ハイブリッドワークで生産性が上がるって本当?データから見る効果と取り組み例

2020年から多くの企業で導入が進んだテレワークですが、2023年に新型コロナウイルスの5類感染症に移行されてから、オフィス出社に回帰する傾向がみられます。

従来のような完全オフィス出社へ戻す企業もある一方、テレワークとオフィス出社を組み合わせたハイブリッドワークを取り入れる企業も少なくありません。

2023年8月には、米国のWeb会議サービスを提供する「Zoom」が、オフィス近隣に住む従業員に週2回オフィス勤務を命じたことが話題となりました。これは、コミュニケーションや生産性を良好にするための施策で、Zoomは、「体系的でハイブリッドなアプローチ」が最も効果的だと説明しています。

そこで気になるのは「ハイブリッドワークと生産性」の関係です。Zoomがいうように、ハイブリッドワークは本当に効率的に働ける環境なのでしょうか。そこで本記事ではこうしたハイブリッドワークの現状と、データから見た生産性との関係、そしてハイブリッドワークで生産性を向上させるための取り組み例をご紹介します。

ハイブリッドワーク?出社?企業の動向

それではまず、現在の日本企業の出社頻度の現状について見てみましょう。 

東京都心部でのオフィス出社率は7割超

ニッセイ基礎研究所とクロスロケーションズが、携帯位置情報データを用いて推計した都市別のオフィス出社率について紹介します。

この調査では東京5区のオフィス出社率は約70%と発表されています。その他の都市でも、水準は異なるものの同様にオフィス回帰の傾向がみとめられる一方、依然としてコロナ禍前の出社率には達してはいません。アフターコロナでも、テレワークを活用した働き方を続けている企業がいることがわかります。

参照:コロナ禍におけるオフィス出社動向-携帯位置情報データによるオフィス出社率の分析 |ニッセイ基礎研究所

ハイブリッドワークの現状

パーソル総合研究所の「第八回・テレワークに関する調査/就業時マスク調査」によると、新型コロナウイルスの5類移行後の2023年7月13日から7月18日において、ハイブリッドワークの勤務者の割合は約20%でした(テレワーク頻度が1週間に1日、2~3日、4日程度の割合を合計)。この数値は、5類移行前のハイブリッドワークが約24%であったのに比べてやや少ない割合です。

ハイブリッドワークによる生産性向上の効果

ハイブリッドワークを導入すると、本当に生産性は向上するのでしょうか?

シスコシステムズの調査では世界全体では約60%、日本では約40%の社員が、ハイブリッドワークによって仕事の質と生産性が向上したと感じていると回答しました。さらに、全体の約76%は、テレワークでも職場と同じように職務を果たせると感じています。

これらの背景としてシスコシステムズは、ライフワークバランスの向上や勤務スケジュールの柔軟性、通勤時間の大幅な短縮など、複数の要因を挙げています。

また、ZDNET Japanとデル・テクノロジーズの調査では、ハイブリッドワークを望む人が8割近くに上る結果が出ました。「あなたにとってもっとも生産性の高い働き方と考える選択肢を教えてください」という問いに対して、79.3%の人が「在宅勤務と出社勤務の併用」を選んでいます。ちなみに「在宅勤務のみ」の割合は8.5%、「出社勤務のみ」の割合は11.0%と少ない割合に留まりました。

ハイブリッドワークが圧倒的に支持されている背景について、同調査は、「テレワークに慣れるにしたがって、出社時に集中的に対面ミーティングを図るなど上手な切り替えをできる人が増えたからではないか」と推測しています。 

ではなぜオフィス出社のみに戻す企業が増えているのか

パーソル総合研究所の調査では、5類移行前では70.8%だった完全出社勤務が、5類移行後には75.1%とやや増えています。5類移行後の出社者数がかなり増えた、少し増えたと回答する人の数は合計24.6%(変わらないは68.6%、減ったは6.8%)と、オフィス出社のみに戻す傾向にあります。

一方、テレワークに関する企業方針で原則出社の指示をしている割合は21.5%であり、それほど多くありません。また、出社頻度に関して「特に会社からの指示無し」と回答した企業の割合は63.1%であることを考慮すると、企業が出社を求めているのではなく、従業員自ら出社しているケースが多いと分かります。 

ハイブリッドワークには生産性向上以外の効果も

ハイブリッドワークには生産性向上以外にも、従業員エンゲージメントや人材確保など多くのメリットがあります。ここでは企業側、マネジメント層側の視点から、これらのメリットを解説します。

従業員満足度が向上する

従業員満足度とは、企業文化や給与・待遇、福利厚生、人間関係、職場環境、上司のマネジメント能力などについて従業員がどれくらい満足しているかを示す指標です。

ハイブリッドワークは主に労働環境についての従業員満足度を高めます。例えば、通勤が減ったことで精神的・肉体的に楽になったり、プライベートの時間を多く確保できたりすれば、従業員の会社への満足度が高まるでしょう。また自宅の静かな環境で仕事に集中できることで、仕事がしやすくなる人もいます。

もちろん在宅勤務には「孤独感を感じやすい」「報告・連絡・相談がしにくい」などのデメリットもあります。しかし、出社もできるハイブリッドワークでは、コミュニケーションのために出社することも可能で、従業員満足度を向上させやすいといえるでしょう。実際、先ほど紹介した調査のように、ハイブリッドワークを望む人は多くいます。

従業員エンゲージメントが向上する

従業員エンゲージメントとは、従業員が企業のビジョンや理念などに共感し、主体的に企業に貢献したいと思う度合いです。「愛社精神」と似た意味があり、企業と従業員の結びつきの強さを示す指標でもあります。従業員エンゲージメントが高い企業は従業員満足度も高くなるのが一般的です。

リアルワン株式会社の「従業員満足度およびエンゲージメントと在宅勤務・テレワークの関係」によると、テレワークを部分的、全面的に実施しているほうが、エンゲージメントが高いと感じる割合が高くなっています。

また、米国の大手調査会社ギャラップ社の調査によれば、従業員エンゲージメントが10%増加すると、生産性は14%〜18%増加し、収益性は23%増加するということです。従業員エンゲージメントが向上すれば、生産性向上も期待できるでしょう。

人材確保と定着につながる

ハイブリッドワークを導入すると、出社のみの勤務形態に比べさまざまな人が労働可能です。例えば、テレワークは家にいる時間を長くできるため、介護や育児中の人も仕事を続けやすくなります。また、オフィスから離れた場所に住んでいる人も働けるようになります。

オフィス出社のみの場合より、多種多様な人を雇用できるようになり、人材不足の解消につなげられるようになるでしょう。これは、少子高齢化による労働力不足に悩む企業にとって大きなメリットです。

また、ハイブリッドワークによって働きやすい環境を整えると、採用活動もスムーズになります。近年では給与や待遇だけではなく、働きやすさを重視する求職者が増えている傾向にあるからです。

株式会社カカクコムの調査によれば、働きやすさの条件の一つとして「テレワークに対応しているか」をチェックする人が増えていることが明らかになっています。「リモートワーク」のキーワードで検索した人は2020年2月から2023年同月までの3年間で42%増加しています。

企業側は就業条件の重要ポイントとして、テレワーク対応を考えなければならない時代になったといえるでしょう。

ハイブリッドワークで生産性を上げるポイント

ハイブリッドワークで生産性を高めるためには、テレワーカーと出社者がしっかり連携を取り合い、同じオフィスで働いているようなチームワークを発揮させるのがポイントです。ここでは、そのための3つの施策を解説します。

コミュニケーションの断絶を防ぐ

対面して気軽に雑談や相談ができる出社勤務者にくらべ、テレワーカーはメールやチャットでしかやり取りできません。共有されるべき情報が漏れてしまうこともあるでしょう。そのため、ハイブリッドワークを実施していると、出社社員とテレワークの社員の間で情報格差が生じやすい傾向があります。

情報格差をなくすためには、ITツールの活用が効果的です。例えば、全員が参加できるWeb会議システムを導入すれば、対面コミュニケーションに近い形で会議を行えます。相手の表情や身振りなどの非言語情報も伝わるため、スムーズな意思疎通につなげられるのもメリットです。

また、ビジネスチャットツールを導入すれば、電子メールよりもリアルタイムで気軽な会話が可能となるため、コミュニケーションが活性化する傾向があります。Web会議システムとビジネスチャットはハイブリッドワークに必須といえるツールですので、優先的に導入するとよいでしょう。

オフィスをコミュニケーションの場として活用する

ハイブリッドワークの大きなメリットは、必要に応じて出社して対面コミュニケーションを図れることです。このメリットを生かすには、職場のメンバー同士で出社のタイミングを合わせることが大切です。チーム発足のとき、中間報告が必要なときなど、場面に応じて出社するようにしましょう。

とはいえ、ハイブリッドワークが推進されれば、社内でのコミュニケーション機会が減るのはほぼ確実です。このため、意図的にオフィスでのコミュニケーションを活性化させる施策も導入するべきです。

例えば、3〜4人が気軽に集まれるミーティングテーブルを設置したり、カフェスタイルでいろいろな部署や役職の人が集まるマグネットスペースを設けたりしている企業があります。そうしておけば、出社のときにコミュニケーションが取りやすくなります。

オフィスは対面コミュニケーションが取れる場です。コミュニケーション促進やチームビルディングの一環として積極的に活用できるように工夫するとよいでしょう。

オフィス環境を整える

ハイブリッドワークでは、テレワークの人と出社勤務者がインターネット回線を介して共同作業する機会が増えます。テレワークと出社勤務者がやり取りするために、おのずとWeb会議を使用することも増えるでしょう。

オフィスでWeb会議を行うときによく起こる課題の一つは、自席でWeb会議を行うと周囲がうるさいと感じることです。周囲に配慮して会議室を使いたくても、「会議室が空いていない」「一人なので会議室を使いにくい」などの理由で、しかたなく自席を選ぶ人もいるでしょう。

こうした場合は、大規模な工事なしにWeb会議のスペースを確保できる個室ブースが効果的です。個室ブースは電話ボックスほどの省スペースながら、高い遮音性があります。ドア付きのタイプにすれば、機密情報を扱う会議や1on1の面談なども実施可能です。

また、複数人でWeb会議をしたい場合には、テレビ会議室を設けるとよいでしょう。テレビ会議室は1台のPCから社内の複数人が参加できます。外付けのカメラとマイクを設けたテレビ会議室は、画角 (映像に写る範囲)が広く集音性能もよいため、ミーティングの質を向上できるのがメリットです。

従来のテレビ会議室は、専用の機器・回線が必要で導入コストがかかりました。しかし現在はWeb会議システムと大型ディスプレイ、既存のインターネットでリーズナブルに実現する方法も選べます。

まとめ

ハイブリッドワークを導入し、出社だけではなくテレワークができるようにすれば、通勤ストレスの緩和や多様な働き方の実現などによって生産性向上が見込めます。週に何度かテレワークができる環境を求める声は多く、従業員満足度、エンゲージメントの向上や人材定着などのメリットも期待できるでしょう。

ハイブリッドワークに対応できる業務を広げながら、対面と変わらない生産性を生み出すにはITツールの活用が欠かせません。Web会議システムや個人ブース、テレビ会議室の導入などで、自社のハイブリッドワーク環境を整えていきましょう。

山本脩太郎
著者情報山本脩太郎

ブイキューブのはたらく研究部 編集長?部長? 2018年株式会社ベーシックに新卒入社。 インサイドセールスを経て、マーケティングメディアferretの編集部でインタビュー記事を中心とした企画・執筆などを担当。 同時期に数社のコンテンツマーケティング支援・インタビュー取材を経験。 2020年3月に株式会社ブイキューブに入社。

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