テレワークが「コスト削減」の限界を救う、3つの本当の理由とは?

政府が掲げる働き方改革の1つである「テレワーク」は、東京五輪中の渋滞緩和に向けて東京都庁などでも試行が進んでおり、企業だけでなく行政機関においても普及が加速している向きにあるといえます。

そんなテレワークは、業務の効率化や柔軟な働き方を目的として導入される機会の多い印象がありますが、コスト削減にもつながることはご存じでしょうか。

そこで今回はなぜテレワークがコスト削減につながるのか、以下で解説していきます。

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従来のコスト削減の限界

コスト削減は多くの企業にとって大きな課題ですが、まずその1番の目的は、利益率を高めることにあるのではないでしょうか。

コスト削減の目的は利益率を高めること

そもそも企業の目的は、利益を向上させることです。利益を向上させるためには、主に「売上を拡大させること」と「コストを削減すること」の2つがあります。個人でいうところの「稼ぎを増やすこと」と「出費を抑えること」です。

利益を向上させるというと、とくに企業の場合は売上の拡大に目が向きがちですが、膨らむコストをそのまま放置しておいては、利益率は一向に向上しません。そこで利益率を向上させるためにコスト削減に取り組む必要があるのです。

これでもかとコスト削減は実施されてきた

一方で日本企業は、バブル崩壊やリーマンショックなど、経済の有事を経てこれでもかとコスト削減を実施してきました。

「出張回数を減らす」「備品の購入を控える」「コピー用紙は裏も利用する」「社員旅行をなくす」など、個人でいうところの「食費を減らす」「電気をこまめに消す」「遠出を控える」など目先の出費は、これでもかと抑えてきたことでしょう。

つまりすでに可能な限り、コストを削減してきたわけです。企業にとっては、これ以上何を削減すれば良いのかというのが、実情かもしれません。

一方でここまで紹介した目先の出費を抑える以外にも、当たり前にコストがかかっている部分があります。それが「オフィス賃料」や「採用費」、「通勤費」などです。これまで当たり前にかかると思っていたコストを削減することができれば、企業はさらなる利益率の向上が期待できます。

その鍵を握るのが「テレワーク」なのです。

テレワークなら「当たり前のコスト」を削減できる理由

テレワークは、前述した通りこれまで当たり前と思っていた以下のコストを削減できる可能性があります。

理由1:オフィスコストを削減できる

多くの企業では、従業員1人ひとりに椅子や机が用意されているはずです。そのほか、従業員規模に合わせて会議室を用意したり、来客用の応接間を用意したり、さらにはカフェスペースを用意したりしているかもしれません。こういった環境を用意するためには、その入れ物となるオフィスを借りる必要があり、多くの企業は毎月賃料を支払っているはずです。

一方でこういった毎月発生する賃料などのオフィスコストは、一度削減すれば、その後長期的にコスト削減の効果を実感することができます。

そこでオフィスコストを削減する方法の1つが、テレワークです。オフィスに出社する従業員の数が減少すれば、より賃料の安いオフィスへと引っ越しすることで、毎月のコストを削減することができます。またテレワーク可能な部門の一部を、賃料の安い郊外や地方へと移すことも、賃料の削減につながるでしょう。

さらに近年では、社員が外出している間の無駄なスペースを削減するために、とくに営業部門でフリーアドレス制を導入する企業が増えているといいます。フリーアドレス制にして、空いている席を自由に使えるようにすれば、人数分の席を用意する必要がないため、その分無駄なスペースを削減できるわけです。

何も営業部門だけでなく、テレワークを導入すれば、フリーアドレス制はデスクワークが中心となる部門でも導入可能です。例えば週3日以上の在宅勤務を可能にすれば、全従業員が毎日オフィスに揃う必要がなくなるため、フリーアドレス制にしてオフィススペースを多少削減したとしても支障をきたさないでしょう。

オフィスの賃料だけでなく、テレワークの導入により出社する従業員が減少することは、照明や空調使用時間などの光熱費の削減にもつながります。事実、テレワークの導入で、オフィスの電力消費量が1人当たり43%も削減可能というデータもあるようです。

電力消費量

(画像引用元:一般社団法人 日本テレワーク協会「テレワークによる節電対策と効果」

理由2:通勤手当を削減できる

テレワークを導入すれば、通勤が必要なくなります。そのため通勤手当の削減にもつながるでしょう。はたらく未来研究所が行った調査によれば、通勤者の1ヵ月の定期代は約1万5000円。これを1年間企業が負担するとなると、1人当たりの通勤手当の平均は18万円となります。従業員の数が10人、100人規模となると、決して見過ごせない金額なはずです。

また先ほどの調査によれば、通勤者の平均通勤時間は約60分だといいます。

通勤時間

(画像引用元:はたらく未来研究所が行った通勤時間に関する調査

テレワークを導入することで従業員にとっては通勤時間というコストも削減できますし、出社する必要がないために業務を早めに開始して早めに終わらせることで、プライベートの時間も確保しやすくなります。

理由3:採用費を削減できる

一見すると、テレワークの導入と採用費の削減はつながりにくい印象があります。確かに直接的ではありませんが、テレワークにより育児や介護などで退職せざるをえない状況の人が継続して働けるようになれば、欠員による新規採用を減らすことができます。つまり採用にかける費用を削減できるわけです。

テレワーク以外のコスト削減方法とは?

ここまではテレワークによるコスト削減方法を紹介してきましたが、以下ではそれ以外のコスト削減方法について紹介していきます。

業務自動化ツールの導入により人件費を削減

ITツールの導入は、業務効率化を目的として導入される機会も多いですが、一方で人件費の削減につながる場合もあります。

とくに近年は、大企業を中心に人員削減が話題となっており、最近では日産自動車が1万2500人の人員を削減すると発表しました。これらは収益悪化にともなうコスト削減の一貫としての意味はあるものの、一方でRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)など、業務自動化ロボットの導入が普及したことも要因として考えられます

こういった業務自動化ロボット以外にも、クラウド型のITツールを導入することで、これまで人の手で行っていた業務の自動化に成功すれば、その分の人件費削減につながります。

例えば人事評価において「カオナビ」というツールを利用すれば、クラウド上で人事情報を一括管理することができるため、これまで人の手で行っていた人事評価の集計・整理作業の時間を削減できます。その結果、従来は評価業務に3名体制で2週間ほど掛かっていたのに対し、カオナビ導入後は1人で対応できるようになった事例もあるといいます。

カオナビ

(画像引用元:カオナビ

紙やエクセル運用によって煩雑になりがちな経理業務を効率化する「freee」というツールの提供元では、自社でもfreeeを使うことで、従業員300名時点で経理1.5名・労務1名という少数体制を実現。通常、従業員300名規模の企業では経理担当は平均3.7人、人事・労務担当平均3.1人といわれるなかで、圧倒的に人件費の削減につながっています。

freee-1

(画像引用元:freee

働きやすい職場づくりで採用費を削減

新卒採用においてマイナビが実施した調査によると、入社予定者1人あたりの採用費は53.4万円にのぼるといいます。これが例えば10人規模で採用する会社であれば、毎年500万円が、採用コストとしてかかるといえます。

採用費

(画像引用元:2018年卒マイナビ企業新卒内定状況調査

こういった採用コストを費やしてまで、人員がすぐに辞めてしまっては、欠員を補充するためにさらなる採用コストをかける必要があります。そこで採用コストを抑えるために、従業員の定着率を高めたいところ。そのためには、若手が働きやすいと思う職場づくりが有効といえます。

企業の口コミサイトを運営するOpenWorkが、新卒入社で3年以内に辞めた平成生まれの若手社員に行った調査によると、退職理由のトップが「キャリア成長が望めない」ことだといいます。

退職理由

(画像引用元:働きがい研究所 by OpenWork

そこで採用後、本人の希望を考慮した適切な人材配置を行い、配属された職場でやりがいを持って働けるように、適正な評価や本人の希望や将来について話し合う機会を設けてみましょう。話し合いのなかでより成長を望む意思があるのなら、新規事業の担当に抜擢するなどの工夫も必要になってきます。

さらに前述した調査によると、成長を望む一方で「残業・拘束時間の長さ」を理由に辞める人も多いといいます。世の中的にも国が働き方改革を推し進める流れもあり、長時間働くことで成果をあげるのではなく、短時間でいかに成果もあげるかといった方向にシフトしてきています。

後述するように、強制的に帰らせる仕組みを導入することで長時間労働を是正することも必要ですが、同時にテレワークの導入によって働き方そのものを見直すことで、単位時間当たりの生産性を上げることも考えていかなければなりません。

ノー残業デーの設置により残業代を削減

コストの1つである残業代を削減するためには、従業員を強制的に帰らせる仕組みの導入も検討したいところ。例えばノー残業デーの設置は、1つの方法でしょう。

ノー残業デーの導入によって、残業代の削減だけでなく、業務改善の意識にもつながります。目標時刻から逆算して仕事の優先順位をつけ、無駄な業務を取り除くことで、仕事の効率化が期待できるでしょう。

さらにノー残業を達成できていない個人や部署の発見によって、業務の偏りを把握できます。残業代だけでなく業務の適切な配分により、従業員の効率化を促すきっかけともなります。

ノー残業デーの設置とあわせて、残業代削減のためには、帰りやすい雰囲気づくりにも注力したいところ。とくに上司が残業している場合、若手は帰りにくさを感じる機会も多いはずです。そこで上司は、部下に「帰っていいよ」と声をかけることから始まり、自身も部下に仕事を任せることで、先に帰るような工夫が必要になるでしょう。

テレワークによってコスト削減を成功させた企業実例5選

最後に以下では、テレワークによってコスト削減を成功させた事例を5つ紹介していきます。

事例1:本社電力消費量や労働時間の削減に成功(向洋電機土木株式会社)

 

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(画像引用元:向洋電気土木株式会社

 

向洋電気土木株式会社」では、2008年1月から経営効率の向上を目的としてテレワークを導入。工事部門を含む全従業員25名が、業務内容にあわせてテレワークを行っています。

テレワークの導入にあたっては、成果管理を採用し、メンタルヘルス対策なども実施しているといいます。

同社におけるテレワークの申請方法は、事前に総務課長に口頭で仕事の状況や実施予定を報告するというもの。ルールとしては自宅が「家族にPCを触らせない、見せない」環境であることを定めています。そのため住居形態や設備状況について、現地確認を行い、承認できない場合は改善に向けたサポートやアドバイスを行います。

テレワークを導入したことで、従業員一人ひとりの自由裁量権が拡大し、自分で考えて動く意識が定着。またコスト削減においては、間接的ではあるもののガソリン、本社電力消費量、労働時間などが平成20年度から大きく減少しているといいます。

さらに同社の従業員からは、家族と過ごす時間が増え、精神的・肉体的な負担が軽減されたことで、業務への集中度が増したという声も挙がっているそうです。

事例2:本社スペースの削減に成功(株式会社SiM24)

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(画像引用元:株式会社SiM24

 

開発・設計・製造現場でのコスト削減を支援するITサービスを提供する「株式会社SiM24」では、全く出社をしない完全在宅勤務の導入によって、家庭に埋もれた高スキルを持つ人材の活用に成功。設計現場以外では不可能だった高度な解析シミュレーション業務を、短納期かつ柔軟に実施できているといいます。

とくに出産・育児や夫の転勤など、ライフステージの変化で退職を余儀なくされる女性の能力を活かし、キャリアの継続を支援することは、同社の事業発展にも大きく貢献しています。

同社では、雇用時点で完全在宅勤務による就労を前提としており、条件としては、信頼関係をベースに正社員の場合は8時間の勤務時間の範囲内で、各個人の裁量に任せて仕事を実施します。

一方で契約社員の場合は時間勤務制を採用しており、勤務終了後に労働時間の報告をするかたち。仕事の評価については、従業員からの業務内容の報告を加味したうえで、勤務時間と成果物が見合っているか否かで判断しているといいます。

在宅勤務の導入によって本社に4名分の従業員の机しかない同社では、本社スペースの削減に成功しています。

事例3:資料のデータ化で印刷コストを削減(NPO法人グレースケア機構)

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(画像引用元:NPO法人グレースケア機構

訪問介護サービスを提供する「NPO法人グレースケア機構」には、育児期の社員も多く、仕事と生活を両立できる環境の整備が必要だったといいます。また遠方の介護訪問先も多いことで移動時間が長くなるため、事務作業などでわざわざ事務所に立ち寄ることが、身体的な負担となっていたそう。そこで、テレワークの導入に至りました。

導入にあたっては、クラウドサービスを利用することで、クラウド上に共有データを置き、 社外からもアクセスできるように。Web会議や音声チャットシステムも導入したことで、 出社時と同様のコミュニケーションを行えるような環境へと整備しました。

さらにWeb会議の導入によって、カメラの映像を介して臨場感をもって意見交換することができたり、ちょっとした声かけ・相談のような個別の打ち合わせもできたりと、職場にいるようなコミュニ ケーションを実現。

資料をデータ化し、パソコンから直接相手先へ送信できるようしたことで、FAX送信の手間と印刷コストの削減に成功しました。

そのほかテレワーク時の従業員の作業負担が軽減するように、送信したいファイルを共有フォルダに置くことで、出社している従業員が代わりに送信するような配慮も行っています。

事務所へ出勤せず自宅で集中して作業したあとに介護訪問先へ出向いたり、帰宅途中の喫茶店で集中して業務したりと、移動時間の削減によって効率よく仕事ができるようになったそうです。

事例4:テレワーク導入によるPR効果で求人媒体コストの削減に成功(明日の株式会社)

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(画像引用元:明日の株式会社

 

Web制作などを行う「明日の株式会社」では、テレワークの導入によって勤務時間と家族時間への対応が柔軟にできるようになり、平均業務処理時間も短縮傾向に。会議時間の短縮や、情報共有スピードのアップによって、業務効率は前年比で2割ほど向上しているそうです。

またオフィススペースの減少による、賃料の削減に成功。ペーパーレス化によって印刷機などの機材導入コストの削減にもつながったほか、光熱費や通勤費の削減にもつながっているといいます。

テレワークの導入によって育児中勤務、障がい者雇用、地方デザイナーなどの人材活用にも成功。地方においても、同社の取り組みがPR効果につながり、求人媒体コストをかけなくとも採用につながっています。

このようにテレワークは、定着率向上による新規採用にかけるコストの削減だけでなく、取り組みを社外にPRすれば、そもそも求人媒体コストをかけることなく採用活動を行うことも可能となるようです。

事例5:オフィスの座席数減少で賃料の削減に成功(株式会社イージフ)

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(画像引用元:株式会社イージフ

経営コンサルティングサービスなどを提供する「株式会社イージフ」では、2006年の設立当初からテレワークを導入しており、人事制度や社内環境、使用するツールなどは当初からテレワークを前提としたかたちで整備していました。

テレワークについては全社員を対象とし、業務に支障がでない限りは、理由を問わずにいつでも実施可能だといいます。

当初は在宅勤務とモバイルワークだけだったといいますが、子育て中の男性社員から「家だと子供がいて仕事に集中できないことがある。一方で、オフィスへの通勤時間はもったいない」という声を受け、自宅近くのコワーキングスペースでの仕事を認め、新たに利用料の補助制度を社内規程に加えました。 

2016年からはバックオフィス業務もテレワークが行いやすいように、オフィス営業時間の短縮や勤怠管理システムの導入など、全従業員がいつでもテレワークしやすい環境へと整備すべく、試行錯誤を繰り返しています。

その結果、育休中でも社員同士のコミュニケーションが図れることで、スムーズな復帰の実現に成功。復帰後の定着率は90%を越えているといいます。

さらに子育て世代の優秀な人材の確保にもつながっており、新規採用費の削減効果も実感。テレワークを活用した育児時短勤務や在宅勤務も活発化し、男性でも家庭や育児に積極的に関わっていくカルチャーが会社全体で醸成されたといいます。

そのほかにもテレワーク導入にともなって、個人のデスクを設けないフリーアドレス制も導入。社員数に対してオフィスの座席数を約7割にとどめることで、賃料の削減にもつながっているそうです。

従来は削減しにくかったコストをテレワークは減らす

ここまで紹介してきた通り、テレワークは育児中の女性などが柔軟な働き方を可能にするだけでなく、オフィス賃料や通勤手当など従来はかかることが当たり前とされていたコストの削減にもつながります。

目先のコスト削減はもう無理というのであれば、テレワークという新しい働き方を導入することで、高収益体質への足がかりとなるのではないでしょうか。

戸栗 頌平
著者情報戸栗 頌平

B2Bマーケティングを幅広く経験。外資系ソフトウェア企業の日本支社立ち上げを行い、創業期の全マーケティング活動を責任者として行う。現在東京在住。2019年はフィリピンに在住し日本企業のBtoB活動を遠隔支援、場所にとらわれない働き方を通じ、マーケティング支援の戦略立案から実行までの支援を行なっている。Facebookは こちら。Twitterは こちら。LinkedInは こちら。ウェブサイトは こちら

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