【導入企業急増中】フレックスタイム制とは?押さえておきたい基礎知識と導入までの2STEPを解説!
国や企業が働き方改革に力を入れる中、働く時間を自由に決められる「フレックスタイム制」という言葉を聞いたことのある人も多いのではないでしょうか?育児や介護と並行して働くなど、人々の働き方は多様化しており、時間に縛られない働き方のニーズが年々高まっています。
また働き方改革に加え、新型コロナウイルスの影響で柔軟な働き方が求められていることもあり、テレワークとともにフレックスタイム制の導入を検討する企業が急増しています。
本記事ではそんなフレックスタイム制の基礎知識から導入プロセスまで、制度導入に必要な一連の情報をご紹介します。
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押さえておきたい!フレックスタイム制の基礎知識
フレックスタイム制とは、一定の期間にあらかじめ決めた総労働時間の中であれば、労働者が自由に出退勤時刻や一日の労働時間を決められる制度のことです。始業・終業時間を調整できるため、社員一人ひとりのスケジュールに合わせた柔軟な働き方ができることが特徴です。
一方で、固定的な勤務時間が決まっていない分、労働時間の考え方や残業代の計算方法は一般的な固定時間制より複雑になっています。またコアタイムを設定することで業務の効率化を行うなど、フレックスタイム制ならではの仕組みもあります。
まずはそんなフレックスタイム制の基本情報をチェックしてみましょう!
1-1. 労働時間の考え方
フレックスタイム制を導入した場合、労働者が自分で始業終業時間を決められます。あらかじめ就業規則などで上限を3ヶ月とする「一定期間(清算期間)」と「清算期間における総労働時間」を定め、その基準に沿って社員は日々の労働時間や始業終業時間を決めていきます。清算期間に労働すべき総時間の範囲であれば、1日8時間・週40時間という法定労働時間を超えても、ただちに時間外労働になることはありません。反対に、1日の標準労働時間を満たさなくても欠勤にはなりません。
例を見てみましょう。
この企業では「清算期間を1週間」「清算期間における総労働時間を40時間」と定めているとします。月曜日は8時間、火曜日は5時間と毎日働く時間はバラバラですが、1週間の総労働時間は40時間と契約時間内に収まっています。この場合、10時間働いた水曜日に残業代を払う必要はなく、また5時間しか働かなかった火曜日も欠勤にはなりません。
次に一日の内訳を見ていきましょう。
1-2. コアタイムとフレキシブルタイム
参照 厚生労働省「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」
一般的にフレックスタイム制を導入する際には、「コアタイム」と「フレキシブルタイム」を設定した上で運用する場合が多くあります。
コアタイム:一日の中で必ず出勤しなければいけない時間帯のこと
社員が自由に出退勤時間を決めるフレックスタイム制では、会議やチーム作業が進めにくいという問題が起きがちです。そんな問題を防ぐためにも、社員全員が出勤するコアタイムを設定している企業が多くあります。ただしコアタイムは設定が義務付けられているものではありません。コアタイムを設けない「スーパープレックスタイム制」という制度を採用すれば、より柔軟な働き方を促進することもできます。
フレキシブルタイム:社員が出退勤を自由に決めることができる時間帯のこと
フレキシブルタイムでは出勤の時間が社員に任されているため、自分の予定に合わせて出退勤をすることができます。例えば、子供を幼稚園に送ってから遅めに出勤することもできれば、満員電車を避けるために朝一で出社することも可能です。
1-2-1. コアタイム設定時の注意点
①設定時間帯
コアタイムの時間は午前11時~午後16時の間で設定することがおすすめです。朝早くに出勤して早めに退勤したい社員もいれば、遅めに出勤し夜まで仕事をしたい社員もいます。コアタイムを設定する時には、両者の希望に添える時間帯を選びましょう。
②長さ
コアタイムが長すぎると社員たちが自由に出退勤時間を選べなくなってしまいます。コアタイムは3~5時間を目安に設定し、その時間内で会議やチーム作業を行うフローを立てましょう。
③労使協定の締結
フレックスタイム制におけるコアタイムの設定は任意ですが、設定する際には開始時間・終了時間を協定で定める必要があります。その際、コアタイムの時間帯を曜日ごとに変更したり、設定しない日をつくることも可能です。
1-3. 残業代の計算方法
一般的に固定時間制とは異なり、フレックスタイム制では1日の労働時間が8時間を超えてもただちに残業扱いにはなりません。しかし、フレックスだからといって残業代が出ないのではありません。フレックスタイム制を導入する際には企業側も社員側も残業代の計算方法をしっかりと理解し、労働時間の過剰超過や残業代の未払いを防ぐようにしましょう。
まずフレックスタイム制度の残業代について理解するには、残業代は2種類あるということを押さえることが大切です。
前提として労働基準法第32条に規定されている法定労働時間を知っておく必要があります。1ヶ月の法定労働時間は月の日数により定められており、これを基準に残業代を区別します。
月の日数 |
法定労働時間 |
31日 |
177.1時間 |
30日 |
171.4時間 |
29日 |
165.7時間 |
28日 |
160.0時間 |
フレックスタイム制度において、会社と就業規則などで契約した所定労働時間を超えて残業した場合、それが法定労働時間内の残業か、法定労働時間を超えた残業かによって残業は2種類に分類されます。
法定労働時間内残業(法内残業) |
会社と協定を結んだ1ヶ月の総所定労働時間を超えているが、法定労働時間内の残業。 割増率の適用なし。 |
法定労働時間外残業(法外残業) |
総所定労働時間を超えた残業のうち、法定労働時間以上の残業。 割増率(1.25倍)の適応あり。 |
1-3-1.実際に残業代を計算してみよう
V社で働くAさんはフレックス制度を利用した働き方をしています。会社との就業規則で定められた清算期間1ヶ月の所定労働時間は160時間です。しかし、繁忙期である9月は残業が多くなってしまい、1ヶ月の実労働時間は200時間になってしましました。
9月は月の日数が30日のため法定労働時間は171.4時間となります。
A子さんの時給が1500円場合、残業代の計算方法は
法内残業時間:法定労働時間(171.4時間)ー所定労働時間(160時間)=11.4時間
残業代:1500円×11.4時間=17,100円
法外残業時間:実労働時間(200時間)ー法定労働時間(171.4時間)=28.6時間
残業代:1500円×1.25(割増率)×28.6時間=53,625円
この2つを合わせた70,725円がA子さんの残業代となります。
導入前に要チェック!フレックスタイム制のメリット・デメリット
フレックスタイム制は始業終業時刻を社員に任せることで、社員一人ひとりが生活スタイルに合わせた働き方ができることが魅力です。しかし、働き方が多様になるからこそ起きる問題やデメリットもあります。この章ではそんなフレックスタイム制のメリットやデメリットを従業員側・企業側から考察したのち、リスクを減らす運用ポイントについてご紹介します。
2-1.従業員から見たメリット・デメリット
メリット |
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デメリット |
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フレックスタイムで働くことは社員にとって大きなメリットになります。子供がいる社員であれば、朝幼稚園に子供を送ってから出勤することもできるため、結婚や出産後も長く仕事を続けられます。また通勤ラッシュを避けるなど、自分のコンディションを高める働き方ができれば、仕事効率も一段と向上するでしょう。しかし、フレックスでは時間管理の意識を醸成すること求められるため、自己管理を徹底する必要があります。
2-2.企業から見たメリット・デメリット
メリット |
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デメリット |
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多様な働き方を尊重することは企業のイメージアップになり、優秀な人材の獲得や社員の定着に繋がります。一方で、制度を正しく運用できなければ様々なトラブルが起きることも事実です。ここからは、そんな起こりうるデメリットに対する運営ポイントを紹介したいと思います。
2-3.フレックスの運用ポイント
①月初から当日までの実質的な残業時間を把握できるようにする。
→固定勤務(定時を過ぎる=残業する)がフレックスタイムになると月間の労働時間の精算で残業時間が決まるため、特に月の前半は毎日夜遅くまで労働していても残業が発生しません。この考え方を従業員が理解していないと、月の後半になると突然残業時間が発生して「え、今月こんなに残業多かったの!?」という事態になりなりかねません。これを防ぐためにも、勤怠管理においては月初から残業時間の見える化が重要になります。勤怠ソフトを用いるなどして、本人も管理する側の上司も常に残業時間を把握することで、労働時間の過剰超過を防ぐことができます。
②マネジメントは「時間ではなく業務内容で指示」を出す。
→フレックスタイムでは従業員の自由な働き方を尊重しているため、「今日の◯時までに仕事を終わらせろ」「朝一の朝礼に参加しなさい」などの時間を指定した業務指示は難しくなります。そんな時に大切になる考え方は「時間ではなく業務内容で指示すること」です。「取引先との会議が朝一にあるから早めに出勤してくれないか」「明後日のプレゼンで使う資料作成を頼む」など遂行しなければいけない業務内容を伝えた上で、部下の理解を得ることが大切です。従業員もタスクさえ終えれば早めに退社できるので、フレックスの妨げにもなりません。あくまで任意・お願いベースにはなりますが、上司も部下も仕事の効率性と働き方のバランスを考えながら、お互いの納得点を見つけることが重要です。
③フレックスタイム制の正しい知識を浸透させる。
→フレックスを効果的に運用するためには、経営層や人事だけでなく社員一人ひとりが正しい知識を付け、自己管理を行うことが大切になります。まずは導入をする際に、人事が法的機関や有識者から運営方法について学び、それを研修などを通して全社員に浸透させていきます。外部の講師を招いて研修を行ったり、新入社員にはメンターやOJTを活用して働き方をチェックするなどの方法も有効です。これを徹底することで、「制度としてあるが運用まで至らない」「支障をきたす使い方をされる」などといったデメリットのリスクも軽減させることができます。
導入に向けての2STEP!~知っておくべき法制度~
では実際に導入するためには、何から始めればいいのでしょうか?
必要になる手続きは次の2点です。
ー就業規則への規定
ー労使協定への記載
STEP1:就業規則への規定
フレックスタイム制を導入する際には、始業終業時間を従業員の決定に委ねる旨を就業規則等に記載しなければいけません。この時注意しなければいけないのは、始業時間のみ又は終業時間のみを自己決定に任せることは出来ず、必ず両方を記載する必要がある点です。
参照 厚生労働省「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」
STEP2:労使協定への記載
フレックスタイム制を導入するためには、労使協定の締結が必要になります。基本的には届出は不要ですが、清算期間が1ヶ月を超える場合には所轄の労働基準監督署長に届け出る必要があります。
労使協定で定めるべき事項は以下の6つです。
①対象となる労働者の範囲
- 対象となる労働者は各人ごと、課ごと、グループごとなど範囲の幅に制限はありません。
- 事前に労使と十分に話し合った上で、フレックスタイム制の適用範囲を明確に記載してください。
②清算期間
- 2019年4月の労働基準法改定により、フレックスタイムの清算期間は上限1ヶ月から上限3ヶ月に延長されました。繁閑差の実態を受けての法改定でしたが、清算期間が1ヶ月を超える場合には労働基準監督署長に届け出なければいけないので注意が必要です。
③清算期間における総労働時間(清算期間における所定労働時間)
- 清算期間における総労働時間とは、労働契約上、従業員が清算期間内に働かなければならない労働時間の合計を指します。
- 総労働時間を定める際には、下記のように総労働時間が法定労働時間の総枠の範囲内になるようにしなければいけません。
清算期間における総労働時間(清算期間の暦日数7日)1週間の法定労働時間(40時間) |
《例:9月の場合》
清算期間における総労働時間(30日7日)40時間 = 171.4時間 |
④標準となる1日の労働時間
- 標準労働時間は清算期間における総労働時間を、期間中の所定労働日数で割った時間を基準にします。
- フレックスタイム制を使っている従業員が年次有給休暇を取得する場合には、この標準となる1日の労働時間を労働したものとして扱います。
⑤コアタイム(※任意)
- コアタイムの制定は任意ですが、制定する場合には開始時刻と終了時刻を労使協定で定める必要があります。
- コアタイムは曜日ごとに時間を変えたり、設定しない日を設けることも可能です。
⑥フレキシブルタイム(※任意)
- フレキシブルタイムも必ず設けなければならないものではありませんが、これを設ける場合には、その時間帯の開始・終了の時刻を協定で定める必要があります。
フレックスタイム制についてよくある質問
Q1:完全週休2日で残業なく働いても、曜日の巡りによって清算期間における総労働時間が法定労働時間の総枠を超えてしまう場合は残業扱いになりますか?
A:2019年4月の労働基準法改正により、労使協定を締結すれば、法定労働時間の限度を「清算期間内の所定労働日数×8時間」とすることが可能になりました。この改正により、月の暦日数による予想外の法定時間外労働は割増賃金の対象からは除外されました。
例)A社ではフレックスタイム制で完全週休2日を採用しているとする。
日 |
月 |
火 |
水 |
木 |
金 |
土 |
1 |
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3 |
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5 |
6 |
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9 |
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28 |
29 |
30 |
31 |
1日の標準労働時間が8時間の場合、上記のカレンダーの月では
所定労働時間=8時間(1日の標準労働時間)× 23日 = 184時間法定労働時間=177.1時間(月の日数が31日の場合)
となってしまい、残業なく働いたにも関わらず、6.9時間が法定時間外労働となっていました。
しかし法改正により、週の所定労働日数が5日(完全週休2日)の労働者であれば、労使協定を締結することによって、「清算期間内の所定労働日数×8時間」を労働時間の限度とすることが可能になりました。
つまり、上記のカレンダーでは
8時間 × 23日(清算期間内の所定労働日数)= 184時間となり
法定労働時間の総枠は184時間となるので、この範囲であれば177.1時間を超えても割増賃金の対象にはなりません。
Q2:清算期間内で実際に労働した時間が所定労働時間に満たなかった場合は、どのように清算すればいいですか?
A:清算期間内の実労働時間が所定労働時間に満たなかった場合の清算方法は2つあります。
参照 厚生労働省「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」
①不足した時間分を賃金から控除する。
②翌月の所定労働時間に加算する。
②の不足時間を繰り越す場合には、会社は労働時間が不足している月の賃金を満額を支払った上で、翌月に不足分を労働させることができます。その際、加算後の労働時間(所定労働時間+繰り越し時間)が法定労働時間内になるように注意しなければいけません。
Q3:フレックスタイム制のもとで年次有給休暇を取得した場合、どのように取り扱えばいいですか?
A:フレックスタイム制を使っている従業員が年次有給休暇を取得する場合には、標準となる1日の労働時間を労働したものとして扱います。標準労働時間は清算期間における総労働時間を、期間中の所定労働日数で割った時間を基準にします。