ITリテラシーの教育と研修が企業の生存を決める!

AIの登場で今ある仕事の49%がなくなる」「2030年 あなたの仕事はなくなる」というような予測や記事が出ているように、近年は第4次産業革命と言われるような大変革期を迎えつつあります。

今のところ近未来にどのような新しい仕事が登場するかまでは具体的に予測されていないようですが、「AIに代替されない仕事」とよく表現されるように、これからの世界では今まで以上にITリテラシーが必要になることはたしかでしょう。

あまりに変化の幅が大きいため、つい10年先、20年先をイメージしてしまいますが、すでに足元は変化し始めています。今後はIT格差=企業の成長力の差になっていくでしょう。

本記事ではこれからの時代に必要なITリテラシー教育や研修について解説します。


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ITリテラシーとは

ITリテラシーとは広義では「コンピュータやネットワークに関する知識とそれを活用できる能力」という意味です。わかりやすく説明すると以下のような能力です。

・IT技術についての知識、スキル
・ITで何ができるかできないかを理解する能力
・ITを使いこなす能力

業界や職種によって必要なITリテラシーは異なります。例えば2000年~2010年代の一般ビジネスマンならWord、Excelなどのスキル、ファイル管理、セキリュティについての基礎知識、SNSで炎上しないためのインターネットリテラシーなどを指すかもしれません。IT業界のSEならプログラミングスキルをはじめとする技術スキル主体で語られるでしょう。

厚生労働省の資料によると、標準的な人材が装備しておくべきこれまでの「基礎的ITリテラシー」は以下の表のとおりです。


ITリテラシー1.図表2.3-1 従来技術によるIT活用レベル

画像引用元:平成29年度基礎的ITリテラシーの習得カリキュラムに関する調査研究報告書

また、今後はこれに加え「IoTやAI等の新技術を理解し、それらに業務を代替されるのではなく、その使い手となり業務の生産性向上等に繋げる能力が必要」とされています。

実際、仕事に必要なITリテラシーはテクノロジーの進歩とともに変化していきます。

経済産業省の「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」の図を見ると、直近ではクラウドコンピューティング、モバイル端末の影響が大きく、これからはビッグデータ、IoT、人口知能(AI)などが重要だとわかります。

ITリテラシー2.すでに影響の大きい技術と今後大きな影響を与える技術

画像引用元:IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果 経済産業省

経済産業省はこれから必要になる人材像を、「ITトップ人材」「中核的IT人材」「すべてのビジネスパーソン」の3種類に分けて定義しています。近い将来はIT業界や情報システム部門の社員だけでなく、誰もがAIやIoTを活用できるようなリテラシーを標準装備する必要がありそうです。

ITリテラシー3.第4次産業革命下で求められる人材(ピラミッド図)

画像引用元:平成29年度基礎的ITリテラシーの習得カリキュラムに関する調査研究報告書

日本と諸外国との比較

厳しい時代ですが、日本人はITを使いこなす平均的な能力と高いポテンシャルを持っています。

2013年にOECD加盟国等24カ国の16歳~65歳までの男女を対象に行った国際成人力調査(PIAAC)の結果を見ると、日本の「ITを活用した問題解決能力の習熟度」は平均よりやや上に位置しています。意外なことにIT先進国と言われる米国やエストニアより平均点は上なのです。

ITリテラシー4.ITを活用した問題解決能力の習熟度

画像引用元:JAPAN – Country Note –Survey of Adult Skills first results

また、同調査において日本人は読解力と数的思考力の習熟度の順位がNO.1です。

  • 数的思考力の習熟度:1位
  • 読解力の習熟度:1位

さらに、中高年層と若年層や高学歴者と低学歴者の得点差がわずかであり、女性の読解力と数的思考力が非常に高いことから人材の潜在能力は非常に高いという結果が出ています。教育研修や仕事の任せ方次第で、日本人のITリテラシーが各国より高くなる可能性は十分あるといえるでしょう。

ITリテラシー教育の重要性

ITリテラシー教育がなぜ重要かというと、生産性に大きな影響があるからです。

生産性への圧倒的影響

例えば、前述の図で直近のビジネスに影響を与えたクラウドコンピューティングの技術を導入した企業は、総務省の平成30年の調査によると6割にものぼります。そして、導入企業の8割が効果を実感しているという結果が出ています。


ITリテラシー5.クラウドサービスの利用目的と効果

画像引用元:平成30年通信利用動向調査 - 総務省

実際、クラウドシステムを提供するベンチャ―企業のWebサイトには数々の事例が並んでおり、具体的に「約8割の業務が削減」「何百万のコスト削減になった」というような明確な数字が出ています。

多くの企業が労務管理会計業務などの定型業務だけでなく、ビジネスチャットオンライン会議などのコミュニケーション領域、マーケティングなどあらゆる領域でITを活用し生産性を上げていることがうかがえます。

テクノロジーが進歩すると扱う人間にも高度な能力が求められると思われがちですが、クララウドシステムについては操作もExcelより簡単なものも多く、必ずしも専門知識が必要というわけではありません。もちろん、基礎学力は必要ですが、業務知識とITツールを使いこなす能力のほうがより重要だと言えるでしょう。

一方、IoTやAIの導入率は12%とまだ多くはありません。それでも導入した約7割の企業が効果を実感しています。

ITリテラシー6.IoT、AI等のシステム導入効果

画像引用元:平成30年通信利用動向調査 - 総務省

 AIについては昨今「人口知能に期待しすぎ」「AIは魔法の杖ではない」という内容の記事もメディアに出るようになりました。ソフトバンク株式会社などの最先端企業をのぞけば、まだふんだんに事例が出る状況ではなく、時代が一足飛びに移行せず試行錯誤のフェーズであることがうかがえます。

逆に言えば、今なら教育研修に力を入れれば時代にキャッチアップできる可能性があると言えるでしょう。

 ITリテラシー教育は研修で行うべきか

ここでは、社員のITリテラシーを高めるための教育研修について解説します。 

AI、IoT、ビッグデータなどの最新テクノロジーについては、まだ日本で詳しい人はそう多くありません。外部の研修会社、識者などの専門家から学んだほうが安全です。もちろん、ITの領域は幅広いため自社で行える基礎的な教育研修もあります。

自社で取り組めるITリテラシー強化

まず、ITリテラシーの初歩的な内容については新入社員研修で徹底することが大切です。近年の若者はスマ―トフォンの扱いにはなれていてもパソコンをあまり活用しなくなっているため、従来のITリテラシーに相当する基本研修を初期に実施することが重要です。

中堅社員でもITリテラシーは個人差があるため、人事部とIT部門の社員が協力して社内勉強会を開催するなど、定期的に全員のITリテラシーを底上げする努力が必要です。そうすることで、わからないときは何でもIT部門に相談するような社員を減らすことも期待できます。

(カリキュラム例)

  • PC、ネットワークの基礎知識
  • ファイル、フォルダの管理
  • Microsoft Officeの基本スキル
  • 社内システムの基本的な操作
  • ビジネスチャット、オンライン会議システムなどコミュニケーションツールの操作
  • セキュリティについての基礎知識
  • SNSについての自社方針、コンプライアンス

専門家からの研修でITリテラシーを強化

外部の専門家を講師とする研修やセミナーは、社員のITリテラシーのレベルによっていくつかパターンがあります。

研修会社に依頼

研修会社は、AI、IoT、ビッグデータなどをテーマに半日、1日程度の入門研修、パッケージ研修、オーダーメイド研修などを提供しています。研修会社と相談しながら各部署の社員の現在のITリテラシー、今後必要とされるITリテラシーを想定しカリキュラムを提案してもらうとよいでしょう。

AI、IoT が普及した近未来を理解するための社内講演会

AIやIoTが普及した世界とはどのようなものか一般社員にはイメージしにくいものです。社員の危機感があまりにも低い場合は、まず第4次産業革命以降の世界観から理解してもらうために講演会を開いてもよいかもしれません。未来の話ではなくすでに社会がそうなりつつあることを社員に理解してもらうことができます。
講師は講演依頼.comなどを活用すれば依頼可能です.

システム提供企業の事例紹介セミナーを活用

一定のITリテラシーがある社員にとっては、マクロな内容よりも実際に自分の業務にどのように新しいIT技術が役立つかを現実的に学べるカリキュラムが望ましいと言えます。しかし、実際に事例をたくさん知ることができるのは、研修よりもシステム提供企業が宣伝目的に行う事例紹介セミナーだと言えるでしょう。

各企業のセミナーに足を運びトレンドをおさえたり、最新情報を収集したりすることが大切です。

従業員自らITリテラシーを強化

社員が自らITリテラシーを強化できるようにEラーニングシステムを導入したり、IT関連の資格支援の金銭的援助などを行うことも有効です。

(資格例)

  • P検(ICTプロフィエンシー検定)
  • ITパスポート
  • 情報セキュリティマネジメント試験
  • マイクロソフトオフィススペシャリスト(MOS)

社内のポテンシャルの高いIT人材に目を向ける

AI、IoT、ビッグデータなど新しい領域の知識はどうしても経験者が少ないため中堅・中小企業が人材を採用するのは困難です。また、前述のPIAACの結果にあるように、日本のビジネスパーソンは年齢・性別にあまり関係なく高いポテンシャルを持っています。

経済産業省では日本のIT人材不足に対して、シニア層の活用、女性の活用、外国籍人材の活用を施策としてあげています。特に女性についてはすでにIT産業従事者の1/4が女性であることや、以下のグラフでもわかるようにマネジメント上の課題も「離職率が高い」という点をのぞけば問題は少なく、もっとも戦力化が期待できます。

ITリテラシー7.女性やシニアIT人材活用の課題

画像引用元:経済産業省の「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」

 もちろん女性に限りませんが、社内や転職市場にいるポテンシャルがありながら埋もれている人材に目を向けることも有効かもしれません。

まとめ

近年は、画期的な技術が出てくると過去の経験値、スキルがすぐ役に立たなくなる時代だと言われます。

身につけたスキルがすぐ陳腐化するというのは誰にとっても厳しいことですが、視点を変えれば従来のITリテラシーをそれほど身につけていない人材でも、最先端のITリテラシーを学ぶという点で大きなハンデがないという理解もできます。

もちろん、基礎学力は必要ですが、PIAACの結果でわかるように日本の労働者は老若男女、学歴問わず先進国の中で読解力、数的思考力が高い水準にあります。また、エンジニアではない一般社員に求められるのは、あくまでAIを搭載したシステムなどを活用する能力です。

大切なのはむしろ、ITリテラシーがいかにこれからの仕事やキャリア形成において武器になるか、そして世界中が同じような変化を迎えているなか、早く適応したほうがいかに有利かを社員に腹落ちしてもらうことかもしれません。

いずれにせよ、第4次産業革命のもとで求められるスキルを意識した教育研修を早めに実施していくことが重要です。常に新しいことを学び続けられる社員が増えれば、企業の生存確率も高くなっていくでしょう。

戸栗 頌平
著者情報戸栗 頌平

B2Bマーケティングを幅広く経験。外資系ソフトウェア企業の日本支社立ち上げを行い、創業期の全マーケティング活動を責任者として行う。現在東京在住。2019年はフィリピンに在住し日本企業のBtoB活動を遠隔支援、場所にとらわれない働き方を通じ、マーケティング支援の戦略立案から実行までの支援を行なっている。Facebookは こちら。Twitterは こちら。LinkedInは こちら。ウェブサイトは こちら

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