カスタマー・エクスペリエンスとは?向上させる重要性と3つのステップ

これまで企業と顧客との接点は、店頭・ダイレクトメール・コールセンターといった媒体が中心でした。しかし、インターネットの普及に伴い、人々はSNS・アプリ・口コミ・ネット記事などさまざまな媒体から大量の情報を手に入れられるようになっています。

企業と顧客の接点が多様化し、市場の成熟により高品質・低価格な商品やサービスの提供が容易になったことで顧客獲得の競争も激化しています。そこで、差別化を図るための取り組みとして注目されているものが、カスタマー・エクスペリエンスです。

ガートナージャパン株式会社が実施した日本企業のカスタマー・エクスペリエンスに関する調査によると、「必要だが未検討」と回答した企業は31.3%、「検討中」あるいは「進行中・稼働済み」とした企業は合わせて21.5%になりました。

およそ半数の企業がカスタマー・エクスペリエンスの向上は必要と感じた上で、何らかの取り組みを検討・開始していることが分かるでしょう。

この記事ではカスタマー・エクスペリエンスを学び、自社のマーケティングに活かしたい方へ向けて、カスタマー・エクスペリエンスの概要や重要性について解説しています。また、カスタマー・エクスペリエンスを向上させるための具体的な方法も解説しますので、ぜひ今後の経営に役立ててください。

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カスタマー・エクスペリエンスとは

カスタマー・エクスペリエンス(Customer Experience)とは、商品やサービスの購入・利用に加え前後のプロセスも含めた顧客の体験・価値・メリットなどを指すマーケティング用語です。「顧客体験」や「顧客体験価値」「顧客エクスペリエンス」ともいわれ、「CX」とも略されます。

カスタマー・エクスペリエンスは金銭的・物質的価値だけでなく、感情的な価値が多く含まれており、顧客にとっての価値を考えることが基本です。感情的な価値は数値化が難しい要素ですが、次の5つに分類されます。


Sense(感覚的経験価値) 五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)によってもたらされる価値
Feel(情緒的経験価値) 

感情に訴えかけることによって生まれる価値
Think(創造的経験価値/認知的経験価値) 探究心・自尊心・満足感などに働きかけることによって生まれる価値
Act(肉体的経験価値) 肉体的な経験によってライフスタイル全般に変化や影響を及ぼすもの
Relate(準拠集団や文化・社会との関連づけ) 準拠集団や文化・社会と関連づけられることによって生み出される価値

カスタマー・エクスペリエンスとは

カスタマー・エクスペリエンスの重要性

カスタマー・エクスペリエンスを向上させ、顧客から高い評価を獲得し続けることでロイヤルカスタマーの創出につながります。「ロイヤルカスタマー」とは、自社の商品やサービスを好んで購入・利用してくれるロイヤリティ(忠誠心・信頼)の高い顧客です。

ロイヤルカスタマーの創出には安定した売上げやLTV(顧客生涯価値=1人の顧客が取引開始から終了までの期間にもたらす利益の総額)の上昇、口コミによる新規顧客の増加などがメリットとして挙げられます。

提供する商品・サービスを低価格にするだけでは、ただ顧客が費やすコストを下げて価値を上げたに過ぎません。品質が高い商品・サービスの提供、あるいは満足感が得られる丁寧なコミュニケーションなど、そこにどのような価値をつけるかが大切です。

  • 顧客が自社に求めている価値は何か
  • 購買プロセスをどう感じ、不便さや課題はないか
  • サポート体制や対応への不満はないか

企業が一方的に価値を押し付けるのではなく、上記のように顧客の視点に立って価値を考える必要があります。顧客の意見を聞き、すべてのフェーズで顧客満足度を高めることがファン化を促し、ロイヤルカスタマーの創出につながるといえるでしょう。

カスタマー・エクスペリエンスの重要性

カスタマー・エクスペリエンスを向上させる3ステップ

カスタマー・エクスペリエンスを向上させるためには顧客を理解し、求める価値を把握する必要があります。ここではカスタマー・エクスペリエンス向上における3つの手順について解説します。

ペルソナの作成

ペルソナとは商品やサービスを購入・利用する典型的なユーザー像のことです。ペルソナを作成するときには、年齢や性別、居住地、職業だけではなく一見関係のないように思える趣味や家族構成、成育歴まで、深く詳細に設定します。

同じような意味で「ターゲット」も用いられますが、情報の範囲が広いことから社内で想像する人物像にズレが生じてしまう可能性があります。認識のズレは作業工数の増加やスケジュールの遅れにつながり、トラブルの原因にもなりかねません。ペルソナであれば、より人物像を絞れるため社内でイメージを共有しやすく、顧客のニーズや視点の精度を高められるようになります。

ペルソナの作成は、おおまかに次のような手順で行います。

  1. 既存顧客のデータを収集・分析する
  2. 情報をもとにペルソナの骨組みをつくる
  3. ストーリーを肉付けする

データの収集・分析は顧客アンケートやインタビューなどを用いて、リアルな情報を集めましょう。その情報をもとに、まずは箇条書きでペルソナの骨組みを作成します。さらに背景やストーリーを肉付けしていくと、リアリティのある人物像が生まれます。

ペルソナを作成する際に押さえておきたいポイントは以下の通りです。


プロフィール 名前・年齢・性別・学歴・職業・年収・住んでいる場所・家族構成・既婚/未婚など
ライフスタイル 趣味・休日の過ごし方・好きな食べ物・ファッション・よく利用する店など
性格 価値観・人生観・金銭感覚・悩み・コンプレックス・願望・夢など
仕事 業種・職種・部署・役職・仕事内容・目標・仕事に対する価値観など

仕事に関する情報は、BtoBの商品・サービスで重要になる項目です。一方、ライフスタイルの項目はBtoCの商品・サービスでとくに役立ち、お金や時間の使い方を把握できます。いずれもこの人物が実在するかのように具体性を持たせることが大切です。

カスタマージャーニーマップの作成

カスタマージャーニーとは顧客が商品やサービスを認知し、購入・利用するまでの購買プロセスのこと。これを可視化したものがカスタマージャーニーマップです。顧客の行動パターンを分析できるフレームワークで、顧客との接点の洗い出しやフェーズごとに最適なアプローチ方法、施策の見直しなどに役立ちます。

フェーズごとに顧客とのコミュニケーション方法は異なり、さまざまな施策の立案が必要です。複数の担当者が関わることもあるでしょう。カスタマージャーニーを作成することで社内共有しやすく、認識のズレや施策漏れなどを発見・調整できるメリットがあります。

ただし、カスタマージャーニーマップの作成を目的とするのではなく、定期的に見直しながら活用することが重要です

作成の基本的な手順は次のとおりです。雛形を参考にしながら確認しましょう。

  1. 項目(縦軸)とフェーズ(横軸)を定義する
  2. 顧客行動・感情を整理する
  3. タッチポイント(顧客接点)を設定する
  4. マッピングする

初めに項目(縦軸)とフェーズ(横軸)を定義していきますが、縦軸は顧客の行動・感情や心理・タッチポイント(顧客接点の場所やツール)・施策・課題とすることが一般的です。自社の環境や状況、目的に応じて自由に設定しましょう。

横軸はフェーズを設定します。認知(興味関心)・情報収集・比較検討・体験・購入・共有拡散といったように、顧客が購入するまでのプロセスや状況を設定しましょう。こちらも自社に合わせて適宜変更して構いません。

次に、作成したペルソナの行動・思考・感情をフェーズごとに整理します。商品・サービスを認知した媒体や体験した場所、その時の気持ちなど考えられる行動と思考を挙げていきましょう。

タッチポイントは企業と顧客の接点です。Web広告・SNS・DMなど使用する媒体はさまざまですが、認知度を高めるためにはタッチポイントを増やすことが重要です。作成したペルソナが企業と接点を作れる場所を検討しましょう。

最後に、それぞれの手順で挙げた内容をカスタマージャーニーマップにマッピングしていきます。現在の課題を洗い出し、改善策や優先順位を設定することで効果的なマーケティング施策が行えるでしょう。

戦略の見直し

ペルソナとカスタマージャーニーマップの作成により顧客像が明確になることで、戦略の見直しが行えます。データや顧客からのフィードバックをもとに現在の施策を評価し、顧客の行動パターンや潜在ニーズを分析しましょう。

例えば、Soup Stock Tokyoでは「秋野つゆ」というペルソナを設定し、出店場所や店舗づくり、メニュー、価格などを決定しています。彼女が満足できる商品開発やマーケティング施策を実施することで一貫性を持たせ、ブランドイメージの構築につながっているといえるでしょう。

企業のブランドイメージを訴求できれば、顧客は企業のメッセージを捉えやすくなるため円滑なコミュニケーションが実現できます。その結果、カスタマー・エクスペリエンスの向上にもつながるでしょう。

カスタマー・エクスペリエンスを向上させる3ステップ

まとめ

カスタマー・エクスペリエンスは、購買プロセスにおける顧客体験を表す用語です。企業と顧客との接点が多様化する中で、差別化やロイヤルカスタマー創出の取り組みとして注目されています。

カスタマー・エクスペリエンスには感情的な価値が多く含まれ、あくまで顧客視点で考えることが重要です。顧客ニーズの把握にあたってはペルソナを作成し、そのペルソナに沿った一貫性のあるマーケティング戦略の実施が鍵となっています。その結果としてカスタマー・エクスペリエンスの向上につながります。

山本脩太郎
著者情報山本脩太郎

ブイキューブのはたらく研究部 編集長?部長? 2018年株式会社ベーシックに新卒入社。 インサイドセールスを経て、マーケティングメディアferretの編集部でインタビュー記事を中心とした企画・執筆などを担当。 同時期に数社のコンテンツマーケティング支援・インタビュー取材を経験。 2020年3月に株式会社ブイキューブに入社。

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