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2019年4月に経団連の中西宏明会長が、同年5月にトヨタ自動車の豊田章男社長が、それぞれ終身雇用について言及したことが話題になりました。

 

中西氏は「経済界は終身雇用なんてもう守れないと思っている」、豊田氏は「雇用を続けていく企業に取ってインセンティブがもう少し出てこないと、終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきたと思う」と発言し、終身雇用には限界が来ていることを示しました。

 

本記事では、終身雇用の崩壊が予想されていることを踏まえて、企業が取るべき道筋について紹介したいと思います。

終身雇用が守れなくなった背景

終身雇用が崩壊していく背景には、グローバル社会での激しい価格競争があります。国や企業間競争が激しくなっていく中で、企業は日本的雇用と向き合う必要が出てきました。

 

2010年には既に研究結果が発表されていた

2010年に、内閣府経済社会総合研究所が、年功賃金と終身雇用を企業が維持することが困難になったと実証的な研究結果を報告しています。

 

これは新卒で採用され企業に勤め続けた男性正社員の給与がバブル崩壊する前の1989年からの20年間でどのように変化したかを調査したものです。

 

新入社員の給与を1とし、各年齢で給与を多い順に並べることで真ん中に当たる人の賃金が何倍になったかを比較したところ、大卒の大企業正社員の場合、約20年前には全産業で年齢を重ねていくほど給与が右肩上がりになる賃金カーブということがわかりました。約10年前にはカーブの傾きが緩やかになったのですが、年功序列賃金は維持されていました。

 

ところが2007年~2008年には調査対象の7割を占めた非製造業である小売り、サービス、金融業などで、40歳を過ぎてから賃金カーブが緩やかになり、その後の給与はほとんど上がっていません。

 

同じ企業で長く働き続ける正社員の割合に関しても、年代別に過去20年間にわたり調査した結果、中高年層は50%前後で大きな変化はありませんが、25~34歳は、1989年の60%が2008年には44%という数字まで下がっています。

 

これらの調査結果から、年功序列や終身雇用が崩壊しつつあることが実感できるのではないでしょうか。

 

大企業のリストラ、早期退職者募集も増加

終身雇用が崩壊する原因のひとつとして、企業にとって人件費が「削減すべき」大きなコストとして捉えられていることが挙げられます。人口が多い団塊ジュニアの世代が中高年期になることで、年功賃金では人件費が高騰し、企業の負担に直結してきているのです。

 

2019年、希望・早期退職者を募る上場企業の数は5月時点ですでに前年の12社を超えています。富士通や東芝、産経新聞社、コカ・コーラボトラーズジャパンホールディングスなど16社に上っているのです。

 

今までは、給与が年齢に応じて上がり、かつ定年まで在籍できるのが日本社会の特徴であり、大きな利点と捉えられていました。ところがこのような構造の場合、高度経済成長期のようなピラミッド型の人口構成なら問題ないのですが、上が厚く下が細い、いわゆる逆ピラミッド型の人口構成では体制維持に限界が生じるのです。

高まる人材の流動性

リクルートワークス研究所による全国就業実態パネル調査2019の307ページのデータを見てみると、「これまで一度も退職したことがない」と回答したのは雇用者全体の31.8%で、正規雇用の男性は48.1%、女性は38.0%でした。非正規雇用では男性が15.2%、女性が10.9%となっています。

 

雇用者全体で見た退職回数は、1回が17.9%、2回が14.7%、3回が12.1%、4回が6.5%、5回が5.8%、6~10回が7.1%、11回以上が1.9%となり、既に終身雇用の流れが衰退していることがわかります。

 

中小企業の課題は人材確保

別のデータとして、東京商工リサーチが調査した2018年の人手不足関連倒産の件数を挙げてみましょう。件数としては387件で、前年比22.0%増、前年の317件から大幅に増加しました。これは2013年の調査開始以来の最多記録の数字となります。

 

内訳は、後継者難型が278件で、前年比11.6%増加。求人難型が59件で、前年比68.5%増加。従業員退職型が24件で、前年比33.3%増加。人件費高騰型が26件で、前年比73.3%増加という内容でした。

 

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出典:東京商工リサーチ

 

構成比では全体の7割を後継者難が占めてはいるのですが、求人難や人件費高騰も増加しています。つまり、人材不足による人材の流動性が高くなっている一方で、中小企業は人材確保が大きな課題になっていることがわかります。

 

日本政府は深刻な人手不足による解決策の一つとして外国人労働者の受け入れ緩和を狙い、出入国管理法を改正しました。ところが、新制度導入は今年4月以降で、当面の間は人手不足に対する早急な解消は難しい状況です。人手不足関連倒産は今後も増加すると言われています。

中小企業が人材を確保するための3つのステップ

では、中小企業はどのように人材を確保していけば良いのでしょうか。中小企業庁が作成した、中小企業・小規模事業者人手不足対応ガイドラインを参考に、好事例のポイントを紹介しましょう。

 

ステップ1:経営課題や業務を見つめ直す

経営課題や業務を見直すには、今までの固定観念を払拭することが大事です。

 

業務内容を洗い出して、軽作業と重作業に分けたり、フルタイム勤務を短時間に切り分けるなどして、業務を細分化します。勤務体制や業務自体を分担・細分化することで、求人数は増加しますが人材を獲得する可能性も広がります。

 

一つ事例をご紹介しましょう。長時間働く若い人の応募がない状況を危惧したある企業ですが、この状況を改善するために、重量物を扱う作業と軽作業を分別することで、他社と比較し負担が軽い内容の募集要項を出すことができました。

 

こちらの企業は、業務内容を細分化していくことで、短時間勤務者でも可能な業務内容に修正し、紙で作業を指示する仕組みを導入して誰でもできるようにしました。女性活用や高齢者雇用により多数の応募が来ることで、地元の評判もよくなり、受注の増加につながっています。

 

男性社員はビル清掃、女性社員はハウスクリーニングと性別で業務を分けていた企業の事例もご紹介します。男性は人手不足と残業過多、一方で女性は仕事がないというアンバランスな状況であることが判明したこの会社は、従業員に徹底的にヒアリングを行いました。その結果、実は男性女性で業務を分ける必要ないことが判ったのです。女性を育成することで、男性、女性関係なくチームで対応して、さらに女性目線を加えていくことで、仕上りの向上につながり受注の増加につながっています。

 

ステップ2:業務の生産性や求人像を見つめ直す

段取り変更などのソフト的なアプローチと、IoTの活用による省力化のハード的なアプローチの両方により、業務に対する生産性を見つめ直すことも重要です。ムリ・ムダ・ムラをなくして生産性を向上すれば、副次的に人材の確保につながります。

 

ある精密機械製造業では、多品種小ロット生産で利益があがる体制の構築が課題となっていました。そこで、広く明るい空間で仕事ができるよう社屋を改修し、マシニングセンターなどの設備を導入。さらに職人のノウハウをデータベース化し、加工技術の標準化に成功しました。ルーチンワークは機械化し、従業員は知的労働に従事できるようになったため、開発力や生産性が向上したとのことです。

 

また、業務の見直しと合わせて求人像の幅を拡げることも有用です。とある建設業では3Kのイメージで若手採用に苦戦し、ベテランの高齢化もあって技術継承に課題を抱えていました。しかし求人像を見つめ直し、性別・国籍・年齢・経験の有無にかかわらず人材を採用。作業工程を切り分け、経験の有無によらない人材育成システムを確立しました。

 

さらに事業所内託児所の整備や短時間勤務制度を導入し、若手女性が付加価値の高い塗装を実施できるようになり、販路拡大につなげています。

 

ステップ3:働き手の目線に立って、職場環境を見つめ直す

働き手の制約や志向を考え、職場環境づくりをすることが大切です。

 

例えば女性は育児との両立を重視しており、勤務体系の柔軟性を重要視するため、短時間勤務やフレックスタイム、テレワークなど時間に時間に柔軟な勤務・休暇・配置を行うと良いでしょう。

 

また、高齢者は健康や生きがいを重視しており、身体負荷への配慮や無理のないシフト、繰り返しの指示などが重要です。外国人は能力、成果主義、ジョブの明確化を志向しており、人事制度の明確な説明、上司や先輩との交流がポイントになるでしょう。

 

東京都の輸入商社では、復職女性や外国人、障害者などを積極的に採用し、誰でも70才まで働ける雇用制度や短時間勤務制度、在宅勤務制度を導入しました。さらに1つの業務を2人で担当する「ダブルアサイン」制度や、英語力、対人・態度能力で月額の手当を払う仕組みも実施。意欲の向上につながり、60才定年者全員が再雇用されたうえ、10年以上離職率ゼロ、23年連続の黒字となっています。

まとめ

これからの日本は、少子高齢化、生産年齢人口の減少も進む中で、人材獲得競争がさらに激化することはもはや避けようがありません。賃金は求職者にとって就業先の決定に大きく関わる要素ではありますが、多様な働き方ができる環境など、賃金以外にもアピールできるポイントは多く存在します。人材確保の観点からも働き方改革を進めるべく、まずは短時間勤務やフレックスタイム、テレワークなどを行うためにITツールの導入による職場環境の改善から始めてみてはいかがでしょうか。