顧客エンゲージメントを高めるには?知っておくべき背景事情と向上方法

インターネットとスマートフォンの普及によって、現代の顧客は企業からの情報に加え、口コミやレビューなど、大量の情報を手に入れるようになりました。これにより価値観も多様化し、「良いものを安く」以外の要素に魅力を感じる人も出てきています。

事実、似たような商品やサービスがあるなかで自社のファンを獲得するのに苦戦を強いられている企業もあるのではないでしょうか。そこで重要となるのが、「顧客と企業の信頼関係」を意味する顧客エンゲージメントの向上です。

顧客エンゲージメントが高い状態であれば、多くの商品や情報の中、自社の商品やサービスを選ぶ顧客はおのずと増えると考えられます。米Twilioによる「顧客エンゲージメント現状分析2022」によると、過去2年間において特にデジタル分野における顧客エンゲージメントに投資した企業は平均で70%の収益拡大を実現しています。

とはいえ、顧客エンゲージメントとは具体的に何を指すのか、向上させるためにはどうすればいいのかといった点が漠然としている担当者の方もいるかもしれません。そこで本記事では、顧客エンゲージメントの概要や注目される背景、向上させる方法について解説します。

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顧客エンゲージメントとは

顧客エンゲージメントとは「顧客と企業の信頼関係」を指し、カスタマーエンゲージメントとも呼ばれます。エンゲージメント(engagement)はもともと、「婚約」「約束」「契約」といった複数の意味を持つ英単語ですが、「深いつながりのある関係性」というのが基本的なイメージです。

したがって、顧客エンゲージメントが高い場合、顧客と企業が信頼に基づいて強く結びついていることになります。顧客エンゲージメントが強化されると、リピート購入や肯定的な口コミ、顧客と企業によるヒット商品の共同開発など、様々な良い影響が生まれるのがメリットです。

なお、顧客エンゲージメントと混同されやすい言葉に「顧客ロイヤルティ」「顧客満足度」がありますが、以下のようにそれぞれ内容や評価指標が異なります。

  内容 評価指標
顧客エンゲージメント 顧客と企業の信頼関係 行動分析
顧客ロイヤルティ 顧客と企業の信頼関係 アンケート調査
顧客満足度 商品やサービスに対する評価 アンケート調査

顧客エンゲージメントと顧客ロイヤルティは、どちらも顧客と企業の関係性を表す点では共通しています。しかし顧客ロイヤルティが、顧客の企業に対する「感情」をアンケート調査によって分析するのに対し、顧客エンゲージメントは顧客の「行動」に焦点を当てる点が特徴です。

例えば、良い口コミをしてくれる、競合と比較して高額でも購入してくれるといった顧客によるアクションが分析対象となります。

また顧客満足度は、商品やサービスに対する顧客の評価であって企業との関係性が含まれていない点に、顧客エンゲージメントとの根本的な違いがあります。

カスタマーエンゲージメントとは?向上させるメリットや事例を紹介

顧客エンゲージメントの概要や注目される背景については「カスタマーエンゲージメントとは?向上させるメリットや事例を紹介」の記事で詳しく解説しています。

顧客エンゲージメントとは

なぜ顧客エンゲージメントが注目されるのか

「顧客エンゲージメント」という考え方は、顧客側・企業側の双方を取り巻く環境の変化を契機に注目されるようになりました。ここでは、次の3つの変化について詳しく解説します。

  • 顧客の選択肢の増加
  • 購入プロセスの変化
  • 企業競争の激化

顧客の選択肢の増加

顧客エンゲージメントが注目される理由の1つ目は、「顧客の選択肢の増加」です。これは、インターネットの普及により顧客が手にできる情報量が増えたことで起きた変化です。

総務省の「平成18年度情報流通センサス」によると、1996年から2006年の10年間で情報流通量は530倍に激増しました。この10年は、10%程度だったインターネット利用率が70%程度まで伸び、携帯電話(いわゆるガラケー)が一気に普及した時代です。

また、携帯電話からスマートフォンへと主流がシフトした2012年から2022年の10年間で、ブロードバンドの総ダウンロードトラフィック(情報通信量)は1714Gbpsから2万5993Gbpsへと約15倍の増加を見せています(総務省「我が国のインターネットにおけるトラヒックの集計結果-2018年11月分2022年5月分」)。

さらに、今後も高速大容量の通信を可能にする5Gの普及によって、情報量の増加は続くと予測されています。

こうした変化によって、いまや顧客は商品やサービスを検討する際に、類似するものとの比較を簡単にできるようになりました。

したがって、沢山の選択肢を目の前にしてもなお、自社の商品・サービスを選んでもらうには顧客エンゲージメントを強化し、顧客に「ここの商品(サービス)なら間違いない」と思ってもらう必要があります。

購入プロセスの変化

先程述べた顧客の選択肢の増加はインターネットの普及による現象ですが、これにより商品・サービスの購入プロセスにも変化が起きました。そして、この「購入プロセスの変化」が、顧客エンゲージメントが注目される理由の2つ目です。

購入プロセスの基本的なモデルは1920年代にアメリカのSamuel Hall(サミュエル・ホール)氏が提唱した「AIDMA(アイドマ)」がよく知られています。一方で、インターネットの普及は「AISAS(アイサス)」「AISCEAS(アイシーズ)」といった新たな購入プロセスも生み出しました。

なお、それぞれの中身は以下の通りです。

AIDMA Attention(認知)→ Interest(関心)→ Desire(欲求)→ Memory(記憶)→ Action(行動)
AISAS Attention(認知)→ Interest(関心)→ Search(検索)→ Action(行動)→ Share(共有)
AISCEAS Attention(認知)→ Interest(関心)→ Search(検索)→ Comparison(比較)→ Examination(検討)→ Action(行動)→ Share(共有)

※出典:総務省「平成23年版情報通信白書

AISASやAISCEASといった購入プロセスでは、商品・サービス購入前の「検索」「比較」「検討」、購入後の「共有」においてインターネットが介在しています。これにより顧客は、自社が発信する情報以外に、他社の商品・サービスの情報や実際の消費者による口コミなどを簡単に手にするようになりました。

こうしたプロセスでは、類似する商品やサービスよりも割高であったり、否定的な口コミが多かったりすると、自社をよく知ってもらう前に顧客の選択肢から外れてしまう可能性があります。そもそも顧客が入手できる情報量は膨大で、丁寧な検討を期待するのは難しいからです。

したがって、現代の購入プロセスにおいて強みを発揮する良い口コミやSNSによる使用例などの共有が期待できる顧客エンゲージメントの強化が注目されるようになっています。

企業競争の激化

顧客エンゲージメントが注目される3つ目の理由は「企業競争の激化」です。

日本は2008年を境に人口減少が始まり、生活に必要な商品やサービスが行き渡った成熟社会へと転じています。

こうした社会では、より便利なものや、より満足感の得られるものを安く販売したからといって売れるとは限りません。市場には、すでに良いものも安いものも大量にあるからです。

また、これまで述べてきたように顧客は膨大な情報を手に入れることができ、海外製品を購入することも難しくなくなりました。したがって、いまや競業には国内企業だけでなく海外企業も含まれます。

さらに、サブスクリプションサービスの台頭も顧客エンゲージメントの注目度に影響しているでしょう。サブスクリプションサービスとは商品やサービスを購入するのではなく、契約している期間中に料金を支払い続けるシステムのことです。音楽配信や動画配信などが代表的なサービスですが、家具や家電のレンタルサービスなどもみられます。

サブスクリプションサービスの場合、顧客との関係が長期化するほど利益につながるため、顧客エンゲージメントがより重要となります。

このように、現代の企業はすでに十分な商品やサービスが存在する社会で、顧客に自社を選んでもらったり、顧客と長期にわたる関係を築いたりしなければなりません。顧客と企業の信頼関係を指す顧客エンゲージメントが注目される背景には、こうした企業競争の激化という要素も存在します。企業競争の激化

顧客エンゲージメントを向上させる方法

誰もが大量の情報にアクセスでき、企業競争も激化している現代では、顧客エンゲージメントの向上が自社を選び続けてもらう上で重要です。ここでは、顧客エンゲージメントを強化する方法について解説します。

顧客との接点を増やす

顧客エンゲージメントを向上させるには、まずは顧客との接点を増やすことが大切です。顧客との接点がなければ、そもそもエンゲージメントを結べないからです。

また、情報が多い現代は、潜在顧客も様々な場所に広がっているため、接点を増やすことが認知やエンゲージメント強化に効果を発揮します。その際は、自社の顧客の購入プロセスを意識したカスタマージャーニーマップを作成するとよいでしょう。

カスタマージャーニーマップとは、顧客が商品やサービスを認知するところから購入後までの一連のプロセスを、旅になぞらえて可視化したものです。カスタマージャーニーマップを作成すると、各段階における顧客の行動や自社が持っている接点、改善すべき課題などが把握できるようになります。

例えば、家具を販売する企業が「認知」の段階で自社の公式ホームページとWeb広告を接点としているとします。この場合、顧客に認知してもらうには企業名や欲しい家具で検索される必要がありますが、こうした行動は、そもそも家具に対する需要がないと起こりにくいのが難点です。

そこで、家具を紹介するSNSやYouTubeチャンネルという接点を新たに追加する方法が考えられます。この方法のメリットはSNSユーザーとの接点が持てることと、情報のシェアによって現段階で家具を欲しがっていない人にも自社を認知してもらえる可能性があることです。

こうした接点を各段階で増やしていくことは、顧客を増やす意味でも、顧客との関係性を強化する機会を得る意味でも有効な施策となります。

顧客の立場になって考える

カスタマージャーニーマップを基に追加できる接点を検討したら、各段階で顧客との関係性を構築する仕組みを考えましょう。先ほどの例でいえば、SNS上で顧客とどんなやり取りをするとエンゲージメントが向上するかをイメージしていきます。

そこで重要になるのが、「顧客の立場で考える」姿勢です。とはいえ、企業側にいながら顧客の感情を正確に捉えるのは難しいケースもあるでしょう。その場合は、NPS®(ネット・プロモーター・スコア)を活用するのがおすすめです。

NPS®とはアメリカに本社を置くコンサルティング会社、Bain & CompanyのFred Reichheld(フレッド・ライクヘル)氏が開発した、顧客ロイヤルティの度合いを測る指標です。

具体的には、顧客に「自社の商品(サービス)を人におすすめしたいか」という質問に0〜10の11段階で回答してもらうアンケートによって評価します。

各回答を「批判者(0〜6)」「中立者(7〜8)」「推奨者(9〜10)」の3グループに分け、推奨者の割合から批判者の割合を引いた数値が顧客ロイヤルティのスコアです。

例えば、東京を本拠地とするプロ野球球団の東京ヤクルトスワローズは、会員特典などの見直しによってNPS®スコアを-34(批判者の方が多い状態)から+2(推奨者の方が多い状態)へと改善しました。

NPS®のスコアが改善された結果、ファンクラブ会員数の増加や、会員ランクのアップグレードが目に見えて起きているそうです。

このようにNPS®は、企業との接点における顧客体験を顧客視点で改善させるのに役立つため、顧客エンゲージメントの向上にも寄与します。

※参考:Swallows CREW(スワローズクルー)のファンクラブ会員の声を受けて会員特典を見直し

サービスを向上させる

顧客の声を基にサービスそのものを向上させることも大切です。これにより顧客は、「自分の声が届いている」という感情を持つため、直接企業へ商品やサービスに対する建設的なフィードバックをしてくれるようになり、良い口コミを増やすことにもつながります。

事実、株式会社クロス・マーケティングによる「オンライン上の口コミ利用に関する実態調査」によると、商品・サービスの購入前に口コミを見る人の割合は75.9%にも上ります。

また、その目的は「買ったことのない商品を購入するとき」とする人が最も多く、68.8%でした。つまり、顧客の声をきっかけとしたサービスの向上は、既存顧客とのエンゲージメント強化だけでなく、新規顧客の獲得にも効果が見込めるということです。

こうした手法に長けている企業の1つが、工事現場の作業服やアウトドア・スポーツウエアを販売する株式会社ワークマンです。

もともとワークマンは「声のする方に、進化する。」という理念を持っており、特にアンバサダーマーケティングによる顧客エンゲージメントの強化を得意としています。

ワークマンの企業アンバサダーは芸能人やモデルなどの著名人ではなく、ワークマン製品が好きで、商品情報を発信している一般人なのが特徴です。選定の際は、ワークマンの社員が「#ワークマン」「#ワークマン女子」といったワードで検索し、個別に声をかけていきます。

アンバサダーに選ばれた顧客は、商品サンプルを基にワークマンと意見交換をする機会が得られ、それによってデザインが変更されることもあるそうです。

ワークマンは宣伝色を出さないようにするため、アンバサダーの活動に金銭的な報酬は支払っていません。しかし、アンバサダーからすると、いち早くワークマンの新商品を知ることができたり、自分の声が商品開発に生かされたりする点が魅力となっています。

つまりワークマンは、大きなコストをかけることなく顧客の声を基にサービスを向上させ、顧客エンゲージメントも高めるという手法を確立させていると言えます。

サービスの向上は、コストがかかったり、必ずしも利益につながらなかったりすることもありますが、顧客との接点からリアルな声を拾える仕組みを構築できないか考えてみるとよいでしょう。

※参考:WORKMAN 公式アンバサダーご紹介

サービスを向上させるまとめ

顧客エンゲージメントを強化すると、自社の商品やサービスを継続的に利用してもらえたり、良い口コミをしてもらえたりするメリットがあります。

顧客エンゲージメントを改善する際は、昨今の顧客側・企業側双方に起きている変化を踏まえて、接点や顧客体験を見直してみましょう。カスタマージャーニーマップやNPS®など、顧客視点で現状を把握できるツールも複数あるので、上手に活用しながら顧客との信頼関係を構築してください。

山本脩太郎
著者情報山本脩太郎

ブイキューブのはたらく研究部 編集長?部長? 2018年株式会社ベーシックに新卒入社。 インサイドセールスを経て、マーケティングメディアferretの編集部でインタビュー記事を中心とした企画・執筆などを担当。 同時期に数社のコンテンツマーケティング支援・インタビュー取材を経験。 2020年3月に株式会社ブイキューブに入社。

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