3つの成功事例から学ぶ、通勤時間の問題を解消するための7つの方法

外国人が驚く日本の映像として取り上げられることも多い朝のラッシュ時の映像。「通勤地獄」「痛勤!」とも表現されるように、多くのビジネスマンがときに自分の手すら自由に動かせない状況をひたすら我慢しながら会社に通っています。

毎朝のことで慣れているにせよ、一日のもっとも活力ある時間を通勤に費やすことでパワーを消費していることは否めません。実際、長時間通勤がビジネスマンの健康やメンタル面、ひいては生産性に与える影響が大きいと指摘する研究調査も何件か出ています。

長時間通勤はその時間そのものもストレスですが、結果的に睡眠不足につながり健康面に影響を及ぼすこともあります。できれば企業側からもアクションを起こし、従業員の通勤ストレスを軽減することが望ましいでしょう。本記事では通勤地獄を解消する対策について解説します。

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都心の通勤地獄とは?

国土交通省が2019年5月に発表した各路線の混雑率のデータによると、日本の三大都市圏の電車の平均混雑率は東京圏が163%、大阪圏が125%、名古屋圏が131%です。東京圏においては混雑率180%を超える路線が12路線から11路線に減少しており、前年より若干状況が緩和しているようです。

しかし、180%を超える混雑とは以下の国土交通省の図で見るかぎり、圧迫感を感じる状態であることが推測できます。多くの人が決して快適ではない通勤時間を過ごしていることがうかがえます。

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引用:国土交通省「混雑率の推移」

通勤時間の平均値

NHK放送文化研究所の2015年の調査によると、東京都心部の住人の通勤平均時間は1時間42分、大阪都市圏の平均通勤時間は1時間26分であり、多くの人が通勤にかなりの時間を使っているのが実情です。

  平均通勤時間(往復)
東京都心部 1時間42分
大阪都心部 1時間26分

NHK放送文化研究所「2015年国民生活時間調査報告書」をもとに作成

家を購入した人は、さらに長時間通勤です。

不動産会社のアットホーム株式会社が、首都圏で5年以内に住宅を購入したサラリーマンを対象に行った『「通勤」の実態調査2014』によると通勤時間の平均は片道58分。往復で約2時間を通勤に使っています。また、長時間通勤の人ほど睡眠時間が短い傾向があります。

通勤時間 人数 平均睡眠時間
0~19分 24名 6時間02分
20~39分 73 6時間17分
40~59分 168名 6時間03分
60~79分 195 5時間48分
80~99分 83名 5時間39分
100分以上 36名 5時間22分

引用:アットホーム

全体平均の睡眠時間は5時間54分で、データを見ると長時間通勤者は5~6時間の睡眠しかとれていません。もちろん、本人が不調を感じていなければ問題ありません。しかし、株式会社ニューロスペースが2018年に行った『2018年度「企業の睡眠負債」実態調査』によると、7割以上のビジネスマンが睡眠に不満を持っており、仕事中に眠気を頻繁に感じると答えた人が約3割、生産性へ影響があると答えた人が約6割います。

通勤時間が労働時間に占める割合

通勤時間は法律上労働時間ではありませんが、従業員にとっては仕事のために使っている時間です。勤務時間が8時間の場合、通勤時間を仮に往復1.5時間とすると休憩時間も含めれば1日合計10.5時間が仕事のための時間であり、その約14%は給与の出ない労働時間という考え方もできます。

1日1時間のムダも年間で約260時間。つまり約1カ月の労働時間に匹敵する時間になります。この時間を仕事であれ、消費であれ、休息であれ、何かに活用することができれば本人にとって有意義であるのは間違いないでしょう。

ニューズウィーク日本版は2018年に「日本の通勤地獄が労働生産性を下げている?経済損失の試算は1日あたり1424億円」という記事、2017年にも「通勤時間というムダをなくせば、ニッポンの生産性は劇的に向上する」という記事で、日本人の通勤時間が世界でも突出して長く、生産性にマイナスであるということを指摘しています。

お客さま訪問時間が労働時間に占める割合

そもそもビジネスにおいて移動時間とはほぼ無駄な時間です。しいて言えばアイドリングや簡単な業務を行えるぐらいだと言えます。特に営業マンは移動時間の占める割合が高いことが昔から課題の一つでした。1990年にJILPTが調査したデータを見ると、営業活動の4割近くを移動時間が占めています。

最近はタブレットやスマホでリモートワークをすることも可能になりつつありますが、営業のデジタル化があまり進んでいない日本ではまだまだロスタイムは多いでしょう。

ただ、2019年1月に猛烈な営業力で知られる野村証券が「テレセールス(非対面営業)にも注力する」という構造改革を発表しニュースになりました。働き方改革がすすむなか業務中の「移動時間」というムダにメスを入れる企業が今後は増えていくかもしれません。

通勤時間に関する深刻な事実

通勤時間が長いと、従業員の幸福度や心身の健康にマイナスの影響があるというデータも出ています。直接その時間が影響する場合もあれば、長時間通勤や長時間労働が原因で睡眠不足になり心身の不調が起きることも危惧されています。

通勤時間と従業員幸福度の関係

通勤時間と幸福度の関係性については国内外でいろいろな研究結果が発表されていますが、数値の差はあるものの「通勤時間が長くなれば幸福度が下がる」という結果は共通しています。逆の説はまず見かけません。

スイスの研究者、アロイス・スタッツァー氏とブルーノ・フライ氏は人が幸せを感じる通勤時間は「20分」であり、30分以上はストレスであると研究発表しています。

通勤時間と従業員のメンタルヘルスの関係

都心部の朝の通勤ピーク時は、車掌さんが人間をまるで荷物のように社内に押しこみます。やっと乗車してもアクシデントがあって電車が遅延することも珍しくありません。人身事故も少なくなく、突然電車が止まり、苛立つ乗客の怒りを抑えるためにお詫びのアナウンスが延々流れる状況を経験した方も少なくないでしょう。

イギリスの西イングランド大学は、5年間にわたり2万6000人以上の労働者に対して通勤が労働上の幸福度に与える影響を調査し、通勤時間が長くなるとワークライフバランスの満足度が低下し、ストレスが増えてメンタルヘルスが悪化するという分析結果を発表しています。

2004年、イギリスのBBCが行った調査で「満員電車は戦場のストレスに匹敵する」という信じられない調査結果が出ていましたが、これはアンケート調査ではなく実際に血圧や心拍数などのデータを測定した結果だそうです。

人身事故が起きて人命が失われたことに何ら衝撃を受けず、「遅刻するから早く処理してほしい」と多くの人が思うような状況は、冷静に考えてみれば感情を麻痺させるという意味で戦場に近いのかもしれません。

あなたを含め通勤時間を楽しんでいる人がどれくらいいるのだろうか

電車もある程度の込み具合ならスマホを見たり本を読んだりと生産的な活動を行うことができます。しかし、昨今は音楽をイヤホンで聞くことすら音漏れ迷惑行為として注意するポスターが出ている状況です。実際、通勤時間を上手に活用できる人はどのくらいいるでしょうか?

2015年のリクナビNEXTの調査によると通勤を苦痛に感じますか?という問いに対して「感じる」「やや感じる」と回答する人は全体では46.4%、首都圏では56%もいます。

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出典:リクナビNEXT

そして、その理由を満員電車と答える比率が首都圏では48.5%と、やはり半数くらいの方にとって通勤時間は苦痛であるようです。全体では30.4%と比率が減りますが、これは地方が車社会であることも影響していると考えられます。

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出典:リクナビNEXT

企業が従業員を通勤地獄から解放するには?

では、企業が従業員を通勤地獄から解放するにはどうすればよいでしょうか? アットホームが2017年に1都3県に在住の20~69歳の電車通勤者に対して行った「“満員電車と住まいの関係”調査」によると、満員電車軽減方法として有効だと思うものとして、1位が時差通勤の導入、2位が在宅勤務の導入、3位がフレックスタイム制の導入、4位が電車の車両を長くするがあげられています。

回答の並びを見ると、電鉄会社よりも企業に解決手段を期待している人が多いことがわかります。

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引用:アットホーム

以下に、企業が長時間通勤問題に対してできる具体的な施策例を記載します。

時差通勤 時差Bizへの取り組み

サラリーマンが希望する回答の1位が時差通勤です。幸いなことに東京都では、2020年の東京オリンピックに向けて通勤ラッシュを緩和するために「時差Biz」を推進しています。これは大勢の観光客訪問を見据えた施策ですが、同時に通勤によるストレスを緩和して心身をリフレッシュしてもらい生産性向上につなげるという働き方改革の一環でもあります。

参加資格に決まりはなく助成金が出るわけでもありませんが、希望すればホームページ上で自社の取り組みを紹介してもらうことができます。本格的にフレックスタイム制などを取り組む前のトライアルとして「集中取り組み期間」だけ試してみるという活用ができます。

フレックスワーク

フレックスタイム制とは一定の期間の総労働時間数を決めたうえで、日々の始業時間や就業時間の管理を社員の裁量にかませる制度です。一般的には、必ずオフィスにいなければならないコアタイムと従業員が自由に決めることができるフレックスタイムの組み合わせで実施しますが、スーパーフレックスというコアタイムを設けないパターンもあります。また、一部の職種にのみ導入するなど企業によって取り組みはさまざまです。朝の9時から必ず出社する必要がない仕事なら比較的導入は簡単です。

勤務間インターバル

勤務間インターバル制度は、労働者の勤務終了時刻から、次の始業時刻の間に一定時間の休息時間を設定し、労働者の健康を守り、ワークライフバランスを維持することを目的とした制度です。

すなわち、残業をした場合には翌日その時間分出勤時間を遅らせることにより、通勤ラッシュを避けることにもつながります。

さらには睡眠時間をしっかりと確保することで、通勤時間のイライラの解消、ストレス改善にも効果が期待できます。

通勤ラッシュを避けるために働く時間をずらすという点では、フレックスワークと似ているかもしれません。

勤務間インターバルについての詳細は、「勤務間インターバルとは?3つの企業の好事例から見る、成功の秘訣」をご覧ください。

短時間正社員制度、週休3日制度

フレックスワークよりさらに踏み込んだ施策です。フレックスワークからスタートし、将来的には1日6時間の短時間正社員制度、週休3日制度なども検討するとよりベターでしょう。  

雇用管理にテレワークを盛り込む

インターネットの普及とIT技術の進歩により、昨今は時間と場所を選ばずに仕事ができるようになりました。低価格でセキュリティも堅牢なクラウド型のリモートワークサービスが増えているので、業務によっては在宅ワークや移動先でのテレワークでも問題なく仕事が可能な時代です。

もちろん職場で顔を合わせることで斬新な発想が浮かんだり、仲間意識が増したりする効果はありますが、週に1~2日を在宅ワーク、あるいは半日をテレワークにすることができるようになると通勤ストレスの軽減はもちろん、仕事の自由度が増し従業員はより働きやすくなるでしょう。

さらに、テレワークには企業担当者目線からでも多くのメリットがあります。

テレワーク導入のメリット

  • 生産性の向上
  • オフィス勤務の場合、予定していない打ち合わせが始まり、予定していた作業が進まないという状況を経験したこともあるのではないでしょうか。
  • 一方で、テレワークを導入すれば、自宅やシェアオフィスなど同僚とは距離をおいた環境で本来の業務に集中できるようになります。
  • コスト削減
  • 希望する社員に在宅勤務を認めたり、営業部門で直行直帰型のモバイルワークを導入することで、毎月の交通費を削減できます。さらに、在宅勤務型テレワークを前提として人材を採用すれば、人員増に伴てオフィススペースを拡張する必要がなくなり、オフィスの移転や賃貸に伴う固定費支出の削減にもつながります。
  • 多様な人材の確保
  • 育児や介護を理由に離職を考えている従業員は、テレワークの導入により、在宅勤務が認められることで、仕事を続けられる可能性を見出だせます。
  • 事業継続性の向上
  • 事故やトラブルによって公共交通機関が混乱し、出社が遅れたり、出社ができなかった社員が出ることは日常茶飯事です。テレワークが可能な状況であれば、経営への打撃を最小限にとどめることができます。

このように、企業側の目線で考えた際にも、テレワーク導入には多くのメリットがあると言えます。

さらに詳しく知りたい方は「テレワークとは?取り組みの背景と目的を分かりやすく解説」をご覧ください。

もしも今現在、テレワークの導入を検討されている方がいらっしゃっいましたら「テレワーク導入時に失敗しないためのツール選び」もあわせてご覧ください。資料はどなたでも無料でダウンロードできます。

サテライトオフィスの開設

昨今は、WeWork、三井不動産の「ワークスタイリング」など、各地に法人向けコワーキングオフィスの設立が相次いでいます。営業マンが取引先に直行するときに近くのコワーキングオフィスを活用したり、在宅ワーカーが自宅では集中できないときに活用したりすることもできます。

これまでの貸会議室と違い法人を対象にしたコワーキングスペースが増えているので、会員も企業が中心であり安心して使用できます。なかには10分単位で活用できるサービスもあります。

会社近辺に住むことを奨励

会社近郊に住む社員に対し手当を出す方法もあります。従業員に若者が多いベンチャー企業などが昔から好む施策です。しかし、家族がいて簡単に引っ越すことのできない中高年社員をかかえる一般企業には実施は難しいと言えます。

また、仕事が好きでも土日は自然に囲まれた自宅で家族とのんびり過ごしたいと考える従業員もいます。ワークライフバランスという視点から見るとやや会社目線の施策だと言えるでしょう。

シャトルバス

道路が混まなければ米国のグーグルのように、シャトルバスで従業員を運ぶという方法もあります。これは都心の企業には難しい方法ですが、地方の企業や駅からバスで通勤しなければならない工場などでは検討すると喜ばれるかもしれません。

通勤地獄から解放された従業員と企業例3

先進的な企業は従業員を通勤地獄から解放するための取り組みに着手しています。 

株式会社フジクラ

fujikura健康経営銘柄2018に選定されている株式会社フジクラは、従業員のリフレッシュのために満員電車のストレスを緩和することが社員の健康管理上重要な課題と考え、東京都の「時差Biz」に参加。同時にそれまでトライアルとして実施してきた在宅勤務制度を適用外だった職場にも認めることをリリースしています。以下が活用例です。

  • - 所定始業時間より早く出社、所定就業時間より早く退社
  • - 通勤ラッシュ時間を避けて所定始業時間より遅く出社
  • - 外出・出張時の直行・直帰を奨励、ほか

株式会社キャスター

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オンラインアシスタントサービス事業を行う株式会社キャスターでは、正社員と契約社員190人、国内や海外の業務委託やアルバイトを含めると530人がすべてリモートワークで勤務しています。小さなオフィスはあるものの出社義務はなく打合せはビデオチャットを活用。通勤というものがないワークスタイルなため通勤地獄でストレスをためる従業員も存在しません。

GoogleU.S

google.us

米国グーグルでは、1時間ほどかかるサンフランシスコからシリコンバレー区間に往復シャトルバスを運行し、社員を送迎しているそうです。社内はWi-Fi完備なので社員はバスのなかで仕事をすることも可能です。シャトルバスのおかげで、シリコンバレーから離れた地域に住むことができる社員が増えたこともメリットのようです。

まとめ|通勤時間のストレスを軽減することは、従業員の健康を支援し生産性を高めることにつながる

通勤時間のストレスを軽減することは、従業員の健康という観点からも生産性の観点からも重要です。

心身の不調はある日突然訪れるものですが、その原因は長い間にわたり積み重ねてきた生活習慣にあることが多いものです。

毎日満員電車で心拍数や血圧が上がる時間を持つこと、長時間通勤のために短い睡眠時間しか持てないことが何年も続けば、心身の不調につながることは十分考えられます。

最近は健康経営がブームであり、通勤時間の過ごし方についてはいろいろなアイデアが出ているようですが、元凶になる通勤時間を減らすもしくはなくす、あるいは時間は減らせなくても、時差通勤、フレックスタイム制を利用し、趣味や学習などに使える有意義な時間に変えることができれば、より従業員の幸福度が増すことが期待できるでしょう。

戸栗 頌平
著者情報戸栗 頌平

B2Bマーケティングを幅広く経験。外資系ソフトウェア企業の日本支社立ち上げを行い、創業期の全マーケティング活動を責任者として行う。現在東京在住。2019年はフィリピンに在住し日本企業のBtoB活動を遠隔支援、場所にとらわれない働き方を通じ、マーケティング支援の戦略立案から実行までの支援を行なっている。Facebookは こちら。Twitterは こちら。LinkedInは こちら。ウェブサイトは こちら

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