4つの最新事例から読み解く、地方の人口減少を解決するための対策

近年、日本の人口減少は大きな社会問題となっています。

総務省統計局の「人口推計結果の要約(2018年)」によると、日本の人口は2008年をピークに、低下の一方をたどっています。

それに伴う少子高齢化、労働人口数の低下は、どの企業や自治体においても無視できない緊急課題と言えるでしょう。

特に人口減少によって大きな影響を受けているのが、地方です。東京をはじめとする都市部への移住による若手人材の不足、無居住地の増加など、さまざまな課題が生じています。

そんな人口減少に拍車がかかる中、既存のビジネスやコミュニティを運営し続けるには、どうしたら良いでしょうか。本記事では、地方創生に成功した自治体や近年の新しい取組事例など、人口減少についての課題と対策を紹介していきます。



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4つの指標で理解する日本の「今」、人口減少による労働力不足はどれだけ深刻なの?

「人口減少」「労働力不足」と言われても、具体的な深刻さを肌感覚で掴むのは、なかなか難しいかもしれません。

一体、いつ、どの地域で、どれだけの人材が不足し、企業にとってどのような問題が懸念されているのでしょうか。

日本における人口減少を企業課題として紐解くには、以下4つの指標で分析できると考えています。

  1. 人口数の遷移
  2. 少子高齢化による労働力不足
  3. 完全失業率
  4. 有効求人倍率

まずは、それぞれの具体的な数字と共に、人口減少の実態を多角的に掴んでみましょう。

①人口数の遷移

人口減少を測る最もシンプルな指標の一つが、日本における人口の推移です。

人口増減の要因のうち、転入・転出によるものは「社会増減率」、出生・ 死亡によるものは「自然増減率」で表わされます。

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(画像引用元:総務省統計局|人口推計結果の要約(2018年)

人口増減率を都道府県別にみると,47都道府県のうち、人口増加が見られたのは7都県にとどまっていることがわかりました(図左)。

人口が減少した 40 道府県においては、全て自然減少が原因となっており、反対に人口の自然増加が見られたのは沖縄県のみとなっています(図右)。

各地域を比較してみると、人口減少によって特に大きな影響を受けているのは、地方であるということがわかります。

自然増加率がマイナス、つまり同年における出生人数よりも死亡人数が勝ってしまっているだけでなく、一定人数が他県への移住をしていることも否めません。

結果、東京をはじめとする都市部への一極移住、それによる若手人材の不足無居住地の増加など、さまざまな課題が生じています。

それでは、東京都の人口は安泰なのでしょうか。――実は、必ずしもそうとも言い切れません。

全国人口の10%以上が居住しているとはいえ、自然増減率は以前マイナスであることから、地方からの移住者で人口を保っていると言っても過言ではありません。自然増減率のみで考えれば、人口はむしろ減少しているのです。

②少子高齢化による労働力不足

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(画像引用元:内閣府|令和元年版高齢社会白書

次に、「労働力」の切り口での人口変遷を見てみましょう。

労働意欲のある15〜64歳を労働人口と定義すると、その数は上の図(赤色部分)のように、年々縮小している傾向にあります。

近年、問題視されている「社会の高齢化」です。

実は、総人口の減少そのものよりも、高齢者の割合増加の方が、企業にとってより深刻な脅威になるとも考えられます。

社会の高齢化が進めば、労働力の欠如により、企業の生産性が下がります。また自ら収入を生み出せず年金などに生活を委ねる高齢者が増えると、モノやサービスの売れ行きが悪化し、経済循環が鈍化します。

そんな中でも企業は、利益を上げ続けなければなりません。そのためには、減り続ける労働人口に反して、一定の労働力を確保し続けることが不可欠なのです。

こうしたことから、近しい将来において優秀な人材確保に難航する可能性は、どの企業にとっても決して他人ごとでは済まされないでしょう。

③完全失業率

人口減少による人手不足を判断するさらなる基準が、完全失業率です。

完全失業率とは、労働力人口(15歳以上で労働意欲のある者)のうち、完全失業者(無職かつ求職活動中の者)が占める割合を指します。

総務省統計局による「労働力調査(2019年11月時点)」によると、2019年9月時点での完全失業率は2.4%と言われています。

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数値の増減のみ鑑みれば「雇用情勢は良好である」との判断もできますが、裏を返せば「生活のために働かざるを得ない従業員」と「人手不足に悩む企業」が増加しているとも考えられます。

ちなみに、先の「②少子高齢化による労働力不足」で取り上げた図では、2018年時点での日本の労働人口は7,575万人でした。単純計算すると、同年で約182万人が、失業状態にあるということです。わかりやすく比較するなら、三重県(約179万人)や福島県(約184万人)の人口とほぼ同じです。

④有効求人倍率

人手不足状態を調べる指標として最後に見ていただきたいのが、有効求人倍率です。 

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有効求人倍率とは、「企業からの求人数(有効求人数)➗求職者(有効求職者数)」で表されます。

「1」を中間値として、これより大きくなるほど「求人数が多く、働き手が不足している」状態、反対に小さくなるほど「求職者が多く、企業にとっては選り取り見取り」な状況になります。では、直近数年間の有効求人倍率を見てみましょう。

image_roudou_05(画像引用元:独立行政法人労働政策研究・研修機構

2010年から、倍率は8年連続して増加の傾向にあります。

2017年の有効求人倍率は「1.50倍」、翌年2018年には「1.60倍」です。

戦後から現在にかけての有効求人率変遷と照らし合わせてみても、1970年代の高度経済成長期以来の「求人数が多く、働き手が不足している」状態が見て取れます。

以上4つの指標から、人口減少に伴う一層深刻な人手不足は、もはや日本のどの地域・企業・コミュニティに属していても避けられない社会問題だと認めざるを得ないでしょう。

人口減少によって生じる日本の社会課題は労働力不足だけではない

急速な人口減少が、企業にとっての人手不足問題に関係していることは既に説明しました。

一方で、もし自社のPR戦略や人材確保が順調であるならば、日本の人口減少問題に直面したところで、そこまで脅威と捉える必要はないのかもしれません。

しかし、人口減少のもたらす影響を避けられないのには、もう一つ理由があります。

なぜなら中・長期的には、人口減少の影響は各企業の課題を超えた自治体レベルにも及んでしまうからです。

想定し得るのは、例えば以下のような課題です。

✔️地方経済の縮小による事業倒産
✔️社会の安心・安全を支える仕組みの維持が困難に
✔️無居住地点の増加

地方経済の縮小による事業倒産

労働力人口が減少の一途をたどれば、人手不足による倒産、あるいは後継者不足による廃業のリスクが高まります。

2019年1〜4月までの人手不足や後継者不足を原因とした倒産の累計は119件であり、過去最高の2018年を上回るペースで推移しています。好景気であっても事業の存続が難しい状況にすでになりつつあると言えます。

社会の安心・安全を支える仕組みの維持が困難に

2019年6月に大阪府の救命救急センターが医師の人件費を集めるためにクラウドファンディングを始めることがニュースになりました。人手不足は企業の末端労働者だけではなく、医師、看護師、自衛官など人の命を支える職種、災害時に人を救助する職種にも起きてきます。

また、若い人材が減少することで社会保障制度においての負担と受益のバランスが崩れます。高齢化により介護費用・医療費用が増大するにもかかわらず若者世代は少なくなるため、これまでの仕組みは維持することが難しくなると言えます。社会の安心、安全を支える仕組みがゆらいでしまうのです。

無居住地点の増加                                   

地方から首都圏への人材移動によってもたらされる課題もあります。

国土交通省は、2050年において、人口が2010年時点の半分以下になる地点が「現在の6割以上」と予測しました。また同時に、2割の地点が「無居住化」するとも指摘しています。

島国である日本の地方部の無居住地増加は、防衛や安全保障という観点からも大きな問題だと言えるでしょう。

人口増減割合

(画像引用元:国土交通省

日本における総人口減少と、それに伴う労働市場の人材不足。

今まで列挙した通り、これらが我が国に及ぼす負のスパイラルは計り知れません。

人口減少が予測できている今のうちから、自社でしっかりと人材確保対策を打っておかなければ、いつか「後悔先に立たず」状態に頭を抱えることになるでしょう。

しかし、日本全国で減少するばかりの人材を、どのようにして確保すれば良いのでしょうか。

人口減少対策にテレワーク制度を!企業や地方自治体における導入事例5選

人口減少に伴う労働人材不足の対策として、ぜひ考えていただきたい施策の一つが、「テレワーク」の導入です。

テレワークとは、「tele = 離れた所」と「work = 働く」をあわせた造語で、ICT(情報通信技術)を活用した場所や時間にとらわれない柔軟な働き方を指します。

特定の場所への出社・退社や、月に20日間の物理的拘束を伴わないワークスタイルのため、下記のような潜在的労働人材の採用に大いに貢献します。

✔️遠方に住んでいる人
✔️家事や介護などの理由で外出が困難な人
✔️車椅子使用などで物理的な移動が困難な人
✔️面と向かってのコミュニケーションを苦手とする人

関連記事紹介:テレワークとは?取り組みの背景と目的を分かりやすく解説

特に地方の人口を増加させるためには、出生率を上げる取組や地方へ人材が移住する流れを作ることも大事ですが、地方でも都心と遜色ないビジネスが行える環境を整えることが重要です。

以下に、人口増加に成功した自治体の例と取組の内容を紹介します。

①「神山の奇跡」と呼ばれるIT企業誘致と人口増【徳島県神山町】

自然豊かな環境でありながら町内全域に整備された高速ブロードバンド網、大手企業のサテライトオフィス開設や移住者の増加などで2011年に人口増となった徳島県神山町は、地方創生のモデルケースとして注目を浴びている自治体です。

しかし、神山町は当初からサテライトオフィス集積を目的としていたわけではなく、働きやすいビジネスの場を提供することと毎年芸術家を国内外から招くなど「質」を重視した地方創生の取組を行っていました。それが結果としてブランディングにつながり、移住希望者が増加します。

高速インターネット網など都心同様のビジネス環境があることから、人のつながりを介して一社のIT企業が神山町でサテライトオフィスを開設し、それがTVで紹介されたことがきっかけでほかのIT企業もサテライトオフィスを設けるという好循環が生まれ、自治体の予想を超えた成功につながったというまさに奇跡のような経緯があります。

参考:Impress クラウドWatch

②消滅可能性都市が人口増に【北海道厚真町】

2014年に日本創成会議より「消滅可能性」があると指摘された北海度厚真町は、自治体の努力により平成22年~平成27年までの社会増減率を2.85%と増加に転じさせることに成功しています。

新千歳国際空港から35分、羽田空港から飛行機と車で2時間5分という地の利を活かし「東京圏との日帰りも可能」というキャッチーなコピーで600区画整備した分譲地を約500区画販売することに成功。周辺自治体より2割近く安価な「子育て支援住宅」も建設し子育て世代の移住を促進したことなどが人口増の要因です。

現在は地震の影響により貸出を中止していますが、厚真町でテレワーク又はサテライトオフィスの開設、起業を検討している人を対象に、北海道らしい雰囲気の木造建造物に光回線やデスク、プリンターなどが整備されたオフィス部分と住居部分が一体となった「厚真町お試しサテライトオフィス専用施設」も設置しています。

参考:内閣府 移住・定住施策の好事例集(第1弾)

③産学官が共同で「遠野みらい創りカレッジ」を創設【岩手県遠野市】

岩手県の内陸部に位置する遠野市は、閉校になった旧中学校を改修して平成26年に「遠野みらい創りカレッジ」を開校。平成28年時点でカレッジ利用者数が5049名、平成22年から28年の起業件数は103件に増加。移住者も増え、平成22年から平成27年人口の社会増減率がプラスに転じています。

平成29年にはテレワークセンターも施設内に開設し、テレビ会議システムやWi-Fiを完備。地方での仕事や2拠点で仕事をしたい人などを支援する環境を整備しています。

参考:内閣府 移住・定住施策の好事例集(第1弾)

④データ解析産業誘致のためにICTオフィスビルを設立【福島県会津若松市】

会津若松市は2019年4月に、データ解析産業の集積を目的としたICTオフィスビル「AiCT」を完成。誘致する企業には市が収集したデータと実証する場を提供するため企業側にとっては実社会で実証実験を行えるメリットがあり、ビルの完成時点で大手外資系、国内大手企業17社の入居が決まっています。

データ産業を集積することで、農業、観光、医療・福祉などの地域のさまざまな課題を、ICTで解決し、地域にイノベ-ションを起こすことも期待されています。地方においても都会同様の事業環境を整備することで、成長産業分野の企業誘致に成功しています。

参考:日刊工業新聞

⑤テレワークで地方在住者の採用強化【株式会社リクルートオフィス サポート(東京都)】

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(画像引用元:リクルートオフィスサポート

リクルートグループの特例子会社であるリクルートオフィスサポートは、2016年より地方在住の障がい者の「在宅雇用」をスタートさせました。それから3年間で、在宅で業務にあたる従業員は68人に拡大しています(2019年5月31日時点)。

特徴的な取り組みとしては、朝会と夕会でビデオ通話によるコミュニケーションをとっている他、在宅のメンバーには朝会終了後に、「とても良い」「良い」「普通」「悪い」「とても悪い」の五段階に分けたその日の体調をポータルサイトに記載してもらうようにしています。

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その理由や状態も備考欄に記載できるようになっており、業務担当は必ずチームメンバーの状態を確認し、必要であれば業務量を調整するようにしています。

障がい者のテレワーク雇用を促進するリクルートオフィスサポート。従業員のベストパフォーマンスを引き出すマネジメント術とは?」に記事にて詳細を記載しています。合わせてご覧ください。

人口減少に対して日本政府が行なっている支援対策も活用しよう

平成26年に国が掲げた「2060年に1億人程度の人口を維持」という中長期展望のもと、国と地方自治体も連携してさまざまな政策目標・施策を策定し実行しています。最後に、国・地方自治体の支援策や取組事例を紹介します。

1.財政支援策

地方自治体に対する財政的支援です。例えば、以下のような取り組みが挙げられます。

2.地方創生起業支援事業・地方創生移住支援事業

(画像引用元:内閣官房 まち・ひと・しごと創生本部事務局公式サイト

地方でのUIJターンによる起業・就業を創出することを応援した、地方創生推進交付金を活用した取り組みもあります。東京一極集中の是正及び地方の担い手不足対策が主な目的です。

UIJターンとは、下記3つの人口還流現象のことで、特に地方における人材確保の鍵となっています。

  • Uターン現象:地方から都市へ移住したあと、再び地方へ移住すること
  • Jターン現象:地方から大規模都市へ移住したあと、地方近辺の中規模都市へ移住すること
  • Iターン現象:地方から都市へ、または都市から地方へ移住すること

本取り組みは2019年からスタートしており、すでに北海道・青森県・島根県などの多くの都道府県が事業を推進しています。

例:あおもり移住支援事業

青森県ではマッチングサイト「あおもりジョブ」の求人に応募し、平成31年4月以降に東京圏から青森県へ移住した人に移住先の市町村から移住支援金を支給しています。

支援金額:

  • 2人以上の世代で青森県へ移住・就業した場合、100万円を支給
  • 単身で青森県へ移住・就業した場合、60万円を支給
  • 起業の場合は移住支援金+最大200万円の起業支援金の対象

対象者:直近で連続して5年以上東京23区に在住していた方、東京圏(一部の条件不利地域を除いた埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)に5年以上在住しかつ東京23区に通勤していた方。

参考:青森県

3.人材支援策

人材支援策は、「従業員を採用したい」という基本的な人材確保の支援から、「採用改善対策を行う際の支援を受けたい」「従業員の待遇改善に関する支援を受けたい」といった取り組み中盤におけるサポートも対象となります。

主に、下記のようなプログラムがあります。

地方創生カレッジ

地方創生事業展開に必要なデータ分析、戦略の検討、事業化や資金調達の各種手法、観光・DMO、住民自治や交流などが学べるオンライン講座の提供。

地方創生コンシェルジュ

地方自治体の地方創生についての相談窓口を設置。それぞれの都道府県に勤務した経験がある職員やその都道府県出身の職員が対応。

地方創生人材支援制度

市町村長の補佐役として国家公務員や大学の研究者や民間のシンクタンクの人材などを派遣し、地方創生推進を支援。

地域活性化伝道師

地域にの課題に対して適切な地域起こしのスペシャリストを紹介。

プロフェッショナル人材事業

地方の企業と事業革新や新商品開発などの経験がある優秀な人材のマッチング事業。

地方創生インターンシップ

若者の地方でのインターンシップを促進するための情報提供。

4.情報支援策

国や民間が持つ地域経済に関わるさまざまな情報を収集したビッグデータを可視化した地域経済分析システム「RESAS」とデータのAPIを、地方自治体に提供しています。

参考:内閣府 地方創生推進事務局

まとめ|政府の支援とテレワークの活用で人口減少対策を強化しよう

人口減少による人手不足は、今後ますます深刻化していくでしょう。

出生率が低下傾向にあるだけでなく、人の移動や働き方の多様化といった要素も無視できません。

母数が減り続ける労働力を継続的に確保するためには、企業側も、20日間フルタイムで従業員をオフィスに縛り付けるような従来の働き方を見直さないわけにはいかなくなるでしょう。

求職者が、在宅勤務や自宅に近いサテライトオフィス勤務からのテレワークなど、フレキシビリティのある企業を選んでいくに違いないからです。

また、こうした自社の働き方改革を推進するにあたり、政府からのサポートも利用できます。

働き手の数が減少の一途をたどることが予想される将来は、まさに「猫の手も借りたい」状態。

労働意欲やスキルを持っていながらも、何らかの事情により長時間自宅から離れられない人・首都圏外に拠点をおいている人などを、上手く活用していきましょう。

戸栗 頌平
著者情報戸栗 頌平

B2Bマーケティングを幅広く経験。外資系ソフトウェア企業の日本支社立ち上げを行い、創業期の全マーケティング活動を責任者として行う。現在東京在住。2019年はフィリピンに在住し日本企業のBtoB活動を遠隔支援、場所にとらわれない働き方を通じ、マーケティング支援の戦略立案から実行までの支援を行なっている。Facebookは こちら。Twitterは こちら。LinkedInは こちら。ウェブサイトは こちら

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