i-Constructionの導入における課題と3つの対処法
「i-Construction」は、2016年4月から国土交通省の「生産性革命プロジェクト」の一つとして政府主導で開始されたばかりの具体的な取り組みです。そのため、まだまだ導入事例が少なく課題もたくさんあります。導入する時のポイントがどこかわからない方もいるでしょう。
そこで、この記事では「i-Construction」の課題とその対処法について解説していきます。
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i-Constructionとは
政府は、日本の生産年齢人口の減少から、とりわけ全産業の中で最も生産性の低い建設業界の改革の必要性を重く受け止めています。そのため、建設業の生産性向上の手段として「i-Constructionの推進」に力を入れているのです。
「i-Construction」といえば、頭につく「i」からICT化ばかりがイメージされやすいのですが、「i-Construction」のコンセプトは、次の3つです。
1:ICTの全面的な活用(ICT土木)
2:部材の規格の標準化等全体最適の導入
3:施行時期の標準化
ICT機器導入についての施策は「 ICTの全面的な活用(ICT土木)」です。「i-Construction」の旗振り役である石井国土交通大臣が「いろんな意味を込めている。ICTのiでもあるし、愛情のiでもある。」とメディアのインタビューにも答えているとおり、政府は「i-Construction」の「i」にさまざまな想いを込めているようです。
(画像引用元:iConstructionの推進|国土交通省_pdf)
また、原材料(材料メーカー)から部材(建材メーカー)・組み立て(専門工事会社)が、可能な限り早い時期から工事関係の情報を共有して工事計画の効率化を図ります。これが「全体最適の導入」です。
今まで、発注者は、下図のように発注情報を元請け業者としか共有せず、元請けに丸投げ状態だったのですが、発注者が元請けだけでなく、発注情報を各専門業者と共有するというサプライチェーマネジメント化することで、将来的に全工事関係各社が設計段階から準備できることで、施工を効率化できるのです。
(画像引用元:建設現場におけるサプライチェーン マネジメントの導入)
建築に特化した欧米諸国のBIMを見習って日本の土木建設工事に取り入れた考え方をCIM(Construction Information Modeling/Management)といいます。
このCIMを基調とした考え方で、ドローン等のICT機器を最大限に活用して、測量から施工、確認・検査に至るまでを連動した作業として効率化を図ったのが「ICTの全面的な活用(ICT土木)」です。
さらに日本の公共工事は年度末にかけて集中する傾向にありますので、政府は公共工事の施工時期を標準化することで、建設業の安定した労働力の確保を可能とし、休日・有給休暇を計画的に取得できるように改革しようとしています。こうすることで、建設業のさらなる労働条件向上に繋げようとしているのです。
これらの取り組みを総括して、政府は「i-Construction」と命名しています。
言い換えると、建設業にも「働き方改革」を取り入れられる労働環境を作り、将来的には建設業の「3K」のイメージを「給料が高い・休暇が多い・希望がある(新3K)」へと移行させようとする取り組みなのです。
i-Constructionのメリット
1.人手不足の解消
「i-Construction」のメリットは、人手不足解消のための生産性の向上に尽きます。建設業界は他産業に比べて非常に高齢化が進んでいて、その多くが55歳以上(団塊の世代)です。数年後には彼らが定年退職して、一層の人手不足時代に突入してしまうのです。
(画像引用元:建設業の現状|建設業ハンドブック2018 pdf)
そうなる前に建設業の人手不足対策を講じなければなりません。安倍総理が総理大臣官邸で第1回「未来投資会議」を開催し、6年後の2025年までに建設現場の生産性を20%向上させること、今(2018年9月12日)から3年以内に建設現場の「i-Construction」化を目指し、石井国土交通大臣の指示の下、その具体的な取り組みを行うよう各省庁に呼びかけました。
こんなふうに安倍総理が断言できたのも、2016年から取り組みが始まっている「生産性革命プロジェクト」とそれを実行させるための資金援助として2017年から始まった「建設機械関係の補助金・低利融資・税制優遇制度」(2018年3月31日まで)の実行によって、多くの企業からの関心を得て、同時に実際に申し込みがあった事によって、確実な手応えを感じたからだともいえます。
このように、政府主導で「i-Construction」導入に踏み切った結果、多くの建設業各社がICT化に着手し、三次元測量・施行・検査の作業効率アップすることにより、確実に人手不足の解消に繋がっていくと政府は確信しています。
また、資金面で政府のバックアップを受け「i-Construction」導入に踏み切ったとしても、ICT機器の操作に慣れるための訓練まで行わなければ政府が思い描く建設業改革は実現したとはいえません。その訓練にも費用がかかります。訓練はICT機器導入後に行われるものですので、人材開発支援助成金の申請については、申請期限もICT機器関係の補助金の申請期限よりも遅い令和2年3月31日までとなっています。
こうして、団塊の世代といわれる55歳以上の熟練技術者が一気に定年を迎えたとしても、ICT機器の扱いに慣れた若手の人材が、熟練技術者の穴を埋めることが期待できます。
2.3Kから新3Kに
また、昭和の高度経済成長期から20年以上変わらない「3K(キツイ・汚い・危険)」の色濃いマイナスイメージを払拭し、「新3K(給料が高い、休暇が多い、希望がある)」というプラスの明るいイメージを定着させ、有能な人材を集めていくという事も第1回未来投資会議で宣言されています。
「i-Construction」によって、ICT化土木・全体最適の導入・施行時期の標準化が実現すれば、2025年には建設業の生産性20%をアップすることを安倍総理自らが宣言したのです。
現場のICT化 |
作業効率の飛躍的アップ、人件費・経費の削減による賃金アップ |
全体最適の導入 |
作業工程の短縮化と資材購入費の低下により会社の利益アップに繋がる |
施行時期の標準化 |
繁忙期が集中しないので、休暇がとりやすくなる |
このように、「i-Construction」は「新3K(給料が高い・休暇が多い・希望がある)」のイメージを夢ではなく実現へと導く取り組みなのです。
課題
費用対効果が見込めるかの判断が難しい
「i-Construction」のICT化の導入には費用がかかります。国から補助金や融資を受けてがんばって導入したとしても、その費用を回収するだけの利益が見込めるのかが重要な課題です。
導入した年度の決算時において導入コストの負担が大きいのは確かですので、それをどのように回収していくのかは、今後のマネジメントにかかっているともいえます。
(画像引用元:ICT活用工事の実施状況(H30年度)|国土交通省pdf)
上記2018年の国土交通省の「ICT活用工事の実施状況(H30年度)|国土交通省」調査結果のデータを引用して、ICT活用工事導入件数(グラフでは「ICT実施」とする)の変遷を公告件数と比較して次のようにグラフ化してみました。
(データ引用元:ICT活用工事の実施状況(H30年度)|国土交通省pdf)(データ引用元:ICT活用工事の実施状況(H30年度)|国土交通省pdf)
2つのグラフを見比べると、確実にICT活用工事(グラフ内では「ICT実施」) が増えていますが、不景気のせいか肝心の工事の公告件数が減少傾向にあることがわかります。その点においては一抹の不安を覚えてしますが、そこは生産性アップによって解決する事ができるはずだと政府は確信しています。
ちなみに、生産性の計算方法についてここで解説しておきます。「生産性」とは、「投入量(人工・資財・施工時間)」と「出来高(出来高の量・受注工事の数・仕事量)」の比率によって計算します。
生産性=出来高/投入量
つまり、公告工事の数が減っても、投入量(分母)が減れば生産性がアップして、建設業者の利益アップに繋がるというわけです。そこで、投入量の具体的削減にi-Construction導入が活躍します。先に紹介した国土交通省推奨の「i-Constructionのトップランナー施策」をもう一度挙げて、「i-Construction」が具体的にどのように活躍するかを表にしてみました。
人工を減らす |
ICTの全面的な活用(ICT土木)により人件費や経費の削減 |
資財にかかる費用減少 |
全体最適の導入(コンクリート工の規格の標準化)による資材購入費用削減により、純利益アップ |
施工時間 |
ICTの全面的な活用(ICT土木) 施行時期の標準化によりスケジュールの空いた人手の確保 |
(参考:iConstructionの推進|国土交通省_pdf)
建設現場は20年以上前からマニュアル重視・量をこなすという考え方があり、人手と図面を大量に投入する習慣から抜け切れていません。
公告工事の数が減った今だからこそ、i-Construction導入によって建設現場の飛躍的な合理化を図り、人工・資財・ 施工の面を抜本的に見直す必要があります。そうすれば、出来高は変らないまま投入量は大幅に減少し、生産性の飛躍的な向上に繋がり、費用対効果の増大が期待ができるはずだと政府は確信しています。
本当に現場作業で役立つのか
(画像引用元:ICT活用工事の実施状況(H30年度)|国土交通省pdf)
国土交通省のアンケート調査では、作業時間が約3割も削減されたという結果もあります。現場において、確実に作業効率が向上したことが窺えます。また、安全性が向上した、帰宅時間が早くなった、さらにはICTを活用した施行に若者が興味を持ったという現象もありました。政府が望む「新3K」に近づいたといえます。
安全性の向上と帰宅時間の早まりから、旧3Kの「危険・汚い・キツイ」のうち「危険・キツイ」が解消されつつあると考えられるでしょう。
作業員がツールをちゃんと使えるのか
i-Construction導入が建設業界の生産性向上について、効果が着実に現れ始めていることがわかったところで、建設業界ならではの新たな課題も発生していることを解説します。先述しましたが、建設業は旧3Kのイメージから若者の就職率が低く、未だ他産業に比べて高齢化問題が深刻です。
(画像引用元:建設業の現状|建設業ハンドブック2018 pdf)
上のグラフからもわかるように、20代が全産業の10%前後なのに対し、55歳以上の世代は3倍以上の35%にも及ぶのです。55歳以上の世代が新入社員だった(20代)頃は手書き図面のデータ保存化が始まったばかりで、多くの建設関係会社には大きなA1サイズの青焼きの印刷機が幅広く陣取っていた時代です。一概にはいえませんが、ICT機器に不慣れな人も多いのです。
(画像引用元:建設業の現状|建設業ハンドブック2018 pdf)
一方、ICT機器に幼い頃から慣れ親しんでいる平成生まれの若者達(新卒)の入社率は、2009年の4.1%(全産業の内の建設業の比率)以来上昇傾向にあるものの、2017年において5.4%と若者の就職が非常に少ないのが現状です。
建設現場で活躍するICT機器の操作は、マニュアル通りではあるものの、慣れや勘といった実務も重要で、会計ソフトやExcel・Wordの習得のように簡単にはいきません。そのため、55歳以上の世代が多い中小企業では、ICT機器に不慣れな社員が多いため、初めから諦めて、ICT施工を含めたi-ConstructionをICT機器メーカーやコンサル会社に丸投げしているケースもあります。
そのような需要があるので、UAV事業としてドローンを利用した3次元測量・3次元データの図面化・検査に至るまで専門的に行い、自社だけでなく他社からの外注も請負い、利益を上げている企業もあるくらいです。
対処法
1.ICTツールは「使い勝手の良さ」で選ぶ
20年以上前から変わらない建設現場の特性としては、一品受注生産・現地屋外生産・労働集約型生産であり、製造業に例えるなら、まるで建設業の各々の「一建設現場」は、まるでオーダーメイドの特注生産オンリーだともいっても過言ではありません。この状況は、大量生産とは対照的だともいえます。
「職人手作りのオーダーメイドは大量生産と違って高い」というのは、あらゆる商品にとって常識です。しかし建設業だけは、各現場全てがオーダーメイドで、細分化された専門家といえる職人達の共同作業だともいえます。
対する製造業では、ライン生産による大量生産・ロボット(AI)化、また製品の組み立て工程を完成まで受け持つセル生産方式がもはや当たり前となって進化してきました。一方、建設業では今も尚、多少のオートメーション化が導入されてはいるものの、まだまだ高度成長期のやり方のままである部分の方が多いです。
そこで、建設業も製造業のように、現場で行う職人によるオーダーメイドではなく、資材の大量生産による、コンクリートや部材を限りなく資材業者の製造ラインの上で行うよう工夫し、現場で行う作業を最小限にすることも急務なのです。
また、現場のオーダーメイドの職人型施工ではなく、営業職でも女性でもできるモニター型の簡単なオペレーション操作可能な機器の導入、AIで自動操縦可能な重機も活躍し始めています。
このように、建設現場を最先端機器(ドローンやICT化した機器や重機)を導入し最先端のコンピューターで管理すれば、オペレーション操作で、誰でもできる現場施工が可能になります。
そのオペレーション操作の習得には数ヶ月だといいますが、ICT化した機器は、何十年もかけて身につけた熟練の職人の技と同等、それ以上の正確さを追求することができるのです。つまり、早急な人手不足解消にはうってつけといえるでしょう。
2.助成金を使って費用を抑える
先述しましたが、i-Construction導入には、ICT投入のため、ICT機器の操作習得のための初期投資が最も大きな課題ともいえます。大手ゼネコンなら導入資金が用意できても、中小企業の方が多い建設業には、「i-Construction」導入には資金問題が大きな壁となっているからです。
そのため、政府は2018年度末までに助成金の門戸を広く開放するための予算導入を2016年から開始しました。その手応えを感じた安倍総理は、2018年9月21日に第1回「未来投資会議」を開催し、2025年までに建設業の生産性を20%アップする事を宣言し、その具体的施策を当時の石井国土交通大臣の指示に従って実施するように明言しています。
2018年3月でICT機器導入関連の助成金の申請期限は終了し、人材開発支援助成金のみが2020年度末(令和2年3月31日)までとなっています。
3.事例を参考にする
建築業の事例:設計からアフターメンテナンスまでのデータを一元管理し効率化
(画像引用元:積水ハウスのBIM)
建築現場では、測量・施工・検査・維持管理を一連の三次元データを共有して建築現場の効率化を図るのは、BIM(「Building Information Modeling」の略称)といいます。
「積水ハウス株式会社」はその取り組みに合計80億以上もの資金を投じ、オーダーメイドかつ人件費がかからない仕組みを構築しています。
BIMはアメリカが発祥ですが、イギリスやシンガポールでは、政府事業関連の工事の入札条件とされているくらい建設業界に浸透している状況です。また、日本の土木事業のBIM版をCIM(Construction Information Modeling/Management)といいます。BIM/CIMはi-Constructionの基礎となっているのです。
BIM/CIMとは、ドローンを利用した三次元データの測量・図面ツールだけでなく、受発注者の情報の共有することでも施工の効率化を図っています。この考え方によって生産性を上げることで、積水ハウスは坪単価を抑えた夢のマイホーム購入を可能にしています。
また、三次元データによる図面化によって、施主に正確なイメージを伝える事もでき、施主の希望に添ったマイホームを提供することに成功しているのです。
土木業の事例: UAV使用により起工測量の日数が5日から1日に短縮
(画像引用元:東北復興 i-Construction)
「株式会社小原建設」は岩手県の中小企業です。UAVの使用により起工測量の日数が5日から1日に短縮し、効率化に成功する結果が出ました。また、ICT建機を活用した施工より過堀防止を実現。安定した施工ができるようになったとの声も上がっています。
国土交通省南三陸国道事務所の東北復興工事の現場では、復興だけではなくICT施工に対応できる技術者の育成にも会社をあげて取り組んでいます。建設業の高齢化脱却のために、若手育成の担い手としても活躍してるのです。
まとめ
いかがでしたか。
建設業のi-Constructionによる生産性の向上は、建設現場で働く人達の労働条件向上や建設現場の人手不足解消だけでなく、身近なマイホームづくりにも役立っています。
令和生まれの若者が社会人になる頃には、建設業はキツイ・汚い・危険という旧3Kのイメージは消え、給料が高い・休暇が多い・希望があるを謳った新3Kの職種になっているかもしれません。