終身雇用制度とは?歴史的背景や企業が取るべき対策を解説
「終身雇用制度が崩壊」「年功序列の終焉」
近年、新聞、テレビ、インターネットなどの雇用に関する話題において、これらのフレーズを目にしない日はほぼないと言っていいでしょう。
2019年5月、トヨタ自動車の豊田章男社長が「終身雇用の維持は難しい」と発言した記憶も新しいです。終身雇用制の代名詞とも言える大企業トヨタ社がそのように発言したインパクトは、日本中のビジネスマンの胸中に少なからず動揺をもたらしたのではないでしょうか。
ところで「終身雇用制度」とは何なのか。改めて問い直されてみると、ぼんやりとしたイメージはあるが言語化するのが難しいという人もいるかと思います。しかし、いまの世の中の大きな流れを掴むためにも、終身雇用制の概要を理解しておくことは有意義でしょう。
本記事では、「終身雇用制」の基本的な意味や社会的背景、いま企業がとるべき対策などについてご紹介します。
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終身雇用制度とは
まずは終身雇用の概要について見ていきましょう。
定義と語源
そもそも終身雇用制度とは何でしょうか。
Wikipediaによれば、「終身雇用(しゅうしんこよう)は、同一企業で業績悪化による企業倒産が発生しないかぎり定年まで雇用され続けるという、日本の正社員雇用においての慣行である。」と記されています。
つまり、定年退職になるまで一つの企業に何十年も勤め続けることを指します。
ちなみに「終身雇用」という言葉の語源は、1958年にジェイムズ・アベグレンによって書かれた著書の中で、日本の雇用慣行を「lifetime commitment」と名付けたことが始まりであるとされています。日本語訳版では「終身の関係」と訳され、そこから終身雇用という名称が広まったと考えられています。
制度の歴史
一般企業において、現在のような長期雇用慣行の原型がつくられたのは、大正末期から昭和初期にかけてだとされています。
1900年代から1910年代にかけて熟練工の転職率は極めて高く、より良い待遇を求めて職場を転々としており、当時の熟練工の5年以上の勤続者は1割程度でした。また同時に企業にとって熟練工の短期転職は、大変なコストでした。
その対応策として大企業や官営工場は、定期昇給制度や退職金制度を導入し、年功序列を重視する雇用制度をつくり上げました。
しかし、日本における終身雇用の慣行は、第二次世界大戦による労働力不足による短期工の賃金の上昇と、敗戦後の占領行政による社会制度の改革により、一旦は衰退します。
その後第二次世界大戦が終戦し、1950年代から60年代にかけて高度経済成長時代となり、多くの企業は労働力不足に悩まされました。そして大企業による施策により、労働者を長期的に雇用する方針や慣習が一般的となりました。
「終身雇用」に対する一般的なイメージはこの頃に形成されました。
終身雇用制度の崩壊
1950年代から本格的に企業経営における雇用の礎となった終身雇用制度ですが、近年、少子化や日本経済停滞などにより、多くの日本企業は年功賃金や終身雇用といった制度を維持するのが難しくなってきたという声があがっています。
一つの会社にずっといるべきではない、という論調が高まる一方で、日本の転職率は欧米の半分以下であり、未だに長期雇用の慣習が根強く残っているという点も特徴的です。
同一企業で働く人は年々減少傾向
2010年に、内閣府経済社会総合研究所が、「年功賃金と終身雇用を企業が維持することが困難になった」と実証的な研究結果を報告しています。
これは新卒で採用され企業に勤め続けた男性正社員の給与が、バブル崩壊以前の1989年から2009年までの20年間で、どのように変化したのかを調査したものです。
新入社員の給与を1とし、各年齢で給与を多い順に並べることで真ん中に当たる人の賃金が何倍になったかを比較したところ、20年前における大卒の大企業正社員の場合、全産業で年齢を重ねていくほど給与が右肩上がりになる賃金カーブということがわかりました。約10年前にはカーブの傾きが緩やかになったのですが、年功序列賃金は維持されていました。
ところが2007年~2008年には調査対象の7割を占めた非製造業である小売り、サービス、金融業などで、40歳を過ぎてから賃金カーブが緩やかになり、その後の給与はほとんど上がっていません。
同じ企業で長く働き続ける正社員の割合に関しても、年代別に過去20年間にわたり調査した結果、中高年層は50%前後で大きな変化はありませんが、25~34歳は、1989年の60%が2008年には44%という数字まで下がっています。
これらの調査結果から、年功序列や終身雇用が崩壊しつつあることが実感できるのではないでしょうか。
終身雇用制度を守れなくなった主な要因
日本企業が終身雇用制度を維持できなくなったのには、どのような社会的背景や要因があるのでしょうか。
高まる人件費コスト、早期退職制度も活発に
終身雇用が崩壊する原因のひとつとして、企業にとって人件費が「削減すべき」大きなコストとして捉えられていることが挙げられます。人口が多い団塊ジュニアの世代が中高年期になることで、年功賃金では人件費が高騰し、企業の負担に直結してきているのです。
希望・早期退職者を募る上場企業の数は27社。2019年5月時点ですでに前年の12社を超えています。富士通や東芝、産経新聞社、コカ・コーラボトラーズジャパンホールディングスなどが募集しています。
これまでは給与が年齢に応じて上がり、かつ定年まで在籍できるのが日本社会の特徴でした。そしてそれが大きな利点と捉えられていました。
ところがこのような構造の場合、高度経済成長期のようなピラミッド型の人口構成なら問題ないのですが、上が厚く下が細い、いわゆる逆ピラミッド型の人口構成では体制維持に限界が生じるのです。
高まる人材の流動性
リクルートワークス研究所による「全国就業実態パネル調査2019」の307ページのデータを見てみると、「これまで一度も退職したことがない」と回答したのは雇用者全体の31.8%で、正規雇用の男性は48.1%、女性は38.0%でした。非正規雇用では男性が15.2%、女性が10.9%となっています。
雇用者全体で見た退職回数は、1回が17.9%、2回が14.7%、3回が12.1%、4回が6.5%、5回が5.8%、6~10回が7.1%、11回以上が1.9%となり、これらのデータからも既に終身雇用の流れが衰退していることがわかります。
中小企業の課題は人材確保
別のデータとして、東京商工リサーチが調査した2018年の人手不足関連倒産の件数を挙げてみましょう。
件数としては387件で、前年比22.0%増、前年の317件から大幅に増加しました。これは2013年の調査開始以来の最多記録の数字となります。
内訳は、後継者難型が278件で、前年比11.6%増加。求人難型が59件で、前年比68.5%増加。従業員退職型が24件で、前年比33.3%増加。人件費高騰型が26件で、前年比73.3%増加という内容でした。
(画像引用元:東京商工リサーチ調べ「2018年度「人手不足」関連倒産」)
構成比では全体の7割を後継者難が占めてはいるのですが、求人難や人件費高騰も増加しています。つまり、人材不足による人材の流動性が高くなっている一方で、中小企業は人材確保が大きな課題になっていることがわかります。
日本政府は深刻な人手不足による解決策の一つとして外国人労働者の受け入れ緩和を狙い、出入国管理法を改正しました。ところが、新制度導入は2018年4月以降で、当面の間は人手不足に対する早急な解消は難しい状況です。人手不足関連倒産は今後も増加すると言われています。
中小企業が人材を確保するための3つのステップ
では、中小企業はどのように人材を確保していけば良いのでしょうか。中小企業庁が作成した、中小企業・小規模事業者人手不足対応ガイドラインを参考に、好事例のポイントを紹介しましょう。
ステップ1:経営課題や業務を見つめ直す
経営課題や業務を見直すには、今までの固定観念を払拭することが大事です。
業務内容を洗い出して、軽作業と重作業に分けたり、フルタイム勤務を短時間に切り分けるなどして、業務を細分化します。勤務体制や業務自体を分担・細分化することで、求人数は増加しますが人材を獲得する可能性も広がります。
事例①:業務内容細分化で応募者、受注共に増加
一つ事例をご紹介しましょう。長時間働く若い人の応募がない状況を危惧したある企業ですが、この状況を改善するために、重量物を扱う作業と軽作業を分別することで、他社と比較し負担が軽い内容の募集要項を出すことができました。
こちらの企業は、業務内容を細分化していくことで、短時間勤務者でも可能な業務内容に修正し、紙で作業を指示する仕組みを導入して誰でもできるようにしました。女性活用や高齢者雇用により多数の応募が来ることで、地元の評判もよくなり、受注の増加につながっています。
男性社員はビル清掃、女性社員はハウスクリーニングと性別で業務を分けていた企業の事例もご紹介します。男性は人手不足と残業過多、一方で女性は仕事がないというアンバランスな状況であることが判明したこの会社は、従業員に徹底的にヒアリングを行いました。その結果、実は男性女性で業務を分ける必要ないことが判ったのです。女性を育成することで、男性、女性関係なくチームで対応して、さらに女性目線を加えていくことで、仕上りの向上につながり受注の増加につながっています。
業務効率化はどのように行えばいいのか?
上段落で挙げた事例から、業務を効率化させることができればさらなる売上の増加が見込めることは理解いただけたかと思います。そこで以下では、業務細分化以外に具体的にどのような施策を取り入れれば効率化が見込めるのかを解説していきます。
①社内だけでなく顧客を巻き込んだ業務効率化
突拍子もないアイデアのように思えるかもしれませんが、自社のみならず顧客側にも目を向けることで今まで見つけられなかった無駄が見つかり、業務を改善できるという面があります。
実際に港湾運送業を行うある会社では、「自社のコストが増加すれば顧客が負担するコストも増加する」という事実に気づき、改善策を講じました。例えば、顧客とやり取りする資料を自社で使っているものと同じにして内容理解・確認を容易にし、相互間できちんと認識を合わせられるようにする、といった施策です。
実際に、資料を同じにすることで理解がスムーズになり、業務効率化にも繋がっているようです。
②社内会議のための資料廃止や会議時間の上限設定
どの会社においても会議は業務に欠かせないものですが、その一方で「会議が無駄に長い」「生産的ではない」と感じる場面も少なくないのではないでしょうか。そんな課題から、ある会社では社内会議のための資料を廃止しました。
新しい資料を作成するのではなく現場で使っている工程表を用い、資料作成のコストや資源を削減するというものです。大幅な業務効率化を実現できたことはもちろん、副次的な効果として資料の質が上がったそうです。
また、ある会社では会議時間をあらかじめ会議内容に合った時間に設定。例えば15分・30分・60分・最長で90分と内容と時間設定を適切なものにすることによって、「時間内に会議を終わらせる」ことを社員が意識するようになり、事前に資料を読み込むなどして業務効率化に繋がったといいます。
成功事例を含め、さらに詳しく別記事「個人・部門別から考える組織的業務効率化のアイデアとは?」でこのテーマについて解説していますので、あわせてお読みください。
ステップ2:業務の生産性や求人像を見つめ直す
段取り変更などのソフト的なアプローチと、IoTの活用による省力化のハード的なアプローチの両方により、業務に対する生産性を見つめ直すことも重要です。ムリ・ムダ・ムラをなくして生産性を向上すれば、副次的に人材の確保につながります。
事例②:経験の有無によらない人材育成システムを確立
ある精密機械製造業では、多品種小ロット生産で利益があがる体制の構築が課題となっていました。そこで、広く明るい空間で仕事ができるよう社屋を改修し、マシニングセンターなどの設備を導入。さらに職人のノウハウをデータベース化し、加工技術の標準化に成功しました。ルーチンワークは機械化し、従業員は知的労働に従事できるようになったため、開発力や生産性が向上したとのことです。
また、業務の見直しと合わせて求人像の幅を拡げることも有用です。とある建設業では3Kのイメージで若手採用に苦戦し、ベテランの高齢化もあって技術継承に課題を抱えていました。しかし求人像を見つめ直し、性別・国籍・年齢・経験の有無にかかわらず人材を採用。作業工程を切り分け、経験の有無によらない人材育成システムを確立しました。
さらに事業所内託児所の整備や短時間勤務制度を導入し、若手女性が付加価値の高い塗装を実施できるようになり、販路拡大につなげています。
女性がさらに職場で活躍するためには?
上段落で示した事例では、事業所内託児所や短時間勤務制度など女性も活躍できる環境づくりが重視されています。しかし、働き方改革が推進されているとはいえ、女性は出産や育児などを理由として離職をしなければならないケースがまだ多いのも事実。それを少しでも解消するために、企業ができることは何でしょうか。
例えば「福利厚生の充実」は重要なポイントの1つですが、具体的にはどういった施策が必要か分からない方も少なくないはずです。そこで、正社員として働き続けるために女性が求めてきた福利厚生について紹介します。
エン・ジャパン株式会社が、正社員で働くことを希望する女性向け求人情報サイト「[en]ウィメンズワーク」上で、サイト利用者女性819名を対象に「福利厚生」についてアンケートを行った結果では、女性が「あるといい福利厚生」と思っている福利厚生の1位が「健康診断・人間ドック補助」です。
2位が「寮・社宅/住宅手当・家賃補助」、3位が「育児休暇・短時間勤務制度」という結果が出ています。ちなみに、なくてもいい福利厚生の第1位は「社員旅行」です。
そして、正社員への転職を希望する女性の28%が仕事探しに際し、福利厚生を「非常に重視する」、55%が「まあまあ重視する」と回答しています。理由には「働きやすさの目安になる」という回答もあり、女性にとって福利厚生が、企業の姿勢や企業体力を表す一つの指標であることをうかがわせます。
別記事「『女性が活躍できる職場づくり』に必要な福利厚生とは?」にてさらに詳しく解説していますので、あわせて参考にしてみてください。
ステップ3:働き手の目線に立って、職場環境を見つめ直す
働き手の生活上の事情や希望を考え、職場環境づくりをすることも大切です。
前段落でも触れたように、例えば女性は育児との両立を重視しており、勤務体系の柔軟性を重要視するため、短時間勤務やフレックスタイム、テレワークなど時間に柔軟な勤務・休暇・配置を行うと良いでしょう。
また、高齢者は健康や生きがいを重視しており、身体負荷への配慮や無理のないシフト、繰り返しの指示などが重要です。外国人は能力、成果主義、ジョブの明確化を志向しており、人事制度の明確な説明、上司や先輩との交流がポイントになるでしょう。
事例③:働き手に合った制度で10年以上離職ゼロ、23年連続黒字を達成
東京都の輸入商社では、復職女性や外国人、障害者などを積極的に採用し、誰でも70才まで働ける雇用制度や短時間勤務制度、在宅勤務制度を導入しました。さらに1つの業務を2人で担当する「ダブルアサイン」制度や、英語力、対人・態度能力で月額の手当を払う仕組みも実施。意欲の向上につながり、60才定年者全員が再雇用されたうえ、10年以上離職率ゼロ、23年連続の黒字となっています。
まとめ|働き手不足解消にはITツールの導入も効果あり
これからの日本は、少子高齢化、生産年齢人口の減少も進む中で、人材獲得競争がさらに激化することはもはや避けようがありません。今後、終身雇用制度や年功序列の賃金上昇は、期待できないでしょう。
また賃金は求職者にとって就業先の決定に大きく関わる要素ではありますが、多様な働き方ができる環境など、それ以外にもアピールできるポイントは多く存在します。
人材確保の観点からも働き方改革を進めるべく、まずは短時間勤務やフレックスタイム、テレワークなどを行うためにITツールの導入による職場環境の改善から始めてみてはいかがでしょうか。