テレワークの問題点とは?

近年は日本の急速な人口減少問題、生産性の低さ、女性の就労率の低さ、すでに予想されている介護問題など多くの課題の解決策の一つとして、テレワークが期待されています。国が積極的に奨励していることもあり自治体や企業に導入が進み成功例も出てきています。

一方、導入する企業が増えるにつれさまざまな問題点が浮上しています。本記事ではテレワークで起こりがちな問題点と対策について解説します。

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テレワークの普及状況

テレワークとは在宅ワーク、リモートワーク、サテライトオフィス勤務など、オフィスから離れて働く勤務スタイルのことを言います。

総務省の「平成30年通信利用動向調査」によると、テレワークを導入している国内の企業は19.1%で内訳はモバイルワークが63.5%、在宅ワークが37.5%、サテライトオフィス勤務が11.1%です。まだ決して多くはありません。

テレワークの問題点1.図表4-1テレワークの導入状況

画像引用元:平成30年通信利用動向調査の結果(概要)

東京都は1/4の企業が導入済

東京都に限定すると導入率はもっと高くなります。都が令和元年7月に行った「東京都 多様な働き方に関する実態調査(テレワーク)」によると、都内の従業員数30人以上の企業10000社の25.1%がテレワークを導入済です。

しかも、従業員300人以上の中堅企業に限定すると導入率は4割を超えています。2020東京オリンピック開催を前に、企業が在宅ワークやリモートワークができる体制を急ピッチに整えたことがうかがえます。

テレワークの問題点2.テレワークの状況(速報値) 東京都

画像引用元:東京都TOKYOはたらくネット

テレワークが注目される理由とメリット 

テレワークは、おもに以下のような導入メリットが期待されています。

  • 女性の育児中の就労継続
  • 介護と仕事の両立
  • 従業員のワークライフバランス向上
  • 地方や海外人材の雇用
  • テレワーク導入に伴う業務改革
  • 移動時間、通勤時間及びコストの削減
  • 非常時(台風、地震等)の事業継続

そのほか、テレワーク導入に成功すれば企業にとっても個人にとっても、多くのメリットがあることがほかの先進国の先行事例などをもとに指摘されてきました。

実際、導入した企業の満足度は高く、総務省の「平成30年通信利用動向調査」では導入企業で「効果があった」「ある程度効果があった」と回答した企業は81.6%にものぼります。

 

テレワークの問題点3.テレワークの効果(平成30年)

画像引用元:平成30年通信利用動向調査の結果(概要)

従業員側の満足度はどうでしょうか?

2019年にエン・ジャパン株式会社が、「エン転職」ユーザーの10000名を対象に行った調査ではテレワークを経験したことがある人は3%ですが(総務省の調査でも過去1年にテレワーク経験がある人は8.5%)、テレワーク経験者が「今後もテレワークで働きたい」と思う率は全体で72%です。

理由は「通勤ストレスがなくなるから」が71%、「業務に集中できて生産性が上がるから」が45%です。この2つの調査結果から、テレワークを実際に経験している人はまだ少ないものの、企業もテレワーク経験者も満足度は高いことがわかります。

テレワークの問題点4.今後もテレワークで働きたい人の理由

画像引用元:エン・ジャパン

テレワークの問題点とは

一方、最近はテレワークを導入したものの生産性が上がらない企業の事例やテレワーク自体をやめる企業も出ています。

企業にとってはマネジメントが難しく、週5日必ず出社してほかの社員と一緒に働くワークスタイルに慣れ親しんできた社員にとっても、いざ実践してみると想定していなかった問題が起きるようです。

エン・ジャパンの調査で「テレワークを今後継続したくない」と回答した人の理由のグラフを見ると、テレワークには働く側が不安を感じる要素も多いことがわかります。

テレワークの問題点5.テレワークを続けることへの不安(エン・ジャパン)

 画像引用元:エン・ジャパン

以下、テレワークの問題点と対策について解説します。

仕事のON/OFFの切り替えの難しさ

テレワークの中でも在宅ワークはONとOFFの切り替えの難しさが問題になりがちです。

オフィス勤務なら移動時間がアイドリング時間となりますが、仕事をするスペースとくつろぐスペースが同じだと、意識的に気持ちを切り替える必要があるからです。

そもそも一般住宅は人間がくつろげるような色彩や間取りで設計されています(色彩学の分野でどの光や色が人の皮膚を弛緩させるかは研究されており、建築物にも応用されているからです)。

週1~2日くらいのテレワークなら新鮮さもあり集中できるとしても、完全在宅ワークにすると身体がゆるみONのスイッチが入りにくい場合が出てくることは想像に難くありません。

個人の対策としては書斎があればベストですが、ない場合はデスク周りを完全に仕事モードのレイアウトにするなど、スペースを切り分けることが大切です。企業側としては、サテライトオフィスを増やすなど、社員がテレワークでも快適な環境で働けるような対策をとる必要があるでしょう。もっとも短時間や週に1~2日程度のテレワークであればそれほど問題ないと言えます。

長時間労働になりがち 

テレワークを導入するときに管理職の方は「真面目に仕事をするのか心配……」と思われるかもしれませんが、逆に長時間労働になるリスクもあります。

テレワークはいつでも働くことができるため、真面目さゆえであったり評価を気にしたり凝り性であったりと理由はいろいろですが、決められた時間以上に働く人が出てくる可能性は高いでしょう。

しかも在宅ワークの場合は同僚がいないため、ちょっとした業務連絡や雑談で小休憩をとることがありません。ビジネス用ではない椅子に座って長時間仕事をし続ける日々が続くと、目や腰などが悪くなる可能性もあります。

長時間労働の対策としては、厚生省のガイドラインにあるように深夜・時間外労働の原則禁止や、システムへのアクセス制限などがあります。テレワーク導入時に、社員に適度な休息をとるなどセルフマネジメントの重要性を説明することも大切です。

テレワークの問題点6.長時間労働を防ぐ手法

画像引用元:厚生労働省 「情報通信技術を利用した事業場外勤務(テレワーク) の適切な導入及び実施のためのガイドライン

成果指標の明確化が欠かせない

テレワークは基本的に成果主義に近いワークスタイルになります。仕事のプロセスがみえづらいため働いた時間よりも何をどのくらいの量こなすか、達成すべき成果は何かを明確にしないと社員がどこまで頑張ってよいかわからないからです。

しかし、日本は職務範囲が明確な欧米のJOB型雇用と違い、人に合わせて職務内容を柔軟に決めていくメンバーシップ型雇用が一般的です。

「この仕事はうちの部署でする内容ではないのではありませんか?」と社員が確認したところ、「では部署の名前を変えよう」と経営者が決断したという話もあるほど、人に仕事がつく傾向があります。

メンバーシップ型雇用には長所も多々ありますが、テレワークを導入するならば職務範囲と成果指標を明確にする必要があります。特に職務領域があいまいになりやすい間接部門の職務範囲を言語化する作業が必要です。自分が出すべき成果が明確になれば、社員はテレワークでも仕事を自分でコントロールできます。

暗黙知の共有ができない

オフィス内で働いているとさまざまな情報を自然にキャッチします。仕事に集中しているつもりでも周囲の雑談、同僚と誰かの電話の内容、社内放送などを何となく聞いているものです。優秀な人のそばにいるとやる気がでるように、生身の人からも影響をうけます。暗黙知が自然に共有され、モチベーションが保ちやすい面があります。

若手が多い会社であれば先輩の振る舞いや言動を見て学ぶことも多々あるはずなので、テレワークは少なめにして出勤日が多めのほうが望ましいかもしれません。

テレワーク用の業務選定

テレワークを導入できない理由に「適応できる業務がない」と答える企業が多く見られますが、テレワークの中でもリモートワークなら、比較的簡単に多くの外勤職に導入することができるでしょう。営業やメンテナンス、なかには土木会社で活用しているケースもあります。

外勤が多い業務以外に、自己完結型の業務もテレワークに適していると言われます。

  • 自己完結的な業務:Webデザイナー、プログラマー、SEなど
  • 外勤が多い業務:営業、メンテナンス、サービスエンジニア
  • サービス職:カスタマーサポート

現実には間接部門の業務でもペーパレス化、業務プロセスの簡素化、適切なテレワーク用のタスク管理ツールなどを導入すれば、かなりの業務がテレワークに適応可能です。しかし、営業マンの移動時間のようにわかりやすい非効率な時間がないため必要性を感じていない企業も多いのかもしれません。

テレワークはそもそも社員が子供が熱を出しときに病院につれていったり、通勤時間を軽減してワークライフバランスを充実させたりすることに大きな目的があります。業務で決めるというよりも社員の年代や家族構成などを考慮しテレワークができる体制を導入する部署を決定すべきかもしれません。

コミュニケーションの希薄化

人が仕事をする上でのモチベーションは給与や待遇だけでなく、上司や同僚との仲間意識も大きく影響します。例えば、ある外資系企業の営業部門で、週1日のみ出社日を決めてテレワークを導入したところ、微妙に営業マンの競争意識が低下してやや生産性が下がったという事例があります。

人は顔を合わせるほど相手に愛着を持ちます。たしかに週5日会い続けると人間関係がゆきづまりストレスもたまりがちですが、あまりに顔を合わせないのもマイナスです。コミュニケーションが希薄化するところはテレワークのデメリットだと言えるでしょう。

テレワークを導入する際は職種ごとに適度な出社日を設けたりビジネスチャット、Web会議などで積極的にコミュニケーションをとったりすることが大切です。

ただし、テレワークを経験してオフィスで同僚と一緒に働く良さを理解することは決してマイナスではありません。日ごろ目立たないものの実は頼りなる社内SEや総務部門のスタッフのありがたさ、自分に刺激を与えてくれていた同僚の価値を知ることができるからです。

出社日とテレワークの日のバランスが適切であれば、コミュニケーション上プラスの効果が出てくることも期待できるでしょう。

勤務時間の把握   

テレワークでは管理職の目の前に部下がいるわけではないため、実際の勤務時間が正確に把握しづらいところも課題です。

対策としてはシステム上でのログオン、ログアウトを記録し累積労働時間を測るなどテレワーク用の管理ツールを導入する方法があります。社員に自律的にタイムマネジメントする意識を持ってもらい、評価は成果主体で行うことを徹底する方法もあります。

まとめ|テレワーク導入のポイントは柔軟性

 テレワークについての問題点が多々出てきているものの、データで見ると導入企業の8割、テレワーク経験者の7割以上が満足している状況です。0か1という発想ではなく、テレワークのメリットを活かせるような導入を考えることが大切です。

テレワークはあくまでワークスタイルの一つでしかありません。週5日働く週もあれば、育児の都合で半日だけテレワークをする日、通勤時間が2時間かかるため週2日は自宅で業務に集中するほか、いろいろな働き方の選択肢を従業員が持てるようにすることが目的です。

そうすることで企業は離職を防止したり、優秀な人材を短時間だけ雇用したりすることができます。

テレワークとはいえ業務であることは同じなので、企業はできるだけ社員に快適な仕事環境を提供することが必要です。また、ITツールなどを活用しコミュニケーションが希薄にならないように配慮しましょう。

戸栗 頌平
著者情報戸栗 頌平

B2Bマーケティングを幅広く経験。外資系ソフトウェア企業の日本支社立ち上げを行い、創業期の全マーケティング活動を責任者として行う。現在東京在住。2019年はフィリピンに在住し日本企業のBtoB活動を遠隔支援、場所にとらわれない働き方を通じ、マーケティング支援の戦略立案から実行までの支援を行なっている。Facebookは こちら。Twitterは こちら。LinkedInは こちら。ウェブサイトは こちら

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