従業員エンゲージメントとは? 従業員満足度との違いやメリット、事例などを解説します

働き方改革や新型コロナウイルス感染症の広がりにより、企業はテレワークの導入など、従業員が柔軟に働けるような体制を整え始めています。出社なしの完全テレワークの企業もあり、居住地とオフィスの場所が離れていても問題なく働けるようになっています。

求職者にとって働ける企業の選択肢は広がっていて、より従業員がよりほかの企業に転職しやすい環境であるといえるでしょう。実際に転職率は徐々に上がっており、優秀な人材を自社に留めておくためには、何かしらの対策が必要である状況です。

そこで重要になってくるものが従業員エンゲージメントです。従業員エンゲージメントとは、従業員が企業に対して愛着を持っていて、自発的に企業に貢献したいと考えている状態のことをいいます。従業員エンゲージメントが高い企業は離職率が低く、業績が上がりやすくなるため、自社の成長のためには従業員エンゲージメントを意識した施策が重要です。

この記事では、従業員エンゲージメントとは何か詳しく解説し、そのメリットや成功させるためのポイント、具体的施策や成功事例などを紹介します。企業の社内広報の責任者や人事担当の方は、ぜひ参考にしてください。

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従業員エンゲージメントとは

従業員エンゲージメントとは

従業員エンゲージメントとは「従業員が所属企業に対して愛着を持っていて、企業に対し貢献したいと考えている状態」です。

従業員エンゲージメントという言葉は、1990年にボストン大学のウィリアム・カーン教授が論文として発表したことが最初だといわれています。その際、従業員エンゲージメントができていれば、従業員は自分自身と仕事を同一化できているため、全身でポジティブな気持ちで仕事に取り組める、と論文で発表されました。

従業員満足度との違い

従業員エンゲージメントと似ている言葉で、従業員満足度というものがあります。従業員満足度は、働き方や企業の福利厚生、人間関係などに満足しているのかどうかを表す意味です。

従業員満足度は、従業員が労働環境や待遇に対しての評価であるため、企業に対して忠誠心を持ち貢献したいと考える従業員エンゲージメントとは異なります。

「働く環境や自分の仕事に対して満足はしているけれど、企業に対しての愛着はそこまでなく、貢献しようとは思わない」と、従業員満足度は高いけれど、従業員エンゲージメントはない状態も当然あるため、「従業員満足度が高い=従業員エンゲージメント」ではありません。

もちろん従業員満足度が低いような環境では、従業員は企業に対して積極的に貢献したいとは思えません。そのため、従業員満足度が高ければ従業員エンゲージメントの向上につながるわけではないが、従業員満足度が低いと従業員エンゲージメントは上げにくいといえます。

ワークエンゲージメントとの違い

ワークエンゲージメントとはオランダ、ユトレヒト大学のシャウフェリ教授らが提唱した言葉であり、仕事に対して、活力、熱意、没頭できる状態として定義されています。業務に対してやる気を感じ、いきいきと熱心に取り組めるということで、従業員エンゲージメントとかなり近い意味を持っています。

ただし、従業員エンゲージメントは仕事に対することだけではなく、人間関係や企業理念なども関わってくることから、ワークエンゲージメントを包括したものといえるでしょう。

従業員エクスペリエンスとの違い

従業員エクスペリエンスとは従業員が職場で得られる経験価値のことをいいます。マーケティングでは、顧客が商品購買時に得られる高揚感や感動などのことをカスタマーエクスペリエンスと呼びますが、従業員エンゲージメントはその従業員版です。

具体的には、この企業でしか体験できない特別な仕事をしているという気持ちや、顧客から感謝されて嬉しくなる気持ちなど、業務を通じて得られるさまざまな経験を指します。そのため、企業に対して積極的に貢献したいという従業員エンゲージメントとは意味は異なります。

しかし、従業員エクスペリエンスを感じられる企業に対して、従業員は特別な思いを抱く可能性が高いともいえます。そういったことから、従業員エクスペリエンスを意識した施策は従業員エンゲージメント向上にもつながるでしょう。

従業員エンゲージメントが重視されている背景

2022年現在、従業員エンゲージメントが重視される傾向となっています。それには、転職への考え方の変動と、テレワーク導入企業が急激に増えたことが背景といえるでしょう。それぞれどのようなことなのか詳しく解説します。

人材流動性の高まり

従業員エンゲージメントは、終身雇用制度ではなく人材が定着しにくいアメリカの企業の悩みを解決するために生まれました。

福利厚生や給与といった待遇面だけを考慮しても、従業員は自社よりもよりよい条件を示した企業に転職してしまいます。そこで、より待遇がよい企業があったとしても従業員が自社に所属し続けられるようにするために、従業員エンゲージメントを考慮した運営の必要性が高まりました。

日本は終身雇用制度が一般的であったため、従業員エンゲージメントを意識した運営をしなくても、人材は定着することが当たり前でした。しかし、平成30年に出された厚生労働省「我が国の構造問題・雇用慣行等について」では、若いときに入社してそのまま退職まで働き続ける人の割合は長期的に低下していると指摘しています。

1990年後半ごろからはインターネットが普及し、誰もが情報をたくさん手に入れられるようになり、転職をするための情報収集も容易にできるようになりました。求人情報を手に入れやすくなったほか、転職経験者の体験談も多く読めるようになり、転職に対する心理的ハードルは低下しています。

このような状況のなか優秀な従業員に長く定着してもらうためには、従業員エンゲージメントを意識した運営が必要です。

テレワークの普及

2020年には新型コロナウイルス感染症が流行し、企業は人と人の接触を減らすために出社人数を制限せざるを得なくなりました。2020年3月初頭には17.6%だったテレワーク導入率も、4月中旬には55.9%にまで急増しています(令和3年情報通信白書)。

テレワークは、通勤が必要ない、家庭の事情などで出社できないときでも働けるなど、従業員にとってメリットがあるものです。しかし、基本的に自宅で1人で業務に就くため、どうしても社員同士のコミュニケーションは希薄になります。

株式外車月間総務の調査によると、社員同士のコミュニケーションが低下すると、モチベーションに影響すると答える人が8割を越えていて、コミュニケーション不足は従業員エンゲージメントの低下につながることも懸念されています。

テレワークではどうしても低下しがちな従業員エンゲージメントを維持するためには、企業が積極的に従業員エンゲージメントを高めるような施策をすることが必要です。

従業員エンゲージメントを高めるメリット

従業員エンゲージメントを高めることは、従業員にとってメリットがあるものではありません。企業側にとっても以下のようなメリットがあります。

業績の向上

従業員エンゲージメントが向上すると、従業員は企業に対して貢献しようと積極的に仕事をするようになります。実際に、株式会社リンクアンドモチベーションの調査によると、従業員エンゲージメントが高いほど、営業利益率、労働生産性も向上するという結果も出ています。

従業員エンゲージメントが高い企業は、優秀な従業員が定着しやすいというという点も特徴的です。また、従業員は企業のために売上を上げようという気持ちになっているため、より顧客に対する態度も丁寧になる傾向もあります。そのため、従業員エンゲージメントが高い企業は、顧客満足度も高いといえます。

顧客満足度が高い企業はリピーターも多く、口コミから新規顧客も増えるため、そういった面からも業績向上が期待できます。

転職率の低下

先程も解説しましたが、従業員エンゲージメントが高い状態であれば、従業員は企業に愛着を持っているため、長く企業に所属しようと考えるようになります。

一般的に、人はより待遇がよい企業に転職したいと考えるものです。しかし、従業員が「この企業ではなくてはいけない」という強いエンゲージメントを持っている状態であれば、ほかにより待遇がよい企業があったとしても長く働こうと思うようになります。結果として離職率を低下させ、優秀な人材の流出を防げるようになります。

実際に、株式会社リンクアンドモチベーションと慶應義塾大学の研究によると、従業員エンゲージメント向上は退職率の低下に影響するという結果もでています。

従業員エンゲージメントを高めるためのポイント

従業員エンゲージメントは、従業員満足度や従業員エクスペリエンスとは異なる概念です。そのため、従業員エンゲージメントを高めるためには、福利厚生の充実や特別賞与といった従業員が喜ぶような施策をするだけでは不十分でしょう。そこで、従業員エンゲージメントを高めるためにはどういったことに気をつければよいのか、そのポイントを解説します。

エンゲージメントを数値化する

従業員エンゲージメントとは、企業に対する愛着や貢献したいという従業員の気持ちを表すものです。気持ちは目に見えないため、従業員エンゲージメントが向上しているかどうか確かめるためには数値化しなければなりません。

数値化するための方法は、基本的に従業員に対してアンケートを取ることで行われます。従業員エンゲージメントを数値化するためのアンケート作成、集計まで行うためのツールやサービスもあるため、自社に知識やリソースがない場合は外部サービスを活用しましょう。

従業員エンゲージメントを高めるための施策を行ったあとには、この施策によりどの程度従業員エンゲージメントが向上するのか、しなかった場合は何が原因か、といったことを分析していきます。初めから数値が上がっていくわけではないため、試行錯誤が必要です。

企業理念・VMVを浸透させる

企業理念とは、企業のコアとなる価値観や考え方のことをいいます。VMVはビジョン(vision)、ミッション(mission)、バリュー(value)の頭文字をとったもので、企業の将来の姿、指名、価値観を総合したことを意味します。どちらも企業のアイデンティティを言語化したもので、企業の今後の運営方法を左右する重要なものです。

従業員が企業に対して愛着や貢献したい気持ちを持つためには、所属企業がどのような考えを持っているのか知らなければなりません。そして企業理念やVMVが従業員にとって共感できるものであれば、より企業に対して親近感を持ち、企業に貢献したいと思うようになるでしょう。

企業理念をきちんと従業員に浸透させるためには、社内総会などで定期的に経営陣から方針を示す、社内報を活用する、と言った方法があります。

成果に対して適切な評価をする

従業員エンゲージメントを高めるためには、従業員を平等に適切に評価をすることも重要です。従業員が正当な評価を受けられれば、自分が企業に貢献できたという満足感を得られ、今後もまた貢献したいと思うようになります。

同じことをしてもほかの人ばかり評価される、どうすれば評価されるのか分からないといった状態では、従業員は企業に対して不満を覚え、従業員エンゲージメントは下がってしまいます。

従業員が平等で公正な評価を受けられるように、評価制度を整えるようにしましょう。また、なぜその評価になったのか、どの点が評価できるのか、今後はどうすべきかといったフィードバックも丁寧に行うとより効果的です。テレワークを導入している企業も、Web会議などで積極的に1on1ミーティングを取り入れるようにしましょう。

従業員同士のコミュニケーションを促す

従業員エンゲージメントを向上させるためには、同僚や部下、上司との関係性が良好であることも重要です。コミュニケーションが活発で信頼できる人たちと働いていると、従業員は「この企業で仲間たちと働きたい」と考えるようになります。

テレワークを導入している企業だと、密なコミュニケーションをとることは難しいですが、社内イベントやミーティングなどを定期的に行い、社内のコミュニケーションを活性化していきましょう。

従業員が働きやすい環境にする

働きにくいと従業員が感じるような企業では、従業員は企業に対して愛着を感じられません。従業員満足度を高めるためには、福利厚生を厚くし、オフィスなどの職場環境を改善することが重要です。しかし、従業員エンゲージメントを高めるためにはそれだけでは向上しにくいとされています。

従業員のワーク・ライフ・バランスも考慮し、やりがいのある仕事ができるようにサポートするなど、働くことにおいて根本的な改善も必要です。

どのような職場が従業員にとって働きやすいと感じるのか知りたい人は、こちらの記事もご参照ください。

- 別記事「働きやすい職場」製作中

従業員エンゲージメントを高めるための施策

従業員エンゲージメントを高めるための施策

従業員エンゲージメントを高めるための施策はさまざまなものがあります。そのなかで代表的なものを紹介します。

社内イベント

社内イベントは、社内コミュニケーションの活性化や、企業理念の浸透に効果的な施策です。イベントがあると普段あまり接点がない人とも会話できるよい機会となりますし、社内総会など全体が参加できる場であれば、経営陣が直接企業理念を伝える場として最適です。

新型コロナウイルス感染症の広がりにより、対面での社内イベントの開催は難しくなっています。しばらく社内イベントを行っていないという企業もあるのではないでしょうか。その場合は、Web会議システムなどを活用したオンライン社内イベントの開催もおすすめです。オンラインでも、グループに分かれてのレクリエーションや、大規模な懇談会などを開催できます。

ただし、社内イベントが従業員にとって義務感を感じるもので、従業員の時間を奪ってしまうようなものでは従業員エンゲージメントが逆に下がってしまう可能性もあります。そのため、従業員にとって負担が少なく、なおかつ積極的に参加したいと思えるような企画を練るようにしましょう。

評価制度の見直し

従業員エンゲージメントを高めるポイントとして、「正当な評価をする」と解説しました。そのためには、自社の評価制度が従業員を公正に評価できるものか、功績を見逃さないものか、といったことを確認し、場合によっては根本的に見直していく必要があります。

従業員が納得できる評価制度をつくるためには、目標や評価の基準が明確であること、評価方法が公正であること、従業員が納得して受け入れていることが重要です。

表彰制度の導入

表彰制度があると「表彰される」という目標ができ、従業員のモチベーション向上につながります。また表彰された従業員は自分の業績が企業に認められたと感じられ、大きな満足感を得られるでしょう。

ただし、表彰される従業員を選ぶ過程が平等ではなかったり、目立つ業績の人ばかり選ばれたりすると逆効果です。従業員は正当な評価をしない企業に対し嫌悪感を抱く可能性があります。表彰制度を導入するときには、公正で偏りのない評価を行う、業績が見えにくい部門の人は別軸で評価するなど、全社員に考慮した表彰制度にするようにしましょう。

ワーク・ライフ・バランスに考慮した制度づくり

従業員エンゲージメント向上のためには、働いているときのことだけではなく、私生活が充実しやすいように考慮することも重要です。いくらやりがいがある仕事でも、仕事だけになってしまうといつか心身に支障を来すおそれがあります。

業務に集中するためには心身ともに健康でなければなりませんし、趣味や家族と過ごす時間もとれるようワーク・ライフ・バランスに考慮した制度づくりが必要です。

残業や休日出勤に上限をつける、さまざまな家庭の事情に合わせられるようにフレックスタイム制度を導入する、業務の見直しを行い外注を取り入れるなど、従業員が私生活も楽しめるような取り組みがあるとよいでしょう。

従業員エンゲージメントの向上に関する事例

従業員エンゲージメント向上のための施策を行うとき、ほかの企業はどのようなことをしているのか知りたいでしょう。そこで、さまざまな企業が行っている従業員エンゲージメント向上のための施策を紹介します。

従業員エンゲージメント指数を測るツールを導入する

株式会社ブイキューブでは、自社の従業員エンゲージメントの状態を把握し、従業員エンゲージメント向上に成功しているかどうかを確認するために、専用のツールを導入しました。

当初はさまざまな施策をしても一向に従業員エンゲージメント指数が上がらず難航しましたが、表彰式や新規事業コンテストなどの社内イベントを行い、従業員の積極性を引き出すことでスコアが上がると判明しました。

また、社内コミュニケーション活性化するために、オンラインコミュニケーションツールを活用した全社会の内容も随時アップデートしています。このように、どうすればスコアが上がるのか試行錯誤を行い、効果的な手法を模索しました。

従業員エンゲージメント指数を測ることにより、的外れな施策はすぐにやめ、効果がある施策ができるように工夫ができています。

参考:「エンゲージメントは会社の土台をつくる」ブイキューブがWevox導入で社員の自己実現を目指す理由 | 日本経済新聞 電子版特集

エンゲージメントを重視した環境づくり

ソニー株式会社では、創業時から従業員目線での取り組みが続けられています。その代表的なものは、従業員が自主的に学びたいときにサポートするようなコンテンツの提供や、フレックスタイム制度やフレックスホリデー制度の導入などです。

そのほか結婚や出産介護など、従業員のライフイベントに対応できるよう、休暇や勤務形態を柔軟にできるSymphony Planもあり、従業員エンゲージメントを意識した環境づくりを意識しています。

参考:継続的な対話とタイムリーなアクションによる組織風土改革を可能にした、ソニーの社員エンゲージメントサーベイ「BE Heard」

従業員が働きやすいオフィス環境にする

新型コロナウイルス感染症の広まりにより、オンライン上でミーティングを行うWeb会議が急速に広まりました。そのため、社内のミーティングだけではなく、他社との商談や打ち合わせもWeb会議で行うことも増えています。しかし、ストレスなくWeb会議を行うためには、雑音がなく安定したネットワーク環境が必要です。

そこで、株式会社マイナビでは個室ブースを導入し、そこで周囲の音に邪魔されず集中してWeb会議できるようにオフィス環境を整えました。個室ブースは多くの社員に利用されるようになり、従業員がWeb会議でストレスを感じにくくなっています。

参考:株式会社マイナビ様

まとめ

従業員エンゲージメントとは、従業員が企業に対して積極的に貢献したいと考えるようになることをいいます。社員の離職率を下げ、業績を向上させるためには、ただたんに従業員満足度を高めるようにするだけではなく、従業員エンゲージメントを高めることが重要です。

従業員エンゲージメントを高めるためには、従業員エンゲージメントを数値化し分析する、企業理念を浸透させる、働きやすいように環境を整備する、といったことが必要になります。まず、自社の状況や従業員エンゲージメントの数値を把握し、どうすれば従業員エンゲージメントが高まるのか、計画を立ててみましょう。

山本脩太郎
著者情報山本脩太郎

ブイキューブのはたらく研究部 編集長?部長? 2018年株式会社ベーシックに新卒入社。 インサイドセールスを経て、マーケティングメディアferretの編集部でインタビュー記事を中心とした企画・執筆などを担当。 同時期に数社のコンテンツマーケティング支援・インタビュー取材を経験。 2020年3月に株式会社ブイキューブに入社。

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