職場環境は従業員の働きやすさを左右し、生産性や離職率などに影響を与えます。働きやすく仕事に集中できる環境は生産性の向上が期待でき、従業員満足度が高く離職も防げるでしょう。一方、従業員が働きにくいと感じる職場は、仕事の効率が低下しやすく優秀な人材が転職してしまう原因になります。
厚生労働省も「職場環境改善はストレス要因の改善や生産性の向上に有効」としていて、職場環境の改善は企業にとって必要な取り組みです。しかし、従業員のストレスの原因はさまざまで、職場環境は多くの要素から成り立っていることもあり「どこから改善すればよいかわからない」という経営者や企業担当者の方もいるのではないでしょうか。
また、職場環境改善には総合的な対策が必要です。例えば、オフィスを快適に整備しても人間関係が良くなければ離職につながりますし、人間関係が良好でも業務効率が悪く生産性が低い職場もあります。
そこで今回は、職場環境を構築する「作業環境」「人間関係」「働き方の制度」「仕事の進め方」の4つの視点から、それぞれ改善のためのアイデアを紹介します。

オフィスの作業環境を改善するアイデア

オフィスの作業環境を改善するために、主に以下のような施策があります。
- ワークブースの導入
- パーソナルスペースを考慮したオフィスレイアウトの設計
- オフィス家具の新調
- リフレッシュスペースの確保
上記5つのアイデアについて、以下で詳しく紹介します。
ワークブースの導入
ワークブースとは、作業をするための個室スペースのことです。デスクや椅子、電源など仕事をするために必要な設備が整っていて、コンパクトな1人用ブースや2〜4人で使用できる少人数用ブースがあります。ワークブースは集中して作業したいときだけでなく会議にも活用できるため、会議室不足の解消にもつながります。
新型コロナウイルスが流行してからWeb会議の回数が増え、「Web会議で使用する会議室が足りない」という問題を抱えている企業も多いのではないでしょうか。86.8%の人が「新型コロナウイルスの流行が始まってからWeb会議の頻度が高まった」と回答しているアンケート結果もあり、Web会議のための会議室の確保が求められています。
会議室が足りないと、自席でWeb会議に参加しなければなりません。しかし、自席でのWeb会議は周囲の雑音で会議に集中できなかったり、反対に「自席でWeb会議をされるとうるさい」と周囲の人の迷惑になったりすることがあります。
ワークブースはオフィス家具のようなもので、設置に特別な工事は必要ありません。そのため、コストや時間を抑えながらオフィスに個室空間を増やすことができ、Web会議用スペースをすぐに増設したい場合にも適しています。
パーソナルスペースを考慮したオフィスレイアウトの設計
オフィスレイアウトを検討するときに押さえておきたいのが、パーソナルスペースについてです。パーソナルスペースとは他人が侵入すると不快に感じる空間のことで、人によってパーソナルスペースの広さは異なります。
また、相手との関係性によっても不快に感じる距離は変わってきます。「親しい相手なら距離が近くても平気だけど、満員電車で知らない人と距離が近くなるのは不快」と感じる人も多いでしょう。
オフィスでも人と人との距離を適切に保てるよう、パーソナルスペースを意識したレイアウト設計が必要です。デスクの間隔が狭かったりデスクの幅が狭すぎたりすると隣の人との距離が近くなり、ストレスに感じるようになります。その結果、従業員が作業に集中できなくなり、生産性が落ちることも考えられるでしょう。
オフィスで確保しておきたいパーソナルスペースは、1.2mが目安です。コクヨの調査では約6割の企業が幅1.2mのデスクを採用しているという結果が出ており、感染症対策の観点からもできるだけ2m、最低1mは間隔を空けるよう推奨されています。そのため、従業員同士の距離が1.2m以上となるようレイアウトを見直してみてください。
オフィス家具の新調
デスクや椅子といったオフィス家具を新調するのも、作業環境の改善につながります。「デスクの高さが身体に合っていない」「長時間座っていると腰が痛くなる」など、オフィス家具が作業効率の低下や身体の不調の原因となっているケースもあります。
身長や体格は人によって大きく差があるので、身体に合わせて高さを変えられる昇降式のデスクがおすすめです。昇降式デスクは天板を上げればスタンディングデスクとしても使えて、立った状態でも仕事ができます。
日本人は座っている時間が世界最長といわれていて、スポーツ庁も健康のためにスタンディングデスクや立った状態での会議などを推奨しています。従業員の健康を良くするためにも、昇降式デスクの導入を検討してみましょう。
オフィスチェアもさまざまな種類のものが販売されていて、従業員にヒアリングを行って腰痛や座りにくさなどの不満があるようなら新調が必要です。座面スライドや前傾機能、腰を支えるランバーサポートなど、身体への負担を抑える機能が備わったオフィスチェアも多くあります。
リフレッシュスペースの確保
オフィスには仕事をするスペースだけでなく、仕事の合間にリフレッシュするためのエリアも必要です。休憩を取らずに作業し続けると疲労が溜まって集中力が続かず、作業効率が落ちてしまいます。オフィス内にリフレッシュスペースを設けて、従業員が自由なタイミングで小休憩を取れる環境を整えましょう。
リフレッシュスペースが確保されていないと自席で休憩しなければなりませんが、「自席ではリフレッシュしにくい」と感じる人もいます。6割以上の人が「周りの目が気になって休憩が取れなかったことがある」と回答した調査結果もあるため、リフレッシュスペースを整えて適切に休憩を取ることを推奨する環境作りも大切です。
職場の人間関係を良くするためのアイデア
職場の人間関係も、働きやすさを左右する要因のひとつです。職場の人間関係を良くするために、以下のような施策に取り組んでみましょう。
- 社内イベントの実施
- 社内報の刊行
- 1on1ミーティングの実施
それぞれの施策について、以下で解説します。
社内イベントの実施
社内イベントを実施すると、コミュニケーションの促進が期待できます。社内イベントを実施した結果、51%の人が「職場内のコミュニケーションが増えた」と回答したアンケート調査もあり、社内で良好な人間関係を築くのに効果的です。
社内イベントは社員旅行や運動会といったコミュニケーション重視のものから、表彰式や総会など従業員のモチベーションアップや企業のビジョンを共有するためのものまで、さまざまな内容が考えられます。目的に応じてどのようなイベントを実施すべきか検討してみましょう。
社内イベントの満足度を高めるためには、参加者の負担を減らすことが大切です。例えばイベントを休日に行うなら、平日に振替休日を設けたりイベント開催日にも賃金を支払ったりするなど、イベント開催に対する不満が生まれないよう工夫しましょう。
社内報の刊行
社内報の刊行も、従業員同士のコミュニケーションに役立ちます。社内報で社員紹介を掲載すれば、別の部署にいる従業員の顔や名前、仕事内容を把握でき、実際に顔を合わせたときに会話のきっかけになるでしょう。また、社内イベントの様子を掲載すれば、イベントに参加できなかった人も当日の様子がわかります。
従来は紙の社内報が主流でしたが、近年はWebサイトやアプリで見られる社内報を発行している企業もあります。閲覧のしやすさや発行の手間などを考慮して、自社に合った媒体で社内報を発行してみましょう。
1on1ミーティングの実施
1on1ミーティングとは、その名のとおり1対1でミーティングを行うことです。基本的に上司と部下の組み合わせで実施し、目標管理や進捗確認、業務上の課題や悩みなどについて話し合う場を設けます。
部署の人数が多かったり業務が忙しかったりすると、上司と部下が1対1で会話をする機会は少なくなりがちです。コミュニケーションが少ないと「悩みがあるのに上司に相談しづらい」「部下の不満を把握しきれていない」など、部署内の人間関係が希薄になってしまうため、定期的に1on1ミーティングを実施して上司と部下の人間関係を築くことが大切です。
働きやすさを向上させるためのアイデア

働きやすさを向上させるために、オフィス環境や人間関係に加えて働くスタイルも見直してみましょう。
ここでは、新しい働き方として注目を集めている「ハイブリッドワーク」と「ABW」について解説します。
ハイブリッドワーク
ハイブリッドワークは、オフィス勤務とテレワークを組み合わせた働き方です。
従業員は業務内容やその日の状況によって出社かテレワークかを自由に選択できます。例えば、「一人で作業に集中したい日はテレワーク」「ミーティングがある日は出社する」など、その日の予定に合わせてどこで働くかを選べます。作業内容に応じて働く場所を選べるため、作業効率が上がって生産性の向上につながるでしょう。
また、「台風の予報が出ているから自宅で仕事をする」「新型コロナウイルスの感染者数が減ってきたから出社する」など、天候や感染状況なども考慮して柔軟に働くことが可能で、従業員自ら働き方を選べるため個別の事情に配慮しやすいことも大きなメリットです。
ハイブリッドワークの導入のためには、持ち運びできる端末を支給するか、自宅にある私物パソコンの業務使用を許可するなど、会社の外や自宅で仕事をするための設備や制度を整える必要があります。
ABW
ABWは「Activity Based Working」の略で、働く場所と時間を従業員が自由に選べる働き方のことです。ハイブリッドワークよりもさらに自由度が高く、以下のようにその日の予定や家庭の事情、気分によって従業員が自分で働き方を決められます。ABWを導入すると、以下のような働き方ができるようになります。
- 客先訪問の合間にカフェで仕事をする
- 午前中はオフィスに出社し、子供が学校から帰宅する夕方以降は自宅で仕事をする
- テレワークだけでは人と会話する機会がないので週に1回は出社する
ただし、ABWは従業員がどこにいても問題なく仕事ができる環境を整える必要があるため、持ち運びできる端末の支給やコミュニケーションツールの導入など、社内整備にコストがかかる点に注意が必要です。
業務内容・仕事の進め方を最適化するためのアイデア
日々の業務効率をアップさせるために、会議の進め方の見直しや業務効率化ツールの導入も検討してみてください。
以下で、これら2点の具体的な内容について解説します。
会議の進め方を見直す
生産性の向上や労働時間の削減のためには、会議の時間を短くすることが大切です。会議時間が長過ぎるとほかの業務に充てられる時間が短くなり、1日にこなせる仕事量が減って生産性が落ちたり、残業が増えて労働時間が長くなったりする原因になります。自社の会議の課題として69.1%の人が会議時間の長さを挙げている調査結果もあり、会議の進め方に改善が必要な企業も多いでしょう。
会議を効率的に進めるために、以下のポイントを意識してみてください。
- 事前に会議の目的やゴールを事前に共有しておく
- プロジェクターやWeb会議用のマイク・カメラなど、必要な機材は会議開始前に準備する
- 最初に自己紹介や簡単なゲームを行い、参加者が話しやすい雰囲気を作る(アイスブレイク)
- 司会進行役を決め、時間に沿ってアジェンダを進める
「参加者一人ひとりの貴重な時間を使って会議をしている」という意識で、なるべく短い時間で会議の目的を達成できるように努めましょう。
業務効率化ツールを導入する
「同じ仕事をより短い時間でこなせるようにする」「複数人でやっていた仕事を1人で対応できるようにする」などが可能になれば、生産性の向上につながります。これらは業務効率化ツールの導入で実現できるケースがあるので、業務内容に合わせてITツールの活用を検討してみましょう。
例えば、業種に応じて以下のような業務効率化ツールがあります。
業種
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業務効率化ツール
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全職種
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・Web会議ツール
・チャットツール
・オンラインストレージ など
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マーケティング
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・MA(見込み客を管理してマーケティングを支援するツール)
・コンテンツ分析ツール など
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営業
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・オンライン営業用のWeb会議ツール
・SFA(営業活動の履歴を管理するツール)
・CRM(顧客管理ツール) など
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エンジニア
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・タスクや進捗管理ツール など
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経理財務
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・会計ソフト
・経費管理システム など
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人事労務
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・勤怠管理ツール
・電子署名ツール など
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このように、業務を効率化するためのさまざまなツールが提供されているので、自社の業務内容に合わせて効果が期待できそうなツールがないか探してみてください。
まとめ
職場環境は作業スペースの使いやすさや人間関係、働き方の制度などさまざまな要素から作られています。どれかひとつでも従業員にとって「働きにくい」と感じる要素があると、生産性の低下や人材の流出を招く恐れがあるため、広い視点で職場環境の改善に取り組まなければなりません。
本記事で紹介したアイデアをもとに、「自社が抱える課題はなにか」「どの施策なら対応しやすそうか」などを考えてみてください。従業員視点で考えることも重要なため、アンケートを実施するのもおすすめです。それぞれの企業の事情も踏まえて、取り組みやすい施策から対応を進めてみてください。
これからの働きやすい職場環境とは?
新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、2020年から多くの企業で在宅勤務を中心としたリモートワーク・テレワークの導入が進みました。そうした中、テレワークとオフィス出社を組み合わせたハイブリッドワークと呼ばれる働き方も広がっています。
ハイブリッドワークではオフィスに求められる役割や機能も変わり、従来のオフィスには無いような設備が求められます。
この資料では、このようなハイブリッドワーク時代のオフィス設計のポイントをまとめました。これからのオフィス環境整備にぜひお役立てください。
