【担当者必見】株主提案が行使されたら?対応の流れをわかりやすく解説
株主から適法な株主提案権の行使があった場合には、会社は、株主から提案された議題や議案を株主総会に上程する必要があります。適法な株主提案権の行使であったにもかかわらず、それを無視してしまうと、過料や損害賠償などの制裁を受ける可能性もありますので注意が必要です。
今回は、株主から株主提案権の行使があった場合における会社側の対応について解説します。
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1、株主提案権が行使される背景
株主総会の開催にあたって、株主から株主提案権が行使されることがあります。株主提案権とはどのような権利で、どのような理由から行使がされるのでしょうか。
(1)株主提案権とは
株主提案権とは、一定数の株式を一定期間保有する株主が株主総会において、議題または議案を提案する権利です。
なお、議題とは会議の目的を指し、「定款一部変更の件」というものが議題にあたります。また、議案とは、議題の対象となる具体的な内容を指し「定款○条を、以下のように変更する」というものが議案になります。
株主総会の議案は何にすればよい?決め方や記載例を紹介
議案については「株主総会の議案は何にすればよい?決め方や記載例を紹介」で詳しく解説しています。
(2)株主提案権は3種類
株主提案権には、「議題提案権」、「議案提案権」、「議案の通知請求権」の3種類があり、これらをまとめて株主提案権といいます。
①議題提案権
議題提案権とは、一定の事項を株主総会の議題とすることを求める権利です(会社法303条)。株主は、議題提案権の行使によって、株主総会の目的となっていない議題について、新たな提案が可能になります。
②議案提案権
議案提案権とは、株主総会の議題に関して新たな議題を提案する権利です(会社法304条)。株主は、議案提案権の行使によって、株主総会の目的事項について、会社とは異なる議題を新たに提案できます。
③議案の通知請求権
議案の通知請求権とは、株主提案の内容を株主総会の招集通知に記載するように求める権利です(会社法305条)。株主提案権は、株主総会当日の行使もできますが、他の株主にも提案内容を周知して、賛同を得る目的で、議案の通知請求権が行使されます。
(3)行使される理由
株主提案権の制度は、株主の疎外感を払拭し、経営者と株主または株主相互間のコミュニケーションを充実させ、開かれた株式会社の実現を目的とする制度です。会社側提案の議題・議案だけを対象として、さしたる議論もなく短時間で終了する株主総会では、個々の株主の意見が反映されず、形骸化した株主総会となりかねません。そのような弊害を排除するためにも、株主提案権によって株主総会の活性化が期待されています。
2、株主提案は拒否できる?
株主から株主提案権の行使があった場合には、会社側は、必ずそれに応じなければならないのでしょうか。
(1)適法な株主提案を上程しなかった場合
株主から適法な株主提案権の行使があった場合には、会社側は、以下のような対応を取る必要があります。
- 株主総会の招集決定において株主提案を含んだ内容で決定をする
- 招集通知に株主提案の内容を記載する
- 株主総会参考書類に株主提案の内容を記載する
このように適法な株主提案を受けた場合には、会社側は、それを上程するなどの対応が義務付けられます。そのため、適法な株主提案を無視した場合には、以下のような制裁を受ける可能性があります。
- 100万円以下の過料(会社法976条18号の2)
- 損害賠償請求
- 招集通知または株主総会参考書類への株主提案議題・議案の記載を命じる仮処分命令
なお、適法な株主提案を無視したとしても、当該議題・議案が株主総会で決議できなくなるだけですので、株主総会で決議された事項に法令違反が生じるわけではありません。そのため、無視された議案が決議された議案と密接関連性を有するような例外的な場合を除いて、株主総会決議の取消事由にはならないと考えられます。
(2)全ての株主が提案権を持つわけでない
株主であれば誰でも株主提案権を行使できるわけではありません。株主が株主提案権を行使するためには、以下の要件を満たす必要があります。
①保有要件
株主提案権は、原則として、以下の株式保有要件を満たす必要があります(会社法303条2項、305条1項)。
- 総株主の議決権の100分の1以上または300個以上の議決権を有すること
- 6か月前から引き続き保有すること
②行使時期
株主提案権は、原則として、株主総会の日の8週間前までに会社に対して請求しなければなりません(会社法303条2項、305条1項)。この場合の期間は、株主提案権の行使日と株主総会の日を除外して、その際に8週間の期間が必要となります。
3、株主提案のよくある内容は?事例とともに紹介
株主提案としてはどのような内容が提案されるのでしょうか。以下では、実際の事例とともに紹介します。
(1)北越メタル株式会社の事例
2022年6月21日に開催された北越メタル株式会社の株主総会では、株主提案として、「取締役3名選任の件」と「補欠監査役1名選任の件」という2つの議案が提案されました。
この株主提案の議案は、会社提案の議案と対立する内容となっており、会社と筆頭株主との間に、経営をめぐる対立がある場合には、このような取締役の選任や監査役の選任を内容とする株主提案がなされるケースがあります。
なお、北越メタルの株主総会では、結果として、株主提案の議案が可決され、経営陣の入れ替えがなされました。
出典:北越メタル株式会社 第106回 定時株主総会招集ご通知
(2)ユタカフーズ株式会社の事例
2022年6月22日に開催されたユタカフーズ株式会社の株主総会では、株主提案として、「剰余金の処分の件」など4つの議案が提案されました。
会社側提案の剰余金の処分の議案では、1株あたり20円の配当をする内容ですが、株主提案の内容は1株あたり121円の配当を求める内容になっています。会社側が漫然と内部留保を続けて、株主への適切な配当をしていない場合には、このような剰余金の処分に関する株主提案がなされるケースがあります。
なお、ユタカフーズの株主総会では、結果として、株主提案の剰余金処分の議案は否決されました。株主提案を行った株主の出資比率の低さが否決された要因と考えられます。
4、株主提案を受け取ってから対応するまでの流れ
株主提案を受けた場合には、会社としては、以下のような対応を検討する必要があります。
(1)株主から提案を受け取る
株主提案権の行使方法には、会社法上特に決まりがあるわけではなく、口頭でも株主提案権の行使が可能です。しかし、提案内容を明確にする目的で書面によって株主提案権が行使されるのが一般的です。
株主提案権が書面によって行使された場合には、株主提案の議題や議案などが具体的に記載されています。
(2)適法がどうか確認する
株主から株主提案権が行使された場合には、適法な株主提案権の行使であるかをチェックします。以下がチェック項目です。
(3)適法ではなかった場合
株主による株主提案権の行使が適法でなかった場合には、株主提案を却下して、株主総会の議題・議案として扱う必要はありません。具体的には、以下のような対応をとります。
- 取締役会において株主提案を却下する決定をする
- 株主提案権を行使した株主に、却下した旨およびその理由を通知する
なお、適法性の判断を誤った場合には、会社側にも過料などのリスクが生じますので、株主からの提案内容が不明瞭で却下するかどうかの判断に迷うような場合には、提案株主に釈明を求めたり、提案の撤回を求めるなどの対応も検討するとよいでしょう。
(4)適法だった場合:株主提案を株主総会に上程する
株主からの株主提案権の行使が適法であった場合には、その内容を株主総会に上程する必要があります。具体的には、以下のような対応をとります。
- 取締役会において株主提案を採用する決定をする
- 株主提案に対する会社の対応を検討する
- 株主提案に対する会社の対応を公表する(株主提案に反対する場合)
- 株主総会招集通知に株主提案の議題・議案を記載する
- 株主総会で株主提案の議題・議案を取り上げて決議を行う
なお、取締役会において、株主提案に反対する決議をした場合には、会社としての対応を公表することも濫用的な株主提案への対策として有効です。たとえば、共同印刷株式会社では、株主からの買収防衛策の廃止や定款一部変更の議題・議案の提案に対して、反対の決議をしたことを「株主提案権の行使に関する書面の受領および当社の対応に関するお知らせ」という文書で公表しています。
5、まとめ
株主総会の開催にあたって、株主から株主提案権の行使がなされるケースがあります。その場合には、適法な株主提案権の行使であるチェックを行い、適法であった場合には、株主総会での上程に向けて準備を進めていく必要があります。
株主総会の準備では、株主提案への配慮のほかにも、招集通知への記載、取締役会決議、書面投票制度・電子投票制度の利用などさまざまな準備が必要になります。適法に株主総会を開催・運営するためにも、担当者としては、正確な理解が重要となるでしょう。