directed-by-vcube

かつては東京などの大都市の企業で働くことは若者にとってある意味「ステ-タス」でした。

特に、高度成長期以降では、平成バブル期においてその傾向は顕著であり、大都市への人口集中が加速化されたのです。

 

その結果、地方においては若者の人口が減少したため、過疎化の進行はもとより労働力不足による税収不足や高齢化が指摘されるようになってきたのです。

 

しかしながら、平成バブル崩壊後、特に2000年以降は給与が減少する傾向が続いているため、大都市での高い生活費が収支を圧迫することになり、無理をしてまで都会に住むことに負担を感じる方が増えてきているという点も指摘されています。

 

親世代がこの時期に苦労したことを子の世代は覚えているはずで、そのことが若者の価値観に影響を与えている可能性は否定できません。

 

2017年国土交通白書で、都会の若者の4人に1人は地方移住に関心があるとの結果が得られたことがそのことを裏付けています。この新たな傾向を、自らの地域の活性化につなげている自治体も存在します。その中から、注目すべき成功事例について述べてみたいと思います。

都会の働き方の変化

かつては若者は、東京は住むところでないと言われながらも、就職や生活の利便性から東京での勤務を希望するという方も多かったと聞きます。東京出身の若者であれば、実家から会社に勤務するということもよく見ることができました。ところが、現在においてはその動きに若干の変化が現れているようです。都会で働く人の生活スタイルにどのような変化が起こっているのでしょうか。

 

都内のワーカーの中には地方出身者が意外に多い

現在の統計調査の結果を紐解いてみると、都内のワーカーに占める都内出身者は意外にも少ないということがわかります。就職みらい研究所の『大学生の地域間移動に関するレポート2017』によると、東京都の大学生の就職動向は地方出身で東京都内に就職するものが約半数と、首都圏に留まる傾向が顕著であるという結果が得られています。

 

Screen Shot 2019-05-28 at 11.44.14 am

 

(画像引用元:大学生の地域間異動に関するレポート2017

 

ここから推測されるのは都内のワーカーの割と多くが地方出身者で占められているという事実です。これには様々な理由が考えられます。

 

まず第一に、親自身は都内出身であるが、社会人となって家庭を持った段階で都内でない場所に居住地を定めた結果、その子供は都内出身ではないが職の得やすい都内で就職したというケースが考えられます。

 

第二に、上記グラフのデータからもわかるように地方出身者であるが、都内の大学に進学したためそのまま都内で就職したケースです。

 

そして今後増えてくるであろうケースとして、都内出身者が地方に移住して職を求めるというものが挙げられるでしょう。前述した都会の若者の4分の1は地方移住に関心があるという意識の変化が、それを示唆しています。

 

しかし、最後のケースは移住先としては魅力的だが、職を探すのにはいまいちということも少なくなく、まだ大きな動きにはなっていないという部分があります。東京に人材をはじめ、様々なものが一極集中しているということが声高に叫ばれながら、地方への移動が促進されない理由のひとつが東京は暮らしにくいが便利という事実でしょう。

 

そんな中、働き方改革という国家的プロジェクトが立ち上げられ、その中にICTを活用したテレワークの推進が掲げられたことにより、遠隔コミュニケーションへの関心がより高まり、企業の中にはリモートワークを活用して居住地に関わらず社員を採用するところも出てきています。

 

次はそのような企業について解説していきます。

柔軟な勤務形態で人材獲得に成功した事例

事例1:マーケティングロボティクス:柔軟な勤務形態で「大切なものを大切にできる企業でありたい」

より効率的なマーケティング活動を行うなためのツールであるマーケティングオートメーションを開発・販売している企業です。マーケティングロボティクスは、これまでの企業にはない取り組みを次々と打ち出していることで有名ですが、そのうちの何点かをご紹介します。

リモート採用制度

都内、地方を問わずフルリモートワーク可能な勤務制度となっていて、実際にリモートワークを行っている社員がいるとのこと。

サボり手当

申請すれば、月6時間までサボることが認められているという画期的な制度。

当日有給制度

これも、ほとんどの企業では認められていない制度です。子供の急な発熱など当日になって急に休みを取らざるを得ない場合などを考慮して生まれた制度だそうです。

 

日本企業の中ではかなり柔軟な勤務形態を次々取り入れている背景には、「大切なものを大切にできる企業でありたい」という理念があるのです。この理念に共感する優秀な人材が全国からマーケティングロボティクスに集まってくると言います。

 

事例2:株式会社キャスター:出社の義務なし!サービス内容を体現する柔軟な働き方

キャスターはリモートワーク関連のオンラインアシスタントサービス「CasterBiz(キャスタービズ)」の運営や、デザイナー・エンジニアのお仕事紹介サービス「Remote Style」の運営を行っている企業です。

 

この企業の最大の特徴は、少数の本社メンバーと地方拠点の社員を除き、基本的には従業員に出社の義務はなく、各自がリモートワークで勤務可能であるという点にあります。

 

代表取締役の中川祥太氏は前職についていた際に、各地にコールセンターを設置する業務において人材不足問題に直面し、これをリモートワークの活用で解決しようと思い立ち、キャスターを立ち上げたと言います。

 

コールセンターを置く地域で人材を募集すると、その地域内の人材しか集まりませんが、リモートワークを活用すれば全国からその職に適した人材が集められます。これは働き方改革の推奨するリモートワークの活用による人材の掘り起こしとも重なる施策で、その活動は地方自治体にとっても大いに参考になると思われます。

 

事例3:しくみ製作所株式会社:フラットな組織をリモートワークで実現

しくみ製作所は本社機能が札幌にある企業です。この企業は上司、部下という階層が存在しないフラットな組織、いわゆるホロクラシ―型の組織がしっかり機能しているのが特徴です。

全国に散らばっている30数人の社員の全員が「リモートワーカー」で、社員一人ひとりが意思決定権を持っているという非常にユニークな企業として知られています。

 

半年に1回ほど開かれるオフ会以外では直接顔を合わせるのが稀という社員もいるとのことです。勤務のために引っ越す必要がないというのは、様々な理由で地元を離れられない人にとって非常にありがたいことではないでしょうか。

 

また、都会から地方に移住する際にも、このような勤務形態であれば問題なく仕事が続けられます。

 

事例4:株式会社ポップインサイト:フルリモートが引き金になり優秀な人材が増加

ポップインサイトは日本で初めてWebサイトやアプリの課題点を分析する「リモートユーザテスト」というサービスの提供を開始した企業ですが、当初はリモートワークを行っていなかったと言います。その状況が一変したのは当時のエース社員の「中国で働きたい」という一言だったというから驚きです。

 

エースを離職させないように始めたリモートワークが急速に浸透したのは、一時的に経営危機に陥った2015年~2016年の頃とのこと。コスト削減のためオフィスを解約したことで、ノマドカンパニー的な勤務形態をとらざるを得なくなり、リモートワークを行っているというイメージが出来上がってしまったそうです。

 

結果として、フルリモートワークを希望する優秀な応募者が現れたため、フルリモート正社員の採用を本格化することになったのです。

 

ポップインサイトのフルリモート勤務を支えているのはチャットツールだとのことで、今や業務上のコミュニケーションはもとより、「リモート忘年会」や「リモート飲み会」を行うなどツールの積極的活用を図っているようです。

魅力的で移住・定住を促進する支援策3つ

企業がリモートワークを積極的に活用することで、地方にいながら大都市の企業に勤務することが可能となり、地方からの人材流出を抑止する効果が期待できることがわかりました。それでは、企業サイドの改革による人材流出の抑止のみならず、行政も巻き込んでの移住・定住を促進する支援策を実施している地方自治体は存在するのでしょうか。

 

日本の地方自治体には住むのには魅力的でも、その地で職を得るのが難しいという問題を抱えているところがあり、それが移住・定住を妨げている大きな原因となっているというケースが見られます。

 

その問題を改善する支援策をご紹介します。

 

子育て支援関連

(1)出産支援

家計の事情が許せば、もう1人子供が欲しいという世帯は多いと思われます。

こういった世帯を支援するための出産支援制度を設けている自治体は数多くありますが、手厚い支援を実施している自治体としては岡山県高梁市(たかはしし)や石川県輪島市が有名です。

 

高梁市では、出産祝い金として第3子出産で50万円、第4子からは100万円を支給しています。また、輪島市では第1子から45万円が支給され、第2子で50万円、第3子以降は55万円を支給する制度があります。

 

(2)保育料支援

保育園や幼稚園の費用も家計にとっては意外に負担となるものです。この保育料を無料としている自治体もあります。北海道標津町では幼稚園が無料で、福島県西会津町では2人目以降の子供の保育料が無料となっています。

 

(3)医療費の助成

この制度を取り入れている自治体は多く、岩手県一戸町岡山県久米南町徳島県勝浦町などでは18歳までの子供の医療費が無料となっています。

 

居住支援

その自治体に暮らす人が他に移住することなく定住することを支援する制度です。主なものとしては、奈良県王寺町の三世代ファミリー定住支援制度や千葉県茂原市の三世代同居等支援事業などがあり、住宅取得への補助金やリフォーム等に対する補助金が受け取れる制度が設けられています。

 

移住支援

これは移住を希望する方に対し、自治体が引っ越し費用や家の新築費用の一部を支援する制度です。

例えば、大分市では大分県外からの移住者に対して、補助対象となる引っ越し費用の3分の2(上限20万円)を支援する制度をはじめ、新築に関する経費の内補助対象となっているものの支援(上限100万円)や、賃貸住宅の契約に際し、仲介業者の手数料を支援(上限5万円)すると言った施策が行われています。

 

同様の支援が大分県日出町(ひじまち)などでも行われています。

移住・定住促進施策の成功事例3つ

これまで、移住・定住促進策の内容と実施している自治体について解説してきました。では、これらの促進策は実際にどれくらいの成果を上げているのでしょうか。成功事例をいくつか挙げてみましょう。

 

事例1:北海道厚真町

厚真町では主に次の2つの移住促進策が取られています。

 

(1)子育て支援住宅による移住促進

子育て支援住宅の入居要件は、町外から厚真町に移住することや小学生以下の子を1名以上扶養していることです。この要件を満たした世帯には扶養する18歳以下の子供1人につき家賃を5千円控除するという支援策が取られています。

 

(2)分譲地を整備し販売

厚真町が「森林に囲まれた環境」「市街地に近接」「海に近い」「小中学校に隣接」など、それぞれに特徴のある分譲地を整備して移住希望者に販売するという施策です。また、土地を売るだけでなく、住宅を新築する費用の一部(上限200万円)を補助し、さらには移住を検討している方が見学などに来る際の交通費・宿泊費も一部補助するなど積極的な移住促進策を行っています。この2つの施策の成果は以下の通りでした。

 

子育て支援住宅への移住者数:15世帯 62名(2014年~2016年)

分譲地への移住者数:30名(2016年)

 

事例2:高知県大川村

大川村は主に情報発信と子育て支援で移住者を増やすことに成功しています。高知県による移住フェアや移住交流推進機構(JOIN)等のWebサイトなどで移住に関する情報を発信することで、移住を検討する人を増やそうという施策が取られています。移住者用の住居の確保のため2014年から村営住宅の建設にも取り組み、2017年の時点で24戸の村営住宅が存在しています。

 

また、子育て支援も充実していて、15歳以下の子供の医療費が無料であるほか、保育料の無償化、0歳児保育園から中学校までの給食費無料など、至れり尽くせりの支援が行われています。この施策の成果は2014年~2016年の移住者が49人でした。村民400人程度の自治体における話なので、かなり大きな成果となったことがわかります。

 

事例3:宮崎県綾町(あやちょう)

綾町は農業の担い手支援と空き家再生事業の活用によって、移住者・定住者が増加している自治体です。農業の担い手支援としては、農林水産省の農業次世代人材投資事業を活用し、新規就農者を呼び込むという施策が取られています。

 

そして、移住して就農する人に対しては1年間低家賃で住居を提供する制度や、農機などの貸し付け制度があるなど手厚い支援が受けられるのが特徴です。空き家再生事業とは、空き家を所有者から借り受けリフォームし(上限250万円)、5年間移住者等に賃貸住宅として提供するというものです。

 

これらの施策によって、就農による移住者21名(2012年~2016年)、空き家再生事業の活用件数25件、85名(2016年)という成果が得られています。

まとめ

ここまで、企業がリモートワークを活用して地方に住む優秀な人材を確保している現状や、自治体の移住・定住促進策について見てきました。それぞれに工夫を凝らした策で、かなりの成果を上げていることもわかりました。

 

しかしながら、この動きを拡げていくためには自治体側と企業側のコラボが不可欠であると考えます。なぜなら、自治体は移住者・定住者を増やしたいが働く場所をなかなか提供できないなどの問題点を抱えている場合がありますし、フルリモートワークを導入している企業にはどの自治体が従業員により良い生活環境を提供できるのかという情報がなかなか得られないという問題点が存在している可能性があるからです。

 

そのためには、自治体がリモートワークの導入を積極的に行い、Web会議ツールやチャットツール、そしてオンラインセールスツールなどを実際に使用してみて、フルリモートワークを導入している企業との交流を図るなどの施策を行うことが必要となるでしょう。