投げ銭のメリットや市場規模は?仕組みから企業が注意したいポイントまで徹底解説
オンラインのライブ配信のときに、配信者にお金を送付する「投げ銭」の投げ銭の市場規模は年々拡大を続けています。Fintertech株式会社「投げ銭市場調査」によると、2021年時点の実際の市場規模は367億円ですが、国内潜在市場規模はその10倍ちかい約3,106億円ともいわれており、投げ銭の将来性の高さがうかがえます。エンターテイメント系の企業にとって、投げ銭による利益はかなり大きなものになるでしょう。
このような状況のなか、投げ銭を上手に活用し、利益向上を目指したい企業も多いのではないでしょうか。本記事では、ライブ配信で収益化をはかりたい企業向けに、投げ銭のメリット・広がっている背景・利用する際の課題や注意点など、知っておきたい情報をまとめています。
投げ銭機能のあるライブ配信プラットフォームについても、おすすめのサービスを5つピックアップしました。プラットフォームの選び方を知り、自社にあったサービスを取り入れることで、ライブ配信の収益化・事業化を目指しましょう。
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投げ銭とは
投げ銭とは、オンラインのライブ配信者に対して視聴者がお金を送付することです。ファンからの個人的な「チップ」としての意味合いが強い投げ銭は、有料チケットと並んで、ライブ配信の大きな収入源となっています。
「配信者をもっと応援したい」「ハイクオリティな配信をしてくれたお礼がしたい」というファン心理を満たす投げ銭は、演劇・音楽・アートなど、さまざまな分野での導入が進んでいます。とくに、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、現実世界でのライブ活動が困難になったことも、投げ銭が急速に拡大していった理由の1つです。
現在提供されているライブ配信プラットフォームのほとんどが投げ銭機能を備えており、ファンから送られたお金は運営会社を介してライブ配信者へと届けられます。もともとは、個人の配信者を応援できるように備わっていた投げ銭機能ですが、オンラインの活用が広がっている昨今、ビジネス分野での収益化・事業化を目指す企業も増加しています。
実際にスポーツ界では「スポーツギフティング」と呼ばれる仕組みが注目されています。スポーツ界も感染症対策として、人数の制限や試合の中止など、大きな打撃を受けました。
そのような、収入が大きく落ち込んだスポーツ団体や選手を応援するために、ファンがポイントを購入します。ライブ配信との違いは、購入したポイント額に応じて限定グッズやイベント参加などの「お返し」がある点です。単なる収入源としての「投げ銭」ではなく、ファンとの交流を促すツールとして活用するなど、新しい道も模索されています。
投げ銭のメリット
投げ銭は、利用者と配信者のコミュニケーションを活性化するための機能です。企業として収益化を目指すためには、ユーザー側のメリットを知っておくことも重要です。ここでは、ユーザー側・配信者側のメリットについて解説します。
ユーザー側のメリット
ユーザーはお金を支払う側ですが、メリットを感じているからこそ、ライブ配信で投げ銭をしています。企業はユーザーが「思わず投げ銭したくなる」ような仕組みを作ることがポイントです。ここでは、ユーザー側が投げ銭を行うときに得られるメリットについて解説します。
配信者を直接応援できる
ユーザー側はライブ配信中にリアルタイムに送金することで、グッズを購入するときとは違った高揚感を得ることができます。とくに、投げ銭はライブを視聴しているすべての人の目に付くかたちで投げられるので、ほかのユーザーに対してアピールできるという点も大きなメリットといえます。
また、配信が盛り上がると多くの投げ銭が飛び交うような状況が生まれます。「これだけたくさんのお金が投げ込まれている!」という体験は、興奮につながり、さらなる盛り上がりにつながります。配信者と一緒になって配信を盛り上げているような感覚になれ、ただ配信を見ているだけのときとはまったく異なる感覚になれます。
投げ銭をきっかけに配信者とコミュニケーションが取れる
多くのコメントが投稿される配信では、自分のコメントがすぐに流れてしまい、配信者に気が付いてもらいにくい状況です。しかし、投げ銭のコメントは色が付いていたり、目立つアイコンが使われていたりするケースが多く、配信者の目につきやすくなり、コミュニケーションのきっかけとなります。
自分のコメントが読み上げられると、「応援している相手に自分の声が届いた」という実感が湧き、多幸感が得られるでしょう。さらに、投げ銭の常連者となると自分の名前やアカウント名を覚えてもらえることもあります。そのため、配信者に認知してもらうために、繰り返し投げ銭をするユーザーも少なくありません。
配信者側のメリット
配信者は投げ銭によって収入を得られます。対面でのイベントが難しい場合でも、ライブ配信が収益化できることで、ビジネスの幅は大きく広がるでしょう。
オンライン配信は、対面のイベントと違い会場設定や当日配置するスタッフが必要ないため、その分低コストで実施できます。しかし、「直接会えないライブ配信のために、有料のチケットを購入したくない」と考える人も少なくありません。
そこでライブ配信を無料にすれば、参加のハードルを大きく下げ、たくさんの人に配信をみてもらえるようになります。無料配信でも投げ銭で収益化をはかれば、スタジオや機材など配信にかかる費用をまかなえることもあります。
投げ銭が広がる背景
投げ銭が広がっている背景には、世界的な情勢と日本ならではの理由があります。ここでは、日本で投げ銭が広がっている理由について紹介します。
オンラインコミュニケーションの増加
新型コロナウイルスの影響で、対面イベントの開催の中止が相次ぎ、厳しい人数制限も設けられました。結果として、芸能・旅行・スポーツをはじめ、多くの業界が十分な活動ができなくなり、従来の会場に来てもらった人からの収益が得られなくなりました。
その代替としてオンライン上での配信からの収益化にシフトし、投げ銭も広まっています。実際に投げ銭の検索インタレストは2020年ごろから急激に上昇しており、新型コロナウイルス感染症後に起きたオンラインコミュニケーションの増加は投げ銭に深く関係しているといえるでしょう。
※参考:渡邊 秀介「YouTubeスーパーチャットに見る投げ銭の構造と可能性」
「推し活」の文化
日本独自の「推し活」という文化も投げ銭の広まりに影響しているといわれています。推し活とは、アイドル・タレント・漫画の登場人物など、特定の相手を応援する活動を指します。2000年代から使われるようになり、2021年の新語・流行語大賞にもノミネートされました。
もともと日本には漫画やアニメを熱狂的に応援する「オタク文化」という土壌があり、最近では、アイドルや歌手、芸能人への応援に裾野が広がり「推し活」が盛んになっています。
※参考:NHKクローズアップ現代「“投げ銭”急拡大 空前のブームで何が」
企業が利用する際の課題と注意点
ユーザー・配信者双方にメリットのある投げ銭ですが、企業が利用する際に気を付けたいポイントがあります。投げ銭をもらうという行為はお金が関わってくるため、トラブルは企業の信頼問題にも直結するため、課題や注意点はよく把握しておきましょう。ここでは、覚えておきたい課題と注意点について説明します。
タレント事務所が利用する際の課題
昨今はタレントの活動の場も多様化しています。テレビ・ラジオ・雑誌などの媒体だけでなく、YouTubeなどのオンライン配信を行う芸能人も増えています。
大手タレント事務所であるホリプロでは、投げ銭システムによりタレントへの利益配当に関する課題が生まれているそうです。
タレント事務所では、出演交渉・スケジュール調整・衣裳準備など、さまざまな条件を整える仕事を行っています。タレントへの報酬は、出演料から諸経費を差し引いて支払われますが、投げ銭ではライブ配信の収入が明確な金額として可視化されてしまいます。
事務所側は適正な利益を配分しているつもりでも、タレントが「1回のライブ配信で50万円の収入があったのに、月収は30万円しかない」と不満を抱くケースもあるでしょう。
収入に不満があるタレントは、事務所を通さない仕事に手を出すこともあり、信頼関係に亀裂が入る要因にもなります。事務所とタレント双方が納得できる新しい契約のかたちを見つけなければなりません。
参考:ビジネス+IT「ホリプロに直撃取材、「投げ銭ビジネス」はタレント事務所の福音となるか?」
未成年による投げ銭のトラブル
投げ銭はボタンを押すだけで簡単に支払いができるため、未成年によるトラブルが起きやすいという問題もあります。実際に、親のクレジットカードを勝手に使う、大学の学費を使い込むといったトラブルが発生しており、投げ銭トラブルは社会問題ともいえます。
現在は、おもに家庭でのトラブル対策が講じられていますが、今後は配信者側にも未成年によるトラブル対策が求められるようになるでしょう。日本では投げ銭のトラブルは自己責任とされていますが、中国では未成年の投げ銭トラブルの増加に伴い、受け取れる投げ銭に上限をつける、配信内容の検閲を行う等投げ銭に関する規制の検討がされています。
投げ銭市場のさらなる発展のためにも、収益だけを追い求めるのではなく健全な運営を心がけることが重要です。投げ銭を煽るような過激な企画は避けましょう。
投げ銭機能のあるライブ配信プラットフォーム
数あるライブ配信プラットフォームのなかでも、投げ銭機能のあるおすすめのサービスとして「YouTube」「Instagram」「17LIVE」「SHOWROOM」「Pococha」をピックアップしました。それぞれの特徴について説明するので、自社にあったサービスを見つけてください。
YouTube
YouTubeの「スーパーチャット」機能は、もっとも有名なライブ配信の投げ銭サービスでしょう。ユーザーは「$」「金額」「メッセージ」を入力するだけで簡単に投げ銭ができます。金額によってコメントが色付き・固定表示されるため、配信者に見つけてもらいやすく、ユーザーが投げ銭しやすい環境となっています。
Youtubeは他のサービスと比べて利用者数が多いため、新規視聴者の獲得も期待できるでしょう。ただし、投げ銭機能を利用するためには、チャンネル登録者数1,000人以上、総再生時間4,000以上といった条件を満たす必要があります。
誰でもすぐに投げ銭を受けられるわけではないため、まずはYouTubeチャンネルを解説し、視聴者を獲得するようにしましょう。
Instagramでは、2020年10月よりライブ配信中の投げ銭機能「バッジ」が実装されました。ユーザーは120円・250円・610円の3種類のバッジを購入することで、配信者に投げ銭できます。
利用するためには、ビジネスアカウントまたはクリエイターアカウントが必要です。ビジネスアカウント、クリエイターアカウントはともに通常アカウントの設定を切り替えるだけで無料で取得できますが、非公開アカウントにはできません。
Youtubeと違い、Instagramのビジネス、もしくはクリエイターアカウントがあればバッジとして収益を受け取れるため、まだ人気や知名度が低い人でも始めやすいでしょう。
17LIVE
17LIVEは、投げ銭文化に馴染みのある10代、20代のユーザーが多いライブ配信サービスです。加工・ビューティー機能があり、配信者に対しても若い世代向けの機能が充実している点が特徴的です。17LIVEでは、ユーザーがあらかじめ購入したコインを好きな配信者に対して消費することで投げ銭します。
投げ銭をされた量に応じて配信者の配信スコアが上がるため、応援する視聴者からの投げ銭を得られやすい状況といえるでしょう。お気に入りの配信者の配信スコアを上げるために、何度も投げ銭を行う人もいます。
SHOWROOM
SHOWROOMは、アイドルやタレントなどの芸能人が多く利用しているライブ配信アプリです。投げ銭システムのパイオニア的存在でもあり、ライブ配信中に有料ギフトである「Show Gold」を渡すことで、相手を応援することができます。
10回連続で投げ銭を行うと、配信者が得られるポイントが1.2倍になるというルールもあり、視聴者が投げ銭を何度もしたくなるような工夫がされています。売出中の芸能人やアイドルが多く参加しているため、タレントを抱えるエンターテイメント業界必見のサービスです。
Pococha
Pocochaは株式会社DeNAが作ったライブ配信アプリです。SHOWROOMとは対称的に芸能人の参入が少なく、落ち着いた雰囲気となっており、初心者でも使いやすいサービスとなっています。
配信者は投げ銭だけでなく、配信する時間に応じて報酬を受け取ることが可能です。SNSなどでチャンネル登録者やフォロワーがいなくても、一定の収益は見込めるプラットフォームとなっており、新規参入のしやすさが特徴的です。
まとめ
投げ銭はユーザーと配信者のコミュニケーションを促すことができる機能で、上手に活用することでライブ配信の収益化を実現します。投げ銭市場は今後も拡大していくことが予想されており、演劇・音楽・アートの分野を中心に広がりを見せています。
しかし、未成年による多額な投げ銭トラブルなどが社会問題になっていることにも留意しなければなりません。企業として投げ銭の収益化を検討するのであれば、配信トラブルが起きないよう機材や通信環境を整えつつ、投げ銭を煽るような配信にはしないようにしましょう。