「仕事のために生きる」から「自分らしく働く」へ。変化を支える企業組織のつくり方とは。
「働き方」は単にどのように働くか、ではなく、生き方やその人の日々の生活をどのように送るのかという広い視野から考えられるようになってきました。対談企画第一弾では会社のルールである人事評価制度を手がけるあしたのチーム・高橋会長とブイキューブ間下が日本の働き方について語りました。
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時代は変わった──
誰もが自由な働き方を選びたくなるようになってきている
株式会社あしたのチーム 代表取締役会長 高橋 恭介
1974年、千葉県生まれ。大学卒業後、興銀リース株式会社に入社。2年間、リース営業と財務を経験。2002年、ベンチャー企業であったプリモ・ジャパン株式会社に入社。副社長として人事業務に携わり、当時数十名だった同社を500人規模にまでに成長させ、ブライダルジュエリー業界シェア1位にまで成長させた。 2008年には、同社での経験を生かし、リーマンショックの直後に、株式会社あしたのチームを設立、代表取締役社長に就任する。1,100社を超える中小・ベンチャー企業に対して人事評価制度の構築・運用実績を持つ。給与コンサルタントとして数々のセミナーの講師も務める。https://www.ashita-team.com/
今「働き方」にそれぞれ取り組まれる両社ですが、働き方に取り組まれるきっかけになったこと、経緯を教えてください。
高橋氏:あしたのチームは事業が人事評価制度なので、社員が少ないときから常に自社の評価制度に関する課題には向き合ってきました。お客様には理路整然とあるべき論を述べているにも関わらず自分たちは?となりますから、創業直後の厳しい時期でも、当然ですがサービス残業などを曖昧にするということはしませんでした。これはあしたのチームが人事評価制度という商材を選んだ宿命ですね。起業したときから「あるべき働き方」について考え続けざるをえない状況でした。
間下:なるほど。私たちも確かに業としてやっているというのは大きいです。今のテレビ会議関連を始めたのは2004年ですが、あの頃はアメリカにオフィスができた頃でした。僕がアメリカに行っていると日本が止まって、僕が日本にいるとアメリカが止まる──これをなんとかしたくてテレビ会議を導入したかった。でもその時はシステムが高くて買えないから自分たちで作ったのがきっかけでした。
高橋氏:自分たちで作ったんですか。
間下:そうなんですよ。自社用に作ったのが入り口です。場所が離れたりとか、ビジネスが広がってくると、マネジメントも含め現場も含め、どこにいても働けるようにしないと小さな組織で効率よく回っていかないんですよね。自分たちの中で、どうやったらどこにいても働ける働き方ができるのかという問題に取り組み始めたのが2004年くらいからでした。
株式会社ブイキューブ 代表取締役社長 間下 直晃:1977年生まれ、慶應義塾大学大学院修了。慶應義塾大学在学中の1998年に、Webソリューションサービス事業を行なう有限会社ブイキューブインターネット(現:株式会社ブイキューブ)を設立。その後、ビジュアルコミュニケーション事業へ転換し、2008年より11年連続でWeb会議市場における国内シェアナンバーワンを獲得している。「テレワークで日本を変える」をコンセプトに働き方改革を実現させる様々なソリューション提供を行う。一般の会議利用だけでなく、IT重要説明事項、遠隔教育、遠隔医療など、これまで対面前提だった分野における規制緩和に伴う、社会インフラとしての活用にも注力している。2013年12月に東京証券取引所マザーズ市場へ上場。2015年7月に東京証券取引所市場第一部へ市場変更。経済同友会 新産業革命と規制・法制改革委員会委員長。 https://jp.vcube.com/
その時今の働き方改革と叫ばれていますが、その時にこういった状況は予想されていましたか
間下:全くありませんでした。どちらかと言うと、どこでも働けるといったような自由なワークスタイルは昔から言ってはいましたけれども、世の中に浸透するにはなかなか時間がかかっていました。ようやくこの1〜2年ですかね、様子がガラッと変わってきたと感じています。おそらく一番大きな背景は人手不足でしょうか。その中でいかに効率よく働けて、少ない人数で成果を出すか、ということを考えなければならなくなったのが今の状況だと考えています。ブイキューブは昨年、ショルダーコピーを「テレワークで日本を変える」に変更しました。「テレワーク」という言葉が入っていますが、この単語を私たちが使い始めたのは2004年くらいで、かなり前なんです。でも、あまりにも普及しないので、封印していたんですよね。それでもようやく世の中に言葉として広まり始めたと思い、昨年の10月に復活させました。
高橋氏:「フリーアドレス」「テレワーク」は去年すごく流行ったように感じます。
間下:言葉としてはもともとあったと思うのですが、なかなか日本には定着しなかったですね
高橋氏:日本が「働き方」を見直すきっかけになったのは、国連の是正勧告を受けた(註:人権を保障する多国間条約の履行状況を審査する国連の社会権規約委員会が日本政府に対し、長時間労働や過労死の実態に懸念を示したうえで、防止対策の強化を求める勧告を行いました)ことがあるかと思いますが、そこから「働き方改革」という言葉が広まり始めていくきっかけになったと考えています。
2008〜2009年くらいはリーマンショックの後で、今では考えられませんが、有効求人倍率が0.4台まで下がり、「内定切り」が社会問題になりました。あの時から海外の制度とどこが違うんだということを勉強していましたが、日本の人事制度は特異な部分がありますね。
「三種の神器」と言われる「終身雇用」「年功序列」「企業別組合」、プラスワンで学卒の一括採用や横並び主義。これが日本の特異な労使の関係性と言われていますが、このリーマンショック後、2010年くらいから、私としては期待も込めて、変わっていくのではないかと思っていました。そういう思いも込めて起業しました。こうした時代背景の中で雇用環境の改善の風が吹かなかったら、今のあしたのチームはなかったかもしれません。(笑)
世界や日本の環境が変わって来ている中で、どういったところに影響が出てきていると感じているでしょうか。
間下:やはり働き方を自分で選べるようになりたいとか、自己実現に対する欲求が学生の間でも昔より高まっているのかなという気がしています。一律にみんなと一緒に頑張れば伸びてこられた、いわゆる高度成長期と違って、物に対する欲求でもなくなり、自分のやりたいことができるかどうかであったりとか、そういったところにだんだんと意識が変わってきている気がします
高橋氏:一気に流れがきた感じがありますよね。
間下:そうですよね。何でなんでしょうか? 何がトリガーだったんでしょうか。
高橋氏:私は、大企業はなくならないという神話がまさに崩壊しているからじゃないかと思っています。学生においても、ビジネスパーソン、例えば地方の60〜70代の経営者にも、一定のコンセンサスが広がってきたと感じています。つまり、滅私奉公で会社に忠誠心を誓い、それで終わっていくのではなくて、会社というのは一つの手段でしかない── という中で自分自身の人生設計をしなければならないという意識が、今起きている変化の大きなきっかけだと思っています。これからもその幅は広がっていくのではないでしょうか。
間下:確かにそうですね。あとはやっぱりこの10年、20年でベンチャーが増えてきたことが大きいですよね。
井上氏:そうですね。第4次産業革命と呼ばれるくらいの産業構造の変化、特にシリコンバレー型のベンチャー含めて、グローバルでたくさん出て来ている環境の変化がありますね。
自分が選んだ働き方で働けるように〜ブイキューブの場合〜
そのような変化の中で自社の働き方に対する取り組み方であったり、カルチャーづくりなど、どういった取り組みをされているのでしょうか。
間下:ブイキューブ の場合は、自己実現をするために選べる働き方をしっかり作っていきましょうと考えています。冒頭申し上げたように、創業当初からもともと自由な働き方をしていました。創業当初の98年は社員の多くが学生でした。学校に行きながらながら働くのは当たり前で、1人で何個も掛け持ちするのが普通で、兼業というのも当たり前でした。ただ、組織がだんだんと大きくなって、人数が何百人になってくると、テレワークを活用した働き方ができる人と、あまりそういったカルチャーに慣れていない人と、少しずつ分かれてきました。
そういった流れもあって、昨年10月にテレワーク規定を全面的に改定し、誰でも自由にテレワーク規定を使えるようにしました。「スーパーフレックス」と呼んでいますが、働く時間も自由に選べるようにしました。「いつでも、どこでも」働ける環境を整えたんです。これは非常に効果が出ているんじゃないかなと思います。ただ、これほど自由度が高くなると、まさにあしたのチームさんに関連するところですが、評価をちゃんとしていかないといけないですね。目の前にいる人しか評価できないのであれば、必ずオフィスに来ないと働けないということですから。
どこにいても、お互いが目の前にいなくても、しっかり評価ができる体制を作っていかなきゃいけない。そしてこれをしっかり管理して、しかも継続していかなければいけないんですよね。そういった考え方がやっと定着してきたということはやはり大きいです。それができるようになってくことによって、それぞれのライフステージだったりとか、考え方に合わせて自由に働いてしっかり成果も出していく、こういったモデルができるようになってきたと思います。これをいかに私たちの中で定着させて広げていくか、そしてこれをどう世の中に広げてくか、ということを今考えています。
高橋氏:ありがとうございます。私は従業員エンゲージメント、これが高いレベルがあってこそ初めて、自由度の幅が広げられると考えています。組織のイデオロギーが共有されていて、かつ自発的な貢献意欲が高い組織だからこそ自由が生まれるのではないでしょうか。そしてエンゲージメントが高ければ高いほど私は自由度が高まっていくと思っています。自由と責任というのはどこまでいってもセットだということを、あしたのチームにおいても、強く意識しています。
間下:「自己実現」という言葉を使う前に、実はもともと「自己責任」という言葉なんですよね。日本は「自己責任」をどうしても嫌がる傾向にある気がします。自己責任でしっかりと管理してやっていく、その中で自由をもらって成果を出していくという土壌を作っていかないといけませんよね。
オープンな評価が社員のエンゲージメントを高める〜あしたのチームの場合〜
エンゲージメント、ということがありましたが、社員のエンゲージメントを高めるためにされている取り組みはありますか。
高橋氏:手前味噌ですが、私は評価制度がエンゲージメントを高めるための答えだと思っています。評価制度とは、平たい言葉を使うと「経営者がやってもらいたいこと」そして「社員が欲しいもの」この二つを繋げる仕組みだと考えています。つまるところは自分の人生生活に直結する報酬と連動しているのが評価制度なんです。それがベースにあるからこそ、自由な働き方、いわゆる自己実現ということまで踏み込んで、様々な人事施策が繰り広げられるのではないでしょうか。最終目標に対して対等な関係でパートナーシップを結んでいける、そんな労使の関係性を構築できるのが評価制度だと考えているんです。
ちなみにあしたのチームでは昨年から営業組織内にだけ、全社員の時給を開示しました。今年の4月には全社員に全従業員の時給を、私のものも含めて開示します。ポイントは「時給」というところです。年収のほうがオープンじゃないか、という社内議論もあるんですけど、私は逆だと思っています。日本は手当天国だと言われます。しかし本来は時給×労働時間の概念があるはずなんです。このような分解の概念がないからこそ日本には暗黙知の中で長時間労働を促す商慣習があったと思っているので、私はやっぱり時給にこだわっています。これがいってみれば日本の労働法において従業員が守られている唯一の権利。基準内賃金を全部開示して、この会議っていくらだっけ?と合理的に考えていきたいと思っています。
間下:それはけっこう大きいと思うんですよ。1時間あたりの、というところがポイントですよね。伺いたいのが、職種間や部署間のギャップがありますよね。例えば開発と営業を例にすると、それぞれのチーム内ではOKでも、開発と営業と、チームを跨ぐと難しいですよね。そういったギャップはどうされているんですか。
高橋氏:そうですね、2年間、計4回の給与改定を通して私なりの是正をしてきました。弊社の場合、新卒においてもエンジニアの初任給の方が高いんですね。それはどう説明しているかというと、マーケットバリューです。あしたのチームの時給開示の取り組みは、結果的に国が進めていきたい職務ベースで賃金が決まり、市場価値によって報酬が決まっていくということにもつながります。すべての経営者が、そしてすべての就業者が自分の職種においてグローバルに自分の市場価値を見て切磋琢磨していくことが健全なんじゃないかなと思っていますね。
自分らしい、豊かな働き方を目指して
直近で取り組みたい活動、そして日本の働き方を変えていくときに、どのような自社を変えていくか、また社会への働きかけをしていきたいかお聞かせください。
間下:基本的にブイキューブのテーマはやはり「どこでも働ける働き方」そして「自己実現ができる働き方」ですね。根本的には「いかに働き方の自由を与えつつ成果を出してもらえるか」ということなんですよね。ただ、もう1つテーマがあって、必ず東京じゃなきゃいけないのか、というテーマです。御社は今47箇所に展開するというかなりエッジのたったことやっていらっしゃいますが(笑)、どうしても東京にビジネスが集まっている中で、じゃあその集まっているビジネス全部本当に東京でやらなければいけないのか? 東京に住むのが本当に快適なのか?ということを考えています。
地方に行けば移動時間も少なく、物価も安く、非常に良い生活ができるかもしれません。ブイキューブでも例えば和歌山県の白浜、岐阜県の郡上にサテライトオフィスを開設していますが、そういった環境作りをして、日本中どこにいても働ける、極端な話、日本じゃなくてもいい、そんな働き方を作ることができれば、いろんな人の平均的な生活の豊かさを上げていけるのではないかと思っています。
高橋氏:私も全くの同感です。今でこそ47都道府県に営業拠点がありますが、社員数が9名で会社が赤字だった時に、徳島県の三好市という、日本三大秘境と言われている街にサテライトオフィスを作りました。それから丸5年が経って、サテライトオフィスの誘致活動もさせていただいています。そのセミナーで必ずお話しているのが、月に1回も外出していない社員を1人でも雇用している経営者はサテライトオフィスを正式に検討するべきだということです。それは経済合理性において、高い家賃と長時間の通勤時間、高い定期代を払って雇用していく必要が本当にあるのかということです。それを支えていけるだけのITの進化は十分にできたと思っているので、やはり率先してその取り組みを実現していくことが自己実現にもつながりますし、働き方改革にも繋がっていくと思いますね。
間下:そうですね。通勤時間や在宅勤務という議論が出ているのは東京だけなんですよね。地方に行くと、いらないんですよ。大体の場合は職住近接でそもそもラッシュアワーがなく、在宅勤務の必要性がほとんどないんですね。今まで会わないとできなかったこと、行かなければできなかったことができるようになると、東京じゃないとできなかったことが、地方でもできるようになり、オフィスワークだけでなく、営業も遠隔地からできるようになります。現に、私たちの白浜のオフィスでは営業をしています。
高橋氏:そうなんですよね。行く理由ってなんですか、ということは考えさせられます
最後に一言ずついただいて締めくくりたいと思います。
高橋氏:今の働き方改革というのは、先ほども申しましたが、自由を与えるのが全てではないということです。先月あるアカデミアの方とお話をしてすごくインスパイアされたのが、日本人は宗教的にも個として100%の自由度を持って自己実現をしていく民族ではないと。その方は7対3のバランスが理想なんだとおっしゃっていました。30%の自由と、70%のメンバーシップ型。いわゆるチームの中のバランスが今の働き方改革の着地点だとお話しされていて、私もまさにその通りだと思いました。7対3なのかというのはそれぞれの方の解釈があるかもしれませんが、100-0は絶対にないと思います。日本人のメンバーシップ型の強みも残しながら、どこまで自由度を広げていくのかということに企業経営者はトライしていかなければなりません。私も一企業経営者として肝に銘じました。
間下:そうですね。今、働き方みたいなものがようやく見つめられるようになってきて、これまで戦後数十年間突っ走ってきた日本が大きく変わろうとしてきているタイミングなのかなと思っています。あとはこれがいい方向に変わっていくのかどうなのか。例えば時間外労働の話も、あの話だけ突き詰めていくと、働かない方がいいじゃないかっていう話になって、変な方向に行ってしまいます。国内だけでなく国際競争を考えていかなけれならない中で、単純に働く時間を減らせばいいという議論ではないはずで、いかに人が豊かに働けて豊かな生活ができて、そして人らしくやっていけるか。さらに日本人らしくやっていけるか──こういったことを考えなければならないフェーズになってきているんじゃないかということを感じています。
私たちはどちらかというと仕組みから入る形がどうしても多いですが、今まで会わなければできなかった、行かなければできなかった、そういったことを行かなくてもできる会わなくてもできる、そういうことを実現することによって働き方だけでなく、教育や医療などいろんなものが変わってくると思っています。結局人は1日のほとんどを働いていています。働くことが生活の中心になるものです。ここをどう変えていけるかというのを、私たちとしてもサポートしていきたいなと。
高橋氏:私も強く同意します。自己実現=プライベート、という一つの論調もありますが、ビジネスパーソンの起きている時間のマジョリティはやはり働いている時間なので、働いているその中身についてやはり豊かであっていくべき。そこは忘れてはいけないところだと思いますね。