テレワークは今後どうなる?統計から見る働き方の変化と理想的な働き方とは

新型コロナウイルス感染症の影響により、テレワークを導入する企業は大幅に増えました。しかし、2023年5月から新型コロナウイルス感染症は5類相当の感染症に引き下げられ、さまざまな規制が緩和されるようになっています。マスクの着用が必須ではなくなり、人と人の接触についても制限が無くなりました。

感染症対策のためだけにテレワークを実施していた場合、テレワークを導入する必要性は無くなったといえるでしょう。

しかし、テレワークには感染症対策以外のメリットがあり、アフターコロナでも需要がある働き方です。そのような状況から、自社のテレワーク実施をどのようにするのか迷っている経営者や人事担当者の方もいるでしょう。

そこでこの記事では、実際の統計や調査をもとに、アフターコロナのテレワークについて調査しました。テレワークを導入する必要性が下がった今、企業のテレワーク導入率はどうなっているのか詳しく解説します。

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企業のオフィス回帰への動き

新型コロナウイルス感染症により大幅に増えたテレワークですが、その後徐々に実施率は減ってきていて、社会全体的にオフィス回帰の動きがみられます。公益財団法人日本生産性本部による「第13回働く人の意識に関する調査」によると、テレワークの実施率は以下のように推移しています。

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参照:第13回働く人の意識に関する調査

緊急事態宣言が出されていた2020年5月には3割を超える企業がテレワークを行っていましたが、徐々に減少しています。新型コロナウイルス感染症が5類となったあとの2023年7月では、15.5%と緊急事態宣言後で一番低い導入率となりました。

オフィス回帰の傾向は新型コロナウイルス感染症が2類であったころから見られています。2022年6月30日の財経新聞の記事では、ワクチンが普及したころからテレワークを取りやめ、オフィス出社を選択した企業があることを記しています。

テレワークには、通勤の手間やコストがかからない、多様な働き方を取り入れやすい、といったメリットがあるものの、対面コミュニケーションを重視しオフィス出社に戻す企業は少なくありません。

オフィス回帰の理由

新型コロナウイルス感染症の影響が小さくなるにつれ、オフィスへ出社する働き方に戻す企業が増えています。これには、テレワークが次のようなデメリットが伴うことが原因とされています。

コミュニケーションの質と量の低下

テレワークでは、それぞれが別の場所で仕事をするため直接会話はできません。やり取りはチャットツールやWeb会議システムなどを通じて行うしかなく、どうしてもコミュニケーションをとるためのハードルは高くなります。業務中に分からないことが生じても気軽に質問できず、通常より業務に時間がかかる人もいるでしょう。

サイボウズチームワーク総研のアンケートでは、「テレワークではコミュニケーションをとりにくい」と答えた人が半数以上でした。その理由として、テレワークでは相手が今どのような状況か分からない、雑談のためだけに連絡はしない、といったものが挙げられています。

対面での迅速な情報交換が困難

上記の通り、テレワークではコミュニケーションのハードルは高いと言えます。情報を伝える手段として、チャットやメールがありますが、相手がすぐに確認するとは限りません。そのため、直接話しかけるときよりも、情報の伝達に時間がかかってしまいます。緊急用に電話を用意するなど、迅速な情報交換をするための対策は必要となってくるでしょう。

業務プロセスや労働状況の把握が難しい

テレワークは働いている様子が見えないため、どのような勤務態度でどのような業務をしているのか把握しづらい状況です。成果物やパソコンの稼働状況を見て労働状況を把握する方法はありますが、申請を行わず残業や休日労働を行う人も少なくありません。

日本労働組合総連合会の「テレワークに関する調査2020」では、残業代支払いの対象となる時間外・休日労働をしたにもかかわらず申告しなかった経験がある人が34.9%と最多でした。このような状況が続くと、社員のモチベーションが低下し、離職率の上昇などが起こる可能性があります。

また、業務がどこまで進んでいるのか把握できていないと、二重に業務が行われてしまったり、逆に抜けが起きてしまったりすることがあります。新たにそれぞれの社員の業務を管理するためのツールを導入するなど工夫をしないと、重大なインシデントが起こってしまうかもしれません。

設備の問題

テレワークを導入するときは、社員が作業する場所の通信環境やパソコンを整備することが必要です。内閣官房・経済産業省のコロナ禍の経済への影響に関する基礎データでは、テレワークにおける生産性の低下要因として、「パソコン、通信回線などの設備が劣る」と答えた人が34.9%いました。

自宅のパソコンや通信環境では、オフィスで使用しているものよりもスペックが低く、いつもよりも作業に時間がかかることがあります。そうすると単位時間あたりの作業量が減り、どうしても生産性低下につながります。

オフィス回帰の中、ハイブリッドワークを採用する企業も

コミュニケーションや設備などの問題により、テレワークからオフィスへと回帰する動きが見られます。しかし、完全にオフィス出社をするのではなく、テレワークと出社を組み合わせたハイブリッドワークを採用する企業もあります。

ZDNET Japanとデル・テクノロジーズによる2023年6月に実施された「ハイブリッドワークに関する市場調査」では、ほぼ在宅勤務という人が14.6%、ハイブリッドワークが36.6%、ほぼ毎日出社が48.8%という結果でした。

また、「あなたにとってもっとも生産性の高い働き方と考える選択肢を教えてください」という設問では、ハイブリッドワークだと回答する人が79.3%にまでのぼっています。

ハイブリッドワークを選択する理由

なぜハイブリッドワークを導入する企業や、希望する社員が多いのか、その理由について解説します。

従業員エンゲージメントや生産性の向上

ハイブリッドワークでは、出社が必要な業務は出社で、1人でできる業務は自宅で、といった業務に合わせた働き方が可能です。また、育児や介護など家族の用事があるときはテレワークにするなど、プライベートと仕事の両立もしやすくなります。

このように、ハイブリッドワークは社員にとって働きやすい環境を整えることにつながります。社員は働きやすい環境を整えている企業に対し愛着を感じることから、結果として従業員エンゲージメントの向上につながるでしょう。

実際に、テレワークに必要なWeb会議システムやクラウド電話サービスを提供するCiscoによる調査では、64% の人が「場所にとらわれずに働けることが仕事を続けるか辞めるかに直接影響した」と回答しています。また、ハイブリッドワークではパフォーマンスが28%高められることも分かりました。

ハイブリッドワークの環境下では、従業員の満足度が高い働き方を実現でき、結果として生産性向上につながります。

人材の維持、確保と定着

ハイブリッドワークは人気の高い働き方です。エン・ジャパンのアンケート調査では、今後の働き方で出社と在宅を組み合わせたいと答えた人が65%、完全テレワークが20%、テレワークを希望していない人が16%という結果となりました。

また、パーソルキャリアの「第3回リモートワーク・テレワーク企業への転職に関する調査」では、転職を検討するときにテレワークを実施しているかどうかが影響すると答えた人が約6割にものぼっています。上記の結果から、テレワークを実施しているかどうかは求人の人気度に影響すると考えられます。

つまり、テレワーク可能な職場は求職者からの人気が高く、人材を確保しやすいといえるでしょう。現在働いている人にとっても、テレワークが可能な職場は働きやすく、人材の流出を防げます。人材の維持定着、新たな人材の確保のために、テレワークやハイブリッドワークが可能な環境は有効です。

従業員のテレワークの意向

三菱総合研究所の調査によると、一度テレワークを経験したことがある人の約3割は完全オフィスワークに戻ることに対して否定的です。そして、その中の半数がオフィスワークに戻ったときに離職を検討、もしくは実行するとしています。

また、理想的な働き方をするために転職するときには、給与が下がっても構わないという人もいます。ほかの条件が同じで理想的な働き方ができるのであれば、平均7.8%の給与ダウンを受け入れている状況です。

給与が下がってでも、テレワークやハイブリッドワークを導入している企業で働きたいと考える人が一定数いることが分かります。

テレワークの継続判断のポイント例

テレワークは通勤の手間やコスト削減のほか、社員にとって満足度の高い働き方といえます。一方、コミュニケーション不足や勤怠管理の難しさといったデメリットもあり、テレワークを廃止したほうがよいのではないかと悩む企業もあるでしょう。

そこで、テレワークを継続すべきかどうか、判断するためのポイントを紹介します。

生産性の分析

テレワークとオフィスワークでどの程度生産性が変わるのか、期間を設けて分析してみましょう。テレワークにおける生産性の測り方は企業や部署によってさまざまです。それぞれに適した産出量を投入量で割ることにより生産性を割り出してみてください。

数量として産出量や投入量を測ることが難しい場合、週報により進捗情報を把握したり、タスクにかかる時間を計測する方法もあります。テレワークとオフィスワーク、それぞれの生産性を比較し、そこまで大きな差がないのであればテレワークを継続してもよいでしょう。

オフィスワークに比べ大幅にテレワークのほうが生産性が低いのであれば、オフィス出社に戻すようにしたほうがよいかもしれません。

社員アンケート

従業員エンゲージメントを高め、人材の流出を防ぐためには、社員が働きやすい環境にすることが重要です。そこで、テレワークを実施するかどうか決めるために、社員の意見を取り入れてみてはどうでしょうか。

一般的にテレワークを実施している企業のほうが、人気が高い傾向にありますが、職種によってはオフィスに出社したほうが働きやすく、社員の負担が少ない可能性もあります。社員アンケートなどを実施し、社員がどのような働き方を求めているのか確認してみてください。

コストの分析

テレワークを導入すると得られるメリットの中の1つが「コスト削減」でしょう。テレワークにすれば、社員の通勤にかかる費用や、オフィスの光熱費などを削減できるためです。

テレワークを実施しているときとしていないとき、オフィスの固定費や通勤手当がどの程度減るのか比較してみてください。企業の売上に影響するほどのコスト削減に成功しているのであれば、テレワークを継続するメリットは大きいといえるでしょう。

まとめ

新型コロナウイルス感染症の影響が小さくなり、徐々にオフィス回帰が進んでいます。しかし、テレワークは雇用者にとって大変人気が高い働き方であり、人材確保のために有効です。通勤費の削減などのメリットもあることから、完全にテレワークを廃止するのではなく、テレワークと出社を組み合わせたハイブリッドワークを導入する企業も多くあります。

テレワークを存続するかどうかは、各企業や部署によって異なります。生産性やかかるコストの比較、社員の意向などを確認してから、テレワークを存続するかどうか決めるとよいでしょう。

山本脩太郎
著者情報山本脩太郎

ブイキューブのはたらく研究部 編集長?部長? 2018年株式会社ベーシックに新卒入社。 インサイドセールスを経て、マーケティングメディアferretの編集部でインタビュー記事を中心とした企画・執筆などを担当。 同時期に数社のコンテンツマーケティング支援・インタビュー取材を経験。 2020年3月に株式会社ブイキューブに入社。

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