女性活躍推進法案と照らし合わせて考える企業があるべき姿

2016年に女性活躍推進法が施行されてから約3年がたちます。2019年5月には改正案が可決され、対象企業の条件が従業員101人以上の企業までに拡大されました。女性活躍推進法案によって企業にはどのような義務が発生し、どのような取組が求められていくのでしょうか?

本記事では、企業が女性活躍推進に取り組む意義、実際に取組をすすめる際のステップについて解説します。

目次[ 非表示 ][ 表示 ]

女性活躍推進法案とは?

女性活躍推進法案とは、2016年に施行された「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律 」の略称です(本記事では以後、女性活躍推進法案と表記します)。

対象企業には、「一般事業主行動計画の策定・届出義務および自社の女性活躍に関する情報公表」の義務が発生します。

女性活躍推進No.1    女性活躍推進法に基づき実施すべき取組み

出典:厚生労働省

実施すべき取組の中にある「女性の活躍に関する情報公表」については、以下の2つの区分から各1項目以上を選び情報公表する義務があります。(2019改正後の詳細は省令にて改めて示されます)。

女性活躍推進No.2 情報公表項目のイメージ

出典:厚生労働省

2019年の法改正により、労働者101人以上の企業までが法案の対象になりました。これは、日本の相当数の企業が一斉に女性の活躍を後押ししていくということであり、国内の雇用環境の在り方に大きなインパクトを与えることが推測できます。

法案が可決された背景

なぜ、このようなある種強制的な法案が可決されたのでしょうか? 一つには、日本の社会において長い間にわたり、女性が就業、昇格、昇進の際に不利な立場におかれてきたという背景があります。

女性の社会進出は一見かなり進んだ印象がありますが、厚生労働省の2017年時点のデータでは女性の就業率こそ上昇しているものの、就業を希望しながらも働いていない女性(就業希望者)が約262万人もいます。また、第一子出産を機に女性が離職する割合は依然として高く、出産・育児後に再就職した場合、多くの女性が非正規社員として働いているのが実情です。

第一子出産を機に女性が離職する割合は依然として高く、出産・育児後に再就職した場合、多くの女性が非正規社員として働いているのが実情です。

女性活躍推進No.3    女性の年齢階級別就業形態

出典:厚生労働省

グラフを見るとわかるように、近年はM字カーブもかなりゆるやかになってきました。しかし、内訳を見れば30代以降の非正規率がかなり高くなっています。

近年の日本は、女性の高等教育機関への進学率、就労率ともに高い先進国です。しかしながら、高等教育を受けてビジネススキルを身につけた女性が、出産、子育てなどの事情により退職し、その後は非正規というポジションに置かれている現実があるのです。

昨今はあらゆる業界において、非正規社員が社員同等の仕事をまかされるようになっています。

これは、昔の女性のパート、アルバイト層と比較して現在の非正規社員のレベルが向上していることと無関係ではないと思われます。能力を活かしきれていない女性が多いことは長期的に見れば、企業や社会にとって損失だと言えるでしょう。

また、企業で勤め続けている女性も決して能力を存分に発揮しているとは言えません。諸外国と比べるといまだ女性管理職の比率は低く、右下のグラフを見ると一目瞭然ですが、欧米各国はもちろん東南アジア諸国よりも低い水準です。

女性活躍推進No.4 役職別管理職にしめる女性の割合(厚生労働省)

出典:厚生労働省

日本は、急速な生産年齢人口減少による人手不足が大きな課題になっています。

外国人、高齢者の活用、サラリーマンの副業解禁などとともに、女性活躍推進は日本の労働生産性を向上させるための対策の施策の一つだと言えますが、言葉の壁がなくスキルが高い就労希望者が多いという意味では、女性はもっともポテンシャルが高い層だと言えるでしょう。女性活躍推進法案の施行にはこのような背景があります。

自社は法案の適応対象?

2019年5月に女性活躍推進法案が改正され、法案の対象となる企業規模は、労働者301人以上の事業主から101人以上の事業主へと拡大されました。

今回、対象になった労働者101人以上の企業は施行日までに準備を進めておく必要があります。

対象企業の条件

  • 改正前:常時雇用する労働者が301人以上の事業主
  • 改正後:常時雇用する労働者が101人以上の事業主(施行:公布後3年以内の政令で定める日 ※公布日は令和元年6月5日)

なお、労働者とは正社員だけではなく契約社員、パート・アルバイトなども含まれます。一年以上勤務しているなど「事実上、期間の定めなく雇用されている労働者」という意味合いなので注意しましょう。

女性活躍をすすめるための4つのステップ

女性活躍推進法案の対象となった企業は、どのように取組をすすめていけばよいでしょうか? ここでは、女性活躍推進法案の対象企業に求められる4つのステップを解説します。

対象企業には、一般事業主行動計画の 策定・届出義務と自社の女性活躍に関する情報公表の義務があります。具体的には、以下の4段階のステップが義務づけられています。

状況把握と課題の分析

女性が活躍しやすい職場づくりの行動計画を立てるために行うべき最初のステップは、自社の女性活用の現状把握です。各部署の男女比はどのくらいか? 女性は仕事と家庭をスムーズに両立させているか? 女性の管理職比率はどのくらいか? 自社において女性が活躍するために何が解決すべき課題かなどを把握する必要があります。

法案では最低限、把握すべき「基礎項目」と「選択項目」が設定されています。

基礎項目

採用した労働者に占める女性労働者の割合
男女の平均継続勤務年数の差異
労働者の各月ごとの平均残業時間数等の労働時間の状況
管理職に占める女性労働者の割合

選択項目

採用
配置・育成・教育訓練
継続就業・働き方改革
評価・登用
職場風土・性別役割分担意識
再チャレンジ(多様なキャリアコース)
取組の結果を図るための指標

項目ごとの状況を把握したうえで自社の課題を分析し、課題ごとに対策を考えます。例えば、女性労働者が著しく少ない部門がある、女性の昇進が男性よりかなり遅れる傾向があるなどの課題に対しては、採用方針や教育体制の見直し、昇格基準の見直しをするなど適した対策を考えていきます。

行動計画の策定と社内外への公表

課題の分析と対策が終わったら、行動計画を策定します。以下の3項目の設定が必要です。

  • 計画期間 
    平成28年度から平成37年度までの10年間を、自社の実情に応じておおむね2年から5年間に区切って設定します。期間中は定期的に行動計画の進捗を検証し改定を行っていく必要があります。
  • 数値目標
    目標は1つ以上、数値で定める必要があります。課題分析の結果、最も大きな課題と考えられるものから優先的に数値目標を設定することが推奨されています。また、積極的に複数の課題に対応する数値目標を設定すると効果的とされています。以下が、数値目標の例です。

女性活躍推進No.5    数値目標の例

出典:厚生労働省

  • 取組内容および実施時期
    最も大きな課題として数値目標の設定を行ったものから、優先的に数値目標の達成に向けてどのような取組を行うべきかをまとめます。どのような取組をどの時期に行うかを経年で記載します。行動計画は、例えば以下のようにまとめます。

女性活躍推進No.6    女性の応募者が少なく、配置にも偏りがある会社行動計画策定例A

出典:厚生労働省 

社内外への公表
策定した行動計画を社内外に公表する必要もあります。社内通知の手法は以下のようにメールでも書類の掲示でも問題ありません。

女性活躍推進No.7 周知の方法

出典:厚生労働省

社外への公表の方法には、厚生労働省が運営する「女性の活躍推進企業データベース」への掲載や自社のホームページへの掲載などがあります。

労働局への届け出

行動計画を策定したあとは、管轄の都道府県労働局に届け出る必要があります。届出には、以下の事項の記載が必要です。

女性活躍推進No.8  労働局への届け出時必須記載項目

出典:厚生労働省

電子申請、郵送、持参とも可能です。電子申請システムはこちらからアクセス可能です。

実施と効果測定

行動計画にもとづいて実際に取組みを行った効果を測定する必要もあります。また、定期的に数値目標の達成状況や、一般事業主行動計画に基づく取組の実施状況を測定し、成果についても定期的に公表する義務があります。

なお、行動計画策定にあたっては厚生労働省ホームページ内の「行動計画策定支援ツール」を活用すると課題分析や取組内容決定がスムーズにできます。

「えるぼし認定」とそのメリットとは?

一般事業主行動計画を策定し届け出を行った事業主のうち、女性の活躍に関する取組の実施状況が優良な企業は、都道府県労働局への申請することにより、厚生労働大臣の「えるぼし認定」を受けることができます。

「えるぼし認定」とは?

えるぼし認定とは、女性活躍を推進しちえる事業主であるという認定です。付与されたえるぼしマークを活用することで、女性が活躍できる企業というイメージアップが期待できます。活躍に熱心な企業というイメージを広く社会に周知できます。企業のイメージアップにつながるでしょう。

付与されるマークは、取組みの実施状況に応じて三段階ごとに3段階の種類あります。2019年5月の推進法改正により「プラチナえるぼし(仮称)」が新たに創設され、認定された企業は行動計画の策定義務が免除されることも決定しています。

女性活躍推進No.9     えるぼしマーク3段階

出典:厚生労働省

えるぼし認定されると、認定マーク活用によるイメージ向上(商品、広告、名刺、求人票などにマークを使用可能)や公共調達に加点評価されるメリットがあります。以下は、内閣府が公表している資料になある調達時のえるぼし認定企業の配点例(イメージ)です。

女性活躍推進No.10    えるぼしマーク配点例

 出典:厚生労働省

認定の条件とは?

えるぼしに認定されるためには、5つの評価項目(採用、継続就業、労働時間等の働き方、管理職比率、多様なキャリアコース)の基準を満たす必要があります。満たしている項目の数によってえるぼし認定の段階、付与されるマークが異なります。

  • 1段階目:5つの基準のうち1つ又は2つの基準を満たし、その実績を厚生労働省のウェブサイトに毎年公表していること。
  • 2段階目:5つの基準のうち1つ又は2つの基準を満たし、その実績を厚生労働省のウェブサイトに毎年公表していること。
  • 3段階目:5つの基準の全てを満たし、その実績を厚生労働省のウェブサイトに毎年公表していること。

企業が整えるべき女性活躍のポイント

ここでは、企業が女性活躍を進める際に整えるべきポイントを解説します。

出産及び育児サポート

前述のM字カーブの図にあるように、多くの女性が出産・育児などを契機に退職し、その後非正規社員として働く傾向があります。まず、取り組まなければならないのは、この出産・育児の期間のサポートだと言えるでしょう。

継続して働きたい人が退職しないですむような体制を整えることが望ましいと言えます。

(施策例)

  • 産休、育休、有給も取りやすい職場風土の醸成
  • 短時間勤務制度の導入
  • テレワーク、在宅ワークの導入
  • サテライトオフィスの活用

短時間勤務制度や在宅ワークが可能になれば、仕事と家庭の両立の大きなネックである保育園の送り迎え問題の解決の一助にもなります。また、女性が育休や短時間制度などを実際に使えるかどうかは、職場の雰囲気に追うことが多いので、有給がとりやすいような職場の雰囲気を醸成していくことがポイントです。

女性だけに配慮するのではなく、現場に丸なげするかたちでもなく、社員全員のワークライフバランスを考慮して業務を合理化し、働きやすい環境を整えていくことが、結局女性活躍推進にもつながっていきます。

管理職にもダイバーシティを

仕事は本来、その仕事に適した能力・スキルを持つ人材にまかせることがベストです。ダイバーシティの観点から言えば、性別、国籍、障害のあるなしに関わらず能力本位で登用することが理想的です。

とはいえ、管理職には業務スキルや育成能力、社内での人望が必要なだけでなく、何かあった際に速やかに決断したり責任をとることが求められるため、これまでは週5日出社しフルタイムで働ける人材ででないとなかなか対応が難しかったのはたしかです。

ただ、近年はビジネスのデジタル化が進んでいます。先進的な企業では社内でフリーアドレス制を導入し、人が集まって働かなくても業務が推進できる体制を構築しています。技術が進歩しクラウドシステム上でさまざまな業務やマネジメントが可能になったからです。

フリーアドレスとまではいかなくとも、かなり時間や場所にとらわれない仕事の進め方が浸透してきています。もちろん、仕事をするうえで顔を合わせる価値が薄れることはありませんがオンライン会議、ビジネスチャットなどを活用すれば、毎日一緒にいなくてもコミュニケーション上の支障はほぼありません。

身体に多少障害があって定時の出勤が難しかったり、介護や育児で短時間勤務しかできない人材であっても、能力と適性があれば管理職として働ける時代です。管理職にもダイバーシティをすすめていくことが、女性管理職を増やす一つの対策になるでしょう。

女性のキャリアチェンジにも柔軟な対応を

女性のキャリアは結婚、出産、子育て、介護ほか周囲からの影響を受けます。若いころに描いていたキャリアプランをそのまますすむケースは男性より少なく、さまざまなライフイベントの局面において社会の状況も見極めながらキャリアデザインを調整していると言えるでしょう。

女性活躍推進をすすめるにあたっては企業の人事制度に複数のコースを設け、出産、育児、介護などに際したときにコース変更ができることや、一度退職しても復帰できるようにすることが望ましいかもしれません。これは評価項目の「多様なキャリアコース」に相当する部分です。

キャリアの選択肢が豊富な人事制度がある企業は、従業員にとっていわば「社内転職」しやすい組織です。子育て中の女性だけでなく、ほかの社員のリテンションにもつながる効果が期待できます。どのような人事コースが増えると望ましいか社員に対してアンケート調査を行うなど、人事制度の見直しを検討していく価値は十分あります。

女性活躍推進法案は、企業内での無意識的な差別待遇などを見直し、女性により活躍してもらうことが目的です。行動計画の策定から導入までのPDCAを回していくことはそれほど難しくないかもしれませんが、結果を公表する義務があるため、企業にとっては多少プレッシャーがかかる法案かもしれません。

しかし、女性は男性ほどは企業規模にこだわらないため、中堅企業・中小企業であっても勤務時間、昇進・昇格の基準、あるいは副業を容認するなど組織の在り方を見直すことができれば、「女性から見て働き甲斐のある企業」になることは十分可能です。

女性活躍推進法案にそった取組を進めることで、結果的に柔軟な人事制度の構築や運用、フラットな職場風土の醸成などを実現することも可能になっていくでしょう。

戸栗 頌平
著者情報戸栗 頌平

B2Bマーケティングを幅広く経験。外資系ソフトウェア企業の日本支社立ち上げを行い、創業期の全マーケティング活動を責任者として行う。現在東京在住。2019年はフィリピンに在住し日本企業のBtoB活動を遠隔支援、場所にとらわれない働き方を通じ、マーケティング支援の戦略立案から実行までの支援を行なっている。Facebookは こちら。Twitterは こちら。LinkedInは こちら。ウェブサイトは こちら

関連記事