近年注目のパルスサーベイとは?導入が進む理由と目的別の質問例
近年、従業員エンゲージメントの調査などで注目を集めているパルスサーベイ。週次・月次といった高頻度で実施され、質問数が10問程度と少ない点が特徴です。
株式会社HRビジョン発行の『日本の人事部 人事白書 2021』によると、パルスサーベイを導入している企業は18.9%と2割程度ですが、「今後行う予定である」と回答した企業は17.0%に上り、両者を合わせると3社に1社はパルスサーベイに関心があることになります。
しかし、すでに何らかの意識調査を実施している企業の担当者の方にとっては、新たにパルスサーベイを導入する必要性や具体的な内容について疑問点もあるのではないでしょうか。
そこで本記事では、パルスサーベイとは何か、導入が進む背景には何があるのか、どんなことを質問するのかといった内容をまとめて解説します。
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パルスサーベイとは
パルスサーベイ(Pulse Survey)とは、企業が社員を対象に実施する意識調査(アンケート)手法のひとつです。週に1回、月に1回など、比較的頻繁に実施し、質問内容も基本的に毎回同じものを使用します。また、質問数は10問前後に絞られ、社員が数分で回答できるスタイルです。
「パルス」・「サーベイ」は、それぞれ日本語の「脈拍」・「調査」を意味します。人は脈拍を測ることで心臓や血流に異常がないかをチェックしますが、それと同じイメージで企業と社員の関係性が健全であるかどうかを簡易的に調査するのが目的です。
調査内容は社員の満足度やエンゲージメント度合いだけでなく、ストレスチェック、経営理念の理解度、社内制度への反応など、目的に応じて幅広く選択できます。
パルスサーベイとセンサスの違い
かつて社員の意識調査は「センサス(Census)」が主流でした。しかし、近年は対比的な調査手法であるパルスサーベイに注目が集まっています。ここでは、パルスサーベイとセンサスそれぞれの特徴を比較してみましょう。
パルスサーベイ | センサス | |
実施頻度 | 週1回、月1回など | 年1、2回 |
質問数 | 10問前後 | 50問以上 |
回答トピック | 限定的 | 包括的 |
調査対象者の規模 | 小規模(部署単位など) | 大規模(全社単位) |
フィードバックまでの時間 | 短い | 長い |
パルスサーベイとセンサスはどちらも社員の意識調査を行うための手法ですが、実施頻度や質問数など、さまざまな点で対照的です。
頻繁に行われるパルスサーベイが効果を発揮するのは、リアルタイムな情報を得て、現状を理解したいときです。例えば、従業員満足度をパルスサーベイで調査すれば問題が起きたときすぐに把握しやすく、離職が生じる前に満足度が低い状態に陥っていないかどうか確認できます。そのため、問題が悪化する前に状況を改善可能です。
一方、同じ調査をセンサスで行った場合は、より豊富な情報が得られるため、部署ごとの満足度を比較したり、満足度の高い社員の持つ傾向を分析したりできます。これにより、企業としての課題を抽出したり、部署ごとの改善策を検討したりしやすくなるでしょう。
パルスサーベイを導入するメリット
パルスサーベイが注目されるようになったのは、以下のようなメリットがあるからです。ここでは、パルスサーベイの強みについて、導入が進む背景事情とともに解説します。
- 社員の状況がリアルタイムでわかる
- 実施期間中の状況変化を追える
- 回答者・分析者の負担が少ない
社員の状況がリアルタイムでわかる
パルスサーベイは高頻度で実施されるため、社員の現在の状況を把握できるのがメリットです。匿名式とするか記名式とするかは企業によりますが、記名式であれば個別フォローもしやすいでしょう。
テレワーク中の社員の状態を知るためにもパルスサーベイは適しています。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって人流の抑制が求められた結果、テレワークを導入する企業が増えました。これにより、働き方の選択肢が増えた一方、社員同士が直接会ったり話したりする機会は減少し、コミュニケーションの減少や、それに付随した業務に対して悩みを持つ社員も見られます。
具体的には「OJTがうまくいかない」「面識のない社員とオンラインで話すのが気まずい」「新入社員が孤立している」といったものです。
こうした問題は、放置することでモチベーションの低下や離職につながるリスクがあるため、できるだけ早期に対処する必要があります。
そこで役に立つのがパルスサーベイです。パルスサーベイは毎週や毎月といったペースで実施されるからこそ、現在リアルに起きている課題に対する早期の発見・フォローを可能にします。
逆に、年に1、2回のセンサスでは、情報量の多さから分析に時間がかかり、アフターフォローが遅れることもあるでしょう。つまりパルスサーベイには、センサスによる限界をカバーする役割があるということです。
実施期間中の状況変化を追える
先述の通り、パルスサーベイでは特定の目的に沿った同じ質問が、毎回繰り返されます。これにより、社員の状態変化を定点観測できます。
例えば、ストレスチェックを目的とした月次のパルスサーベイで「今、仕事にストレスを感じますか?」という質問に5段階で回答するとします。
このとき、ある月のパルスサーベイで「あまり当てはまらない」の2を選択した社員が、次の月に「非常に当てはまる」の5になり、その次の月も5のままだったとしたら、面談などのフォローが必要でしょう。少なくともこの回答の変化から「最近何か問題があるようだ」と分かるからです。
また、フォロー後のパルスサーベイで同じ質問への回答を引き続きチェックすれば、対応が適切だったかどうかも検証可能です。
こうした企業によるきめ細かいサポートは、「会社は自分を大切にしてくれている」と社員が認識する機会となり、結果的に満足度やエンゲージメントを向上させる可能性があります。したがって、パルスサーベイは社員の状況変化を見過ごさないための手段としても有力視されています。
回答者・分析者の負担が少ない
質問数の少ないパルスサーベイは、回答者・分析者の双方にとって負担が少ない点もポイントです。
日常業務に忙しい社員でも、数分で完結するパルスサーベイであればセンサスと比較して取り組みやすく、高い回答率が期待できます。その結果、個々の社員や職場の状況をより正確に把握でき、改善の機会も得やすくなるでしょう。
近年は、IT技術の進化によってパルスサーベイを簡単に導入できるツールも複数出てきました。このように導入へのハードルを下げる環境が整ってきたことも、パルスサーベイが注目を集める要因の1つとなっています。
パルスサーベイの質問例
パルスサーベイを実施する際は目的に応じた質問を選択する必要があり、その種類は以下の3つに大別されます。
- 満足度に関する質問項目
- 経営理念に関する質問項目
- 業務に関する質問項目
なお、回答方法には「YES」「NO」の2択式や、「1~5」「1~10」といった段階の中から当てはまるものを選ぶタイプがあります。
満足度に関する質問項目
以下は、満足度に関する質問例を「エンゲージメント」「人間関係」「ストレス」に分けたものです。
満足度
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エンゲージメント |
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人間関係 |
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ストレス |
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少子高齢化による労働人口の減少が続く日本では、働く社員の満足度が重視されています。社員の満足度は、生産性の向上や離職率の低下につながるからです。
事実、厚生労働省による「今後の雇用政策の実施に向けた現状分析に関する調査研究事業(平成27年)」でも、従業員満足度を重視する企業は、そうでない企業と比較して「業績」と「人材確保」が好調であるという結果が出ました。
また、『日本の人事部 人事白書 2021』によると、パルスサーベイを実施する目的の第1位は「従業員エンゲージメントの調査」、第2位は「従業員満足度の調査」となっており、関心度の高い項目であることがわかります。
経営理念に関する質問項目
パルスサーベイでは、以下のような質問で経営理念の浸透度の調査も可能です。
経営理念の浸透度 |
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社内に企業理念が浸透すると、携わる業務は違っても個々の社員が同じビジョンや目標に向かって働けるようになるため、社員同士の一体感が生まれやすくなります。その結果、企業への帰属意識が高まり、モチベーションや生産性の向上が期待できるでしょう。
しかし、組織の状況によっては経営サイドと現場サイドでバラバラなことを考えているケースもあります。経営理念に関する質問は、こうした認識の隔たりを調査するのに有効です。
業務に関する質問項目
業務に関する質問には、以下のように「業務内容」「待遇」「職場環境」といった項目があります。
業務 | 業務内容 |
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待遇 |
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職場環境 |
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株式会社ビズヒッツが行った職場の不満に関する調査によると、職場の不満ランキングの上位5つは「人間関係・雰囲気が悪い」「収入が少ない」「労働時間・休日への不満」「職場の環境・設備が悪い」「仕事量・内容が不公平」となりました。
第1位以外は業務に関する内容が並んでおり、こうした不満はトラブルや離職を誘発する可能性もあります。したがって、職場改善を目指すような場合には、業務に関する質問を中心に選択して調査するのがおすすめです。
パルスサーベイの活用シーン
パルスサーベイは通年で全社的に行うというよりは、離職者が立て続けに出ている部署や、完全在宅勤務者など、対象者を絞って短期的に繰り返すタイプの調査です。代表的な活用シーンの例としては、以下のようなものがあります。
- 簡易ストレスチェック
- オンボーディング施策
- 制度や設備の導入・見直し
社員の離職を防いだり、生産性を向上させたりすることがパルスサーベイの目的である場合は、簡易ストレスチェックとして特定の部署などを対象にパルスサーベイを行い、従業員満足度やストレス度合いを調査するとよいでしょう。
また、オンボーディング施策の一環としてもパルスサーベイは有効です。オンボーディングとは、入社したばかりの社員を職場に定着させるまでのプロセスを指します。
就職や転職をして間もない人は、不安や悩みがあっても社内に相談できる上司・同僚が限られるため、問題を1人で抱え込んでしまうケースが少なくありません。
しかし、この時期にパルスサーベイを実施し、課題を早期に発見・改善できれば、よりスムーズに職場へなじんでもらうことが可能です。なお、このタイプのパルスサーベイは新卒社員や中途社員だけでなく、人事異動のあった社員を対象とする場合もあります。
さらに、新たな制度や設備の導入、既存のものの見直しの際、事前にパルスサーベイを実施する方法も考えられます。
現場の意見は、現状の問題点を把握したり、改善のアイデアを発見したりするのに役立ちます。それらを活用すれば、実態にそぐわない制度や不要な設備を導入してしまうリスクを下げることにつながるでしょう。
パルスサーベイ導入時の注意点
パルスサーベイには複数のメリットがある一方で、導入時の注意点も存在します。そこで最後に、どのような点に気をつけるべきかを確認しておきましょう。
目的と回答内容の取り扱いを周知する
パルスサーベイは個別フォローができることがメリットですが、適切な対策を講じるには社員に率直な回答をしてもらわなければなりません。したがって、実施目的をしっかりと伝え、社員に「真剣に回答しよう」と思ってもらうようにしましょう。
また、回答の閲覧ができる人の範囲、人事評価には影響しないこと、個人が特定されるかどうか、特定される場合はなぜかなど、丁寧な説明も必要です。
実施フローをしっかり確立する
パルスサーベイは質問数が少ないため、問題があってもその詳細までは把握しにくい点が弱点です。したがって、状況を詳しく知るには面談などのフォローが欠かせません。
しかし、実施頻度が高いパルスサーベイでは、その分「設計」→「実施」→「分析」→「フォロー」のサイクルも頻繁に繰り返されます。このとき、分析者の作業が追いつかないなど実施フローの機能不全が起こらないように注意しましょう。
フォローまで手が回らないといった事態になると、「パルスサーベイは意味がない」という認識が社内に広がり、回答しない社員や、毎回同じ回答を機械的にする社員が出て、調査自体が形骸化する可能性があるからです。
実施フローを確実なものにするには、事前に小規模なパルスサーベイで流れを検証するといった工夫をおすすめします。
まとめ
高頻度かつ少ない質問数が特徴のパルスサーベイは、社員の現状が把握できたり、状況の変化を追跡できたりするのがメリットです。
従業員満足度がますます重視される傾向や、テレワークなどによる状況把握の難化を考えると、センサスのみの調査では社員へのフォローが不十分になってしまうケースもあるでしょう。
個々の社員のことを知り職場環境を改善させることで、離職率の低下や生産性の向上を目指す際は、パルスサーベイの導入を検討してみてはいかがでしょうか。