リモートワークの課題として挙げられるのが、雑談をはじめとする仕事と直結しない「ゆるいコミュニケーション」の不足。創業当初からリモートワークを活用してこられたKaizen Platformでは、これを改善するために頑張り過ぎず、自然なやり方で取り組みを続けていました。プロダクトマネージャーの河部裕さんに話を聞きました。

新しい働き方を提供していくために、社員が自らリモートワークを実践

―― リモートワークと雑談をテーマにお話を伺いますが、本題に入る前に、Kaizen Platformの事業について教えて下さい。

 

河部裕さん(以下、敬称略)弊社には、2つのプロダクトがあります。「Kaizen Platform」は、創業以来取り組んでいるお客さまのウェブサイトの改善を実現するマーケティングプラットフォームで、私はこちらのプロダクトマネージャーを務めています。「Kaizen Ad」は、モバイル動画広告の制作と改善を実現するプロダクトです。

 

弊社ではクラウドソーシングプラットフォームに登録されている社外のエンジニアやデザイナーを「グロースハッカー」と呼んでいます。我々は、課題や仮説をもとに「グロースハッカー」へお客さま向けのクリエイティブを発注しています。グロースハッカーから出てきたアウトプットを実際にテストし、評価するというサイクルを繰り返すことで、お客さまのサイトや動画などを改善していくスキームを展開しています。

 

―― いま、「クラウドソーシング」というキーワードが出てきましたが、「グロースハッカー」による業務はまさにリモートワークですよね。貴社が創業当初からクラウドソーシングを利用されてきたということは、やはりリモートワークにも会社として取り組んでこられたということでしょうか?

 

河部私たちKaizen Platformは、「雇用契約を前提としない21世紀の新しい働き方と雇用の創出を実現するための事業を行い、新しい働き方の普及に最大限努めること」というビジョンを掲げています。その中のテーマの一つに「場所と時間にとらわれない働き方を実現、推進していこう」というものがあります。

 

「グロースハッカー」の皆さんには新しい働き方を提供したいという思いがあると同時に、「自分たちにできない働き方は推進できない」という考え方があります。「グロースハッカー」だけでなく社員自らリモートワークを実践していこう、というのが取り組みの根底にあるのです。

「グロースハッカー」だけでなく社員自らリモートワークを実践していこう、というのが取り組みの根底にあるのです。

「リモートワークを積極的に推進しない」という考え方

―― 社員も「グロースハッカー」と同じ働き方を実践していくためのリモートワークなのですね。やはり全社で積極的にリモートワークを推進していこうという考えなのですか

 

河部いいえ、違います。決してリモートワークを積極的に推奨しているわけではありません。リモートワークはあくまでも選択肢の一つで、直接のコミュニケーションを必要とする場面があれば、それは普通にオフライン、リアルで会ってコミュニケーションしましょう、と言っています。

 

例えば、まだやりたいことが概要しか決まっていない、という状況を想像してみてください。具体的に「なにをすべきか」を議論するような場合だと、オフラインならば会議室とホワイトボードがあれば、十分に議論は進むでしょう。反面、リモートの場合は、ビデオチャットや画面共有とか、ツールはあるにしてもオーバーヘッド(注:間接的にかかってしまうコストの意)が大きくなってしまいます。このようにオフラインの方が生産性が高いと考えられる場面では、直接のコミュニケーションを推奨しています。

 

―― それでは、基本は「リモートワークではなくオフィスに出社して、対面で話をする」ことを重視しているのですか?

 

河部いえ、それも違います。対面を全てにおいて重視しているわけでもありません。例えばエンジニアが、ある程度要件が固まってきたタスクについて、「数日間は自宅で集中して、ちょっと確認したい時にSlackでコミュニケーションする」といったことは、効率的な仕事の進め方として当然あるべきです。そういう時は、逆にオフィスに来るための通勤時間が1日の生産性を低下させてしまうかもしれません。

 

リモートワークは、基本的に「仕事の道具」の一つだと思います。なんでもかんでもリモートを選択するのではなく、必要なコミュニケーションによって必要な道具を選ぶことが重要です。

 

「集合するのが面倒だから、このミーティング、リモートにしちゃいましょう」は禁句。リモートワークを「妥協した手段」にしないことが大切だと考えています。

 

当社ではリモートワークをする際の指針となるガイドラインを設けています。「リモートワークはあくまでも選択肢の一つ」であることは社員の共通見解になっていますし、皆が自覚しています。

 

―― 「あくまでも選択肢の一つ」ということを具体的にお聞かせください。

 

河部例えば、生産性という観点では、実はリモートワークはトータルでの生産性は低いと考えています。チームで働いているわけですから、他の人とのコミュニケーションは絶対に必要になるはずです。ということは、毎日同じ時間に会社にいて、いつでも話せるような状態にしつつ、チーム内で話したこともストックしておくという働き方をした方が、生産性は高いはずです。

 

でも、時には集中して作業に入りたい時もある。また、仕事とは関係なく、育児や介護など家庭の事情でリモートワークを選択することもあります。私自身も、週に1日は必ず家で仕事をして、子どもとごはんを食べて、お風呂に入れて、寝かしつけています。すると、家にもいろいろなことがあることに気付けるし、子育て中の社員にどんなことが起こるかを感覚として忘れないでいられます。

 

私のように週に1日、終日リモートワークというやり方もあれば、午前中だけ会社に来て夕方早めに帰り、子どものお迎えと食事の後に夜また仕事をするという人もいます。セルフマネジメントは必要ですが、仕事や家庭などさまざまな要因を考慮して、自分にとってベストな働き方を選べる選択肢があるのは良いことだと考えています。 

「あくまでも選択肢の一つ」

コミュニケーションの種類によってツールを使い分ける

―― リモートワークの場合、オフラインで会って話すのと異なり、コミュニケーションには何らかのツールが必要になります。どのようなツールを使われているのでしょうか。

 

河部リモートであるかどうかにかかわらず、全員が普段からツールを使ってコミュニケーションしています。大きく分けるとテキストが主体のツールと、音声やビデオが主体のツールがあります。

 

「後で確認すれば済む話」つまりリアルタイム性を求めないものであれば、テキストで書いて後で反応してもらう方が、お互いのオーバーヘッドも少ないだろう、と考えています。

 

テキストが主体のコミュニケーションでは、以下のような3つのタイプに分けて、それぞれに応じたツールを使い分けています。

 

  • ・非同期型(注:即時反応する必要がなく、各々が異なる時間軸でやりとり可能なコミュニケーション)で、かつストックに近い形のコミュニケーションでは「Qiita」(注:プログラミングに関する情報を記録・公開できる技術情報共サービス)
  •  
  • ・緩やかなリアルタイム性が求められがちなコミュニケーションでは「Slack
  •  
  • ・タスクごとに履歴を残し、スレッドとして分かれている方が良いコミュニケーションでは「Asana」(注:プロジェクトごとにタスクを管理できるツール)

 

などを使い分けて利用しています。

 

遠隔地にいる人にテキストでは伝わらないなと思ったら、ビデオチャットを使います。弊社の場合は「Zoom」ですね。社内で使っているコミュニケーションツールは基本この4つです。あとエンジニアはもちろん「GitHub」を使っています。

 

―― なるほど。「同期性」と「参照の仕方」でツールを使い分けているのですね。

 

河部そうですね。ただ、いずれのツールでもテキストコミュニケーションのリテラシーを求められるので、組織内で運用を最適化するのは難易度が高いかもしれません。

「同期性」と「参照の仕方」でツールを使い分け

「すれ違い」や「放っておくと会話しない」を仕組みでカイゼン

―― さて、積極的に推奨しているわけではないとはいえ、リモートワークの発生頻度は高いと思います。リモートワークに対して課題を感じることはありますか?

 

河部テキストでのコミュニケーションは難しく、そこに課題を感じることはありますね。普通に話しているつもりでも冷たく感じがちだったりします。そういう時に不要なすれ違いが起きてしまうことがあるかもしれないです。

 

―― すれ違いを防ぐために、何かされていたりしますか?

 

河部Slackボットや絵文字をカスタマイズして感情を伝えやすくする、という工夫をしています。最近は、「ありがとう」とか「わかる」みたいな、文字系の絵文字が増えている印象がありますね。

 

もう一つ、全社で取り組んでいることではありませんが、プロダクション部の中では、雑談のきっかけを作るための「小咄」という取り組みを行っています。

Slackの絵文字

Slackの絵文字

 

―― 「小咄」というのはどんな取り組みなのですか?

 

河部エンジニア同士が、この人はどんなことが好きなんだろうとか、何に興味を持っているのか、といった「個」を知ってもらうための会をやっています。1週間に11人ずつ、朝の10分間にプロダクション部のメンバーが持ち回りで何でも好きなことをしゃべります。「どうしても話すのは苦手だから話したくない」という人以外は、機械的に話す順番を割り振っていきます。

 

最近だと、コーヒーが好きな人がコーヒーの入れ方やコーヒー豆について話したり。私は幼稚園の話をしたかな。うちの子が、アジアで一番大きな幼稚園に通っているらしいです(笑)。

コーヒーが好きな人がコーヒーの入れ方やコーヒー豆について話したり

 

―― 何でも話題にしていいんですね! リモートワークの方もZoomをつないで参加されているのですか?

 

河部リモートワークの人だけじゃなく、オフィスにいる人も含めて全員がZoomにつないでます。もちろんしゃべる人も、Zoomに向かって話します。

 

社内にいる人は直接話を聞けばいいじゃないか、と思われるかもしれませんが、オフィスに複数人集まってそこにリモートでつなぐと、現場だけで話が進んでリモートの人が置いてきぼりになるっていうのがありがちじゃないですか。そうならないように、あえてオフィスでもバラバラに、一人ひとりZoomで入ります。

 

―― 10分間Zoomで雑談をするというのは、どんな感じで進行していくのでしょうか。

 

河部しゃべっている間も、Zoomのチャットで質問が来るんです。音声で誰かが入り込むことはありませんが、チャットにどんどん質問やコメントが流れてきます。その画面を見ながら、話者が質問を拾っていきます。インスタライブみたいな感覚かもしれないですね。

 

―― 「小咄」はいつ頃から、どんなきっかけで始められたのでしょうか。

 

河部始めたのは2017年の夏ごろです。エンジニアのマネージャーが発案したのですが、エンジニアって自分からお互いの事を話すことってあまり多くないかもしれないですよね(笑)。弊社の場合、オフィスにもそこまで頻繁に来ないし、来ても黙々と作業していて、Slack上でもあまり雑談しない。それをなんらかの仕組みで改善しようということで始まりました。

 

―― 小咄への参加は強制ではないんですよね。それでも1年半続いているのは、すごいことだと思います。

 

河部我々も「小咄」の存在を強く意識しているわけではありませんが、言われてみると淡々と続いていますね。毎週金曜日の朝、「オールハンズ」という従業員が全員参加する業務ミーティングがあり、その直後にチャンネルを変えてやっています。自然と出席しやすいように、意図的にその時間帯に設定しているというのが継続のために効果的だったかもしれません。

「小咄」の存在を強く意識しているわけではありません

雑談で会話の総量を増やしてコミュニケーションのハードルを下げる

――小咄」が始まった前後で、社員の方同士のコミュニケーションに目に見えた変化はありましたか。

 

河部そうですね、まず、Slackでもプロダクション部のメンバー専用の雑談チャンネルで会話がちょっと増えたかな、という印象はあります。一時期は過疎っていたのですが、最近はみんなちょこちょこ発言するようになっています。

 

―― Slackに部屋を作ったり、「小咄」をされたりと、さまざまな方法で「雑談」を促進していらっしゃいます。やはり職場に雑談は必要だと思われますか?

 

河部「飲みニュケーション」という言葉がありますが、雑談はそれに近いと思います。とにかく会話の総量が増えた方が、コミュニケーションしやすくなりますよね。「こんなことを頼んでもいいかな」とか「こんなことを聞いても大丈夫かな」っていう、心理的なハードルが下がると思います。ハードルが下がると、新しく入社した方や普段あまり会話していないような人とも接触が増えやすい。そういう効果はあると思います。「飲みニュケーション」という言葉がありますが、雑談はそれに近い

―― 先ほど、リモートワークは生産性の面では課題がある、と伺いました。では雑談はリモートワークの生産性を上げることに寄与するのでしょうか。

 

河部限られた時間の中で本当に集中したい時に、1人でパフォーマンスを発揮する場合と、問題解決の手段を1人で考え込むより、他人に意見を求めてより良い手段に到達したい場合では、求められる生産性の質が違うと思います。

 

前者の場合、雑談は全く寄与しないと思います。一方で、後者の場合は、雑談によって他者に質問しやすくなれば自分が持ち合わせていない知識へのアクセスが簡単になります。

 

―― 雑談によって普段どんなことを考えているのか、何に興味があるのかが分かり、話のきっかけができれば、コミュニケーションの総量は増えそうですね。生産性という数字で表せるようなものだけではないメリットがありそうに思えます。

 

河部心理的安全性(注:自分の言動が他者へ与える影響を強く意識することなく、感じたままの想いを素直に伝えることのできる環境や雰囲気)の向上には寄与してくれそうですね。

心理的安全性(注:自分の言動が他者へ与える影響を強く意識することなく、感じたままの想いを素直に伝えることのできる環境や雰囲気)の向上には寄与

頑張り過ぎず、一定量の投資や改善を続ける 

―― 「小噺」の他にも、雑談をうまく機能させていくために取り組んでいることはありますか?

 

河部一つの例を挙げると、リモートワークのためのマイクとスピーカーの改善。今使っているのが「Jabra」という、マイクとスピーカーが一体になったタイプのものです。声をよく拾ってくれますし、スピーカーとしても性能が高いので、以前使用していたマイクだけのタイプのものに比べると、聞きづらさや話しづらさが大きく改善しました。道具にきちんと投資して、セットアップを怠らないというのは大事ですね。

「Jabra」という、マイクとスピーカーが一体になったタイプ

もう一つ、会議室で大きいモニターに画面を投影する時には、PCとモニターを直接接続せず、Zoomの画面共有機能を使っています。リモートでのミーティングと、会議室での対面ミーティングで、同じツールをデフォルトで使うように心がけ、常に全員がツールに慣れるようにしています。他にも、ミーティングをしない時間帯を意識的に設けたり、電子ホワイトボードを試していたりといった取り組みも継続しています。

 

そうした投資、あるいは改善を、あまり頑張り過ぎず、けれども一定量は続けていくことがいいのかもしれないです。「小咄」も始めるにあたって特別な努力をしたわけではなく、「ちょっとやってみよう」という感じでした。そのぐらいの方がやっぱり続くのではないかと思います。

■取材協力Kaizen Platform

編集:はてな編集部
取材・文:板垣 朝子
写真:南方 篤