directed-by-vcube

「日本型雇用システム」とはどのようなものでしょうか。知識や技術を持つ人を採用する欧米の労働社会に対し、日本は入社後にふさわしい仕事を与え、長期安定的に訓練しながら労働生産性を高め、ライフスタイルにあわせて賃金を上げてきました。こうした、日本で古くから採られてきた雇用システムを「日本型雇用システム」と呼称しています。2016年ごろより「働き方改革」に関する報道がメディアを賑わすようになってから、改めて耳にする機会が増えた概念であるように思います。

 

今回の記事では、日本の働き方の中心的な制度として根付いている「日本型雇用システム」を取り上げながら、令和の時代においては、どのようなワークスタイルを取り入れていくべきなのか、解説していきたいと思います。

日本型雇用システムとは

まずは、「日本型雇用システム」の定義について、改めて解説したいと思います。「日本型雇用システム」は戦後より日本の高度経済成長を支えてきた中心的な雇用システムのことをいいます。このシステムは「終身雇用」「年功賃金」「企業別組合」の3つの特徴的な制度を土台にして成り立っています。これら3つは、日本の労働者にとっての「三種の神器」ともいわれており、1950年代~1970年代の高度経済成長期を強力に下支えした制度です。

 

終身雇用

正社員として採用されれば、特別な不祥事がない限りは、定年まで解雇されない雇用制度のことをいいます。会社の業績や個人の成績にかかわらず「一生涯の雇用が保証」されます。リストラの心配なく安心して働ける点で、働き手にメリットの大きい制度です。

 

年功賃金

勤続年数や年齢の多寡に応じて、昇給したり役職を与えたりする制度のことをいいます。個人の実績にかかわらず、勤続年数が長ければ長いほど「貢献度が高い」とみなした前提で成り立っている雇用制度といえます。なお、この制度は「年功序列」と表現されることもあります。

 

企業別組合

企業に所属する従業員によって結成された労働組合のことをいいます。日本の法律(労働組合法)により、企業別組合の運営が保障されているため、労働条件の改善・維持や、不当な解雇の撤回の申し立てなどを自由に行える点でメリットがあります。

 

時代を振り返ると、高度経済成長期においては「労働力の確保」が、何を差し置いても取り組むべき重要事項でした。より多くの働き手を確保することが、企業成長とほぼイコール関係であったからです。この時代の企業は、大学卒業とともに新卒を青田買い(新卒一括採用)し、勤続年数の積み重ねと共に昇給・昇格させ、定年まで雇用する「日本型雇用システム」で、働き手を囲い込みました。

 

企業と働き手のニーズが見事に合致するシステムだったので、日本中の企業が採用するようになり、それがごく一般化していったのが、現在まで続く「日本型雇用システム」の成り立ちです。ある種独特の時代背景のなかで生み出された雇用システムといえるでしょう。ちなみに、解雇規制に関する法制度もこの時代に成立したものです。

 

出典:小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)

日本型雇用のメリット

「日本型雇用システム」は「三種の神器」に表されるように、働き手にとってのアドバンテージが豊富な制度であることはご理解いただけたかと思いますが、企業側にとっても、さまざまなメリットがあります。以下が、企業側が挙げる代表的なメリットです。

 

  • ・人材の柔軟な異動・配置ができる
  • ・長期的視点に立った人材育成ができる
  • ・次世代人材の計画的育成ができる
  • ・会社へ帰属意識や忠誠心が高い社員の育成ができる
  • ・若年労働者の一括採用ができる
  • ・勤続年数に応じて賃金上昇があり、長期勤続・人材定着が可能となる

 

無限定社員の利点

 

出典:「第15回 日本的雇用・人事の変容に関する調査」結果概要

日本型雇用の正体は「メンバーシップ型雇用」

上記に挙げたメリットは、「日本型雇用システム」の賜物といえるようなものばかりです。昨今では、「日本型雇用システム」に関する研究が進められる中で「メンバーシップ型雇用」というキーワードと表裏一体に語られることが増えてきました。

 

「メンバーシップ型雇用」とは、終身雇用や年功賃金を保障するかわりに「仕事の内容・働く時間・働く場所を限定せず、会社に指示されるままに従う“男性中心的な”働き方」のことをいいます。このような働き方をする社員のことは「無限定社員」と呼びます。

 

さて、ここで押さえておかなければならないのが「メンバーシップ型雇用」による働き方は、「家庭・生活を支える専業主婦の存在なくして成立しない」という点です。無制限の長時間労働や全国転勤を甘受せざるをえない働き方であるがゆえ、日常の家事・育児は必然的に妻に委ねることになります。

 

しかしバブル崩壊後、経済成長が持続的に鈍化している昨今の日本においては、専業主婦の数は減少し「共働き世帯」が増加の一途を辿っています。現に2012年以降は共働き世代が純増していることがわかります。

 

週間就業時間60時間以上の雇用者の割合

 

出典: 内閣府 - 男女共同参画白書(概要版) 平成30年版

 

 

日本は依然として「メンバーシップ型雇用」ならびに「日本型雇用システム」が根強く残っていますが、共働き世帯が増加している現代においては、これらの雇用システムを正常に稼働させることは「非常に難しくなっていく」といえるでしょう。

日本型雇用で陥る「人手不足」

上記のとおり、「日本型雇用システムの構造的なぜい弱性」についてはご理解いただけたかと思いますが、日本型雇用システムにはさらに深刻な問題があります。それは「ダイバーシティへの不適応」です。

 

昭和48年前後の第二次ベビーブームを境に、我が国の合計特殊出生率は純減し続けています。統計上、昭和48年が2.14であったのに対し、平成29年の統計では1.44にまで下がっていることがわかっています。

 

 

出生数・合計特殊出生率の推移

 

出典:内閣府  - 出生数・合計特殊出生率の推移

 

子供の自然増加が見込めないなかで、人手不足を解消するために、2016年頃より日本政府は「働き方改革」に力を注いでおり、とりわけ「女性や高齢者の労働参加」を促し、ダイバーシティを推進する動きを活発化させています。

 

しかし、「日本型雇用システム」によってダイバーシティ推進が阻まれている現状があります。その点については大きく3つ挙げられます。

「長時間労働」が前提の就業環境

ポイントの1つ目がいまだに深く根付いている「長時間労働」の慣習です。先ほどご説明したとおり、長時間労働は日本型雇用システムによって生み出されました。

 

とりわけ、結婚や子育てを期に、ワークライフバランスを重視するようになる女性にとって、長時間労働は困難が多すぎるといえるでしょう。わが国では、結婚や出産を機に「正社員のキャリア」をあきらめてしまう女性が少なくありません。

 

統計データ上、「女性の労働参加率」は上昇していますが、25歳〜34歳の「非正規雇用労働者の割合」は1990年と比べて10ポイント近く上がっていることがわかっています。結婚や出産などのライフイベントを契機に、正社員から派遣社員などにキャリアチェンジする女性が多いということです。

 

年齢階級別非正規雇用労働者の割合の推移

 

出典:内閣府  - 男女共同参画白書 平成30年版

 

また、長時間労働は、団塊世代の高年齢化と共に増加が見込まれている「介護」との両立を阻害する不安要素でもあります。「残業・転勤なんでもOK」の日本型雇用システムのままでは、潤沢な労働力の確保はかなり難しいでしょう。

高齢者の活用を妨げる「年功賃金」

また、政府は働き手の一つとして高齢者の雇用を推進していますが「高齢者を採用することに抵抗感を示す企業が多い」のも日本型雇用システムの弊害です。具体的には、現状も根強く残っている「年功賃金制度」の影響です。

 

年功賃金制度では、高齢者の人件費が必然的に高騰しやすいため、積極的な採用を阻んでしまうのです。実際、65歳以上の非正規割合は70%以上にも達しています。企業は新卒一括採用で青田買いができる一方、高齢正社員の賃金が大きな負担になるといった状況は、まさにトレードオフの関係にあるといえるでしょう。

 

労働力人口の推移

 

出典:内閣府 - 平成29年版高齢社会白書

 

柔軟な働き方を取り入れて日本型雇用のデメリットを解消

以上のように、「日本型雇用システム」は、女性や高齢者など多様な働き手の労働参加を阻むシステムといえます。世界では、多様な働き手と共に協働して経済活動を盛り上げていく「ダイバーシティ推進の動き」によって人手不足を解消しようとしている一方、日本の高度経済成長を長期にわたって支えてきた雇用システムが人手不足を助長しているとは、何とも皮肉な事態です。

 

「人手不足の解消」が喫緊の課題である令和の時代においては、「日本型雇用システム」から脱却し、一人ひとりのワークライフバランスに即して、柔軟に働ける職場環境を構築していくことが何よりも望まれます。そのうえで着手したいことは以下の3点です。

業務効率化を推進する

単に労働時間を削減するのではなく「業務効率化」につながるアクションを一つでも多く取り入れることが、人手不足を補う上で非常に大切です。具体的には、以下のようなアクションが推奨されます。

 

  • ・仕事の優先順位づけなどに関する「タイムマネジメント研修」の実施
  • ・「会議時間の短縮」と「事前のゴール設定」
  • ・「効率的な仕事のやり方に関するアイデア」を社内イントラネット等で共有
  • ・業務効率化につながる「ITツールの導入」

多様な働き方を尊重する

また「多様な働き方を尊重すること」も、人手不足解消に効果的です。具体的には、以下のようなアクションを取り入れることをおすすめします。

 

  • ・「テレワーク」や「在宅勤務制度」の導入・推進
  • ・「フレックスタイム制度」の導入・推進
  • ・フルタイムで働けない「短時間正社員」の積極登用
  • ・マタハラやパタハラなどの相談を受け付ける「ハラスメント相談窓口」の設置

ダイバーシティを認める組織風土の醸成

上記の2点に加えて取り組みたいのが「ダイバーシティを認める組織風土の醸成」です。制度の活用をよしとしない組織風土だと、いくら制度が充実していても効果を発揮しないからです。旧態依然とした組織風土が改善されない限りは、根本的な人手不足の解消には至らないでしょう。

 

具体的には、労働時間の多寡にかかわらず能力ある人材を役職に就けたり、育児や介護を理由にした休暇の取得を歓迎する組織風土を作ったりすることが挙げられます。組織風土を改善する際には、第一に「組織のトップやマネジメント層の意識改革」が重要です。

柔軟な働き方は生産性向上につながる

「業務効率化」や「多様な働き方の尊重」は、人手不足の解消に効果があるだけではなく「生産性の向上」にもつながることがわかっています。公益財団法人・日本生産性本部が2016年に2177社の人事労務担当者向けに実施した大規模なアンケートでは、「正社員の働き方の多様化・柔軟化に繋がる施策の導入状況」について、以下の結果が報告されています。

正社員の働き方の多様化・柔軟化につながる施策の「生産性向上」への効果について

図表10の『「すでに導入している」企業割合』では、導入している企業が「フレックスタイム制度」は49.6%ですが、「在宅勤務」は18.8%、「テレワーク」は8.3%、その他についても20%以下となっています。

 

図表11の「施策の生産性の向上効果」については、「大いに効果あり」「やや効果あり」と回答した割合は下記となっています。

 

  • ・在宅勤務制度 66.7%
  • ・テレワーク制度(在宅以外) 100%
  • ・短時間正社員制度 68.8%
  • ・フレックスタイム制度 70.9%
  • ・専門業務型裁量労働制 77.8% ※1
  • ・企画業務型裁量労働制 90.9% ※2
  • ・朝方勤務 75.0%

在宅勤務制度については18.8%が導入していて66.7%が「効果あり」、テレワーク制度については8.3%ほどの導入ですが、100%で「効果あり」と回答しています。このように、労働時間の柔軟性や働く場所の柔軟性を定めた制度が、生産性向上に効果があるとの回答が高くなっていることが分かります。

 

すでに導入している企業割合

出典:公益財団法人 日本生産性本部 - 「第 15 回 日本的雇用・人事の変容に関する調査」結果概要

 

※1「専門業務型裁量労働制」とは:コピーライターや弁護士、システムコンサルタントなどの専門職が「裁量労働制」のもとに働く就業形態のこと

※2「企画業務型裁量労働制」とは:企画・立案・調査などの業務に携わる人材が「裁量労働制」のもとに働く就業形態のこと

まとめ

前述の通り、多様な働き方を尊重することは「生産性向上に効果がある」と、大多数の人事担当者が身をもって実感していることがうかがいしれます。在宅勤務制度、テレワーク制度、フレックスタイム制度など社員一人ひとりのライフステージに応じて、個々の考え方を尊重し、多様なワークスタイルを取り入れていくことは「企業存続の最低条件」になっていくのではないでしょうか。人手不足の令和の時代だからこそ日本型雇用システムから脱却し、「働き手から選ばれ続ける企業」となるべく、できることから着手していきましょう。