【取締役会の決議事項】初心者が注意すべきポイントとは?

取締役会には「決議事項」と呼ばれる、取締役会での決議が必要な事項があります。取締役会の開催にあたっては、決議事項など様々な項目への理解が大切です。たとえば、取締役会議事録には決議事項を記載します。コロナ禍で取締役会のリモート開催が進み、日本経済新聞によればクラウド上の電子署名で取締役会議事録を承認できるようになるなど、取締役会に関する知識もアップデートしています。

この記事では、取締役会運営の初心者に必要な、取締役会の決議事項に関する基本的な知識や、決議事項の各項目の違いなど、押さえておくべきポイントを解説します。取締役会に関連する知識の理解にお役立てください。

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取締役会とは

取締役会とは、会社を運営する機関のひとつで、取締役全員で組織されます会社法362条1項)。取締役会の職務とされているのは次の3つです(会社法362条2項)。

  • (取締役会設置会社において)業務執行の決定
  • 取締役の職務執行の監督
  • 代表取締役の選定・解職

業務執行の決定」とは、取締役会が、法令や定款で決められた株主総会での決議事項以外の、すべての業務執行を決められることを指します。具体例としては、年間の事業計画や予算の策定、人事・労務管理や資金調達など、会社で業務を執行する上で必要な方針などです。

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取締役会の決議事項の基本を知ろう

取締役会は職務として「業務執行の決定」を行いますが、すべての業務執行を決定するのは機動性に欠け現実的ではありません。そのため、取締役各自に決定を委任することもできますが、決定を委任できない事項(決議事項)も存在します。ここでは、決議事項の概念を解説します。

決議事項とは

取締役会における「決議事項」とは、取締役会での決議を必要とし、取締役各自に決定を委任できない事項です。具体的には、会社法362条4項に掲げられている「重要な業務執行」を指します(決議事項の一覧は後述)。

取締役会の決定なしに行われた場合はどうなる?

代表取締役が独断で決定するなど、取締役会での決議なしに決議事項が行われた場合、その行為は無効になりかねません。

判例では、取締役会での決議なしに行われた重要財産の処分について、原則は有効だが、相手方が決議がないと知っていた・知ることができた場合は無効とされています(最高裁・昭和40年9月22日判決)。

報告事項との違い

取締役会における議題には、決議事項のほかに「報告事項」があり、違いは次の通りです。

決議事項:取締役会での決議が必要な事項

報告事項:取締役会での報告のみで足りる事項

たとえば、代表取締役や業務を執行する取締役は、3か月に1回以上、自らの職務執行の状況について取締役会への報告が義務づけられています(会社法363条)。また、監査役が取締役の不正行為などを発見した場合も、取締役会で報告しなければなりません(会社法382条)。

承認事項との違い

会社によっては、「決議」と似た文言として「承認」を用いて、「決議事項」と「承認事項」を使い分けるケースもあります。「決議」と「承認」の違いについては、法律上は明確に区別されていません。しかし、2つの意味が異なると考えるケースの一例として、下記のような使い分けがされることもあります。

決議事項:取締役会で決議されれば完結する事項

承認事項:取締役会での承認だけでは完結しない事項

この例では承認事項は、取締役会での承認後さらに株主総会での承認が必要など、取締役会での承認だけでは完結しない事項に用います。承認事項との違い

決議事項の一覧

取締役会の決議事項を一覧化し、各項目の違いなど押さえておくべき基本ポイントを解説します。

主な決議事項の一覧

主な決議事項として、会社法362条4項で掲げられている1号から7号までの事項と「その他の重要な業務執行」を一覧でまとめました。

  • 重要な財産の処分・譲受け(1号)
  • 多額の借財(2号)
  • 支配人その他の重要な使用人の選任・解任(3号)
  • 重要な組織の設置・変更・廃止(4号)
  • 社債発行に関する事項の決定(5号)
  • 内部統制システムの整備(6号)
  • 取締役における任務懈怠責任の免除(7号)
  • その他の重要な業務執行

1号:重要な財産の処分・譲受け

一般的に、「財産の処分」には財産の売却や貸与、出資や担保提供、債権放棄など、「財産の譲受け」には譲受けや設備投資、使用権の設定などが含まれます。

どれが「重要な財産の処分」に該当するかは、判例では下記を総合的に考慮して判断すべきとされています(最高裁・平成6年1月20日判決)。

  • 財産の価額
  • 財産が会社の総資産に占める割合
  • 財産の保有目的
  • 処分行為の態様(様子)
  • 会社における従来の取扱い

2号:多額の借財

一般的に、「借財」には借入金や債務保証などが含まれます。どのくらいが「多額」に該当するかは、判例では下記を総合的に考慮して判断すべきとされています(東京地裁・平成9年3月17日判決)。

  • 借財の金額
  • 借財が会社の総資産と経常利益等に占める割合
  • 借財の目的
  • 会社における従来の取扱い

3号:支配人その他の重要な使用人の選任・解任

「支配人」とは会社法の用語で、会社に代わって事業に関する裁判上・裁判外の行為をする権限を持つ人です(会社法1011条)。実態に即していれば、支配人以外の名称でも構いません。

支配人その他の使用人が「重要」かどうかは、使用人が持ち得る最高の権限を有しているかで判断され、一般的には本部長・支店長・工場長などが該当します。

4号:重要な組織の設置・変更・廃止

「重要な組織」には、会社の事業部や工場、子会社や支店などが挙げられます。たとえば、新工場の設置時には新工場長の選任が必要なため、重要な使用人と重要な組織、両方に関する取締役会での決議が必要です。

5号:社債発行に関する事項の決定

社債の発行時には、社債の総額や各社債の金額、社債の利率、償還方法や期限など、会社法676条1号に掲げられている事項や、募集社債に関してその他重要と法務省令で定められている事項について、取締役会での決議が必要です。

6号:内部統制システムの整備

会社法362条4項6号の文言は、一般的には内部統制システムを指しています。具体的には、取締役や使用人、当該株式会社や子会社などが、適正な業務を行い株主などの利害関係者に損害を与えないように、ルールを整備し実行・チェックのための体制を構築することです。

内部統制システムの決議は取締役会の権限ですが(会社法362条4項)、取締役会設置会社のうち大会社(資本金5億円以上または負債額200億円以上の会社)では、内部統制システムの決定が取締役会に義務づけられています(会社法362条5項)。

7号:取締役の任務懈怠責任の免除に関する定款の定め

取締役が業務執行や監査・監督などの任務を怠って、会社に損害を与えた場合、損害を賠償する責任を負います(任務懈怠責任・会社法423条1項)。しかし、下記の会社では、取締役における任務懈怠責任を免除するよう定款での定めが可能です(会社法426条1項)。

  • 監査役設置会社
  • 監査等委員会設置会社
  • 指名委員会等設置会社

会社法362条4項7号は、この定款を定める場合には取締役会での決議が必要だとしています。

その他の重要な業務執行

会社法362条4項は、ここまで解説してきた1号から7号までの事項に加えて、「その他の重要な業務執行」の決定は取締役各自に委任できないとしています。

どれが「その他の重要な業務執行」にあたるかは、会社法362条4項1〜7号と同等の重要性があるかどうかで判断されます。一般的には、年間事業計画や年間予算の作成、経営方針の変更や新規事業への進出、業務提携などが該当すると考えられています。

その他の事項

会社法362条4項で掲げられている事項の他にも、取締役会での決議が必要と会社法で個別に決められている事項があります。主なものは次の通りです。

その他の事項

取締役会での決議方法

実際にはどのように取締役会で決議を行うのか、決議に必要な要件と決議の流れを解説します。

会社法で定められた決議の要件

会社法で定められた、取締役会の決議に必要な要件は次の通りです(会社法369条1項)。

  • 議決に加わることができる取締役の過半数が出席
  • 出席した取締役の過半数による決議

「議決に加わることができる」とあるのは、決議に関して「特別の利害関係を有する取締役」は議決に参加できないからです(会社法369条2項)。

取締役は会社に対して「善良な管理者の注意義務(善管注意義務)」(民法644条)と忠実義務(会社法355条)を負っています。善管注意義務とは取締役という地位に通常求められる程度の注意を払う義務、忠実義務とは会社の利益のために忠実に職務を遂行する義務です。

会社法369条2項は、取締役が特別の利害関係のためにこれらの義務を果たせない場合、決議への参加を禁じて取締役会決議の公正を保つ趣旨だと考えられています。

リモート開催の場合

取締役会のリモート開催とは、電話会議やテレビ会議、Web会議のシステムなどを利用して、取締役会が出社しないで取締役会を開催する方法です。

テレビ会議については、情報伝達の「即時性」と「双方向性」を満たせる方法であれば許容されるという解釈が法務省から示されており(平成8年4月19日法務省・商事法務1426号)、Web会議や電話会議についても同様に考えられています。

取締役会のリモート開催には、取締役が出社せずに出席できるという大きなメリットがあります。遠方、特に海外在住の取締役は移動コストを節減でき、感染症対策も図れます。また、紙の資料が不要なため会議資料のペーパーレス化促進や、Web会議システム上で同時に録画が可能など、取締役会の効率化面でもメリットは大きいです。

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決議の流れ

取締役会で決議を行うための流れは次の通りです。

  1. 取締役会を招集
  2. 取締役会で決議を行う
  3. 議事録の作成・保存

取締役会を招集できるのは、原則的には取締役のみです(会社法366条1項)。一定の条件下に限って、株主や監査役による取締役会の招集が可能になる場合もあります(会社法367条1〜3項383条2・3項)。

取締役は、会の1週間前までに参加者に招集通知を発しなければなりません会社法368条1項)。ただし、参加者全員の同意があれば、招集手続きを省略して取締役の開催が可能です(会社法368条2項)。招集通知には日時と場所の記載のみでよく、招集方法についても制約はありません。

取締役会での議事進行には特に決まりはなく、決議したい議題を提案して議論し、決議を行います。

決議事項を議事録に記載する

取締役会で扱う議事については、議事録を作成し、出席者は署名ないし記名押印(議事録が電子データの場合はそれに代わる措置)をしなければなりません(会社法369条3・4項)。さらに、取締役会の日から10年間、本店に議事録を据え置く必要があります(会社法371条1項)。決議事項を議事録に記載する

決議事項がある場合の記載例

取締役会の議事録への記載事項は、会社法施行規則101条1・3項に規定がありますが、ここでは決議事項に関する記載事項を主に解説します。

  • 開催日時と場所(リモートでの出席者がいる場合は出席方法)
  • 議長の氏名
  • 議事の経過の要領及びその結果
  • 決議事項に関して特別の利害関係を有する取締役がいる場合はその氏名

「議事の経過の要領及びその結果」とは、会議の経過と結果を指し、経過については要約で構いません。具体的には、開会・閉会それぞれの宣言と時刻、決議事項・報告事項それぞれの内容、発言内容の概要が挙げられます。

注意すべきポイント

取締役会をリモート開催した際には、下記を記載する点に注意しましょう。

  • 開催場所
  • 出席方法
  • 出席者における出席場所
  • 出席方法が即時性と双方向性を満たしている旨

開催場所と出席方法は、会社法施行規則101条3項で記載が定められています。開催場所は実在する場所を指すため、たとえ全員がWeb会議システムを利用して自宅から参加していても、本店の会議室など実在する場所の指定が必要です。出席方法は、Web会議システムなどの名称を記載します。

残り2つは施行規則上の規定はありませんが、Web会議システムなどによる出席の場合は、「個人宅」などの場所から出席したかを記載するのが一般的です。また、出席方法の記載が必要なことから、前述したように出席方法に求められる「即時性」と「双方向性」に問題がなかった旨の記載も必要だと解釈されます。

まとめ

取締役会の決議事項で押さえておくべきポイントを解説してきました。

取締役会の開催には、決議事項のほかにも理解が求められる項目が多数あります。たとえば、取締役会をリモート開催するとしましょう。会社法の分野だけでも、リモートでの出席方法は即時性・双方向性の2つを満たす必要があり、出席方法などの議事録への記載が必要だという知識が求められます。

決議事項の理解をきっかけに、次のステップとして取締役会の開催に必要な他の準備項目についても調べてみると、より見識が広がるでしょう。

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取締役会について更に知りたい方は「取締役会とは?法務初心者が押さえるべき3つの運営ポイントを簡単に説明」の記事をご覧ください。

池下菜都美
著者情報池下菜都美

株式会社ブイキューブに新卒入社。 ビジュアルコミュニケーションに関する複数製品のインサイドセールスを経験。現在は、マーケティングコミュニケーショングループにてイベントDX領域における広告運用およびオウンドメディアの編集、ナーチャリングを担当。趣味は映画とダンス。

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