在宅勤務が企業にもたらすメリットとは?導入のデメリットや注意点も解説

政府が推進をする「働き方改革」により、従来のようにオフィスに出社する働き方が見直され、自宅での勤務を可能とする新しいワークスタイルである「在宅勤務」が注目を浴びています。

今ではトライアル的に導入する企業も増えており、災害時における交通機関などの混乱や新型コロナウイルスなどの感染症のパンデミックを避ける方法としても注目が集まっています。

本記事では、在宅勤務を導入するメリット・デメリットについて紹介していきます。

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在宅勤務とは、自宅で業務を行う勤務形態

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在宅勤務とは、直接オフィスに出社せずに自宅で業務を行う勤務形態のことです。

チャットツールやWeb会議システムといったITツールを活用して、オフィス勤務と同じレベルで自宅でも業務をこなすことが可能になったことで、このような新しい勤務形態が生まれました。

在宅勤務と混同されがちな言葉に、「テレワーク」があります。

テレワークとは情報通信技術(ICT)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のことです。そして、テレワークは働く場所によって以下の3つに分類されます。

  • 自宅利用型テレワーク(在宅勤務)
  • モバイルワーク
  • 施設利用型テレワーク(サテライトオフィス)

つまりテレワークとは、オフィスに出社せずに働く勤務形態のことであり、在宅勤務は自宅でテレワークを行う勤務形態のこと、つまりテレワークの1種です。

テレワーク=在宅勤務と捉えている方も多いのですが、実際にはテレワークには在宅勤務以外でも様々な方法があることを覚えておきましょう。

在宅勤務の普及率

ネット環境の整備や様々なITツールが開発されたこともあり、年々在宅勤務を取り入れる企業は増えています。

総務省が行った「平成30年版 情報通信白書」によると、2018年の日本における企業でのテレワーク導入割合は13.9%であり、そのうち在宅勤務を行ったことのある企業は29.9%でした。つまり、調査対象企業ののおよそ24社に1社が在宅勤務を導入していることになります。

テレワークの導入率は年々増えており、2019年における企業のテレワーク導入割合は19.1%となっています。それに伴い、在宅勤務を採用する企業も増えています。

企業では、一週間の中で在宅勤務をして良い日数を定める方法や、コアタイムを設けてそれ以外は在宅勤務を可能にする方法など、様々な導入方法がとられています。

企業が在宅勤務を導入する背景

企業へのテレワークの導入そして在宅勤務の導入が進んでいることを解説してきました。しかし、ここまで急速に導入が進む背景とは一体何なのでしょうか。

この章では、在宅勤務が求められている理由について解説していきます。

場所にとらわれない働き方へのニーズ

育児や介護などを理由に会社を辞めざるをえない人でも、「働き続けたい」というニーズに応える手段として在宅勤務があります。今までこれらのライフイベントで退職を余儀なくされていたケースでも、仕事を辞めずに継続することが可能になりました。

また、「働きつづけたい」というニーズだけでなく、「毎日オフィスに出社することなく、場所にとらわれない柔軟な働き方をしたい」というニーズにも応えることができます。

これらは個人の働き方のニーズを満たしているといえますが、企業にとっても導入する効果は大きいといえます。

日本の少子高齢化の実態から、労働人口(15歳から64歳まで)が今後はますます減少していくといわれるなかで、とくに中小企業は人材不足を補うために、仕事の効率化や、女性社員の確保の必要性が出てきます。

本来であれば育児を機に会社を辞めていた社員でも、在宅勤務によって子育てと仕事の両立が可能となれば、企業にとっても大きな戦力となります。結果として、人材不足を補いたい企業にとっては特に効果があります。

国も普及に向けて本腰を入れ始めた

2012年に安倍政権が発足し、国の成長戦略のなかにも「テレワーク」という言葉が盛り込まれました。具体的な施策として、在宅勤務を導入する企業への助成金やPR支援などの取り組みも始まっています。 

例えば厚生労働省は、在宅勤務の導入に要した費用のうち一部を支援する「時間外労働等改善助成金(テレワークコース)」などを用意。そのほか東京都でも「テレワーク活用・働く女性応援助成金」として、ネットワーク整備やモバイル端末の購入に要した費用を負担する助成金を準備しています。

こうした国の動きが、企業の在宅勤務導入を押し進めているともいえます。

在宅勤務導入のメリット

在宅勤務の導入は、様々なメリットは企業にもたらします。労働人口の不足や生産性向上といった課題を解決する有効な手段となり得ます。

優秀な人材の確保につながる

前述した通り、日本はこれから労働人口が減っていく時代です。当然、労働人口の減少に比例して優秀な人材も減少することが予想されます。

就活時期にはしばしば「売り手市場」という言葉が飛び交うように、現在は求職者優位に進む時代になりました。大企業(従業員規模が5000人以上)に限れば、新卒の求人倍率は0.37倍と、企業側が優位な向きは変わらないものの、中小企業(300人未満の企業)では9.91倍と、求職者側が優位な状況にあります

つまり中小企業にとっては、今後ますます優秀な人材の確保は難しくなっていくといえます。それにも関わらず、在宅勤務などの柔軟な働き方を推奨しない企業は、求職者からはますます選ばれにくくなっていくのではないでしょうか。

在宅勤務には、こういった優秀な人材に少しでも魅力的な企業として認知してもらえるといったメリットがあります。

また、現在働いている優秀な社員の定着にも有効といえるでしょう。育児などのライフイベント時でも柔軟に働くことを認めれば、社員も退職ではなく在宅勤務という形態を選択するかもしれません。

さらに育児や介護などによって会社に通うことが難しくなり、他の会社を辞めた社員の確保につながる可能性もあります。

社員の心の健康につながる

在宅勤務によって出社の義務がなくなれば、満員電車や長時間の通勤に伴うストレスから解放されます。さらにオフィスに蔓延しがちである、「上司や同僚が帰れないと自分も帰れない」といった余計な気苦労をせずに済むことでしょう。

家庭で過ごす時間が増えることでプライベートの充実につながれば、心はより健全な状態を保てるのではないでしょうか。

戦力の大幅な低下を防げる

育児休業を取得する社員が多くなると、これまでその社員が担当していた業務は誰かが負担する、もしくは足止めをくらうといった状態になる可能性があります。

ただ在宅勤務によって、育児休業中であっても短時間でも仕事を継続してもらえれば、大幅な戦力の低下を防ぐことができます。完全に休業するのではなく、短時間でも仕事を継続していたいという一定のニーズに応えることもできます。

さらに育児休業中、まったく仕事を行ってこない状態で職場に復帰するとなると、周りとの関係性などから、働きづらさを感じてしまうケースもあります。

育児休業などで仕事を完全にストップするのではなく、少しずつでも働き続けてもらう手段として在宅勤務は有効といえるでしょう。

賃料などのコスト削減につながる

在宅勤務の導入によって出社する社員が減れば、広いオフィスをわざわざ借りる必要はありません。フリーアドレス制を導入することで、1人1席を確保する必要もなくなります。

例えば、全従業員が出社義務のない「株式会社キャスター」では、業務委託を含めて在籍する従業員の数が200名以上にも関わらず、オフィスは15名程度しか入れない広さだといいます(2019年1月時点)。

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出典:株式会社キャスター

 

出社義務がなくなれば、通勤にかかる費用負担もなくなるため、通勤手当などのコスト削減にもつながります。

災害時や感染症が広まった時でも業務が可能となる

2019年9月8日に台風15号による記録的な暴風雨が関東地方を襲いましたが、その影響は翌日の各鉄道会社の相次ぐ運転見合わせにも及びました。

実際に新宿などで、運転見合わせに合った方は実感したでしょうが、やはり日本では災害時であっても絶対に出社しなかればならないといった認識があるかと思います。しかしこういった災害時でも、普段から在宅勤務を実施しやすい環境があれば、到着しない電車を待つ無駄な時間は回避できたといえるでしょう。

また、2020年1月より世界的に新型コロナウイルスの感染者の拡大が問題になっています。感染者の広まりを抑えるため、日本でも多くの企業が在宅での勤務を実施しています。

在宅勤務を導入できる環境を整えておくと、災害時やこういった感染症の広まりといった緊急事態でも、事業を継続させることができます。

在宅勤務導入のデメリット

次に在宅勤務のデメリットについて、紹介していきます。

労災の範囲があいまいになる可能性

業務上の災害に対して支給される労災保険(労災)給付ですが、在宅勤務中は労働時間とそうではない時間が混同するため、どういった場合に給付されるのかあいまいになる可能性もあります。

ちなみに厚生労働省が公表している労災に関するQ&Aには、以下のような記述が載っています。

業務災害と認められるためには、業務と傷病等との間に一定の因果関係があることが必要であるため、労働者が、私用(私的行為)または業務を逸脱する恣意的行為を行ったこと等による傷病等は、業務災害とは認められません。

 

つまり保険給付の条件である労働災害として認められるためには、被ったケガや病気と、業務に関連性があることが必須といえます。

厚生労働省では、実際に労災として認められたケースとして以下を紹介しています。

 

自宅で所定労働時間にパソコン業務を行っていたが、トイレに行くため作業場所を離席した後、作業場所に戻 り椅子に座ろうとして転倒した事案

 

なお労災に認定されるかどうかは、労働基準監督署の判断に委ねられます。

自己管理できる社員しか在宅勤務できない

在宅勤務は、全ての社員に対して成果を保証するものではありません。

在宅での仕事は公私の区別がつきにくくなり、社員によってはパフォーマンスが低下する恐れもあります。そうなると必然的に、管理職層のみしか在宅勤務を導入できないといったケースも出てくるでしょう。

こういったデメリットを回避するためには、そもそも個人の強い意志を必要としなくとも在宅勤務できる仕組みを整える必要があります。

例えば、在宅勤務者と常時Webカメラを接続することで様子を見えるようにする、一定の成果物の提出を義務付け結果に応じた報酬を与えるなどの方法があります。

コミュニケーションが希薄になる

在宅勤務では、自宅の空間で1人で仕事をすることになるかと思います。すると、これまでオフィスに出社して、同僚や上司と同じ空間で仕事をしていたときと比べて、コミュニケーションが希薄になる恐れもあります。

こういったコミュニケーションの希薄化を解消するためには、気軽にやり取りできるチャットツールなどが有効です。日本版だと「チャットワーク」、海外版だと「Slack」などが該当します。

在宅勤務を企業に導入する際の注意点

在宅勤務のメリット・デメリットを踏まえたうえで、企業で導入する際のポイントを紹介します。

勤怠管理法を徹底する

在宅勤務を導入する際には、勤怠管理方法を徹底しましょう。

2019年4月より、働き方改革により「客観的方法による労働時間把握」が義務化されます。企業として気を付けるべきポイントは、従業員の労働時間状況を把握し、長時間労働を避ける必要があるということです。

在宅勤務で労働時間を企業が把握する方法としては、タイムカードによる記録や、パソコンなどの電子機器の使用時間で把握する方法があります。

情報共有が常にとれる体制を整える

在宅ワーカーと情報共有がこまめにできる体制を整えましょう。円滑なコミュニケーションが行われないと、業務内容の把握や目的意識が難しくなり、業務効率の低下につながります。

在宅勤務の場合、情報共有の仕方としてはコミュニケーションツールをうまく活用しましょう。具体的には「チャットワーク」や「Slack」などのチャットツール、対面であれば弊社が提供する「V-CUBE ミーティング」などのWeb会議システムがあります。

在宅での勤務環境を整備する

企業で在宅勤務を推奨しても、自宅の仕事環境が整っていなければ業務効率は悪化してしまいます。

従業員が在宅勤務ができる環境や状態が整っているのかを把握し、整備しなければなりません。在宅勤務の場合、恐らくパソコンなどの電子機器の使用は必要不可欠です。従業員がそのような電子機器を所有しているのかやネット環境が備わっているかを把握しましょう。

また、コミュニケーションツールを導入する際には、うまくツールを使用することができるかにも気を配りましょう。在宅勤務が始まって、うまくレスポンスができないようなことになってしまっては、業務に対するやる気や向上心が低下してしまう可能性があります。

まとめ|メリット・デメリットを理解して在宅勤務を活用しよう

在宅勤務のメリット・デメリット、導入のポイントなどについて解説しました。

場所にとらわれない働き方のニーズとして注目を浴びる一方で、勤務管理の難しさなどが課題としてあげられます。しかしITツールを使いこなし、デメリットを解消できたならば企業にとっても従業員にとっても大きなメリットとなることは間違いありません。

在宅勤務と聞くと、インターネットなどを通じてサービスの提供・販売を行うIT企業だけができる働き方のイメージがあります。しかし現在では、カネボウ化粧品や日産自動車、日本マクドナルドなど、メーカーや飲食業界でも導入が進んでいます。

自社で扱っている商品が、たとえインターネットを介さないものであっても、経理や人事などは在宅勤務を導入できる可能性があります。こういった在宅勤務の実現可能性のある部署から試験的に始めてみることも、効果を実感するうえで有効といえるでしょう。

戸栗 頌平
著者情報戸栗 頌平

B2Bマーケティングを幅広く経験。外資系ソフトウェア企業の日本支社立ち上げを行い、創業期の全マーケティング活動を責任者として行う。現在東京在住。2019年はフィリピンに在住し日本企業のBtoB活動を遠隔支援、場所にとらわれない働き方を通じ、マーケティング支援の戦略立案から実行までの支援を行なっている。Facebookは こちら。Twitterは こちら。LinkedInは こちら。ウェブサイトは こちら

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