3つの企業誘致の好事例から学ぶ、成功する企業誘致の秘訣を徹底解説

近年は、グロ―バル化によって海外に拠点を移していた製造業が、新興国の賃金上昇により国内回帰する動きが広がりつつあります。また、福岡県や沖縄県のように複数の業界に特化して企業を積極的に誘致し、経済成長している自治体が出てきています。

80年代のサラリーマンの代名詞であった「24時間働けますか」は、今や完全な死語となり、若者の価値観は「ワークライフバランス」に代表されるように多様化しました。その時勢に合わせるかのように、都心部在住の20代の2人に1人が地方への移住に興味を持っていると言われています。

インターネットの普及によっていつでもどこでも働けるいまの時代は、地方自治体が企業を誘致したり若者を呼び寄せたりしやすくなっていると言えるでしょう。この記事では、地方自治体が企業誘致を成功させ、都会からの若者を魅了するためにはどのような施策が必要かを紹介していきます。

 
 
目次[ 非表示 ][ 表示 ]

企業誘致の実態と現状 

日本では、戦後から国主導で地方への企業分散が戦略的に進められてきました。しかし、1990年代に入りビジネスのグローバル化が進み、日本の製造業は安価な労働力を求め中国や東南アジアに工場を次々に移転しました。国の産業構造は変わり、現在の日本は製造業で働く人よりもサービス業で働く人の数が多くなっています。

製造業、物流業に国内回帰の動き

経済産業省の「工場立地件数の推移」のグラフ見ると、平成元年から国内での工場立地件数が急激に減り続けてきたことがわかります。大手企業が海外移転すると取引をしていた中堅・中小企業も移転せざるをえないケースも多く、国内から工場や人材が流出し空洞化が進んできたと言えます。

とはいえ、平成14年を底に国内での工場立地件数が再び増加し始めているのです。

工場の立地動向調査

出典:国土交通省

これは、良くも悪くも日本の賃金水準が過去20年間で僅かしか上昇しなかったため、経済発展に伴い賃金が上昇してきた海外の途上国と比較してもさほど高いとはいえない水準になったことが一つの要因です。企業にとっては安全性や国内での税制優遇措置などもふくめて考えれば、国内拠点設立にメリットが出てきたと言えるでしょう。

日本立地センターが、2017年に製造業と物流業の企業に対して行った「新規事業所立地計画に関する動向調査」においても、 国内を強化すると答えた企業が6割を超えています。

地方への企業誘致が盛んになった背景

近年、政府がこれまでにもまして地方自治体の企業誘致をバックアップしています。その背景には、日本の人口減少問題があります。国立社会保障・人口問題研究所の推計では日本の人口は約20年後の2040年には現在より約2000万人減少すると予測されています。2000万人という数は、現在の九州地方と四国地方の人口に匹敵します。

国土交通省は日本創生会議のデータをもとに、2040年までに消滅する可能性のある都市の比率をグラフで公表しています。

都道府県ごとの消滅可能性都市

 参考:国土交通省

日本は島国であり、地方の人口が減ると経済だけでなく、安全保障の問題などあらゆる方面にマイナスの影響が出てきます。

政府は2060年時点で1億人の人口を保つための施策の一環として、自治体に対しても「地方人口ビジョン」という5年間の施策を集めた「地方版総合戦略」を策定するよう求め、さらに、平成30年の税制改正においては、東京から地方に本社機能などを移転した企業の税負担を軽減する措置を拡充しました。

自治体の取り組み状況

国からいろいろな交付金が支給されることもあり、各自治体も熱心に企業誘致に取り組んでいます。平成25年に日本立地センターが行った調査によると、約8割の自治体が企業誘致に積極的に取り組んでいると回答しています。

地方自治体が今後の重点産業分野として考えている業界には「食関連」、「環境・エネルギー関連」、「健康・医療・介護関連」 、「情報通信関連」などが上位にきており、地方もこれからの成長産業に目を向けていることがうかがえます。

地方自治体の焦点産業

出典:一般財団法人日本立地センター

若者の地方移住への関心

一方、昨今は地方移住に関心を持つ若い世代が増えています。株式会社トラストバンクが2017 年に行った「地方移住に関する意識調査」によると東京在住者の2人に1人が地方移住に関心を持ち、20代の70%が移住に興味を示していることが伺え、若者にとって地方移住が現実的な選択肢になっていることがうかがえます。

若者の移住に関する関心の調査

出典:株式会社トラスト

企業誘致を行うメリット

税制の改正、若者の意識の変化、世界的に見たコスト面での競争力上昇を考慮すると、今後日本の地方自治体が企業誘致を行うことは、自治体、企業、労働者それぞれにメリットがあると考えられます。

地方自治体のメリット

地方自治体にとっての企業誘致のメリットは、一般に税収のアップ、地域の雇用を増やすことです。支店や工場の誘致ができるだけでも地元の雇用環境の改善、周辺事業の発達などによる地域の活性化につながります。本社機能の移転となれば大きな税収と地元への人口流入が期待できます。日本立地センターの調査によると自治体が「企業誘致の目的」を雇用機会の確保が第1位です。

企業誘致の目的と雇用機会の確保

出典:一般財団法人日本立地センター

企業のメリット

企業が日本の地方に拠点を作るメリットは税金面にあります。現在は、『地方拠点強化税制』により大都市圏から地方へ本社機能を移転すると税金の優遇措置が受けられます。

各自治体が大胆な優遇措置をとっています。長野県では法人事業税を3年間95%、富山県・石川県では90%、群馬県や香川県では初年度は50%の軽減措置を行っています。また、地方には採用面での競合企業が少ないため、優秀な地元の人材を採用し長く働いてもらえるメリットもあります。

働く人のメリット

新しい企業が移転してくることで地元の労働者は、就職先の選択肢が増えます。一般に地場の企業よりも都心の企業のほうが賃金が高いのも魅力だと言えるでしょう。都心から地方に移住を希望する人にとっても都心部の企業のほうが社風に適応しやすいと言えます。移住者にとっては納得いく範囲の賃金が得られ、かつ海、山、川などの自然を楽しめるワークライフバランスのよい暮らしが実現することになります。

魅力的な企業誘致を実行する方法とは?

企業誘致を成功させるためのポイントを説明します。企業誘致のためにはビジネス用のインフラ整備はもちろん、若者に魅力ある街づくりをすることが大切です。国内に拠点を作る企業の多くは、地域に求めるこ立地条件の強化対策として「人材確保・育成の支援」をあげています。

移住者が暮らしやすい環境を用意

企業が人材を確保しやすくするためには、地方に移住する人が暮らしやすい環境を整えることが大切です。国土交通省の「国民意識調査」によると、地方定住者、Uターン者、UIターン者、移住希望者が重視するのは、「日用品の買い物環境」「交通インフラの充実度」であり、地方移住希望者は「収入額」「地域固有の魅力」を重視する傾向もあります。

移住希望者者にとっては生活が便利で、地方の文化や自然を共存させるような街が魅力的であることがうかがえます。ワークライフバランスを実現できる街づくりをすることが都会から若者を施策として有効でしょう。

最先端ITベンチャーが集う福岡市天神

実際にビジネスタウンでありながら、若者を引き付ける魅力的な空間作りを進めているのが福岡県福岡市です。天神ビッグバンという古いビルの建替えをスピーディに進め、最先端のオフィス空間と商業空間を整えるプロジェクトを進めており、2024年までに30棟のビルの建て替えを誘導し雇用者数を約2.4倍に増やすことを数値目標にしています。

福岡市はこれまでも国家戦略特区としてスタートアップへの優遇措置などを行った結果、ケンコーコム、LINE、メルカリ、オイシックスなどが多くの有名なITベンチャー企業の誘致に成功しています。アジアにも東京にも近いという地の利があることもたしかですが、戦略的な企業誘致の方針と受け入れ態勢準備によって魅力的な企業を誘致できています。

野村総合研究所は、各都市の産業双発力を「多様な産業が根付く基盤」「創業・イノベーションを促す取り組み」などの視点で析した「成長可能性都市ランキング」を公表していますが、福岡市は成長の伸びしろが大きい都市の第1位となっています。

企業誘致の補助金や助成金

ここでは、企業誘致の実行を後押しする国の制度や交付金、支援制度などを紹介します。

地方創生推進交付金・地方創生拠点整備交付金

自治体が主体的に取り組む施策の中で先導的な事業を支援するための交付金です。手順としては、自治体が策定した地元を活性化する先進的な事業の策定プランを、国が精査して交付金額や対象事業を決定します。目標数値とKPIが設定されPDCAサイクルが組み込まれるところが特徴で、毎年進捗状況を国と地方で検証していきます。

【種類】

・地方創生先行型交付金
・地方創生加速化交付金
・地方創生推進交付金
・地方創生拠点整備交付金

参考:まち・ひと・しごと創生本部

地方拠点強化税制

地方で本社機能を拡充する場合や、東京23区又は23区以外から地方に移転する場合、税制等の支援措置があります。具体的には以下の通りです。

・設備投資減税(オフィス減税):建物等を取得した場合に法人税の減税措置あり
・雇用促進税制:新たに従業員を雇い入れた場合等に、法人税の減税措置あり
・地方税の課税免除又は不均一課税:不動産取得税、固定資産税、事業税の免除または減税措置あり

引用:内閣府地方創生推進事務局

地域経済分析システム「RESAS(リーサス)」

国や民間が持つさまざまな産業分野別のデータや、地域経済に関わる情報を収集したビッグデータを可視化した地域経済分析システムが国から無料で提供されています。使い方を学べる無料オンライン講座もあります。

地方創生人材支援制度

地方創生に取り組む市町村長の補佐役として、国から国家公務員や大学の研究者、民間シンクタンクの人材などを派遣してくれる支援制度があります。

自治体による企業誘致の成功事例

実際に企業誘致に成功した自治体を紹介します。

A:徳島県 自然の中でテレワーク「グリーンバレー」
徳島県では、県内全域にケーブルテレビ網、光ファイバー高速通信網を整備するほか、情報通信関連産業の企業に対する優遇制度を設け、コールセンターやデータセンターなどを積極的に誘致しました。県内でも過疎と高齢化が進み限界集落であった神山町で、自然の中でテレワークを活用して働く「グリーンバレー」と呼ばれるまちづくりを進めた結果、現在ではIT企業のサテライトオフィスの誘致が進んでいます。

参考:総務省 平成24年版情報通信白書

B:沖縄県 新興国と勝負できるコストメリットでコールセンターを集積
『情報通信産業特別地区』に指定されている沖縄県では、県と国が連携した取り組みにより県内にコールセンターを中心とした情報通信関連企業が集積しています。県内IT関連企業の雇用者数は2017年時点で2万9379人であり、その中の1万8268人をコールセンター勤務者が占めるなど多くの雇用を生み出しています。

最低賃金が低く、海外に進出する場合とそれほど変わらないコストメリットがある沖縄は、製造業関連でも先端技術型ベンチャー企業や中小企業が進出を検討し視察に訪れているそうです。

参考:沖縄県うるま市

C:福井県鯖江市 「お試し勤務」ありでIT企業のサテライトオフィスを開設
古くからメガネの街として知られる福井県鯖江市はIT企業のサテライトオフィスの誘致事業に取り組んでおり、「お試しサテライトオフィス」モデル事業(総務省)に採択されています。いきなり誘致するのではなく都心部でセミナーを開き興味を持った企業に、まず鯖江市での「お試し勤務」をしてもらうステップを踏みます。

結果、当初15社の入居を予定していましたが36社の企業が「お試し勤務」に参加し、3社のサテライトオフィス開設が決定したことを公表しています。

参考:福井県鯖江市

まとめ:

これまでの日本の地方自治体の企業誘致はおもに大手企業の工場、支店の開設を目的とすることが多かったと言えますが、近年は税制改正などにより企業の本社機能ごと誘致できるチャンスが大きくなっています。

現在は政府機関も地方都市への分散を検討しています。通信インフラを整備し魅力的な企業を誘致することができれば、日本の地方が活性化し、ビジネスの場としての魅力を増していく可能性はあります。山間部であれ離島であれ成長していくチャンスはあると言えるでしょう。

自然の景観や固有の文化を大事にしながら、最新テクノロジーを活用できるビジネス環境を整え、企業誘致を成功させましょう。

戸栗 頌平
著者情報戸栗 頌平

B2Bマーケティングを幅広く経験。外資系ソフトウェア企業の日本支社立ち上げを行い、創業期の全マーケティング活動を責任者として行う。現在東京在住。2019年はフィリピンに在住し日本企業のBtoB活動を遠隔支援、場所にとらわれない働き方を通じ、マーケティング支援の戦略立案から実行までの支援を行なっている。Facebookは こちら。Twitterは こちら。LinkedInは こちら。ウェブサイトは こちら

関連記事