カスタマーエンゲージメントとは?向上させるメリットや事例を紹介

カスタマーエンゲージメントとは?向上させるメリットや事例を紹介

インターネットの普及や新型コロナの影響により顧客との接点が変化しています。さらに商品の付加価値が薄れるコモディティ化も進んでいるため、他社との差別化を図るためには、商品・サービスそのものの価値だけでなく、顧客から選ばれるための要素が必要です。

Vonageが実施したカスタマーエンゲージメントに関する調査によると、新型コロナ感染拡大を境にエンゲージメントは急増。86%の消費者が「デジタルエンゲージメント(デジタルを通じたエンゲージメント)の維持または向上を期待している」という結果となりました。消費者側も企業に対してカスタマーエンゲージメントのための施策を求めていることが分かります。

企業と顧客の信頼関係は、優良顧客の獲得やリピート率向上につながる重要な要素の1つです。他社との差別化や顧客の定着化のためにも強いカスタマーエンゲージメントの構築は必要でしょう。

そこでこの記事では、カスタマーエンゲージメントの概要を説明し、向上させるメリットや取り組み方について解説しています。企業事例も紹介していますのでマーケティング施策の参考にしてください。

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カスタマーエンゲージメントとは

カスタマーエンゲージメントとは、企業と顧客との関係性や結びつきを示す概念です。エンゲージメントは「誓約」「約束」といった意味を持ちますが、マーケティングにおいては顧客との親密さや信頼関係を表します。

カスタマーエンゲージメントが高い顧客ほどリピート率も高い傾向にあります。例えば、AOKIホールディングスでは商品購入直後や引き取り来店時のフォロー、お礼とアンケートなどパーソナライズされた顧客フォローに取り組んだことにより、メールの開封率が3倍に増加。開封者のリピート率も0.4ポイント高くなりました。

カスタマーエンゲージメントの構築により顧客が定着すると、長期的な売上が見込めるうえに顧客の口コミなどでさらに情報が拡散することも考えられるでしょう。その結果、新規顧客の獲得やサービス改善につながり、収益の安定が期待できます。

※参考:株式会社セールスフォース・ジャパン「マーケティングの進化と求められる一貫したカスタマーエクスペリエンス」

顧客満足度との違い

顧客満足度とは文字の通り、商品・サービスを購入または利用した顧客の満足度を表すものです。customer satisfaction(カスタマー・サティスファクション)と呼ばれ、「CS」とも略されます。

カスタマーエンゲージメントが双方向の関係性を表す指標であるのに対して、顧客満足度は商品・サービスに向けられる評価です。提供する商品・サービスが顧客の期待を上回ると満足度が高まることから、顧客の期待値に左右されやすいでしょう。

カスタマーエンゲージメントは顧客の期待値にとらわれない強い絆がある状態なため、その点に両者の違いがあります。

顧客ロイヤルティとの違い

顧客ロイヤルティとは、顧客が企業や商品・サービスに対して持つ愛着や信頼を表す指標です。ロイヤルティ(Loyalty)には「忠誠心」という意味があり、企業や商品に対するファン度を示すともいえます。

カスタマーエンゲージメントが顧客の行動をもとに関係性を数値化するのに対し、顧客ロイヤルティは顧客の感情がおもな調査対象です。計測方法はいくつかありますが、アンケート調査で点数付けをしてもらい結果を分析するNPS(ネットプロモータースコア)などが代表的です。顧客ロイヤルティとの違い

カスタマーエンゲージメントを向上させるメリット

カスタマーエンゲージメントを向上させるメリットには、どのようなものがあるでしょうか。4つのメリットについて解説します。

リピート率の向上

カスタマーエンゲージメントを高めることでリピート率が向上し、収益が安定することが期待できます。また、顧客が企業のファンとなるため、商品・サービスに愛着を持ち、新たに物品購入をする際も購入先の候補として思い浮かべやすくなります。その結果、継続的な商品購入やサービス利用につながるでしょう。

また、カスタマーエンゲージメントの向上のためには、顧客とのコミュニケーションが重要です。そのためカスタマーエンゲージメントのための施策を検討する際には、顧客のリアルな声や商品・サービスに対するフィードバックを得ることが一般的です。

こういった顧客の声を大事にすることにより、さらなる顧客満足度の向上やリピート率向上につながるでしょう。

解約率の低下

サブスクリプションサービスとは定額制により利用できるサービスで、代表的な例としてSpotifyなどの音楽配信サービスやNetflixのような動画配信サービスが挙げられます。継続的かつ長期的な利用で成り立つビジネスモデルのため、解約率の低下を目指すことはもっとも重視すべき点と言えるでしょう。

カスタマーエンゲージメントにより、顧客が自社のサービスが特別だと感じるのであれば、自社のサービスを解約してほかのサービスを利用することを防げます。そのためには、顧客目線に立ったサービスを展開する、適切なサポートを提供する、といったカスタマーエンゲージメント向上のための施策が重要となってきます。

顧客と企業の間に強いカスタマーエンゲージメントが構築されていれば、解約を防ぎ、継続的な利用につながるでしょう。

アップセル・クロスセルによる単価向上

アップセルとは、より高いグレードの商品・サービスを選択してもらう、あるいは複数個をまとめて購入してもらうことによって顧客単価を向上させる営業手法です。一方、クロスセルは購入商品に対して関連商品を勧めることで売上アップを図ります。

これらの手法は押し売りと捉えられるリスクもありますが、カスタマーエンゲージメントによって顧客との信頼関係が構築されていれば、顧客は押しつけがましさを感じにくくなります。契約更新あるいはリピート購入のタイミングなどにアプローチすることで、アップセルやクロスセルの提案も通りやすくなるでしょう。

口コミによる拡散

顧客が企業に対してファンとなれば、SNSなどを通じて好意的な口コミを投稿することが期待できます。その結果、見込み顧客の意思決定に影響を与え、新規顧客の獲得につながるでしょう。

モバイル社会研究所が行ったアンケートによると、SNSの利用率は年々上昇傾向で10〜20代の約6割はSNSから情報を得ているという結果でした。30~40代がWebサイトやアプリ、50〜70代はテレビでした。

情報収集手段が新聞やテレビなどからインターネットに移り変わると、消費者の購買行動にも変化が見られます。マーケティング施策を検討する際には、AISASやULSSASといった消費者行動モデルを参考にするとよいでしょう。

AISAS(アイサス)とは、次の5つの頭文字から付けられたフレームワークです。

  • Attention(認知)
  • Interest(興味)
  • Search(検索)
  • Action(購買行動)
  • Share(共有)

顧客は購入前に口コミやレビューなどを検索して比較検討します。購入後に情報共有をする点も特徴です。また、ULSSAS(ウルサス)はSNSを活用した購買モデルとなり、以下の行動プロセスから頭文字をとって名付けられました。

  • UGC(ユーザー投稿コンテンツ)
  • Like(いいね・お気に入り)
  • Search1(SNS検索)
  • Search2(Google/Yahoo!検索)
  • Action(購買行動)
  • Spread(拡散)

認知部分がSNSをはじめとした「ユーザー投稿コンテンツ」に変化しています。検索サイトを利用する前にSNS内でチェックするのが特徴で、「Like(いいね・お気に入り)」の数が商品・サービスの良し悪しを判断する材料となりつつあります。

消費者が購入に至るまでのプロセスを意識し、費用対効果に優れたマーケティング施策を検討することが必要です。口コミによる拡散

カスタマーエンゲージメントが注目されている理由

カスタマーエンゲージメントが注目される背景には3つの理由が挙げられます。それぞれ解説していきましょう。

サブスクリプションサービスの台頭

サブスクリプションサービスとは買い切りではなく、契約期間中定額の料金を支払うことで利用できるサービスです。サブスクリプションサービスの収益向上のためには契約数を増やさなければならないため、新規顧客獲得を目指すことが一般的です。

しかし、市場が成熟した昨今では、新しい契約者を増やしていくことが難しくなっています。そのため、安定した売上を持続するためには、既存顧客に対して長くサービス利用してもらえるようにアプローチしていくことが重要です。

既存顧客が離れないようにするためには、サービス内容の充実ももちろん必要ですが、それだけでは競合他社に勝ち抜けないでしょう。なぜなら、同じようなサービスを展開している競合他社がいる場合、月額料金やサービス内容で少しでも差をつけられたら、顧客はそちらに流れてしまうからです。

そこで、自社と顧客の間に強いカスタマーエンゲージメントを構築し、サービスやコストに多少劣る部分があっても契約し続けてもらえるようにしなければなりません。サブスクリプションサービスを展開する企業にとっては、カスタマーエンゲージメント向上に関する施策はかなり重要と言えるでしょう。

顧客接点の変化

顧客接点の変化もカスタマーエンゲージメントが注目される理由の1つです。これまでは店頭販売のようなダイレクトマーケティングが主流でしたが、インターネットの普及によりオンラインによる顧客接点が増えてきました。

特に、SNSや口コミサイトなどで顧客のリアルな声を拾えるため、消費者同士の情報共有が購買意欲に大きく関わるようになってきています。消費者は得られる情報量が増えているため、企業からの情報発信だけではなく自分自身で商品・サービスの情報を得て、比較検討できるようになりました。

そのため、現代の企業は膨大な情報を持つ顧客に自社製品を選んでもらう必要があります。他社の情報もよく知っている顧客に自社を選んでもらうためには、カスタマーエンゲージメントによる強い絆が必要です。

商品・サービスのコモディティ化

商品・サービスのコモディティ化も理由として挙げられます。コモディティ化とは独自性が薄れ、差別化が難しくなる状態です。現在の日本では、技術の発展に伴い同じような機能・質の製品が増えたこと、さらに規格やルールの標準化、市場を意識した開発などが原因でコモディティ化は進んでいます。

例えば、薄型テレビは生産技術の広まりに伴い、価格競争が激化。2021年に三菱電機は「製品競争力の維持が困難な状況になった」として液晶テレビ事業の縮小を発表しました。

商品・サービスそのものに付加価値が付けられないとなると、企業は価格競争を余儀なくされるでしょう。しかし、価格を下げると収益が低下し、経営を圧迫するリスクがあります。差別化のポイントを商品・サービス自体からカスタマーエンゲージメントへ切り替えることで自社の優位性を高められ、積極的に選んでもらえる可能性も上がります。

※参考:日本経済新聞「家電業界が挑む「コモディティー化」という怪物、価格の"半減期"は3年」

カスタマーエンゲージメントを向上させるための取り組み

カスタマーエンゲージメントを向上させるためには顧客接点を増やし、1人1人に合った顧客体験を提供することが必要です。ここではカスタマーエンゲージメント向上のための取り組みについてお伝えします。

現状を把握する

まずは、現在のカスタマーエンゲージメントの状況を把握し、目標を明確にしましょう。そのためには客観的な定量データを収集することが必要です。カスタマーエンゲージメントの計測方法として、次のような手段が挙げられます。

  • NPS(ネットプロモータースコア)
  • 解約率
  • リピート率
  • SNSのエンゲージメント率

NPS(ネットプロモータースコア)は顧客ロイヤルティを計測する指標です。商品・サービスのおすすめ度を0~10の11段階で評価。「推奨者」「中立者」「批判者」に分類し、推奨者の割合から批判者の割合を差し引いた数値が高いほど、顧客ロイヤルティも高くなります。

解約率は一定期間内に解約した顧客の割合、リピート率は初回購入後に再度購入してくれる顧客の割合です。カスタマーエンゲージメントが高いほど解約率は低くなり、リピート率は高くなります。また、SNS利用者が増えたことでエンゲージメント率の測定も可能になりました。

エンゲージメント率とはSNSの投稿に反応したユーザーの割合です。「いいね!」「シェア」「コメント」といったアクションから算出でき、例えばTwitterならアナリティクスの画面から簡単に確認できます。

顧客接点の洗い出しと顧客体験の向上

次に顧客接点を洗い出します。一般的に顧客接点の洗い出しにはカスタマージャーニーマップが有効だと言われています。カスタマージャーニーマップとは顧客が商品やサービスを認知し、購入・利用に至るまでのプロセスを可視化したものです。

認知(興味関心)・情報収集・比較検討・購入・共有拡散といったフェーズごとに顧客接点が把握でき、さらにはアプローチ方法や施策の見直しにも効果があります。顧客とのすべての接点を把握し、1つ1つの顧客体験を高めることがカスタマーエンゲージメントの向上につながります。

顧客体験の向上とパーソナライズ化

顧客体験は商品・サービスの購入や利用にあたって、前後のプロセスも含めた顧客の体験・価値・メリットなどを指すマーケティング用語です。金銭的・物質的価値だけでなく、感情的な価値も多く含まれます。

カスタマージャーニーマップで把握したフェーズ・顧客接点は、すべて顧客体験につながると言えるでしょう。顧客体験の向上には顧客視点に立った価値の創出が必要になります。顧客の行動パターンを分析し、潜在的ニーズや自社の課題を把握したうえで、一貫性のあるマーケティング戦略と円滑なコミュニケーションを行うことが大切です。

さらにカスタマーエンゲージメントの向上にはパーソナライズ化も有効になります。パーソナライズとは、1人1人の属性や購買履歴などに基づいて最適な情報を提供する仕組みです。例えば、ネットショップは登録情報や購入履歴から関連性の高い商品を表示するといったサービスを提供しています。

顧客全体に同じ情報を届けても一方的な押し付けとなり、あまり興味は持たれません。しかし、パーソナライズによって欲しい商品や知りたい情報を最適なタイミングで発信すれば、顧客は「自分を理解してくれている」と感じ信頼関係の構築につながります。顧客体験の向上とパーソナライズ化

カスタマーエンゲージメントの企業事例

最後にカスタマーエンゲージメントに取り組む企業事例を紹介します。

スターバックスコーヒージャパン株式会社

スターバックスコーヒーでは、「PARTNERS」「PRODUCTS」「STORE PORTFOLIOS」の3つの要素からなる「スターバックス体験」を提供しています。

  • PARTNERS:1人1人の顧客に最適な接客
  • PRODUCTS:スターバックスでしか提供できない商品
  • STORE PORTFOLIOS:居心地の良い空間の提供

スターバックス体験で顧客に機能的価値と情緒的価値を提供することで、他社との差別化を図っています。また、価値向上のためにデジタルも活用。ビバレッジやフードを購入する度にStarが貯まる「Starbucks® Rewards」などのデジタル施策を展開しています。

それぞれのプログラムに「人とつながる場」を付け加えることで、カスタマーエンゲージメントを高めていると言えるでしょう。

参考:日経XTREND SPECIAL 「カスタマーエクスペリエンス、エンゲージメント」

カゴメ株式会社

カゴメは、ファンを増やし継続的なつながりを持つ取り組みとして、2015年に会員制のコミュニティーサイト「&KAGOME(アンドカゴメ)」を設立しました。会員と共に発信するコンテンツが中心で、座談会やファンミーティングを通じて会員の意見を反映した商品開発や改良も実現。投票企画やレビューなどはマーケティングにも活かされています。

カゴメは「&KAGOME」の運営によって、多様な顧客接点を持つことがブランドや商品への愛着につながるとして顧客接点を増やしているとのこと。ファンを増やすためにファンを知り、ファンと一緒に体験することが良好な関係構築を実現しているのでしょう。

参考:ITmediaビジネスONLINE 「カゴメが築く「ファンを夢中にさせる」戦略 わずか2.5%のユーザーに注目したワケ」

まとめ

カスタマーエンゲージメントとは顧客との親密さや信頼関係を表します。カスタマーエンゲージメントを高めることによりリピート率の向上や口コミによる拡散といったメリットが期待できます。

重要視される背景には顧客接点の多様化や商品・サービスのコモディティ化といった課題が挙げられており、今後は顧客獲得に加えて、顧客との関係構築も視野に入れたマーケティングが必要と言えるでしょう。

山本脩太郎
著者情報山本脩太郎

ブイキューブのはたらく研究部 編集長?部長? 2018年株式会社ベーシックに新卒入社。 インサイドセールスを経て、マーケティングメディアferretの編集部でインタビュー記事を中心とした企画・執筆などを担当。 同時期に数社のコンテンツマーケティング支援・インタビュー取材を経験。 2020年3月に株式会社ブイキューブに入社。

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