働き方改革は管理職の残業を変えるのか?

これまで管理職には時間外労働が適用除外されていたため、企業が管理職の労働時間を把握していなくても問題には問われませんでした。しかし、働き方改革の一環で、2019年4月から企業は管理職の労働時間を把握することが義務化されました。

管理職の労働時間把握に伴って企業はどういう対策を講じるべきか。また、働き方改革は管理職の残業を変えるのかについて考えていきたいと思います。

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管理職の労働時間の把握が義務化

働き方改革により一般の従業員の残業は抑制される傾向にあります。また、2019年4月より始まった有給休暇取得義務化により、年10日以上の有給休暇が与えられる従業員について、5日以上の有給休暇を取得させることが義務化されました。

これらの働き方改革によってしわ寄せがくるのが時間外労働の適用除外にある(残業代が支給されない)管理職。一般の従業員の残業が抑制されたからといって会社の仕事が減る訳ではありません。

誰かが仕事をしなければならない訳ですが、それを担うのが管理職ということになると、管理職ばかりが残された仕事をしていかなくてはなりません。管理職の仕事量が増えることは容易に想像でき、大きな懸念事項となります。

このような背景を元に、2019年4月より「管理職の労働時間の把握」が義務化されました。管理職だろうと一般の従業員だろうと、労働時間は適正化しないといけません。企業が管理職の労働時間を把握することは、管理職として働く人のための措置といえます。

名ばかり管理職と働き方改革

管理職の労働時間の把握が義務化された背景には、名ばかり管理職の問題もあります。管理職は残業や休日出勤しても残業代が支給されません。残業代が支給されない代わりに、労働基準法では以下の要件を持つことが求められます。

権限:労務管理について、経営者と一体的な立場にあること
時間:自分の勤務時間について裁量が認められていること
待遇:一般の従業員と比較して、賃金等の面において管理職としての待遇されていること

名ばかり管理職は、権限・時間・待遇について一般の従業員と大差ないにもかかわらず、管理職に就けられていることが問題となりました。管理職は残業代が支給されませんから、「管理職に就けておけば人件費削減になってコストメリットになるだろう」という企業の意図が見えます。

名ばかり管理職問題は最高裁まで争われた判例もあり社会問題化されました。政府も名ばかり管理職を放置せず、今回の「労働時間把握の義務化」を定めた背景となっています。

管理職に対して行われたアンケート

管理職に対して行われたアンケートを元に、管理職の業務量が増えていることが管理職にとってどのくらい負担感になっているかを明らかにします。

誤った働き方改革は管理職の業務量を増やす

パーソル総合研究所は、2019年10月に「中間管理職の就業負担に関する定量調査」を発表しました。

働き方改革により中間管理職の負担感が増していることを背景に定量調査されたデータです。調査結果によると、働き方改革が推進している企業において「中間管理職の業務量が増加した」と回答した割合は62.1%、一方、働き方改革が進んでいない企業において「中間管理職の業務量が増加した」と回答した割合は48.2%となりました。

中間管理職の就業負担に関する定量調査(画像引用元:パーソル 総合研究所

働き方改革とは「労働生産性を高め、労働時間を削減すること」を言うはずですが、単に「労働時間を削減する」ことだけに焦点があてられると、時間外労働の適用除外にある管理職に業務量のしわ寄せがきてしまいます。

一般の従業員はワークライフバランスを維持できても、管理職はプライベートな時間を確保することもままならなくなります。従って、企業は管理職ばかりに業務の押し付けがないよう、管理職も含めた効率的な働き方を推進する必要があるでしょう。

管理職の業務量は増え続けている

厚生労働省は2018年9月に「平成30年版 労働経済白書」を公表しました。その中で管理職の悩みとして多く挙がっているのは、多い順に以下の通りでした。

-部下がなかなか育たない
-部下の人事評価が難しい
-職場の又は自分の業務量が多すぎる

管理職の悩み

(画像引用元:管理職が感じる職場の悩み

以上の項目に関連して、3年前と比較した職場の状況変化の中で最も多く挙げられたのは「業務量が増加している」というものでした。厚生労働省は2010年の調査以来、「業務量が増加している」が過去最高の水準に至ったことを明らかにしています。

更に、「成果に対するプレッシャーが強まっている」「コンプライアンスのために制約が厳しくなっている」「職場の人数が減少している」が続いていることが分かりました。

業務量が増加した背景として、現場への強い成果主義の追求、コンプライアンスのための制限された働き方が求められていること、職場の人数の減少も関与していると想像することができます。管理職の業務量は増えることはあっても減ることはなく、企業は管理職の業務量削減に関連して何らかの施策を打つ必要があると言えます。 

企業が行うべき対策

働き方改革と管理職、そして管理職の業務量の増加について見てきた中で、企業が行うべき対策にはどんなことをすべきでしょうか。「業務状況の把握」「業務効率化」の2点に絞って説明します。

業務状況の把握について

管理職の労働時間の把握が義務化されたことに伴い、企業は「業務状況を把握」する必要があります。管理職の業務量がどのくらいあるのか、どのような業務内容なのか等、業務状況について把握することで、管理職ばかりに業務量のしわ寄せが来ないようにできます。 

施策1:1on1

業務状況を把握するには上司が管理職である部下と話すことが適切です。部下の勤怠データを上司が見るだけでは業務量の多寡しか分からないので、部下と対話することで業務状況の実態を把握する訳です。そこで求められるのが1on1という対話形式です。1on1とは、業務状況の把握、人材育成、評価、人間関係の円滑化等の目的を目指して上司が部下と対話することを言います。

1on1は1週間に1度、少なくとも1カ月に1度の割合で定常的に行われます。仕事に関することが対話のメインですが、雑談や悩み相談等をしても良いのが大きな特徴です。1on1を推進しているGoogleでは組織風土として「心理的安全性」(他者を恐れることなく意見を言える雰囲気、リスクを恐れずチャレンジできる雰囲気)を重視しています。

心理的安全性を重視して上司・部下間の人間関係がフラットであった方が、部下が考えていることを引き出しやすくなるので、業務状況についても部下は上司に言いやすくなります。

責任や業務負荷が大きい管理職は、1on1のような対話の仕組みの中でないと上司に本音を言いにくいものです。管理職である部下に、「実は今、業務で悩んでいます」「部下が思ったように成長しません」といった本音を語ってもらうことで、上司は部下の業務状況をよく理解することができ、業務量を減らすための支援や指導もしやすくなると言えます。 

施策2:産業医面談

2019年4月より時間外労働が月80時間を超える人から申し出があった場合は、産業医面談をすることが定められました。対象者は一般の従業員だけでなく管理職も含まれています。

ただ、法律では「申し出た人」に対する産業医面談なので、自主的に申し出なければ産業医面談をする機会がありません。それに、管理職の中には産業医面談の存在を知らない人もいる可能性もあります。

従って、企業は、面談の該当となる管理職に対して産業医面談の存在を情報共有することが重要な施策となるでしょう。長い時間仕事をしていると、知らず知らずのうちにメンタルが不調になっている可能性もあります。不調になってからでは遅いので、上司を通じてでも、管理職に対しては「産業医面談がある」ことを伝えていくと管理職も「申し出る」気になります。

業務効率化について

管理職の業務を洗い出していくと、日常業務が意外とあることに気付かされます。特に多いのが会議、事務仕事の2つです。管理職にとって重要な仕事はマネジメントやリーダーシップであり、できるだけ日常業務を効率化することで本来の仕事に注力してもらいたいものです。

そのためには業務効率化を図って、管理職にはマネジメントやリーダーシップを通じて組織運営や組織目標達成に力を発揮してもらいたいところです。そうすれば、働き方改革が目指すところの労働生産性にも繋がることになります。 

施策1:Web会議

物理的に距離がある事業所の人と会議をしたいために、定期的に管理職が集まって会議をしていませんか?対面で会議をすると、相手の表情が見えるため議論しやすいですが、同時に会議の数が増えれば増えるほど管理職の時間を奪うことになりかねません。その点Web会議を使えば、同じ場所に一堂に会さなくても会議をすることができます。

施策2:アウトソーシング

事務仕事やルーチン業務の中で外注できる業務があれば、アウトソーシングしましょう。費用対効果を勘案してアウトソーシングの方が安く済む場合もあります。

例えば、X社という企業が給与計算をアウトソーシングした場合で考えてみましょう。X社の従業員は50名、X社の給与計算業務は給与計算・社会保険・年末調整業務の全てを含みます。X社の給与計算業務を行う管理職の月給は38万円で、給与計算業務にかける時間は平均して毎月6時間。X社には専任の給与計算担当者がいて、月給18万円です。

尚アウトソーシングの金額は、従業員1名につき1,200円/月とします。すると単純計算で以下の比較ができます。

-管理職の給与計算業務コスト:約63,333円(月給38万円÷給与計算時間6時間)
-アウトソーシング月額費用:60,000円

以上のように、管理職の給与計算月額コストとアウトソーシング月額費用を比較すると、アウトソーシングした方が安く済む場合があります。尚、この事例では専任の給与計算担当者もいますので、その人の月給を考えると、更にコストメリットを見込むことができます。 

まとめ

「働き方改革は管理職の残業を変えるのか?」というタイトルの問いに対しては、「管理職の業務負荷が大きくなることで残業が増える」と言えます。

それには企業はどうしたら良いのか。法改正により管理職の労働時間の把握が義務化されたこと、そして企業にできる対策を見てきた中で、管理職の業務量を抑制し、管理職にマネジメントやリーダーシップをしっかりやってもらう仕組みと運用をすることが企業には求められています。

川本 凜
著者情報川本 凜

ブイキューブのマーケティング本部で広告運用を担当しています。

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