【2022年最新版】ライブエンタメ市場の現況と今後の展望

ライブやコンサート、フェス、舞台やミュージカルといった集客を行うライブエンターテイメント(以下ライブエンタメ)は、近年大きな成長を続けています。しかし、2020年に発生した新型コロナウイルス感染症の影響で、人と人とが「密」になる状況が大きく制限されてしまい、ライブエンタメも開催中止や延期が相次ぎました。

対面での開催が制限される中、躍進を遂げたのがライブエンタメをリアルタイムに配信するオンラインライブです。オンラインライブには、会場で行われるライブとは違い、手軽に参加できる、人数制限がない、といったメリットがあります。そのため、ライブエンタメの開催がコロナ禍前に戻りつつある2022年現在でも、オンライン配信が採用され続けています。このように、新型コロウイルス感染症の影響により数年で大きく状況が変わっているライブエンタメ市場。そのため、市場が今後どのような変化を遂げていくのか不安を感じている方も多いのではないでしょうか。

新型コロナウイルス感染症の影響がライブエンタメ市場をどう変えたのか、またその後どのように進化を遂げたのか。コロナ禍を3年目を迎えた今だからこそ、見えてきた数々の調査などの数字をもとに、これからの展望も交えてライブエンタメの「今」と「これから」を解説します。

目次[ 非表示 ][ 表示 ]

新型コロナウイルスによるライブエンタメ市場の変化

2020年に発生した新型コロナウイルス感染症流行拡大の影響は、それまで右肩上がりで成長を続けてきていたライブエンタメ市場にとって計り知れないほど大きなものでした。実際にどのような変化が起きたのか、市場の変化について解説します。

市場規模の変化

ライブ・エンタテインメント市場規模の推移」(ぴあ総研)によると、2010年は3159億円だったライブエンタメ市場の規模は、2019年には6295億円と好調な成長を続けていました。その成長に暗い影を落としたのが、2020年の年初に発生した新型コロナウイルス感染症流行拡大です。

新型コロナウイルス感染症は、人が集まり密になることが感染拡大要因のひとつとされ、そのため会場に多くの人が集まったり、大きな発声や人と密着するライブエンタメは、中止や延期を余儀なくされました。

2020年2月には国によるイベント自粛要請があり、緊急事態宣言が発出されたことで外出を控える人が増加。緊急事態宣言が解除されたのちも、イベントの収容人数制限や業界による自粛も続き、2020年のライブエンタメ市場は1106億円と、前年比82.4%減まで大きく縮小する形になりました。

2021年も市場は回復を見せたものの、緊急事態宣言の繰り返される発令により収容人数制限は継続され、いわゆるコロナ禍前の2019年比で51.2%減の3072億円に留まりました。

2021年9月に収容人数制限が緩和されたことで、市場は回復の道を歩んでおり、2022年のライブエンタメ市場は2019年比で18.2%減の5176億円と予想されています。2023年以降は徐々にコロナ禍前まで回復するのではないかという将来予測がされてる状況です。

参考:2022年6月ぴあ総研「2021年ライブ・エンタテインメント市場規模の回復は道半ば ~2023年にコロナ禍前の水準に復活という見込みは変わらず~ / ぴあ総研が確定値を公表」

オンラインライブの増加・普及


オンラインライブの増加・普及イベント自粛要請や外出自粛により、ライブエンタメ市場で頭角を現したのが自宅に居ながらインターネットでライブイベントを楽しめる「オンラインライブ」です。

2020年の初めての緊急事態宣言時に、アーティストが自主的にSNSや動画配信サイトでオンライン配信を行ったことがこの普及のきっかけとなりました。その後、無観客ライブの配信、そして有観客ライブの配信と、発信側の創意工夫によりオンラインライブもどんどん進化を遂げています。

ぴあ総研が行った調査によると、コロナ禍をきっかけに増加傾向にある有料オンラインライブ市場は、2021年には前年比14.4%増の512億円にまで成長を見せています。収容人数制限が緩和された後でも、ライブエンタメの新しい楽しみ方のひとつとして、オンラインライブが消費者の中で既に定着し始めているといえるでしょう。

参考:2022年6月公開ぴあ総研「2021年のオンラインライブ市場は前年比14.4%増の512億円に成長 / ぴあ総研が調査結果を公表」

2022年現在のライブエンタメ業界の動き

2022年8月執筆時現在の、ライブエンタメ業界の動きについて事例を交えて解説します。

イベントの参加人数や収容率による制限は引き続き継続

新型コロナウイルス感染症拡大の波により、これまでに何度も緊急事態宣言の発令と解除が繰り返されてきました。そのたびにイベントの収容人数制限は内容が変化しています。

自治体によって制限内容は異なりますが(基本は内閣官房新型コロナウイルス等感染症対策推進室による基本的対処方針に沿った内容)、現在も引き続き制限を継続している自治体がほとんどです。多くのイベントが行われる東京都では、観客による大声の有無により以下のような制限を設けています。

  • 以下の「人数上限」、「収容率」のいずれか小さい方とする。
  • なお、「大声なし」で、「参加人数5000人超かつ収容率50%超」のイベントについては、「感染防止安全計画」(下記「2『感染防止安全計画』の策定・提出について」参照)を策定し、東京都の確認を受けた場合、人数上限は収容定員までかつ収容率の上限を100%とすることができる。

<人数上限>
  • 5000人又は収容定員の50%のいずれか大きい方
  • 「感染防止安全計画」を策定し、東京都による確認を受けた場合、収容定員まで入場可

<収容率>
  • 大声なし:収容定員の100%以内
  • 大声あり:収容定員の50%以内

※引用:東京都防災ホームーページ「※7月15日更新【5月23日から】イベントの開催制限等について」

これまでは大声を出すことがほとんどであったライブやコンサートも、収容人数を増やすために、観客に大声を禁止して開催している例が多くあります。現在では発声の全面解禁には至っておらず、主催者側、観客側、双方による協力のもとにフルキャパシティでの開催が行われています。

会場での有観客大規模イベント開催

コロナ禍も3年目に突入したことで、感染症拡大により自粛だけを行うのではなく、感染対策を行って興行を続ける「ウィズコロナ」がライブエンタメ市場でも広がっています。

2022年には、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL(ロックインジャパン)」や「SUMMER SONIC(サマーソニック)」などの大規模なフェスやイベントも、感染症対策を徹底することで3年ぶりに開催され、大盛況となりました。

コロナ禍における水際対策により来日が果たせていなかった海外アーティストも、2022年の制限緩和によりフェスにも多数参加、単独の来日公演も開催数が増えています。

会場+ライブ配信のハイブリッドも

「有観客ライブ+リアルタイム配信」という、これまでにはあまり見られなかったハイブリッド開催も、オンラインライブの普及と共に増加しています。

オンラインライブの始まりとして有名なものは、2018年からYouTubeで無料配信を行っている「FUJI ROCK FESTIVAL(フジロック)」です。フジロックは全世界へリアルタイム配信を行うことで、出演している邦楽アーティストの知名度向上を目的として無料配信を始めました。

無料配信によって観客が減るのではなく、「配信を見ることでリアルイベントに行きたくなる」という意見も多く、2022年で4回目の開催を数えています。

ハイブリッド開催は有観客ライブとリアルタイム配信・アーカイブ配信を組み合わせることで、ライブそのものは会場で有観客で行い、その盛り上がりをリアルタイムに配信映像で伝えられます。

観客は場所や時間に関係なく自分の好きなスタイルでライブを楽しめるので、これまでライブへの参加が難しかった子育て層や、会場から離れた地方に住むファン層も、会場と時間や盛り上がりを共有しながら自宅からライブに参加可能です。

また、主催側も、ハイブリッド開催にすれば会場の収容人数に関係なくイベントの参加者を増やせるようになります。現場で参加する人数を制限して密を回避しつつ、多くの人が視聴できるイベントを開催できるでしょう。ハイブリッド開催はアフターコロナのライブエンタメ市場の定番となっていくのではないか、と期待されています。

ライブエンタメ今後の見通し

コロナ禍、そして「アフターコロナ」を見据えたライブエンタメ市場は、これからどのような展開を迎えるのでしょうか。今後の展望と、鍵となるオンラインライブの課題について解説します。

市場全体の展望

先述のぴあ総研の調査によれば、ライブエンタメ市場は2023年にコロナ禍前と同等の水準に戻ると考えられています。その後も年平均2.4%の伸びで成長が続く予想です。

コロナ禍によりオンラインライブなどの「非接触」に慣れた観客にとって、「リアル」へのニーズはコロナ禍前よりも高まっていくと見られているためです。

リアルのライブエンタメの会場になるイベント会場は、大型施設の改修や建て替えにより2016~2018年頃に会場の不足が叫ばれていました。しかしそれも2022年現在新たなホールやアリーナの建設により緩和されてきています。

2023年以降にオープンが予定されている収容人数1万人以上の大規模なアリーナには、2023年開業予定の「Kアリーナ横浜(神奈川県横浜市)」、2024年開業予定の「ららアリーナ東京ベイ(仮称)(千葉県船橋市)」、2027年開業予定の「万博記念公園付近の西日本最大級アリーナ(大阪府吹田市)」などがあります。

アリーナなどによる大規模なイベント開催は、ライブエンタメ市場だけではなく会場のある地域への集客にもつながります。

2020年に「ぴあアリーナ MM」を開業したぴあは、ライブエンタメと街づくりを一体化を進めるとして東京・神奈川で街づくりを行ってきた三菱地所と業務提携を行いました。このほかにも、DeNAによる「スポーツエンタメを核としたまちづくり」など、ライブエンタメによる街づくりが行われています。

ライブエンタメ市場は地域の中心となり地域と共に発展していく産業として、今後も広がり続けていくと考えられます。

ライブエンタメの鍵を握るオンラインライブの課題


ライブエンタメの鍵を握るオンラインライブの課題2022年現在、リアルタイム配信を行ったあとに録画したライブ映像をアーカイブ配信するなど、ハイブリッドなオンラインライブも定番となりました。

しかし、ライブエンタメにおいてオンラインライブの一番の課題は「生」感の少なさです。時間や映像の共有ができても、会場の一体感や空気といったリアル感はどうしても薄れてしまいます。この課題を克服するため、さまざまな工夫が行われています。

例えば、会場に複数台のカメラを導入することも、ライブ感を損なわずに映像として見せるための工夫のひとつです。会場でリアルに視線を切り替えてステージを見るように、アイドルなどのライブでは特定の人物だけを追いかけて映す専用カメラや、カメラを自由に切り替えられるマルチアングルなどが複数台のカメラにより可能になります。

また、ライブをそのまま配信するだけではなく、最新技術を駆使してライブそのものを映像配信に特化させた形で作るなど、オンラインライブならではの配信をするケースもみられます。

メタバースを始めとした仮想空間が広がりを見せる中、アバターとして観客が仮想空間で行われるライブに参加するオンラインライブも、今後増えていくでしょう。実際に、2020年、2021年に人気ゲーム「FORTNITE」内にて、邦楽アーティストによるバーチャルライブが開催され話題になりました。

仮想空間のライブでは、ライブ映像を見ながらアバターを操作して会場内で自由に動いたり、観客同士でコミュニケーションできます。画面を見るだけのオンラインライブとは異なり、没入感や一体感を得られるでしょう。

これまでまったく異なるものとされていたライブや演劇などの「生」のステージと、画面越しに見る「映像」を、それぞれの特性を活かして新しい楽しみ方を見せているオンラインライブ。

リアルとオンラインの垣根を無くしていくことが、オンラインライブの今後、すなわちライブエンタメのこれからの新しい価値を生み出していくポイントとなるでしょう。

まとめ

新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、2020年には8割減となってしまったライブエンタメ市場も、2023年にはコロナ禍前と同じ水準に戻ると予想されています。

オンラインライブにより、時間や場所に関係ない新しいライブの楽しみ方が定着したライブエンタメ市場は、「生」をより楽しめる大規模なアリーナの建設や、インターネットの特性を活かしたオンラインライブの進化により、これからも新たな価値が生み出されていくと考えられます。

山本脩太郎
著者情報山本脩太郎

ブイキューブのはたらく研究部 編集長?部長? 2018年株式会社ベーシックに新卒入社。 インサイドセールスを経て、マーケティングメディアferretの編集部でインタビュー記事を中心とした企画・執筆などを担当。 同時期に数社のコンテンツマーケティング支援・インタビュー取材を経験。 2020年3月に株式会社ブイキューブに入社。

関連記事