
サテライトオフィスで通信回線とセキュリティを確保する
テレワークで業務を行う場合、インターネットが使えることは絶対条件となります。
しかし都心部では主流となっている通信速度の速い光回線も、山間の住宅地では利用できない場合もあります。
また、セキュリティ対策の甘い回線を利用することによる情報漏洩や、在宅勤務時に子供がPCを触ってしまうなど、テレワークにはセキュリティ関連の課題も多数存在します。
こうした課題はサテライトオフィスや、コワーキングスペースを利用することで解決します。
その地域で働く従業員が一定数いるのであればサテライトオフィスを設けるのも解決策の1つです。
オフィスを借りるほどの従業員がいないのであれば、座席数で利用できるコワーキングスペースを利用するのがおすすめです。
コワーキングスペースを利用することは、利用者同士のコミュニケーションが生まれることから、新しいビジネスアイデア創出に一役買うことになります。
ふるさとテレワーカー支援としてコワーキングスペースの積極的な運営に取り組んでいる自治体も多いため、利用すると良いでしょう。
ICTツールの活用
例えば、サテライトオフィスを用いない在宅勤務の場合、どうしても勤務実態が把握しづらくなってしまうことが課題です。
また、テレワークにおいてはコミュニケーション不足が懸念されます。
こうした課題は、ルールの策定とともにICTツールを活用することで解決できます。
例えば、PC起動と同時に打刻ができる勤怠管理システムを導入すれば、勤怠管理を正確に、かつ簡単に行うことが可能です。
また、ビジネス用のチャットやWeb会議システムを活用することにより、コミュニケーション不足も解消できます。
Web会議、テレビ電話、と聞くと、音声や画質の乱れが懸念されますが、近年ではほとんどタイムラグが生じず、クリアな通信が可能となっています。
数あるWeb会議システムの中で、ふるさとテレワークでの利用にはどのシステムが向いているのか、次の章で詳しくみていきましょう。
ふるさとテレワークにおすすめのWeb会議システム
最後に、ふるさとテレワークを快適に行うためにおすすめのWeb会議システムを紹介します。オフィスから離れた地方でテレワークを行う以上、遠隔でも簡単に打ち合わせや会議などのコミュニケーションを取れる通信手段が必要不可欠になります。
ストレスなく使うことができる、高品質で沢山のユーザーに愛されているものを厳選しているので、自社・地域のインターネット環境やテレワークの形態などを考慮しながら、ニーズや課題に合わせて最適なツールを選んでみてください。
Zoom|クリアな音声、クリアな画質と高い安定性
商品名:Zoomミーティング(Web会議システム)
提供元:Zoom Video Communications, Inc.
価格帯:無料版と有料版あり
- プロ(小規模チーム向け):2,200円/月(年契約:26,400円)
- ビジネス(中小企業向け):要問い合わせ
- 企業(大企業向け):要見積もり
「Zoom」は無料版・「プロ」・「ビジネス」・「企業」といった複数のプランがあり、世界75万社で利用されています。
最大で1000人まで参加可能なので、簡単な打ち合わせから大規模な会議まで幅広く対応。4つのプランから選ぶことができるので、自社のニーズに合わせた選択もしやすいです。
Zoomの有料版を使うべきメリットとは?
Web会議ツールZoomの有料版を使うべきメリットについては、「Zoomの有料版を使うべきメリットとは?無料プランとの違いや決済方法を解説」のページでも詳しく紹介しています。ぜひあわせてお読みください。
テレワークを成功に導く、企業担当者が導入するべきITツール22選
本記事よりもさらに多くのWeb会議システム、またテレワークに有用なその他のITツールについて知りたい方は、関連記事「テレワークを成功に導く、企業担当者が導入するべきITツール22選」もあわせてご覧ください。
ふるさとテレワークの実施に補助金はある?
総務省では2018年度まで、ふるさとテレワークの普及を測るため、地方自治体や民間企業等に対し、地方のサテライトオフィス等のテレワーク環境を整備するための費用の一部を補助する事業を行っていました。
2015年度の実証実験を含めると、累計で55の事業への補助を行なっており、2018度には、全国から7つの企業や自治体の提案を採択しています。
2019年以降、補助金の公募は行われていないようですが、これらの経過を見て再開される可能性もあるため、総務省のテレワーク総合情報サイト「Telework Net」を頻繁にチェックすると良いでしょう。
まとめ|ふるさとテレワークは、多様な人材の確保と地方活性化の両方を実現する
今回は、ふるさとテレワークの概要や、成功事例について解説いたしました。
ふるさとテレワークは働き手だけでなく、企業にとっても、人材の確保や万が一の時のリスク回避といった点で非常に効果的な施策と言えます。
また、ふるさとテレワークを推進することは、労働人口不足や地方の過疎化といった、日本の抱える問題の解決にもつながります。
働き方改革と同時に現在の感染症拡大防止の点でも、より柔軟な働き方の模索が必要視されています。ご紹介した「ふるさとテレワーク」を今後の新しい働き方のひとつとして検討してみてください。